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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第78話 

あの想いと共に 


第78話



秋蘭の手伝いをし、俺は夕食前に一度自室に戻った。

「おかえりーなさーい」

寝台で寝転がって居たのは、風だ。それに、

「よ」

「うん」

華佗も、椅子に座って本を読んでいたところを、顔を上げる。

すると――華佗がすぐに、眉間に皺を寄せた。

「…………ん? おい、一刀」

「なに?」

俺は仕事机に座って、風に話を切り出そうとしたんだが。

座ったところで――どうやら、気付かれたらしい。華佗が血相を変えて俺に近寄ってくる。

「お前――どうしたんだ!? 今日の昼に治療したばかりだろう!?」

すかさず赤い気膜を纏い、俺の治療に入る。

「…………ごめん。色々あってさ」

「色々ってな……!」

「それも含めて、話があるんだ」

華佗の鍼が、俺のこめかみに埋め込まれていく。風がそれを苦々しい顔で見ているが……、

「ちょうどいい。風」

俺は、例の手紙を机の上に置いた。

「んー? なんですか?」

「今の華佗の話にも繋がることだ。俺に何も言うことがないのなら、これを見てみろ。あるなら、先に言え」

「…………」

ぼんやりと気が抜けた顔をしていたが、俺の声音と態度で真面目な話だと察したんだろう。

起き上がって、机の前まで来て。華佗は俺の治療に専念してるのか、視線はこちらに向けているが黙ったまま。

「…………」

「…………」

数秒、俺と風の視線が絡み合ったが。

「ないです」

「そうか」



報告はない――――つまり、出し抜かれたのは確定、ということだ。



風は手を伸ばして、朱里の手紙を手にとって内容に目を通す。



少しずつその表情は険しくなり、一度露骨に驚いて、嘆息もして。



「……ごめんなさい」

と、一言。言い訳もなく謝ってきた。

「弁解もないのか」

「無いです。気付きもしませんでした」

「ということは、朱里のか? 程昱がやられたって?」

華佗もすぐにその可能性に至ったらしい。

「そうなるな」

俺は華佗に手を振って鍼から手を離させ、背もたれに体重を預け肘置きに腕を置いて、手に顔を乗せる。

「内容は?」

「どうぞ」

「あぁ」

華佗も同じように目を通して……。

「……あっさり裏切られているじゃないか」

驚きと失望が混じったような声の感想。

「その点については、俺も思うところが多い。でも、先に風に意見を聞いておきたくてな」

朱里の行動にしては雑さがあるっていうのと……桂花が渡してきたっていう部分にも引っ掛かりを覚えるし……。

「風にですか? 何にも知りませんよ?」

「これを見つけたのは俺じゃない。現場を見たのは確かだが、内容は聞き出せなかったんだ」

「でも、ここに証拠がありますけど」

「見つけたのは桂花だよ」

「っ……えと……んぅ?」

何か言おうとして、言葉に詰まって。

「荀彧が? ……それは少し、おかしいんじゃないか?」

華佗も違和感を覚えたらしく、口を挟んでくる。

「俺もそう思うんだ。だから、風に話を聞かなきゃならないって思って」

「桂花ちゃんが一番露骨に警戒しているのに、その桂花ちゃんが見つけてきて、そうでもないように思わせていた風が見抜けなかった。それを逆に考えたら、諸葛亮さんは風には気を使ったけど、桂花ちゃんはナメまくってたってことですよねー」

「桂花が聞いたらブチ切れそうだけど、そうなるんだ。朱里が、そんな失態をすると思うか?」

「んー……」

「桂花は俺、風も俺。どちらも俺と言う点を注視しているから、その分の枷が郭嘉に回っているはずだ。だから、忙殺気味の郭嘉が気付かなかったというのはしょうがないようにも思える」

「諸葛亮さんの迂闊さも気になりますけど……問題は、風と桂花ちゃんの差ですよね」

「どう思うんだ? 軍師としては。考えられること、幾つかあるだろ」

風が少し黙り込んで考え始める。

「……つまりなんだ。荀彧と朱里が共謀して、一刀をはめようとした……って可能性があるのか?」

風の思考を阻害しない程度の声量でそう言ってくる華佗。

「華佗もそういう風に思えたんだ?」

「あり得ないと思うが、そういう風に話しているじゃないか」

「そうなんだよね……あり得ないんだ」

「でも経緯だけ見たら、おかしいところだらけなんですよね。諸葛亮さんは、風にも桂花ちゃんにも、どっちにも同じぐらい気を付けているはずですし」

「じゃあ、お前だけが置いてけぼりを食らったってことでいいのか?」

「んー……最近の桂花ちゃんの行動を考えるとなー……うーむ、むむむむー……」

なんて言って、机の前で右往左往しながら唸り始めた。

「荀彧は政務以外で何をしているんだ?」

「お兄さんの周りを嗅ぎ回ってるみたいですよ。後、妖術とかそこらにも興味津々みたいですね」

「妖術……?」

あっさりとキーワードが増える。ていうか……。

「なんですか、その顔。ちゃんと牽制してますよ。同じ軍の軍師ですけど、喧嘩したり影で足の引っ張り合いなんて日常茶飯事ですもん。さすがに稟ちゃんとはやってないですけど、桂花ちゃんとは最近多いですね」

「報告は聞いてないが?」

「聞いてもお兄さんじゃ対応出来ないでしょうし、そこを気にしないように生活させるのが風の役目の一つですし。ただ……そうやって考えても、桂花ちゃんはお兄さんへのちょっかいは出しつつも、諸葛亮さんへの警戒も怠ってなかったんでしょうしね。怠ってないというか、本人も気付かない以上に仕込みをしていたというか」

「万全だったってことか」

「これは……ちょっと悔しいなー……やられっぱなしは性に合いません」

珍しく、風が少し怒気を発しながら言う。

……しかし、桂花が妖術ねぇ。気にしている節はあったけれども。

あの時、適当に蔵書を漁っているのを見られたのはやはり痛かったかな……とはいえ起こってしまったことだから、どうやってカバーするかが重要になってくるんだが。

「俺以外に怒っている暇もあったんだな」

まぁ、桂花への対策は後だ。今は話を続けないと。

「お兄さんとは別分野ですし。得意分野で舐められたら商売あがったりですよ、旦那」

「余計な茶々は入れなくていい。それで?」

他にも言わなければならないことがたくさんあるはずだ。

「諸葛亮さんに関しては、より気を付けます。その分、お兄さんの……じゃないや。華琳さまのお仕事の手伝いが出来なくなるしれません」

華琳の……本来の仕事か。さすがに、そこを疎かには出来ないな。

「それは構わないって簡単には言えないだろ。じゃあ、桂花への牽制は減らしていい。そこは俺自身が対応する」

「……出来るんですか?」

風に訝しげに睨まれるが。

「桂花の問題は、いずれ決着をつけなくちゃならない。こちらの手札はもう殆ど切っている。それに気付くか気付かないかの差でしかない。そうなると、身内の桂花よりも身中の虫になりつつある朱里の方が厄介だ」

