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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第80話 後編 

あの想いと共に 

第80話 後編



     ◆  ◆  ◆





それから、数日。

まだ、華琳に動きはなく、俺は殊更暇を持て余していた。

「暇だなぁ……」

見上げれば、太陽は空の上。

とっくに昼時で、今日も一日恙無く終わるのかと思うと、なんとも怠惰な生活をしているのかと思う。

かといっても、やることはやはり無くて。朝に朱里はやってきたが。

時期的にはそろそろ、秋蘭が定軍山に向かう時期だったはずだ。でも、華琳にそれといった動きはないし……。

「ほほぅ。真面目に働いているようではないか」

「ん?」

ぼんやりと考え事をしていたら、近付いてきていた奴らに気付かなかった。

前方から、歩いてきた人物が三人ほど。

「やっほー。兄ちゃーん」

「三人とも。どうしたんだ?」

視界に入ったのは、春蘭、秋蘭、季衣の三人だった。

「あぁ。皆で昼を食べに来ていたのだ」

「そっか。もうそんな時間なのか……」

そりゃあ、太陽は真上なんだから、昼食時なんだろう。

かといって、空腹感を覚えてない俺としては、なんとも微妙で……最近、風からは「細くなりましたね」なんて言われたぐらいだ。

「それにしても、なんか美味しいものを食べてきた感じだな」

「うん! 美味しかったよー! はむっ」

そう言いながらも、季衣はまだ饅頭を頬張ってるし……。

「ふっ。大したものではない」

余程美味かったのか、それだけを言って自信満々。言いたくはないって顔だ。

「そっか。それは良かった。じゃあ、俺はもう行くよ」

「む……ま、まぁ待て! わたし達が食べたものは、とても美味かったのだ!」

「うん……良かったじゃん。やっぱ、美味しいもの食べると元気が出るよな」

「そうだな!」

笑顔で嬉しそうな春蘭。

「じゃ、俺は行くから」

「うぬっ……う、美味かったのだぞ!」

「…………はぁ」

季衣は俺と春蘭のやり取りがよく分からないのか、頭の上に?マークを浮かべていて。

秋蘭はただニヒルに笑うだけ。楽しんでるな、こいつ。

「何食べたんだよ?」

「ふふん、美味かったのだ!」

「…………」

あー…………これ、確か春蘭が何も覚えてなかったやつじゃなかったか……?

