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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

あの想いと共に 第77話 前編 

あの想いと共に 

第77話 後編



     ◆  ◆  ◆





真桜に会って、紅桜の様子を見るのが俺の目的だった。

涼州から戻って来た時に、すぐに出来ると言っていてまだ報告もないから見に行ったが……正解だったな。

だがそれが終わった以上、もう町にいる理由もない。華琳はまだ城の中だし……戻って、この後に備えておかなくちゃ。

「……ん?」

そう思って、城に足を向けようとした時だ。



「…………朱里?」



あまり人通りのない、工房と工房の間。

その路地の裏に入っていく後ろ姿が、一瞬だけ見えた。あれは朱里だと思うが……。

「…………」

流琉に連れられてから、結構な時間も経っている。昼時も跨いでいるし、料理なんてとっくに終わって別行動していても良い時間だ。

なのに、一人で行動……俺を探していたというのなら、工房の中に入っていくだろうし。

そうでもないってことは…………だ。



…………少し、怪しいな。



俺は即座に後を追う。

尾行になるから、建物の影に隠れて、そっと路地の様子を見て――――!?



「……?」



俺は慌てて、顔を引っ込めた。朱里がこちらを見ていたからだ。

「…………気のせいかな」

すぐに移動を再開する朱里。

「…………ふぅ」

かなり焦った。見つからなかったのは運が良かったと言うより他ない。

だが、朱里はかなり回りを気にしている……怪しさは倍増だ。

でも、朱里とて三国の名将の一人。このままいけば、俺のつたない尾行になんて先のようにすぐに気付くだろう。

「でも、無視は出来ない……」

俺の中の警笛が、少し大きく音を鳴らしているんだ。


魏か。


俺か。


朱里の行動がどちらかに影響を及ぼすにしても、プラスには絶対にならないだろう。そして、これを続けられたらそのプラスにならない行為はマイナスになる可能性も大いに含んでいる。



だから、尻尾を掴むためにも追わなくちゃならないんだが……気配の、消し方…………か。



「……っ」

ふと、思い付きが俺の頭を巡る。



また怒られるな……と思うが、試してみる価値はあるだろう。



俺は息を吐いて――――出来るだけ“呉に居た時”の感覚を思い出しながら




「…………俺は、ここにいる」



言うやいなや――――身体が、ズクン、と。音を立てて重くなった。


苦しく、眩暈もしたが……治療のすぐ後だ。それは一瞬であったし。


何より……俺はそれを、あの時の俺を思い出すように投影する。



自分が無自覚に弱くて、希薄で――――どうしようもなく、世界にとって無力だったあの時の俺を。




「……ッ」



少しずつ、身体の感覚が抜けるような気がした。



周りを歩いていた人間が、ふと俺を見て――不思議そうに首を傾げた。


「今、北郷さまいたよな?」


「ん? いたか? すまん、考え事をしていてな……」



なんて言葉が耳に届いて。




同時に、あの子の言葉が思い出される。



『北郷さんの気配は希薄すぎるんです。注意してみていないと、すぐにどこに行ったのか分からなくなる』



『まともにあなたに着いて行けるのが、もう私しか――――』




そういえば……と思って、上着のポケットに手を入れると。



くしゃっ――と、紙を撫でる感覚。



あぁ、そうだったな。まだ読んでなかった。

というより、あれから蜀や涼州などを回って、まだこの中に収まってくれていたことに感謝すら覚える。

自分でこれ以上、武の方面での性能向上を目指すよりかは……って考えていた。定軍山は目の前だから。

でも、まだここにこれがあるってことは――――少なからず、必要になる行為なんだと思いたい。


俺は抜けた力を補うように意思を強めながら、朱里が通って言ったであろう道をなぞっていく。




あの時程じゃなくても…………今の俺は、この町で何よりも希薄で、明滅ですら見えないような存在だろう。




すると――工房と工房の間。廃棄物が多く置かれて、放置されているような場所で、朱里を見つけた。




しばらく辺りを見回して――――朱里と、目が合う。



「…………」


「…………」



が、誰もいないと思ったのか。すぐに視線は外された。



いよいよだな、とも思うね、これは。



そうして時間にして数分も経たないうちに、唐突に町人とおぼしき若い男が現れた。顔は見たことがない。



朱里は、その男に一枚の書筒を渡していた。そして、男は現れた時と同様、すぐにいなくなる。



「…………」




裏切り――――とは違うかな?


だが、後ろめたいことは確かだろう。



今は華佗がいない。風も。


しかし、この現場を見逃せば、朱里はずっと知らぬ存ぜぬを通すだろう。


それは…………いただけないよな?