「……お兄さんがそういうなら、風からは異論はないですけどねー」

珍しく目を少し吊り上げて、怒りの感情を出しながら風は会話を続ける。

「諸葛亮さんはそれでいいとして。問題は桂花ちゃんがどういう行動を取っていたかってことになりますよね」

「荀彧と朱里の共謀か?」

華佗が俺のこめかみに手を当てて、少し鍼の位置を調整する。中をいじられて、なんだか喉に来るというか、圧迫されるというか。良い感じはしない。

「間違いなくないと言えますねー。断言しますが、お兄さんを潰すためという理由があるにしたって、桂花ちゃんが敵将と組むなんていう、ある意味で華琳さまを裏切るようなことはしないです」

「だが、結果的にそう見えているぞ」

「……可能性だけを列挙するなら、どちらかがそういう風に見えるように場を調整したのかもしれません」

場を調整……か。

「例えば、朱里が桂花だけに隙を晒して……とか?」

「お兄さんの関心や注意力をぶれさせるという点では、悪い方法じゃないです。かなり早めの行動ですけど……」

「しかし、それだとこの手紙の内容はまずい。一刀はまだ曹操本人から定軍山の話を聞いたわけじゃないんだろう?」

「そうだね……」

なのに、朱里が定軍山のことを知っているというのはおかしいというよりまずい。

「いやでも、定軍山に限って言えば、俺が朱里に話したということには繋がらないんじゃないかな?」

「華琳さまがまだ誰にも言ってない可能性もありますからね。風はまだ聞いてません。桂花ちゃんだけは聞いているかもしれませんが」

「もしくは、朱里が能動的に動いた結果、そういう魏の動きの可能性があると察知して……なんて、桂花なら考えてくれるか?」

「……普通なら。ただ……桂花ちゃんが、どれぐらいお兄さんの内情を知っているかによりますね」

「だろうな」

前の世界や元の世界のこと。そのことに気付いているとは思えないが……官渡での一言は怪し過ぎたし。

桂花が定軍山のことを華琳から聞いていない場合、仮にこれからの予定に定軍山の視察というものが桂花の頭の中にあったとしても……この書き方は怪しいの一言に尽きる。

「一刀は、今日はどういう行動を取ったんだ? 一連の流れを知りたい」

「あ、うん」

少し間が空いたタイミングで、華佗から。この身体のこともあるだろうしな。

「今日は昼に二人と別れた後、凪と沙和。二人と一緒に昼食を取ったんだ。と言っても、二人が食べただけだったけどね」

「また沙和ちゃんに集られたんですか?」

「いつも通りだよ」

俺は苦笑しつつ、

「それから、紅桜のことを聞きに真桜のところへ。元々そのつもりで町に出たんだ。非番のようだったし、工房に行ったら居たから、そこで話をしてさ。終わって外に出たら、裏路地に入っていく朱里が見えたんだ」

「で、追った?」

「勿論。怪しすぎるだろ。でも……さすがに警戒が厳しくて、すぐに振り返られてさ。この分だと追跡は難しいって思ったんだ。俺は気配や足音を消す方法なんて知らないし」

「じゃあ、どうしたんですかー?」

華佗の表情に、少し力が入ったのが分かった。俺の言いたいことが伝わったんだろう。

「……華佗には悪いんだけど、俺の体調不良って奴を使わせてもらった」

「そんなことだろうと思ったよ。詳しく話してくれ」

「うん……俺が呉に居たときさ。周泰って子に言われたんだ。「あなたの存在は希薄すぎて、もう私しか追うことが出来ない」って。それぐらいに俺は死に掛けていた」

「死に掛けていたって……」

風に明言するのは初めてだったかもしれないな。怒りの表情から一転、驚きの表情で俺を見る。

「今の治療を受けている……原因になっている奴らさ。そいつらを感じて逃げることも出来るんだから、逆に取り込んで呉の時のように俺の存在を希薄出来ないのか? なんて考えた訳だ」

「一刀…………」

「華佗には怒られるだろうって思ったけどさ……今ここで朱里を逃すって選択肢は、俺の中にはなかった。加速度的に俺の身体は破滅に向かったけど、そのおかげか目論みは成功したよ。朱里どころか、今俺の傍を歩いていた町人ですら、俺の存在を把握することは出来なくなった」

「それで、お兄さんは諸葛亮さんの密会を目撃したんですか」

「そうだな。何か筒のようなものを渡していた。その町人はすぐに去って……俺は朱里に問い詰めたわけだ。すると、どうなったと思う?」

風の口角が、にやりと上がる。

「逃げられるでしょうね。迷惑を掛けるつもりじゃなかったし、大したことじゃないからって」

「全くその通りだ。見事に逃げられて……不愉快になった俺は、これからは自分の心配だけしてろって突き放した」

「そうなるでしょうねー……ただ……うーん」

朱里がまた考え込む姿勢を取る。人差し指を伸ばして、それを横に沿うように唇に当てて。

「気になるか?」

「結構。迂闊だなってのもありますけど……いや、諸葛亮さんがそれだけ実は隠密術に長けていたってのなら話は別なんですけどねー」

「見た目じゃ人は判断出来ないけどな……気になった部分は、それだけか?」

まさか、という風に首を振って、

「全部が自作自演の可能性もありますよね、諸葛亮さんの場合」

「「自作自演……?」」

俺と華佗の声が同時に響く。

「撹乱の意味も込めて、諸葛亮さんは桂花ちゃんに気付かせるように動いた。現状、筒の中身は疑いようもなくこれでしょう。お兄さんの行動を読んでいたとは思いませんが、誰かに見つかった方が良い……ぐらいに思っていたのかもしれません。じゃないと、さすがに時期尚早ですし、工房街から裏路地って、多分廃棄場所にでも行ったんですよね? 待ち合わせの場所としては分かりやすすぎるというか、安直というか……」

風が部屋の中を歩き回りながら、持論を展開していく。

「見つからなかったら、それまで。蜀に文が届いて万々歳。バレたらバレたで、桂花ちゃんがまた変な風に動くだろうし……いやでも、そもそも文を運ぼうとした人も蜀の人間か魏の人間かなんて分かりませんよね。桂花ちゃんにそこら辺の話を聞きたいですけどー……」

「何も話してくれないだろうな、今の俺らの関係上」

「ですよねー……部外者って感じがすんごい嫌ですなぁ」

どかっと寝台に座って、露骨に嘆息する。

「一番の奇妙な点はですよ。諸葛亮さんの行動が、あまりにも稚拙だってことです。だって、他ならぬお兄さんにバレちゃっている訳じゃないですか」

「当たり前だが、朱里は一刀に暗躍がバレるのを一番嫌うはずだよな。なら……あらゆる可能性を考慮して、一刀には見られないようにするはずだ」

「真桜が工房に居るって情報は事前に調べることが可能だ。なら……俺が真桜に会いに工房に行く可能性はすぐに浮かぶはず」

「それなら工房街を選択肢に選びませんよね。最善は、お兄さんの視野に入らないようにすること。後は誰に見られようが、適当な言い訳で済むわけですし、何よりお兄さんがまだ信じている状況です。何かあったらお兄さんからの援護が入って、それは華琳さまの援護にも少なからず繋がる。ここではそれ以上の加護なんてないですから」