「季衣、何食べたの?」

「わたしに聞かんのか!」

「なら、何食べたの」

「だから、美味かったと!」

「えっとね。酢豚と、肉団子に甘いあんを掛けたのと、春巻き!」

「そう、それだ!」

「…………」

「な、何だ。その目は」

「…………別に。結構いいもの食べてるね」

「後、食後に杏仁豆腐と果物も食べたな」

「そりゃあ、豪勢だ」

腹が減っていたら、普通に食べたくなるフルコースだな。

「で、季衣はその後に饅頭って訳か……」

「うん。ちょっと足りないかなぁ……って感じだったから。兄ちゃんも食べる?」

「いや、やめとくよ」

春蘭の謎の睨みがきいている。ここで貰ったら、何て言われるやら。

「お腹空いてたら、戦えないよ? 平気?」

「大丈夫だよ。実は、もう食べたんだ。これ以上食べると、逆に動きが鈍くなりそうだからさ」

「へぇ。そっかぁ……」

俺の笑顔の嘘を、季衣はそのまま受け入れてくれる。ちょっと罪悪感があるが……どうしようもない。

「そういや、兄ちゃん。最近、兄ちゃんと一緒にご飯食べてないよね」

そのままスルーしてくれればいいのに、余計なことを言う季衣。

「まぁ……言い難いけど、俺は今ぜーんぶ休みだからさ。好きに食べて、好きに寝てっていう生活しているから。自由だよ、ほんとに」

「うーん、そうなんだ……あ、じゃあさ! 暇なら今日の夜、一緒にご飯食べようよ! お仕事終わったら兄ちゃんの部屋まで行くから!」

「あー……」

ほとほと面倒な流れに。

「ごめんな。今日は先約があってさ。また今度、お願いするよ」

「う……そっかぁ、残念」

「貴様! 季衣がお願いしているのに、それを断るとは!」

「そう言われても……」

無茶苦茶なタイミングで怒るな、春蘭は。

「今度、適当なところで埋め合わせをするよ。せっかくだし、季衣のオススメのところを――」

「適当なところとはなんだ貴様ぁ!」

「お前さ、単語だけ拾って反応するのやめろって……」



「ひったくりだぁっ!」




「む!」

「北郷!」

「兄ちゃん!」

「……まったく」

さすがは曹魏の将軍とも言うべきか。

三人とも、さっきまでのまったりムードとは一転、真剣な表情で走り出した。

この身体で走るのは堪えるが、さすがに手を抜くわけにもいかないし、俺も全力で駆け出す。

「っ!」

「いたぞ、北郷!」

明らかに挙動不審な男は、春蘭の声に気付いた瞬間、家と家の間の細道へと姿を消した。

確か、ここの裏道って、出口は一箇所だよな。



いや……でもこれは、前の世界で…………。



「よし、挟み撃ちだ! 北郷と季衣は反対側から追い詰めろ! わたしと秋蘭はこのままいく!」

「了解だ、姉者!」

「兄ちゃん!」

「…………あぁ、了解」

これ、でも逃げられるんだよな、ここだと。

「くそっ! 間に合わなかったか!」

春蘭が悔しそうに叫ぶ。

路地を飛び出した背中が飛び込んだのは、別の路地だ。こいつ、土地勘と足には自信がある奴だったんだよな。

「やれやれ」

秋蘭と春蘭は、そのまま相手を正攻法で追うようだ。

逆に季衣は、別の路地駆け込んで行った。その行動も、前の世界で見た通りだ。

「でも、今は……」

自分で仕事をやってないとはいえ、風の仕事に目を通すことは多い。

今、ここいら一帯は空き家や新装開店のために店を閉めている家屋が多かったはずだ。


つまり、そこは無人なことが多いって訳で……。



「…………行くか」


一息吐いて、俺は季衣とも別の路地に入り込んだ。


奴が巡っていくルートは覚えている。結構衝撃的なイベントだったし、これによって警邏のやり方も変わり、引ったくりもより簡単に先回りして捕まえられるようになった。

迷路みたいな路地ってのは、不便だけど便利でもある。敢えてここに誘い込んで、犯人を捕まえたりしたこともあった。

土地勘という意味で言えば、俺も余り変わらない。魏にいなかった時間も多くて、ブランクというようなものもあるが……。

「ここと……ここ……」

人気がない、無人なのを確認してから家屋の玄関を抜けて、窓から次の路地に抜けて。

ひたすらにショートカットを繰り返して、細い路地の曲がり角で止まる。

そこから……


…………タッタッタッタッタッ!


