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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第77話 

あの想いと共に

第77話


昼は食べていないし、食べるつもりもなかった。

なのだが、

「あ、たいちょー! たいちょーなのー!」

「隊長……どうも」

ある場所に向かっている最中、街中で沙和と凪の二人に話し掛けられた。

「よう、二人とも。仕事中か?」

別に俺自身隠すこともないので、普通に足を止めて話を始める。

「今は休憩中です。沙和と一緒に、昼食を取ろうという話になりまして」

「そうなの! 隊長もどう?」

「あぁ、俺は……」

もう取ったからいらない――と、言う前に。

「申し訳ありません、隊長。最近の部隊構成について、お話がありまして……お時間があるなら、相談に乗っていただけないでしょうか?」

無表情……ではなく、本当に悩んでいるみたいだ。慣れていないと分かりにくいが、困った顔をしている。

「あぁ、裏路地のお話?」

「そうだ。人員を割きたいが、どう割いたものかと思って……」

裏路地……ねぇ。たまに変な奴がたむろしているが、それは今も変わってないのか。

「構わないけど、俺で何か助言出来るかな? 現状、大したことは知らないぞ」

「本当ですか!? あ……えと、い、意見だけでも伺えればと思って」

俺が了承すると、思わず大きな声が出た凪がすぐに顔を真っ赤にして、言いなおす。

沙和はそれを見ながらにやにやしつつ、

「ふふーん、そっかー、凪ちゃんそっかそっか」

「な、なんだ沙和! 何がおかしい!?」

「べっつにー? そうだ、ねぇねぇ隊長! せっかくだし今日のお昼ご飯、隊長の奢りがいいなー♪」

「始まったな……」

何かにつけて、すぐに集ろうとするんだから。

「……ま、いいよ。金も時間もあるしな。どこにする?」

「わーい! やったなのー!」

「よ、よろしいのですか? 自分達の分は、ちゃんと自分で……」

「大丈夫。ほら、道の真ん中に居ても邪魔になるし、さっさと移動しよう」

好奇の視線が、既にちらほらとたまってきている。その大体の対象は俺で、いまだに帰ってきたことを喜ぶ声や、逆に生きていたのかと不思議がる声も多い。

「もー! 凪ちゃん、どうしてそういう風に自分の気持ちに正反対のことを言うの!?」

「べ、別に私はそんな……だ、大体沙和! お前も毎回隊長に食事を奢ってもらうんじゃない! 恥ずかしくないのか――」

なんて二人の言い合いを目にしながら、俺は二人の後ろについていった。





     ◆  ◆  ◆





「なるほど、参考になります」

食事を一通り終えて――俺は何も食べなかったが――凪が納得したように頷く。

「これだけ領地が広がった上で、流民の数が未だに陳留まで流れてくるってのは驚きだが……その分、彼らは安全と安心が欲しいんだ。本拠地のここならば大丈夫だろうってね。かといってそれらを全て鵜呑みにすると、どこに斥候がいるか分からない……が、今のまま手付かずの状態もまたまずいから」

「季衣ちゃんと流琉ちゃんに手伝ってもらうんだね!」

お腹いっぱい、って顔をして満足そうな沙和。俺は苦笑しつつ、

「親衛隊は強いが、その分訓練に明け暮れてて町を良く見て回ってないことも多い。たまには市政も兼ねて歩かせた方がいいよ。春蘭も納得してくれるさ」

「分かりました。裏路地は迷路のように入り組んでますし……親衛隊の手があれば、とても助かります」

「怪しいからって、全部しょっぴいたらダメだぞ。何をやりたいのか、どこから来たのか、何をしにきたのか、それぞれ聞いて……。農作業したいなら回せばいいし、兵役をしたいなら親衛隊に一度揉んでもらうぐらいでもいい。付いてこれそうならそのまま取り上げてやればいいしな」