「それを切ってでも、真っ先に動く理由があった……?」

「そう考えるのが妥当ですけど、でもそれなら…………」

風がまた黙って考え込んでしまう。

「……程昱が考えを纏めるまでに、俺からも一刀に言っておきたいことがある」

「お叱り?」

と言うや否や、ダン! と華佗は机に手を当てて音を上げた。

「当たり前だ! 自分の身体をなんだと思っているんだ、お前は!」

「うん……ごめん」

力無く笑うことしか出来ない。

華佗は渋い顔をしながら、俺のこめかみから鍼を抜く。些かいつもより乱暴だったように思える。

「これは異質な力だ。常人や常識では計り知れない、謎に満ちた悪意だ。それを使わなければならない必要性を感じるのはいいが……こういうのは、これっきりにしてくれ」

「……約束は出来ないよ」

「それでも、今だけでもしてくれ。じゃなきゃ、なんのために俺がここに居るんだ」

…………やるなら、目の届く範囲でやれってことか。

「分かった、約束する。これ以上華佗に変な心労は負わせないよ」

「…………お前は本当に、口約束ばかりだからな」

「ごめんって。それとも、今度華佗が見ている前で練習でもする? 何か新しい切っ掛けが生まれるかも――」

「一刀――俺を怒らせたいのか?」

「ははは……ごめん」

本気で怒りそうだから、これぐらいにしておこう。

華佗は音を立てて椅子に座って足を組む。

それが合図になったのか、沈黙していた風が顔を上げた。

「……お兄さん」

「ん?」




「定軍山って、なんですか?」




ちょっと間が空いたが――当たり前の質問が、飛び出てくる。

「どうせ答えられないんですよね。だから、それは良いんです。ただ、思い返してみてください。諸葛亮さんに、定軍山の話は……したんですよね?」

「……あぁ、したな」

「じゃあ、蜀の人達は定軍山に来る……もしくはもう居るんですね。そういう話は聞いてませんでしたけど……」

風が丁度、定軍山がある方角に目を向ける。さすがに鋭い。

「そろそろ新しい斥候を出す機会だろうなって思ってはいました。ただ……」

風が、能面のように無表情になって、俺を見る。



「それと被って、お兄さんに影響が生まれる形で、諸葛亮さんがわざとに動いてでも蜀に伝えておきたかった理由……そんなものが、あるとすれば」



鋭い部分を、風は指摘してくる。

その可能性は……余りにも俺の中には無かったことなんだが。

「諸葛亮さんが動いている理由は、今はお兄さんが第一のはずです。そのお兄さんの影響を減らすように動くのはあり得ない話じゃない。でもお兄さんがこうして憤っているということは、その可能性がないってことなんでしょうか? それとも……ただ、気付いてないだけですか?」

どうなの? と、風の両眼は俺の顔を映したままだ。

華佗も俺を見てくる。どう答えるんだ? と言わんばかりに。



風の問い……その問いに答えるとすれば、それは――――。



「朱里が、俺の影響を減らすように動いたという可能性は……ないと断言出来る」

そうだ、それはない。

話はしたからだ。定軍山で秋蘭が死ぬこと、それを捻じ曲げようとしていること、その結果、俺の最終的な結果が変えられるかもしれないということ。

「断言は出来る…………が」

ただ、とも付け加えられる。

「この際だ、話そう。風の言う通り、定軍山には蜀の伏兵がいる。訳あって、俺は自分自身がそこに向かいたいと思っている。華琳の口から、名指しで指名されてね」

「どうしてですか?」

「悪いが、話せない。話せない上で話すんだが……朱里はこの話を知っている。その上で、俺が何を成し遂げたいのかも知っている」

「……風は知らないのに」

拗ねたように言われるが、そこはスルーしつつ。

「だから、この点に関して俺の邪魔をするということはあり得ないはずなんだ。俺が定軍山に行き、今いるであろう蜀の伏兵と邂逅することは朱里にとっても良い話なんだから」

「でも、現実問題として悪いことをしていますよ」

「…………だからって言っただろ。困ってるんだよ」

それで、こうして密談をしている訳だし。

「…………ふむ。そっかそっか」

俺が息を詰まらせたように上を見上げた時、風は何かを納得したように立ち上がる。

「分かったのか?」

「さぁ? でも、可能性のすり潰しは出来たじゃないですか」

「すり潰し……?」

「ですです」

風が近寄ってきて、机を人差し指でトントンと叩く。華佗も手招きして呼び寄せて、三人で三角形に長方形の机を囲むことになった。

「まず第一はですよ。諸葛亮さんは、お兄さんを裏切る可能性がないってことです。それは合ってますよね?」

「あぁ」

すぐに頷く。じゃなきゃ、大好きな君主を裏切ってここまで来ないだろう。

「だとしたら、ですよ。この密書なるものは見つかっても構わなかったってことになりません? 見つかっても別に怒られるような内容じゃなかった……そう考えると、諸葛亮さんの態度には一応の納得が出来ます」

「隠れて渡すから密書だろう? 程昱も今自分で口にしただろ」

「大前提があるじゃないですか。それこそ、今風が口にしましたよ」



それって…………。



「つまり、この密書は本来なら“お兄さんが不利になるようなことが書いているはずがないもの”である必要がある。というのが、大前提を加味した上でのものになりますよね」

「それは……」

その通りだ。そうじゃなきゃ、筋が通らない。

「お兄さんに嫌われたくない、好きでいて欲しい。というか諸葛亮さん、お兄さんのことかなり好いてますしね。それらを考慮に踏まえても……」

「お、おいおい、待てよ。そういう意味で考えてしまったら、これ……」

俺と、華佗と、風と。


三人の視線が、机の上にある密書なるものに注がれて。



「これ……本当に、諸葛亮さんが書いたものですか?」



朱里の言葉に、僅かに背筋に寒気が走った。

「お兄さん、確認は取りました? お兄さんが突き放した時、諸葛亮さん、何か縋るような言葉は口にしませんでしたか?」

その三点で言えばだ。

「確認は取っていないし、朱里が書いたものかどうかは判別していない。縋るような言葉は……口に、していたな」

「なら、諸葛亮さんはお兄さんを裏切るつもりはなかったし、不利にするつもりも無かったはずです。そこだけを見れば、ですけど」

「しかし、まだ疑問は残ったままだろ。一刀に不利になる要素がないのなら、堂々として居れば良かったじゃないか。それこそ、一刀に頼んで蜀に文を送ってもらっても良かった」

「そこは、どうしても仮説になっちゃいますね。風や桂花ちゃんがどれ程自分を注視しているのか……それらを確認するためだったのかもしれませんが……」

「だとしたって、危険が多すぎるし旨味が無いな。こうして一刀に露見もしてしまった」

「そこが、この問題の大きな分岐路の一つですね。諸葛亮さんが何を考えて、文を用意して、あの場所で手渡したのか……」

俺も思考を巡らせ続けている。華佗の治療を受けたおかげもあってか、大分調子が良い。

「聞いて、まともに答えるとも思えないな」

「そうでしょうねー。答えられることなら、最初からお兄さんに話しています。ただ、お兄さんは分かりやすく諸葛亮さんを突き放したんですよね?」

「あぁ」

そこは間違いない。あの時は頭に血が上っていたし。

「やっぱりこんなことをしに来たんだな、とも思ったぐらいだ」

「ことを、というか、ことも、というか。それでですね、お兄さん。提案があるんですが」

「提案?」

にやにやと笑う風に嫌悪感が募るが、そんなのお構いなしという風に、

「それを餌に諸葛亮さんの本音を引き出せないでしょうかー?」

なんて、あっさり言いのける。

「……前言撤回して欲しいなら、なんでこんなことしたのか言えって?」

「今の諸葛亮さんとしては、もっとも欲しい言葉ですよー。お兄さんの庇護も加護も無くなったら、ここじゃ生きていけませんし。ならなら、それを利用しない手はございませんよー」