「で、何やってるんだい?」




俺は朱里から歩数にして、十数歩離れた場所まで行って、身体に無理に力を通した。

「ッ!?」

驚いて朱里がすぐに振り向く。その時の朱里の瞳にはりついた俺の顔は、なんて醜悪なものだっただろうか。

こんな力を、意図的に使っているんだ。また華佗に怒られるだろうし、身体の寿命は縮む。



でも、また成功はした。



相手にぶつけるのと、自分に取り込むのと。

今回は取り込んだわけだが、意外どころじゃないぐらいにきつい。

「か、一刀、さま? どうして……?」

「俺の台詞だよ……」

頑張って声を出したが、少し消え入りそうだった。

落ち着いて深呼吸して、体勢と意識を整える。

「だ、大丈夫、ですか? 具合が悪そうですけど……」



そうだ、具合が悪い。



自分に取り込む、なんて無茶をしたばっかりに。



だが、なんだって試してみるべきだ。今はまだやり直しが華佗のおかげで聞くんだから。

反対はされても、怒られても、泣かれても。使い道がありそうなら、試しておくことに越したことはない。

「さっきまで工房に居てね。熱くて熱くて……みんな、よくあんな場所で仕事が出来ると思うよ」

「あ、そうだったんですか」

汗を流す俺に納得したように、手を合わせる。

「で?」

「ん?」

なんですか? と言わんばかりの態度。

「さっきのは誰だ? 逢瀬にしては、ちょっと雰囲気が無さ過ぎる場所だと思うけど」

「あはは……まぁ、見られていますよね」

ここで話しかけてくるんだ。そうだろう、という風に。

「雛里ちゃん……龐統ちゃんに、手紙を渡そうと思って。無事に魏に着いたこと、真名で呼び合う友達のような子が出来たこと、お料理しなきゃならないってこと。とにかく、わたしは大丈夫だよっていう内容の手紙です」

「それだけ?」

「です」

嘘だろう。馬鹿馬鹿しい。

「それだけのために、人の目を忍んでこんなところに?」

「蜀まで行ってくれる人は希少ですから。あまり人目につきたくない、とのことでして」

「俺に内容も知らせずにか」

「個人的なことですから。魏に問題が出るようなことは書いてませんし、一刀さまのことも勿論です」

「証拠はもう遠くにあるのに、それを信じろと」

「ん……見られると思ってなかったので、そう言われると辛いですね」

うやうやしく目を伏せる朱里。狸にしか見えないな、こうなると。

「…………」

だが、証拠はもうこの場にはない。あの身のこなしからいって、恐らくは蜀の斥候の一人……住民に紛れて住んでいるということだろう。

どこにだって必ずほつれはある。そこをちゃんと見抜かれ、朱里に利用されていた。そう思って間違いない。

「……まぁ、いいか」

どちらにしたって、この場で打つ手立てはない。戻って風に話をして、対策を考えなければ。

「次に、こういうことがあったら確実にお前の首を刎ねる。何があってもだ。意味が分かるな?」

「…………はい。ごめんなさい、一刀さま。次からは、必ず一刀さまに預けて、一刀さまから書簡を出してもらうように――」

「そんな取り繕った口上なんて不要だよ。別に信頼していた訳じゃないが、著しく……あいつなりに言うなら、好感度は下がったって言うんだろうな。どちらにしても身の程を知れたんだろうし、ちょうど良かったんじゃないか」



――女に優しすぎるよな、お前――――。



なんて、ふと言われたことを思い出した。

元の世界の、友のために殴り合いまでしていたらしいメガネのあいつ。俺どころか、俺以上に女に優しかったあいつは、こういう時でもこいつを許すんだろうか? なんて。

前の世界の俺なら許しただろうし、騙されもしたんだろう。

でも、今の俺には余裕がない。だから、許しもしないし騙されてやりもしない。相手の言葉を鵜呑みにだって出来ない。


俺はさっさと背を向けて、城へと歩き出す。



「あ、あの、一刀さまっ」



「もう話すことはない」



こういう関係だと分かってはいたが、早かったな。

後ろめたいことを先にしたのは、向こうだ。ならば、それ相応の対応をするのが必然というもの。



しかし、朱里が一人でこの場に…………か。



これは紛れも無く、風が煙に巻かれたってことだろうし……どうしたもんかな。





     ◆  ◆  ◆





体調の悪化もあり、結構な時間を掛けて城まで戻ってきた。

その間も、思考は止まらない。考えることが多すぎて反吐が出るが、思考の巡りを止めた瞬間に、俺は喉笛を誰かに噛み千切られる。

対策を、対策を……そう思って門を潜り、城内に入った時だ。



…………桂花?