「ただ来ただけって人はー?」

「徹底的に身分を洗って素性を……という話だが、俺らじゃ難しいよな、そういう部分。桂花か稟に頼むしかない。風は今俺のことで手一杯だから余裕がないし」

「桂花さまも……余裕があるようには思えません」

「そうなんだ?」

そこら辺、俺は知らない。知ろうとも思ってないし、知ろうとして動けば桂花自身がそれを徹底的に隠すだろう。気にならないといえば嘘だが、今は定軍山関係で動かないと。

「じゃあじゃあ、稟ちゃん? 忙しそうだけど」

「忙しいのは分かるが、後回しに出来る問題じゃない。似たようなやつを後回しにしていた俺が言えたものじゃないが」

「あの時の隊長は、色々と心労が加わっていただけです。何も分かっていない奴らが、好き勝手に言うから……!」

途端に憤慨する凪だが、しかしあの老臣が言っていた内容も別におかしい訳じゃない。

「彼らは彼らで、俺と言う異分子が台頭し続けることに不安を覚えたんだよ。華琳は何も言わないから、誰かが言わなきゃならないってね」

「華琳さまの考えに間違いなんてないの」

「そう思うが、口を出さずにはいられないぐらい、俺と言う要素が異質に見えたんだろ。凪や沙和は俺のことをよく知ってくれているけど、彼らは普段篭りきりで政務に励んでいるから……お互いに、触れる機会を今度用意した方がいいかな」

笑顔で言うと、二人は嫌そうに首を振った。俺だって嫌さ。

「でもでも、隊長が元気そうで安心したの!」

「もう食事を取られていたみたいで……申し訳ない限りです」

「いいって。俺も二人と話したいと思っていたからさ」

そうやって心配してくれたり、それでも笑顔を向けてくれるこの子達は、俺の癒しだ。

だからこそ、過度な部分での心配はさせたくない。

「…………さて、それぐらいかな? 他に用がないなら、そろそろ行くよ。二人も休憩時間が終わるだろ?」

「はい。今日はありがとうございました、隊長」

「何かあったら、相談しにきてくれて大丈夫だ。基本、今は暇だからな」

言うと、沙和が頬をぷくーっとむくれさせて、

「隊長ばっかり休み多くてずるいの! 沙和も隊長ぐらい休みがほーしーいーのー!」

「華琳に言ってみるかい? 俺から伝えておくけど」

「うぐっ……そ、それは、遠慮しておくの……」

「……なるほど、華琳さまの名前を出せば、沙和も言うことを聞くのですね」

「うっ、な、凪ちゃん、それはあんまりなの~」

「ま、仲良くな」

俺は立ち上がって、二人に手を上げてから店を出た。

余計……でもないが、道草を食ってしまったな。

しかし、この二人が二人だけで行動しているということは……やっぱり、今日は休みになったのか。


なら、今は町の工房にいると思うんだが……。





     ◆  ◆  ◆




俺は、自分では滅多に足を向けない場所――武器工房にやってきていた。

扉を開けて中に入ると、俺の顔を知っている鍛冶師がすぐに頭を下げてくる。

俺は笑みを浮かべて作業に戻るように挨拶して、中を見回した。幾つかの炉があり、今まさに武器を撃ちつける音と、工房特有の熱気が肌を焼くように刺激してくる。

ここは相変わらずだな……と思いながら、俺は腰元に手をやった。

そこには当然、何もない。



腰元が寂しい今の俺だが……その寂しさを解消するために、今頑張ってくれている奴がここに――――いた。



「真桜」

「ん?」

奥の奥。等間隔で並ぶ作業場とはずれた、外れに外れた場所。

そこで汗を流して、右手に持つ武器の切っ先を天高く上げてその出来栄えをチェックしている真桜が振り返って……すぐに嫌そうな顔をする。

「……隊長やん。どしたん?」

「今日、急遽休みになったって聞いてね。来てると思って」

「これ?」

用件はすぐに把握したらしく、今まさに手に持っていた武器――紅桜の切っ先をこちらに向けた。

「あぁ。もう一週間にもなるし。状況を聞こうかと」

「んー……」

赤黒い刃を人差し指と中指で挟み、何かを塗り込むように刀身を滑らせていく。

「切れ味と硬度なら、時間もあったし新しい素材も試したしで、上がったで。んでも……」

「でも?」

俺は真桜に手招きされて、炉の前に座る真桜の隣に立つ。更に熱気が強くなるが、真桜はもう何時間もここで頑張っているんだし、数分もこの場にいない俺が弱音を吐くわけにはいかない。