「…………どうするんだ? 一刀。理に適ってはいるが」

「うん……」

腕を組んで考える。

「……そういったリスクを考えずに、朱里が行動する訳がないよな」

「りすく? まぁなんとなく分かりますが、そですね」

風の話は全てに筋が通っている。

まず朱里が現時点で俺を裏切る可能性が皆無なこと。これは魏まで来た理由、俺を助けるという意味からしても、正しい物の見方だ。

だとするなら、今回のこの行動には不審な点が多い。何故なら、見つかった段階で裏切ると分かるような行為だからだ。

ここまでの博打……普通ならしないだろう。まだここに来て二週間程。朱里ぐらいの性能を持つのなら内情の把握は終わっているのかもしれないが、だとしたって俺に関する問題が浮き彫りになったままだ。

浮き彫りになっている俺の問題を対処しない限り、朱里は蜀には戻れない。桃香にも認めてもらえないだろう。

「でも、行動に移した。その点で、何か思うところはないのか?」

「……仮に、これが本物と仮定した場合、諸葛亮さんはお兄さんよりも蜀のことを考えて動いたってことになりますよね」

「そうだな」

「可能性、ありそうですか?」

「んー……」

無いって断言したいが、実物が目の前にあるしなぁ。

「――――あ」

一つ、また閃いていく。


…………なるほど。これが可能性のすり潰しか。



「俺よりも大事なのは桃香……劉備だ。これだけの危険性を冒しても行動に出なければならなかったのは、劉備のことに関わるから。それなら、朱里の行動にも納得がいく。だから、この文に劉備のことが書いてあるなら、それは間違いなく朱里出したものだってことになる」

「だが、書いていないな。だとするなら?」

「諸葛亮さんが、この手紙を書いた可能性は……断然低くなりますね」



場に、沈黙が訪れる。






今、三人の頭の中に浮かんでいる人物は一人だけだろう。




何故? とも思うが。




その何故? を否定しきれない自分が、俺だけじゃなく、きっと二人にもあるはずだ。




だから――――これ以上先に進むには、口にするしかない。





「……桂花が、偽の手紙を用意したって言うのか?」





沈黙を破るように、俺は言った。

「絶対無いなんて言い切れませんよ。ただでさえ、表立って敵対している訳ですし」

風は肯定も否定もしない言葉を口にする。

「これが荀彧の手だとするなら……朱里すら利用して、一刀を揺さぶりに掛かるか」

「桂花ちゃんならやりそうですねー。諸葛亮さんは表立って桂花ちゃんと敵対している訳じゃないでしょうけど、お兄さんが諸葛亮さんに助けを求めたら、諸葛亮さんは桂花ちゃんの邪魔をするでしょー?」

「するだろうな」

「じゃあ、脅威ですよね。風が鬱陶しい上に、諸葛亮さんにまで固められたらたまったもんじゃないです」

だが、風はまだ納得のいっていない顔だ。それに気付いてかいないのか、

「…………しかし、程昱がここまでの可能性に気付かないって、荀彧が思うか? 俺は二人の関係はよく知らないが、それでも互いに高い評価はしているんだろ?」

華佗の発言を待ってましたと言わんばかりに、風も頷いて。

「ですです。さすがに風が気付くのを想定済みで動いているは思います。あくまで、桂花ちゃんがこれを仕立ててたら……ってことになりますけど」

「気付かれて、朱里に確認を取られたら……朱里は桂花を注意から敵視まで段階を上げるかもしれない。それが分からない桂花じゃない――――いや、待て」


そこまで口にして、俺は嫌な予感を覚えた。



風も珍しく頬に嫌な汗をつたらせながら、笑う。




「どうしたんだ、一刀」

「……風、お前」

「お兄さんも、ようやくそこまで辿り着きましたかー。もー、遅いですよー」

「ん? 二人はもう分かっているのか?」

華佗だけまだ分かっておらず、俺と風の顔を交互に見る。

「可能性をすり潰していった結果だよ。朱里は俺を裏切る可能性が無い。でも、裏切りとも言える現場、実際に文を出すところを俺は目撃した。なら、俺よりも優先度が高い劉備のことがこの文に書かれていなければならないはず」

「でも、実際に書いてないですよねー。書かれていたのは魏の内情だけ。それもお兄さんが教えてそうなことと、諸葛亮さんが親しくなった流琉ちゃん達のこと。確かに尤もらしいことを並べていますが」

「俺への裏切りに繋がる内容を、朱里が書くはずがない。勿論、黙って文を出そうとしたことは言及するが……それよりも、今は別のことが気になる」

「ですね。問題は、諸葛亮さんが書かないであろう内容の文がここにあって、それを渡してきたのが桂花ちゃんだ……ってことです」

「…………あぁ、俺も分かってきたよ。二人の言いたいことが」

大袈裟に華佗が頭を抱える。

そうだ。



これは多分、そういうことだ。



「そこまで考えたらさ……これは偽者の手紙だってこと。多分、桂花は事前に朱里が動くことを知っていたのかもしれない。そこで、一つ妙案を思いついた」

「文をわざと出させて、それを回収。お兄さんがそれを知っているか知らないかなんて、どっちでも良かったんでしょうね。知っていても知らなくても、きっと同じ形に帰結する……そう確信しての、一応の反応を見た後、自分が書いた偽の文を渡す」

「驚く俺……で、俺はその話を風に持っていき、この手紙がどういうことだったのかを議論して」

「風が可能性に気付いて……この話をそのまま諸葛亮さんに持っていけば、恐らく諸葛亮さんも驚くでしょう。わたしはそんなの書いてません! って言って。むしろ、なんかもう諸葛亮さんのことですし、自分から謝って劉備さんのことを説明してくるかもしれませんね」

「桂花の嘘が、朱里にも伝わる……朱里の中での桂花の危険度が上がって、敵視ということにもなれば……」

「桂花ちゃんは、風と諸葛亮さんの二人を敵に回すことになりますね。お兄さんも含めれば三人ですけど――――」



そして――導かれる結論の一つが。



「で、それが――――“朱里が桂花を敵視すること”こそが、桂花の狙いだとしたら?」




「…………だよな。二人が言いたいことは」

はぁ……と、華佗が嘆息する。

「なんでそんなことをする必要がある? わざわざ敵を増やすことに意味があるのか?」

「そこは桂花ちゃんに聞かないとなんとも言えませんが」

「……まとめて相手して、捻り潰したいんじゃないのか? 桂花の考えそうなことだ」

「それもあるでしょうけど……桂花ちゃんがお兄さんのことをよく知っちゃってて、それで諸葛亮さんの手を遅らせたいと思ったのかもしれませんよ?」

「荀彧の、一刀の問題への理解度か。それは厄介だな……とはいっても、それを確認する術がないんだが」

「どっちにしたって……ここで仕掛けてきたってことは事実です。助けられたとしても、罠を仕掛けてきたとしてもですよ。もう嫌いで憎くてしょうがないんでしょ。魏の空気が汚れる、みたいな顔して見てきてますもん。お兄さんのことも、諸葛亮さんのことも……きっと、風のことも、ね」