桂花が、城門の上に歩いていくのが見えた。

「…………」

関わるべきだろうか?

時間があるといえばあるし、それが余裕に繋がっている部分もある。

その余裕がある時間で、桂花に牽制を入れてもいいが……薮蛇を突く、とも言うしな。



…………いや、やめておこう。



余裕があるのは華琳がそういう風に組み立ててくれているだけであって、実際は予断を許さない状況だ。

突いた結果、対応に追われて秋蘭がそのまま定軍山へ……なんてことになっても困る。



と、思っていたのに。



「………………」


視線を上に戻したら、桂花がこちらを見ていた。



にやぁ……と、口角を上げて。


こちらに来いと、手招きをしている。



「…………やれやれ」



朱里に続いて、桂花か。

だが、桂花の問題からは目を背けたりは出来ないだろう。

ここで下手に背を向けて後回しにして、延々と続く泥沼にでもはまったりしたら最後だ。風の力も桂花相手では最大限に振るえないだろうし……それこそ、朱里が居れば面白くなるんだろうが、朱里は朱里で暗躍に忙しいみたいだからな。



俺は城壁の階段を上っていき、丁度城門の上に居た桂花の元に歩いていく。



「なんだよ」



強めの風が、桂花の髪を撫でている。



「…………あんた、無能ね。それとも、こういうやり方って訳?」



人をとにかく見下すように笑いながら、桂花は俺に寄って来て――通り過ぎる時に、ぽんと俺に一枚の紙を渡してきた。

咄嗟なことだったので、俺はそれを抵抗なく受け取る。

「これ……なんだよ?」

「…………ふぅん? じゃ、あいつの勝手な判断か。手間を増やしてんじゃないわよ」

「何を言ってるんだ?」

「見下さないでくれる? 自分が一番だとでも思ってるわけ? あんたもあの女も、まとめてここから排除してやる。その時が今から楽しみでしょうがないわ」

俺の反応を見て何を納得したのか。桂花はそのまま城壁の上から降りていった。


完全に置いてけぼりだ。


意味も分からないまま、俺は手渡された手紙のようなものを開く。



『雛里ちゃんへ。 早急に書いたので、説明が不足している部分があると思います』



「これっ……!?」


思わず、声が出た。反射的に周りを見回すが、見回りの兵士は遠くにいたため俺の反応には気付いていないようだ。



だけど、この書類……さっきの問題の、朱里のじゃないか!?

どうして、これがこんなところにあるんだ……?



混乱する頭を必死に押さえつけながら、俺は内容に目を通していく。




『元気にやっています。無事に陳留について、一刀さまと一緒に。愛紗さんも……少し様変わりしてしまいましたが、ご主人様への忠誠は変わっていません』

『時間もないから、出来事だけを簡単に書いていくね。お料理をすることがわたしの役目……なのかな。多分、戦時中にお菓子を戦場へ持っていけるようにするためだと思う。より美味しくて、保存が利いて、量も作れるような物をね。保存食ばかりだと飽きちゃうし、食事という部分で士気の向上と安定を曹操さんは図ろうとしているみたい』

『その都合で、料理上手な親衛隊の子二人と真名で呼び合うようになったんだよね。良い子だよ、やっぱり。曹操さんが手元に置いておくだけあって優秀だし。二人でいつも組んで戦場に出てる、あの子達。連携はさすがだけど、やっぱり桃色の子は好きとか言われ慣れてないかな。ご飯もたくさん食べるし。緑色の子は何でも出来るって感じ。自信あるっていいことだよね』



ふぅん……?


なんか、書き方が少し変だな……。


それに、この後のこの文……。


『それと、わたしが書いておいた立案だけど。定軍山の方は危険だよ。わたしが書いておいたって部分が、特に危険。それだけは伝えておくね。無事と言うことを、わたし達のご主人様に伝えておいて。必ず、戻るからって』



そこで、手紙は終わっていた。



「…………」

俺はすぐに手紙を畳む。



……まず、順序だてて考えろ。



俺は朱里を見つけて、そして朱里が書いたこの手紙の輸送を阻止できなかった。

と、思っていたが、今俺の手の中に朱里が書いたであろう手紙がある。

ということは……だ。



「さっきの桂花の言葉も考えて……桂花だけは、朱里に対抗出来ているってことになるのか」



風は出し抜かれた。

稟も同じだろう。気付いていたら止めているはずだ。



だが、どちらの動きもなくて、逆に桂花だけがこれを持って俺の前に現れた。



その理由は……それしか考えられない。

風は密接に接している方で。

桂花は完全に敵対だろう。

稟はその中間と考えれば。


…………朱里が最も気にしそうなのは桂花だが、その桂花こそが気付いたという。


そう考えると、不自然にも思えるな……この手紙。


「…………んぅ」

裏ばかり考えていてもしょうがないが、最もマークされている桂花に朱里が尻尾を見せるだろうか?