走ってくる音が聞こえてくる。

少しだけ顔を覗かせると…………あぁ、うん。先回り成功だ。



俺は、足だけを出してそいつの足に引っ掛けて、



「うおおおぉっ!?」



別の路地に出る前に、盛大に吹っ飛んで転んで、壁に背中から激突。

俺はそこに、容赦なく蹴りを腹にくれてやった。

「おごっ!!」

嗚咽と息を同時に吐き出して、ひったくりは気を失う。

「…………こんなもんか」

俺は転がった包みを拾って……水晶麺だっけ? 無事みたいで、何よりだ。

以前は更に大通りに出てから、スラム街にまで逃げ込まれたからな。ギリギリのところで季衣が捕まえてくれたけど。

「あ、あれ、兄ちゃん!?」

「来たか」

俺を視界に捉えた季衣が、俺の目の前で急ブレーキを掛ける。

「ど、どうして? ボク、頑張って急いで来たのに……」

「季衣が色んな道を知っているように、俺も変わった道を知っているってだけだよ」

ぽん、と奪われたものを季衣に渡して、壁で気絶しているひったくりを指差す。

「あいつだから。後は頼むな」

「え、で、でも兄ちゃん!」

「俺は非番だからさ。あんまり目立つと、まずいだろ?」

手を上げて、さっさと元の路地へと戻っていく。

その途中、春蘭と秋蘭が来て。

「ほ、北郷?」

「おい北郷! ひったくりはどうなった!」

「向こうに季衣と、寝ているひったくりが居るよ。今、俺が注目されるのは良くないだろ? 後は任せた」

「お、おい、北郷!」

「……姉者、まずは季衣のところにいくぞ」

「う……うん? あ、あぁ、分かった!」

言われて、さっさと走り出す春蘭。

「すまんな、世話を掛けた」

そう言いつつ、説明を求めている顔だ。

「空き家の中を通ってきただけだよ。風が担当している書類を見て、場所が分かっていたってだけ」

「……かといっても、ひったくりが逃げる方向は分かるまい? どうして先回りが出来た?」

「…………春蘭、大分叫んでいたと思うけど?」

あぁ……と、納得する秋蘭。

「姉者の馬鹿騒ぎも、たまには役に立つということだな」

「嬉しそうに言うなよ。じゃあ、後は頼む」

「すまなかったな、非番なのに」

「良くあることだって思っておくさ」

そこで会話を切り上げて、俺は元の路地に戻ってきた。



「……………………ふぅっ」




少し、重めに息を吐く。

今のは危なかった。春蘭が叫んでいたから良かったものの、もし黙って走っていたらと思うと……さすがに博打過ぎたな。

秋蘭としては何気なく聞いてきたのかも知れないけど……少し、迂闊だったか。

まぁ、何とかなったんだし、今はこの場から離れよう。





     ◆  ◆  ◆





「ご無事で、何よりでした……」

「うん、心配かけちゃったね。すぐに来られたら良かったんだけど」

俺は以前、華琳と一緒に来た町外れの喫茶店に来ていた。

「今日は、お一人ですか?」

長い黒髪の、見目麗しい美人と言えばいいのか。落ち着いた雰囲気の女店主は、苦笑しつつそう聞いてくる。

「うん……少し考え事をね。やることが少ないはずなのに多くて、困ってるんだ」

「そうでしたか……」

コトッ……と、お茶を置いて。

「ご注文がありましたら、お呼びください」

「うん、ありがとう」

そう言って、笑顔で奥に戻っていく。

この店、オープンカフェみたいな感じだけど……相変わらず人は少ない。

昼過ぎだし、よくあるおやつ時には人が来るのは知っているが、飯の時間帯には人が殆どいないんだよな……今もそうだし。

おかげで、ゆっくり静かに考えられるんだけど。



「…………ふぅ」




息を吐いて、問題点を洗い出す。

朱里や関羽は、現状維持で良いだろう。朱里はかなり問題のある身体をしているけど……だからといって、俺がどうこう出来る訳でもない。

今朝来た時も、やはり体調はよろしくなさそうだった。身体は元気だが、精神が病んでいるというような。今はそれでも気丈に振舞っている方だけど……もう一つ壁が壊れたら、俺に対する依存度が大きくなるだろう。

それはそれでありかもしれないが……朱里に時間を取られすぎるのも困るな。後、そろそろまとめて朱里が調べたことを報告してもらわないとならない。今日は何を覚えているかっていう報告だけだったから。

でも、朱里の身体の解決策ねぇ……? 地和に見せれば、まだなんとかなるかな……? 確か、俺の身体のことも調べてくれているはずだったし、ついでってのもなんだが朱里の話も今度しておくか。

関羽は現状、おかしな動きもないし進展はないと風が言っていた。俺が華琳の動きを気にして動けない以上、その話を信じるしかないだろう。


こちら側の問題はそれでいいとして……あちら側としての問題は、桂花か。


華佗には話を濁したが……どうするかなぁ。

邪魔ならば殺してもいい……と思いはするが、桂花は魏の貴重な戦力。それも中枢の人物だ。

殺せば反動も大きいだろうし……何より、華琳のこともある。

秋蘭は救って、桂花は逆に殺す……? 最悪のケースはそうせざるを得ないだろうが……。

「うーん……」


そう、俺が無意識ともいえる唸りを上げた時だ。



「何を考えているの?」



一瞬、身体に活力が宿ったような気がした。

「…………色々、かな」

しかし、驚きも多分にあって。

俺は努めて平静な声を出して、振り返る。

「そう。せっかく休暇を与えているのだから、楽しめば良いのに」

そんなことを言いながら、俺の対面に座ったのは、当然――――、

「……ここで会うなんてね、華琳」



まさかの、華琳だった。




「えぇ。あなたに連れ出されて……二度目かしら。ここでこうして話すのは」

「そうなるのかな」

華琳は何やら手に書類を持っていて、それをテーブルの上に置いた。

「……あら」

客の気配を感じて出てきた女店主が、驚きの声を上げる。

「これは……曹操さま。お久しぶりでございます」

「久方ぶりね。元気そうで何よりだわ」

「曹操さまも……」

そう言って、華琳の前にお茶を置いて。

「ご注文がありましたら、お呼びください」

一礼して、去っていく。

「何も頼んでないの?」

「のんびり考えようと思って来たから。腹が空いたら、何か頼もうと思っていたよ」

ここで出される最初のお茶はサービスだ。元の世界でいう、水が出されるのと一緒。

でも、お茶だって結構な額がするし……今考えてみたら、こうして無料でお茶を出すってことは、この店儲かってるのかな……それも、自家製か?

ずずっと一啜りして……うん、良い具合の渋みで美味い。後味も悪くないし。

「ここのお茶は美味しいわね。一刀が足を運ぶのも分かるわ」

華琳も一口飲み、一息吐いてそう言う。

「良いところを見つけたよ。でも、お茶を飲みに来たって訳じゃないんだろ?」

「あら? せっかく二人きりなのに、そういう考え方しか出来ないわけ?」

「最初からそういう雰囲気で歩いていたら、勘違いもしたけど。今の華琳からは、仕事の空気しか読み取れないよ」



だから、油断が出来ない。



今この場で俺の前に現れたということは――――華琳にとって、次のステップに進むための状況が整ったということだからだ。



「美味しいお茶もあるし、話が弾みそうだわ。一刀の言う通り、仕事に分類されるから華はないのだけれど」

そう言って、テーブルの上を滑らせながら一枚の書類を俺に差し出してきた。


それを手に取り、見てみると…………――――、



「ッ!?」




『荊州にて、袁紹、文醜――――顔良の生存を確認。事を起こす動きはない様子。引き続き監視及び調査に当たる』





簡素に書かれた報告文の最後を締めくくられていたのは、これだった。



最近、とにかく動きを見せないと思っていたら…………。



「ねぇ、一刀」


俺は冷や汗を流しながら、苦笑しつつ華琳を見ると、



「……ん?」



頬杖をつく華琳は――――またとない、満面の笑みだ。




「一刀は――――顔良が生きているってこと、知ってた?」




さて――戻ってきてから初めての、針の筵だな。





続く


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