「これ、前にさ。隊長どんな風に使ったん?」

「どんなって……」

間違いなく、呂布との戦いのことを言っているんだよな……気になるのは分かるが。

「前の時もさ。さすがに今以上ではないけど、結構頑張ったんやで、ウチ。でも……隊長が一人で戦って、結果は呂布に負けて……どんな風に負けたん?」

「刀身のことを気にしているんだろ?」

「…………んー」

てっきりそのことかと思ったが……煮え切らない態度だ。

「他にも何か気になるのか?」

「いや、刀身っちゃ刀身もなんやけど……先にそっち話しよか。なんか、おかしない? これ、柄だけが戦場に落ちてたんやで。根元から折れたとかならまだ分かるけど、柄の中に入っていた刀身まで綺麗さっぱりなくなってるやん。かといって、抜け落ちたって訳やないみたいだし」

真っ赤な刀身が周りに落ちて無かったよ、と真桜は言う。

「……そうなのか」

確かにあの時、紅桜はあの薬の効果に耐え切れず、霧散した。俺が確認できたのはそこまでだ。

塗ったのは刀身だけだったから……効果も刀身だけに留まったということか。

「そうなのかって……でも、刀身だけやなくて。柄もひび割れてて。握力で握りつぶしたみたいに」

「って、そっちもか」

劣化加速で身体が強化されていたから……無我夢中で戦っていたし、そういうこともあるだろうな。

と、思案する俺の顔を目を細くして真桜が覗き込んでくる。

「なぁなぁ隊長。ウチ、未だに隊長の全力っちゅーもんが分からんのよね」

「だろうな」

俺だって分からない。



いや、分かるんだ。感覚としては……だけど。


でも、言葉にはしにくいし、実際に全力で薬の力を発現させた訳でもないから……。

「前に呂布と戦ったって時……あの状態が隊長の本気なんやろ?」

「そうなる」

否定したってどうなるものでもない。本当は違うんだが、限りなく正解に近い不正解だし。

「……なぁ、隊長」

だから、真桜がこれから聞こうとしていることもよく分かる。

「無理だ」

「んなっ!? き、聞いてくれるぐらいえぇやん!」

「見せろって言うんだろ? 無理だ」

「うぐっ……な、なんでなん? この武器をもっと強くするには、隊長の能力を正確に測らないとあかんやん」

言っていることは尤もなんだが。

「俺の本気は制限付きでな。やるとすごい疲れるし、反動もでかい。おいそれを見せられるものじゃないんだよ。俺が前の戦いの時、最後にどうなったのか。見てなかったのか?」