三人の溜息が、見事に木霊した。



「仮定の結論だが、本当にそれっぽいな。毎度毎度、二人の頭の回転の速さを見ていると恐ろしくなるよ、俺は」

「風は政務や軍事論関係。お兄さんは対人的思考関係に特化。華佗さんは逆に、素直な視点で風達の意見を吟味。武でも知でも、結構な役割分担が出来てますよね、この三人」

風が笑う。内容は重すぎて頭が痛くなりそうなのに、風はそれが楽しくて楽しくてしょうがないって顔だ。

「程昱……なんで笑ってられるんだ?」

「今言ったように、お互いでお互いを補い合う議論って楽しいんですよー。それに、嬉しいじゃないですか。こんなに頭を悩ませても、まだまだ立ち塞がってきて、苦労させて。絶対に勝てる戦ばかりじゃつまらないですしねー」

「普段から怠け者しているお前の台詞らしくないな」

「怠け者している時は、真面目にやる必要もない時ってことですかねー。お兄さん側の問題は、いつもギリギリの限界をスレスレで戦っている感じなので、余裕がないのがまた楽しくてー」

「……本当に、らしくない」

前の世界の風じゃ、まず言わないような言葉だな、今のは。

……良くも悪くも、俺や華佗の影響を受けてきているんだろうか。



…………だとしたら、危ないかもな。




「冷や汗なんてかくことも中々ないだろう、風ぐらい肝が据わっていると」

「いえいえそんな、今回は肝を冷やしましたー。解雇されちゃうかと思いましたよ」

解雇=死なんだが、分かってて言ってるのか?


だが、風の目尻が分かりやすく下がり、顔から笑みも消えて。



「…………次は、負けません」



珍しく、低い声で言い放つ。

「……風、お前には期待しているって言っただろ。それに応えてくれよ、俺が死んでもね」

「お兄さんが死んじゃうと、サボれる場所がなくなっちゃうので出来る限りくたばんないでください」

「善処しよう」

俺は文を折って上着のポケットに入れると、立ち上がって、扉へと近付く。

「そろそろ夕食時だが、行くのか?」

「うん。早めに動いた方がいいだろうし。朱里も不安が募っているだろうからね」

「向こうから来るのを待った方がいいんじゃ?」

「その間に、桂花に何か仕掛けられても困る。朱里なら引っ掛からないだろうが……念には念をさ」

勝手に朱里VS桂花の構図を二人だけの間で作られても困るしな。

「諸葛亮さん、桂花ちゃんにぶつけるんですか?」

「…………どうするかは、話し合って決めるよ。結論が出たら、二人にも報告する」

「そですか。じゃあ、風はここで寝て待ってますねー」

ごろんと寝転がって…………すぐに静かな寝息が聞こえてくる。

「早いな、相変わらず。一刀も気を付けろ。荀彧にではなく、時間管理をな」

「勿論。関わり過ぎて足を重くしてたら本末転倒だものな」

俺は部屋を出る。



さて……朱里は、どこかな?





     ◆  ◆  ◆





中庭、城壁の上、城内、書庫と回ったが、どこにもおらず。

「…………ふむ」

まだ外に居るのだろうか? そろそろ日が沈むし、探してきた方がいいかもしれない。丸一日経ってから話してもいいが、それこそその隙に何があるか分かったもんじゃない状況だからな……。

俺は城門を潜って、町へと出る。

「これは北郷さま。もう日も沈みますが」

「任務でございますか? 陳留とはいえ、夜に単独行動は……」

門番に話し掛けられた。心配って感情が顔に出ている。

「ありがとう。でも、大丈夫だよ、すぐに戻ってくる。一応、月が真上に行っても戻ってこないようなら、華佗に話を付けてきてくれ。諸葛亮を探しに行ったって言えば、分かるはずだ」

「「は!」」

俺は軽く手を振って、すぐに町へと繰り出した。

工房街で見たのが最後だが……でも、さすがに居ないだろうな。この時間はもう殆ど人が仕事を終えて食事が帰宅か。どちらにせよ、人がまばらで用もないあの場所をうろつく理由もない。

「一刀?」

足を止めて、人混みがまだ多い大通りを見ていたらだ。

「霞……どうしたんだ?」

城に帰る途中だったのか、人混みの中から現れた霞に話し掛けられた。

「なんや、一刀も諸葛亮に会いに行くん?」

「諸葛亮……?」

意味が分からず鸚鵡返しをすると、霞がははは、と笑って。

「違ったか。いやな、関羽が食事をしに町に出る言うからついていったら、諸葛亮が飯屋に居てなぁ。ウチはよー分からんかったけど、関羽から見たら何かあったって思ったらしくて。ちょっと二人で話がしたいから今日は帰れってフラれてもーたわ」

「あぁ……」

その原因が俺って言ったら、怒られるかな。

「だから、ついでに一刀も励ましに行くんかと思ってたけど、ちゃうん?」

「そのつもりだよ。ただ、どの飯屋かまでは聞いてなくて困っていたんだ。場所を教えてくれないか?」

「おう、えぇよ。その代わり――」

「分かってる。関羽にはちゃんと埋め合わせをしておけって伝えておくさ」

「さっすが一刀! そういう細かい気配りが出来るの、良い男の証やで!」

「好意的に受け取っておくよ」

俺は霞から場所を聞いて、別れて。



そのまま、言われた場所まで歩いていく。



「…………ここかな」

大通りの真ん中にある、そこそこ賑わいがある店だ。炒飯が美味かった記憶がある。



その店の、一番奥の席に……座っている、二人の知り合い。



やれやれ……俺も話に加わりに行くべきかな。

……それとも、二人が何を話しているか、聞き耳を立てた方が良いだろうか。

「…………」

迷ったが、俺を抜いた二人がどういう会話をしているか気にはなる。



店の内装を見ると…………うん、出来そうだな。



俺は店の横の路地に入り、丁度窓がある場所まで来ると、そこに背を向けて寄りかかった。

「……いつまで黙っているつもりだ。そろそろ城に戻らないとまずい時間だろう」

賑わいはあるが、幸い二人の会話は開いた窓から聞き取れるレベルだった。助かったと思おう。

「はぁ……全く」

関羽の呆れ声が聞こえてくる。

「朱里がそうやって悩むのは、北郷殿が関係しているのだろう? なら、私にだって完全に無関係という訳ではないはずだ。良ければ、話してくれないか」

「…………うぅ」

くぐもった、辛そうな呻きが聞こえた。

「その…………えっと」

「あぁ」

そこまで言って、またたっぷりと間を空けた後。

「…………愛紗さん、桃香さまから、何か……連絡、来ました?」

「桃香さまから?」

最も気になっていたキーワードが、すぐに飛び出してきた。

案の定だろうか……? それとも……。

「今日の明朝、町を一人で回っていたら……な」

同意が関羽の口から。

ということは……やはり、桃香から関羽も何かしらの手紙を受け取っていたってことか?