だが、こんな手紙を運び出そうとしていたのは事実だ。だって、俺はその事実を目の前で見たんだから。

あの場面を見ずにこの手紙だけを渡されても、俺は一笑に付したかもしれない。朱里が早々にこんなリスクを冒すはずがないと。


だが、文に明記されている定軍山…………こればかりは、今じゃないと伝える意味の無い情報だ。


桂花は定軍山進撃の話を知っているだろう。時期もそうだし、桂花から進言していた可能性もある。

でも…………。

「…………」


…………分からないな。



だが、邪推せずに考えれば、朱里の目的を桂花が阻止したってことになるんだ。

今は……そう思っておこう。朱里と桂花が共謀する理由も考えられない。

それに、風に話を聞けば、もう少し詳しい話が聞けるかもしれないしな。何か、桂花のことで掴んでいることがあるかも……。


俺はポケットに朱里の手紙をしまって、城壁の上から降りる。



それと……この手紙、どうするか。


朱里に見せて是非を問うか、それとも……。


定軍山の話もあるし…………この時期に、色々と重ねてくれる。



「北郷?」

「っ……? 秋蘭か」

問題児の声がして、少しドキッとした。

城門の方を振り返ると、今帰ってきたのか、秋蘭が歩いてこちらにやってくる。

「どうしたんだ?」

「それはこちらの台詞だ。こんなところで何をしている?」

手には書類を抱えているけど……一人か。

「暇でね。そっちは仕事?」

俺は笑顔を取り繕って言うと、秋蘭が頭を抱えるように盛大に嘆息する。

「そうだ……姉者が関羽関羽と子供のようにはしゃいでいてな。おかげで、その皺寄せがこちらに来ているよ」

「あー……」

それは悪いことしたなと思う。関羽を連れてきたのは俺の判断だし。

「すまないね」

「構わない……と簡単には言えないがな。それでも、本番の戦でその実力差が出て軍が瓦解、なんてことになる前で助かった部分の方が強い。そういう意味では、これぐらいの皺寄せ、なんてことないさ」

明確な言葉にしていないが……。

「一歩間違えば、春蘭を失うことになりかねなかった……」

「言ってくれるな……それほどの実力差ではあるがな」

あの春蘭が太刀打ち出来ないのか。いよいよまずくないか、それは。

「そこまで強いんだ?」

「戦場では一対一で戦うことなど稀だからな。もしそういった状況になるなら、私がすぐにでも駆けつけて姉者の援護をする。そうすれば、関羽といえども好きにはさせないさ」

「そりゃ良かった。連れてきた甲斐があったよ」

「これはこれで、姉者には良い薬になるだろう。なりすぎて困るかもしれんが」

そう言って、また歩き出す。仕事に戻るってことだろうけど…………あ、そうだ。

「今は、何を任せられているんだ?」

「うん?」

足を止めて、こちらを見て。

「暇だから、手伝ってくれるのか?」

「それは良いけど……手伝えること、ありそう?」

「北郷ほど有能な奴を遊ばせておくなんて、華琳さまはお前に対してどれほど深く考えていらっしゃるのか」

「判断に困る言い方だな、それ……」

「はは。私が任せられていることは、ただの政務だよ。しばらくは陳留で書類と睨み合いさ」

「陳留で……ねぇ」



つまり……出撃の話はないってことか?



「どうかしたか?」

「いや、暇なら秋蘭を誘って遠出でもって思っていただけ。見事に野望が打ち砕かれたよ」

「姉者の分もあって忙しいと言っているのに、何を言っているんだお前は」

俺は苦笑しつつ、秋蘭の横に並ぶ。

「本当に手伝ってくれるのか? 華琳さまからは、しばらく身体を休めておけと言われているんだろう?」

「良い方向に取りすぎだよ。しばらくいなかったから、また魏の空気に馴染みなおせ……ぐらいじゃないの?」

「だといいがな……あのお方は、たまに突拍子もないことを考えるから」

「言えてる」

お互いに笑み浮かべつつ、今日の残りの時間は秋蘭の政務を手伝うことにした。

それはもうとんでもない量で、よくこれを一人で処理しようと思っていたなと感嘆の息が出た。



だが、まだ秋蘭は定軍山のことを聞かされていないようだ。


朱里、桂花もそうだが……。




華琳…………君は君で、今、何を考えているんだ……?




続く


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