「ウチ、負傷したみんなを見てて、城内に居たから……」

「運がなかったな。とはいっても……」

見ていた誰かに教えてもらわなかったのか? という言葉は飲み込んだ。見聞だけで判断出来ることじゃないから、こうして直接見せろと言ってきているんだろう。

「いや、まぁ、結局使ったら、俺自身が例外なく相当な深手を負う。華佗が居るとはいえ、敵もいないのにそういうことをするのはちょっとな」

「……武器作って欲しいとか言う割には、協力的やないよね、隊長って」

ぷいっとそっぽを向かれる。半信半疑ってところなんだろう。

やめていいって言ったはずだけど……それを言うとややこしくなるか。

「真桜がまだ協力してくれているのは助かっているよ。ただ……言えないことはやっぱり多い。毎度壊していてすまないと思うけど、出来る範囲でなんとかしてみてくれ」

「…………むぅ」

そっぽを向かれたと思ったら、今度は口を尖らせてくる。表情が本当に多彩だな。

「まぁえぇわ。隊長が手伝ってくれへんのなら、もう少し時間が欲しいな」

「それは構わないよ。出来れば、二、三日で作り上げて欲しいけれど」

「完成と言えば、もうこれで完成なんよ。だけど……」

真桜が少し、目を伏せて。

「……持ち主の力量も測れないまま、壊れる可能性のある武器しか持たせられないって……辛いやん」

「また、俺はきっと壊すだろうしな」



紅桜……大きな戦いに赴いたこいつは、今のところ例外なく壊れている。俺に壊されたり、薬に壊されたり、相手に壊されたり。



でも、真桜が言いたいことはそういったことではなかったようだ。

一瞬、こっちを見上げて、睨みつけてきて。

「そういうこと言ってるんじゃ……っ、もうえぇわ」

……また少し、的外れな意見を口にしたみたいだな。

「言いたいことがあるなら、言うべきじゃないか? 武器に関してなら聞ける範囲で聞くけど」

「だから、別に隊長がどうのこうのなんて言ってないやん」

真桜は紅桜を揃えた膝の上に置いて、その刀身に赤い溶鉱炉の炎を映し出させている。

「ただ壊すのは、別にえぇんよ。どんなに強い将軍さまだって、全部の戦いで武器を一度も壊さずに戦える奴なんておらんもん」

「そうだろうな」

慈しむように、刀身を油に汚れた手で撫でる。刃にとって悪い行為だと思うんだが……完成と言いつつ、まだ何か手を加えるつもりなんだろうか。

「けど、それでも壊れるのは……壊れないように努力して作っていても、壊れるのは、作り手側にも問題があるんよ。そりゃ、乱暴に扱ったり、そもそも戦いで武器一つにかまけて集中が途切れたりしたら本末転倒とか……色々あるけどさ」

「さっきの質問がそうだろ? 使用者の力量を測りきれないから」

「せやね。相手が強くて壊れる、とか、戦場で思わぬ事故があって破壊された、とか。そういうのなら納得はいくよ、ウチだって。でも……この剣は、紅桜は……さ」

ぎゅっ――と、柄を強く握って。

「いつもいつも、隊長の能力についていけてないね。春蘭ねーさんと戦った時からずっとそうで……官渡でも、呂布と戦った時も。ギリギリのところで壊れたり、手放すことになったり……それは、戦場とか相手が強いとかじゃなくて……作り手の、ウチの能力の足りなさが、ずっとずっと、隊長に枷を作ってる」

「…………」

その点については、何も言えなかった。

劣化加速についていける武器は、恐らくこの世界には存在しないだろう。仮にあったとしても……それを満足に振るえる奴は、恐らく人間じゃない。

「ま、だから隊長の全力を見せて欲しいっていうんは、ウチの弱音なんやろうけどね」

「悪いことじゃないさ……最善を求めるのは正しいことだよ」

俺の言葉に、真桜が「ははは」と声を出して軽く笑うと、

「もうちょい、考えてみるわ。前よりも確実に良い品になってるんは、保証するで」

「期待してるよ」

真桜が笑みを消して炉に向き直ったので、会話はここで終わりだと思って俺も背中を向けたが。

「あ」

そういえば、一つ言っておきたいことがあった。

「真桜」

「んー?」

面倒だから、さっさと行けって態度がありありと出ているが。

「俺が官渡から流れに流れている時、別の武器を持って戦うことがあったんだ」

「……うん」

少し興味が沸いたのか、視線をこちらに向けてくる。

「いや、大したことじゃないんだけど。普通に一般の兵が持っているような剣を奪って戦ったんだが……その時に、真桜がどれだけ俺に合った武器を作ってくれていたのか身に染みたよ」

そう言うと、真桜は少し驚いた様子で視線だけじゃなく、顔もこちらに向けてきた。

「な、なんなん、急に?」

「重いし、持ちにくいし……よくよく考えたら、こんな武器でみんな戦ってるんだなってさ。俺の我侭をそのまま武器に反映してくれているのもそうだけど、それ以上に……戦いやすさが段違いだった。そういう意味では、今もこうして真桜が俺のために武器を作ってくれていることに感謝してる」

「…………ふん」

特別なコメントもなく、でもバツが悪そうに炉に向き直ってしまった。



…………うむ?



「…………いや、いいか。それだけ。じゃあな」

「はいはい、さっさと出てってーな」

追い払われるように、俺は工房の外に出る。

外に出て、新鮮で冷たい空気を浴びるように吸って、火照った身体が収まってくる。



にしても、最後の真桜の顔…………いや、炉が近いから、赤く見えたんだろう。





     ◆  ◆  ◆





真桜に会って、紅桜の様子を見るのが俺の目的だった。

涼州から戻って来た時に、すぐに出来ると言っていてまだ報告もないから見に行ったが……正解だったな。

だがそれが終わった以上、もう町にいる理由もない。華琳はまだ城の中だし……戻って、この後に備えておかなくちゃ。

「……ん?」

そう思って、城に足を向けようとした時だ。



「…………朱里?」



あまり人通りのない、工房と工房の間。

その路地の裏に入っていく後ろ姿が、一瞬だけ見えた。あれは朱里だと思うが……。

「…………」

流琉に連れられてから、結構な時間も経っている。昼時も跨いでいるし、料理なんてとっくに終わって別行動していても良い時間だ。

なのに、一人で行動……俺を探していたというのなら、工房の中に入っていくだろうし。

そうでもないってことは…………だ。



…………少し、怪しいな。



俺は即座に後を追う。

尾行になるから、建物の影に隠れて、そっと路地の様子を見て――――!?