「それが何か関係があるのか?」

「うぅ……そう、ですね。あるというか、無いというか」

観念した、という風に思いっきり溜息を吐いて。

「別に、一刀さまがどうこうって話ではないんです。ただ……一度だけ報告と、そしてもう送ってこないようにと。こんなこと危険なだけだし、嬉しいけれど……お互いの立場を悪くする。一刀さまにだって、嫌われちゃいます。そう思って、返信をしようと……」

「そこを、北郷殿にでも見られたか?」

「っ――――」

朱里が息を呑んだ様子が、手に取るように分かる。

「……お前らしくもないな。隙を見せるなんて」

「誰の気配も、音もありませんでした。間違いありません。ただ……それはわたしにとって都合の良い音を聞こうとしていただけだったのかなって」

「気がある北郷殿を疑いたくはなかった?」

「…………」

「馬鹿な話だ……」

しかし、と関羽は付け加えて。

「ならば正直に話したらどうだ? 何も言わないまま誤解を生んだ今の状況を続けているよりはマシだろう」

「弁解の機会は一度しかないです。そこを逃したら、もう次はない……だから、今必死に考えているんです。どうやったら、一刀さまにあれは魏にも一刀さまにも不利になるようなものじゃなかったって。どう言えば、それが伝わるかって」

「……問題の物は?」

「出した後で……もう国境に差し掛かっているかと」

「致命的だな……」

コトッ――と、茶碗がテーブルに置かれた音がすると、

「それに……嘘も、吐いちゃったんです」

「嘘?」

「はい……素直に、桃香さまのことだって言えば良かったのに。そうすれば、まだ……でも、口から出てきたのは平然とした態度のわたしと、一刀さまが知っていそうなその場限りの情報という嘘が連なったものばかりで」

「何故、桃香さまのことを? あの人達のことだ。桃香さまだろうが、北郷殿だろうが……そこに気を使う必要性はないだろう?」

「今思えば、無かったのかもしれません。でも……一刀さま、桃香さまの話題を口にする時、いつもと違う表情をするんです。渋いっていうか……」

「……気に障る?」

その物言いに、俺の眉がぴくっと反応したのが分かった。

あぁ……これかな? 確かに、俺は桃香を認める訳にはいかないしな……。

「気付いていたんですか?」

「私には桃香さまの仰りたいことは理解できなかった。でも……北郷殿は恐らく、分かっておいでなのだろう。だから、二人はいつも反発し合っている。そう、私には見えている」

「同じです。わたしも、そう見えていて……着いて来た理由の一つでもあるんですけどね。一刀さまの問題を解決出来るようになったら、桃香さまの話していることも、より分かるようになるんじゃないかなって……。そういうのもあって、普段から一刀さまの前では桃香さまの話題は控えるようにしているんです」

「その戒めが、咄嗟に邪魔をしたか」

「……です」

「一度決めたら、何でも確実に実行してしまう悪い癖だな、朱里の場合。それならば尚更、和解にしに行かなければならないだろう。こういう話は、時間が経てば経つほど溝が深まる」

「そ、それはそうなんですけど……先程も言った通り、どうしたらいいのか――」

「余程混乱しているようだな。さっき、私が言っていた言葉を忘れたのか?」

「愛紗さんが……?」

何やらごそごそという音が聞こえて。

「私のところにも、届いたと言っただろう。これが証明の役に立つはずだ」

「あ…………」

本気で間の抜けた声が、朱里の口から漏れて。

「印などないが、それでもあの人ならこれが桃香さまご本人が書いたものだと分かるはずだ。ただでさえ、水と油だからな」

「……嫌いだからこそ、その嫌いな部分を感じ取れるってことでしょうか?」

「そんな部分が無くても……北郷殿は、桃香さまを想っておいでだろうがな……」



だから、認められない――――なんて、口にして。



「私も一緒に頭を下げよう。失態は一度限りだろうし、この場でのこういった失態は連帯責任だ」

「そ、そんな! わたしの失敗で、愛紗さんにご迷惑を掛けるわけには――」

「朱里がやっていなかったら、私が同じ過ちを犯していた可能性もある。とはいっても、私は朱里ほど頭が回るわけじゃないから、一応相談をしてからと思っていたがな」

「うぅ……す、すみません。先走ってしまって」

「……朱里。我々は確かに危うい立場だが、手を取り合えるところでは取り合おう。場所が場所だし、相手が相手だ。必要ならばお互いの寝首を掻くだろうが……それ以外での遠慮は必要ないだろう?」

「……………………そう……ですね……」

「……歯切れが悪いな。何かまだ問題でもあるのか?」

「いえ……ただ、今のわたしは……」

「…………」

「…………」

「……言えない問題か。なら、聞くまい。私にだって、朱里に言えないことがあるからな」

「すみません……」

「謝るな。このことで謝っていたら、いつまでだって謝り続けることになる」


朱里の問題……ねぇ。


……華佗とのあれかな? 本来の性能を十分に発揮出来ないどころか、下手したら約束事を覚えられないって状態だとな……。


「だが、今回のこれは手を取り合えるだろう。だから、一緒に謝りに行こう、朱里。大丈夫だ、条件が揃っているなら、あの人はちゃんと許してくれるさ」

「はい……ありがとうございます、愛紗さん」

ぐすっ、と嗚咽のようなものが聞こえて。

「泣くな、朱里。お前は一人で抱え込みすぎだ。咄嗟に私を利用するという判断が出来ないぐらいにはな」

「はい……でも、もう大丈夫です。愛紗さんのおかげで状況を好転できそうなので、泣いてなんて、いられませんもんね」

「というより、朱里は結構な泣き虫だったよな。最近はご無沙汰だった気がする」

「ひ、酷いです愛紗さんっ。わ、わたしは別に泣き虫って訳じゃ……」

「気を張っている状況だからな、お互いに。だからこそ、たまにはこうして二人で会って、蜀の空気を思い出した方が良い。魏の空気は……やはり、馴染めそうにないからな」

「それは……わたしもです。一刀さまにも……ここの空気は、合わないと思うんですけどね」

「どのような大事を内包してでも、あの人には成し遂げなければならないことあるのだろう。気に食わないが」

「ご自身の身体の安否を無視してでも、ですもんね。早めになんとかしないと……」



…………話は、これぐらいか。



朱里のあの話……風との会話通りになったな。



関羽巻き込んでということを考えると……恐らく、本当のことだろう。



なら、後は桂花の部分の確証をどう得るかだが……。



このまま朱里にこの手紙を見せても良いものだろうか? 関羽もその場に居て、ということにもなるが。


…………難しい問題だ。桂花の思想や理想がどこに向かっているのかは分からないが、それでも朱里と明確に敵対したい、という意思の表れだと思うし。

でも、敵対させなかった場合はそれはそれで桂花に都合良く事が運ぶ要素が増えるということにもなる。

どっちに転んでも……だよな。それが狙いだったのかどうかはさて置き。

「うん、今から行きましょう、愛紗さん! 出来れば、一刀さまを夕食に誘って、人が少ないところで話をしたいですね」

「夕食か……そういえば、最近北郷殿が食事を取っているところを見てないな」

「そうなんですか?」

「あぁ。華佗が居るし、最低限の摂取はしているだろうが……」

「ふぅん……なんか、それも変な話ですね」

……きな臭い話になってきた。

朱里は朱里で、俺は俺で身体に欠陥を抱えている。お互いに、バレないようにするのが大変だ。

壁から背を離して、俺は大通りには出ないようにして、店から離れて別の通りに出た。これで、二人と出くわすことはないだろう。

「ふぅ……」

関羽にバレるかもと思ったが、朱里の様子を思った以上に気にしていたのか、悟られずに済んだ。

盗み聞きしたこと事態は悪いことだと思うが……風達と話した予測があるにしても、やっぱり心のどこかに不信感を持ってはいた。

そうやって考えるなら、正面からの話し合いだと、俺はすぐに納得が出来なかっただろう。冷静なまま二人の話を聞けて良かったと思う。



ただ……な。



全部を全部、信用しても良いだろうか?



それこそ、関羽を巻き込んだ上での策を朱里が実行しているという可能性も…………疑心暗鬼になりすぎか?



……頭の隅には置いておかないとならない。少なくとも、俺に見せる顔は味方に近いだろうが……背中を向けた後の顔なんて、見える訳がないんだ。





……今は少し間を置いて城に戻って、何気なく二人から話を聞こう。知らないフリは得意だ。


その時の反応も、よくよく注視しないと……。

「…………ん」



しかし――――だ。


俺は何がこんなに気になっているんだろうか?



何故、こんなにも釈然としない?




風の話は最もだし、同意出来る部分しかない。


先の内容も、朱里が迂闊だったってだけだ。俺の神経を逆撫でしたくないがための態度が、逆に焚き付けに繋がったというだけ。



だけ……なんだが…………おや?



ガチャンッ!! ――――と、大きな物音。



目を向けると、飲食店の一つだ。そこから――――、



「地和?」


「っ……あんた……そうか、戻ってきてるんだものね」


店から出てきたのは、地和だった。

俺を一瞥してそう答えると、すぐに走り去ってしまう。

ただ……走り方がおかしいな。ふらついているというか……。

「ま、待って地和姉さん! あぁもう……っ!」

「人和も。どうしたんだ?」

「一刀? どうしたの、こんなところに」

「帰り道だよ。何があった?」

言うと、置くから天和も出てきた。

「むー……地和ちゃん、大丈夫かなぁ」

「天和」

「あ、一刀。どうしたの? 新しいお仕事? でもごめんね、今は……」

「いや、そうじゃないけど……」

再び、俺は人和を見て説明を求める。

「えっと……最近、地和姉さん、体調が悪くて。無理に力を使った反動だと思うんだけど」

「力の反動?」

前の世界では、そんなことはなかったが……。

人和が近付いてきて、小声で言う。

「涼州で、色々やったでしょ? あれ……結構な無理をしたのよ。最近、良くなっては来たんだけど」

「ようやく起き上がれるようになったし、ご飯食べにいこーってなったんだけど、まだ具合、悪かったみたいなの。お店で倒れちゃって……すぐに起き上がったんだけど」

「ようやく起き上がれるようにって……かなり重症じゃないか?」

初耳だ。担当を外された俺に入ってくる内容ではないのかもしれないが。

「……まぁいい。で、居た堪れなくなって走り去ったのか」

「うん……」

人和は一度店内に戻って、頭を下げている。店主も少し困惑していたが、人気者の人和達だと気付くと、すぐにかしこまったようにへこへこしだした。

「あの分なら、大丈夫かな……」

「地和ちゃん、追いかけなきゃ……多分、部屋に戻ったと思うし」

天和もようやく落ち着いたのか、すぐに走り出して行った。

「……力の反動」

涼州のアレが原因だとしたら、その元凶は俺だ。前の世界でなかったというのも頷ける話。




……一度、俺自身も見に行った方が良いだろうな。酷そうなら、華佗も呼ぼう。嫌がりそうだけど。



善かどうかは分からないが、急いだ方が良さそうだ。





     ◆  ◆  ◆





俺は昔から馴染みのある、彼女達の部屋がある建物へとやってきた。

部屋まで行くと、扉は開けられたままだった。この階は貸しきっているとはいえ、些か無用心だな。

「大丈夫か?」

「あ、一刀~。来てくれたんだ?」

「あぁ」

天和の笑顔を見て少し安心しつつ、扉を閉めて、部屋の中に入る。

「…………別に、来なくて良かったのに」

寝台に横たわるのは地和だ。具合が悪そうに、顔を隠すようにして腕を乗っけている。

「悪いんだって?」

「あんたのせいよ……」

「……すまない。弁解の余地はないよな」

俺は寝台の傍まで行き、顔を覗き込む。

顔色は……確かに、良くないな。部屋が暗いせいもあって、よりそう見える。

「いつからだ?」

「戻ってきてからかなぁ。最初は大丈夫だったんだけど、急に――」

「天和姉さん! ……言わなくて、いいから」

大きな声を出したからか、苦しそうに頭を押さえる。

「無理するな」

「うっさい、馬鹿! 全くもう……」

「…………」

取り付く島がないとは、このことだな。地和が居る場では、まともに話にならないだろう。

ここは天和に任せて……人和を探しに行くか。


と、思ったら、部屋の扉が開く。


「姉さん達」

「あ、人和ちゃん、お帰り~」

人和は包みを二つ持って、部屋に入ってきた。

「はい、これ。お店の人から貰ってきたわ。いっぱい食べて、元気になってくださいって」

「わぁ、ほんと~! やったぁ!」

喜びを見せる天和に対し、地和も苦しそうながらも笑顔を浮かべる。

「ふぅ……迷惑、掛けちゃったわね……ありがたく、頂くわ」

そういって身体を起こす。

「…………」

俺は人和に目配せした後、部屋の外へと向かう。

「一刀? どうしたの?」

「少しな」

そのまま部屋の外に出ると、人和は察して着いて来た。天和はそのまま、地和と食事に勤しんでいる。



「……それで?」



部屋の扉を閉める時、地和がこちらを睨んでいたが、今は気にしていられない。

「戻ってきてから、すぐよ。跳ね返しね」

「跳ね返し……使った分の代償か?」

人和が頷く。

「妖術って、普通ならあり得ないことをあり得るようにする事象なの。だから、何かしらの代償がある。でも大体は、少し休めばなんとかなるのよ。物を媒介にする場合もあるけど……そんな危ない術は使ってないし。私達が使う術は、せいぜいちょっと疲れるぐらいなの」

「いつもは、だろ? 涼州のアレは違った」

「……それだけ、一刀かどうかを気にしたのよ。私も、姉さん達も」

潤んだ瞳で見上げてくる。心配は嬉しいが……。

「結果として、この状態はまずい。仕事に支障は?」

「涼州の一件を元に、休ませてもらうって言ってたでしょ? だから、まだ大丈夫よ」

「だが、そろそろその引き伸ばしも限界だろう。今の担当にはなんて言ってあるんだ?」

「…………まだ、何も言ってないわ」

何も言ってない? 何故?

「どういうことだ? 言ってないって……気付かれるだろ、普通」

俺は驚いたが、それこそ人和は嘆息して、

「必要以上のことはしないわよ、今の人は。一刀のように定期的に見に来てくれる訳じゃない。華琳さまからの言伝があれば現れて、無かったら現れない。何かあるなら、私が自分から言いに言っているもの」

「……なんだそれ」

それじゃ、三人の負担も大きくなるし、何より彼女達のステージ活動自体が少しずつ滞っていくじゃないか。手間が増えているってことなんだから。

「本当に色んな意味で、私達は一刀に帰ってきて欲しいって思っていたの。仕事の援助もそうだし、精神的な補佐もそうだし。今の担当の人が十人いたって、一刀一人には到底及ばないわ。ただの木偶よ、あんなの」

僅かに怒りを吐露して言う。それだけ、言われただけの仕事しかしてないってことか。

「だから、地和姉さんが無理にあんなことをしたのも……それを止めなかったのも、何より一刀が本人かどうかを知りたかったからよ。本人だったら、無理矢理にでも戻ってきて貰おうと思っていたわ」

「物騒だな……俺のせいだろうが」

だが、それで地和が倒れていては本末転倒な気もするが。

「跳ね返しが来るのは分かっていたわ。でも、それを差し引いても今後の活動を円滑にするなら、一刀が戻ってくる可能性に賭けたの。結果的に必要がない行為だったけどね」

苦笑を返されても、俺は目を逸らすことしか出来ない。

「……これから、どうする?」

「時期的に、まだ魏が動く時ではないでしょう? 今は呉と蜀の動向を探っているのでしょうし。向こうの動きが決まってからでも遅くは無いわ」

「自発的にはだろう? 華琳からしたら、十分な休暇を与えたと思っているはずだ。その上、地和の不調はあの子には伝わっていない」

「……伝えてないのよ。担当が来れば、勝手に伝わったでしょうけどね」

「何故? 理由は話せないとは思うが、それでも今の地和に無理をさせたら、長期的に物を見ると仕事が成功しにくくなるだろ」

「齟齬が出てくるものね。でも……単純な話で、地和姉さんが医者に掛かりたくないのよ」

「医者に?」

妖術が原因だからか? そんなの、使ってなければ分からないと思うが……。

「一刀が考えていること、何となく分かるわ」

しかし、人和は少し悲しそうに首を横に振った。

「でもね。医者って、なんでも調べているもの。人を助けるために、外法を学んでいる人だって居る。そんな人が見れば……姉さんの体調不良は、妖術だって分かるの。だって怪我もしていないし、過労や生理にしては長続き。その癖、普段は怪しい舞台をやっている……邪推もしちゃうでしょ?」

「舞台は確かにそうだが……」

「普段は見ない光景だからこそって部分よ。分かっている人だってきっと居るわ。でも、それでも楽しいし、日常にある苦痛から一瞬でも解放されたいって思ってくれる人が居るから、こうして私達は需要がある」

「…………まぁ、な」

否定は出来ない。人はいつだって、多かれ少なかれ“いつも”じゃないことを望む側面がある。

俺だって……当たり前じゃないいつもが欲しいから、こうしてここにいるんだし。

「せっかくここまで来たんだもの。極力、そういった危険は省いていきたいの。それは地和姉さんの意思でもあるし、私達の総意でもあるわ」

「だが、その結果として悪化の一途を辿ったらどうする?」

「私も天和姉さんも、妖術が使える。それを使って、お互いの状態をある程度は把握できるわ。だから、それで危ないって思った時に、医者に頼むようにしているの」

「聞いたことないぞ、そんな話」

「……こんなことがなかったら、していないもの」

人和が目を伏せる。

……リスクを極限まで省く代わりに、自分達で苦労を背負い込む。

しかし、危なくなったら医者に見せるって……それこそ本末転倒じゃないかとも思うが。



…………俺に、人のことは言えないか。



「最低限の部分をお互いに補い合えているなら、良いさ。俺はもうお前らの担当じゃないし、口出しが出来る立場でもないからな……」

「その話なんだけど、まだ華琳さまから話は来ていないの?」

「ん?」

何がだろう?

「私達、一刀が戻ってきたと聞いて、すぐに嘆願書を出したの。担当を一刀に変えて欲しいって」

「…………聞いてないな」

今の俺に与えられているのは、休暇の一言だけだ。

そう言うと、人和は目に見えて落胆した様子を見せた。

「そう……どうにか、ならないのかしら?」

「華琳が何を考えているかは分からない。遠目には見ているし、お互いに挨拶ぐらいはするが……長い会話なんてのは最近してないからな」

「っ…………」

辛そうに、口を閉ざされた。

…………うーん。

「ただ、話が俺に回ってきたら、すぐに受けるよ。ただでさえ面倒な三人組だ。そこら辺の奴らじゃ扱いきれないだろ」

「本当? 一刀も……最近、忙しいんじゃないの?」

「休暇ばかりだって言っただろ? 余裕さ」

本当は朱里や桂花のこと、定軍山や秋蘭のこと。忙しいのだが、今は他に言いようがない。

「そうなんだ……じゃあ、本当に待っているわ。一刀が戻ってきてくれれば、地和姉さんを万全まで回復させるまで時間を作ってくれそうだしね」

少しいつもの調子が戻ったのか、眼鏡の位置を直して笑みを浮かべる。

「体よく扱うのかよ。変わらないな」

「お互い様でしょ、それは。持ちつ持たれつよ」

違いないか。そういう関係だしな、俺らは。

俺は一息ついて、話の流れを切ると。

「もしまずくなったら、すぐに俺に言え。華佗を連れてくる」

「よく一刀の傍にいる、男の人?」

「あぁ。あいつ以上の医者は、今のこの世にはいないよ。あいつに治せないなら、もう誰にも治せない」

「あなたがそこまで言い切るってことは、本当にすごいのね」

あぁ、すごい。すごすぎて、本来なら俺の頭なんて上がらないくらいなんだ。

「……とにかく、無茶はするな。今の担当に話が伝わってないってことなら、俺から華琳に言う訳にもいかないが……」

「それは分かっているわ。幾ら一刀が前の担当だとしても、関わりのない人に情報を漏らすようじゃ話にならない……大丈夫よ」

本当に大丈夫なんだろうか?

前の世界で無かったというのもそうだが…………こうして話しただけじゃ、情報が少ない。不安が残る。

残るが……だとしても、俺が首を突っ込んで良い話でもない。

「歯痒いが……そろそろお暇するよ。今の状況で、この場にいることを知られるのは良くないだろ」

「そうね。でも、ありがとう一刀。こうして会いに来てくれて」

笑顔を浮かべる人和に、俺も出来る限りの笑みを返して、

「次は、三人が明るく話が出来る時に来るよ」

俺は背を向けて、すぐにその場から移動した。


建物を出る時、周りを確認したが……特に気にしている人物もいなかったので、そのまま通りに出る。


やれやれ……時間が掛かったな。

だが、現状の確認が出来ただけでも良かった。地和の体調は気になるが……徐々によくなっているということだし、今は無理に掻き回さない方が良いだろうか?

華佗に見せてやりたいが……俺からといったら、絶対に嫌がるよな、地和。

それに、一応三人の中でルールがあって、それに沿って動いているみたいだし……快復には向かってるんだから、そこを壊してまで行動する必要はないか。


「……ん?」


疲れたなと思って、上を見上げたら――月が、真上に差し掛かろうとしていた。

やばいな、思っていた以上に時間を食っていたか。

すぐに戻らないと、衛兵と華佗が心配して探しに来るだろう。朱里を探しにいったといっている手前、変な騒ぎになっても困る。


俺は急いで、城へと戻った。



地和達のことも気に掛かるが……まずは、朱里の問題をクリアしてからにしよう。






続く



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