「……?」



俺は慌てて、顔を引っ込めた。朱里がこちらを見ていたからだ。

「…………気のせいかな」

すぐに移動を再開する朱里。

「…………ふぅ」

かなり焦った。見つからなかったのは運が良かったと言うより他ない。

だが、朱里はかなり回りを気にしている……怪しさは倍増だ。

でも、朱里とて三国の名将の一人。このままいけば、俺のつたない尾行になんて先のようにすぐに気付くだろう。

「でも、無視は出来ない……」

俺の中の警笛が、少し大きく音を鳴らしているんだ。


魏か。


俺か。


朱里の行動がどちらかに影響を及ぼすにしても、プラスには絶対にならないだろう。そして、これを続けられたらそのプラスにならない行為はマイナスになる可能性も大いに含んでいる。



だから、尻尾を掴むためにも追わなくちゃならないんだが……気配の、消し方…………か。



「……っ」

ふと、思い付きが俺の頭を巡る。



また怒られるな……と思うが、試してみる価値はあるだろう。



俺は息を吐いて――――出来るだけ“呉に居た時”の感覚を思い出しながら




「…………俺は、ここにいる」



言うやいなや――――身体が、ズクン、と。音を立てて重くなった。


苦しく、眩暈もしたが……治療のすぐ後だ。それは一瞬であったし。


何より……俺はそれを、あの時の俺を思い出すように投影する。



自分が無自覚に弱くて、希薄で――――どうしようもなく、世界にとって無力だったあの時の俺を。




「……ッ」



少しずつ、身体の感覚が抜けるような気がした。



周りを歩いていた人間が、ふと俺を見て――不思議そうに首を傾げた。


「今、北郷さまいたよな?」


「ん? いたか? すまん、考え事をしていてな……」



なんて言葉が耳に届いて。




同時に、あの子の言葉が思い出される。



『北郷さんの気配は希薄すぎるんです。注意してみていないと、すぐにどこに行ったのか分からなくなる』



『まともにあなたに着いて行けるのが、もう私しか――――』




そういえば……と思って、上着のポケットに手を入れると。



くしゃっ――と、紙を撫でる感覚。



あぁ、そうだったな。まだ読んでなかった。

というより、あれから蜀や涼州などを回って、まだこの中に収まってくれていたことに感謝すら覚える。

自分でこれ以上、武の方面での性能向上を目指すよりかは……って考えていた。定軍山は目の前だから。

でも、まだここにこれがあるってことは――――少なからず、必要になる行為なんだと思いたい。


俺は抜けた力を補うように意思を強めながら、朱里が通って言ったであろう道をなぞっていく。




あの時程じゃなくても…………今の俺は、この町で何よりも希薄で、明滅ですら見えないような存在だろう。




すると――工房と工房の間。廃棄物が多く置かれて、放置されているような場所で、朱里を見つけた。




しばらく辺りを見回して――――朱里と、目が合う。



「…………」


「…………」



が、誰もいないと思ったのか。すぐに視線は外された。



いよいよだな、とも思うね、これは。



そうして時間にして数分も経たないうちに、唐突に町人とおぼしき若い男が現れた。顔は見たことがない。



朱里は、その男に一枚の書筒を渡していた。そして、男は現れた時と同様、すぐにいなくなる。



「…………」




裏切り――――とは違うかな?


だが、後ろめたいことは確かだろう。



今は華佗がいない。風も。


しかし、この現場を見逃せば、朱里はずっと知らぬ存ぜぬを通すだろう。


それは…………いただけないよな?



「で、何やってるんだい?」




俺は朱里から歩数にして、十数歩離れた場所まで行って、身体に無理に力を通した。

「ッ!?」

驚いて朱里がすぐに振り向く。その時の朱里の瞳にはりついた俺の顔は、なんて醜悪なものだっただろうか。

こんな力を、意図的に使っているんだ。また華佗に怒られるだろうし、身体の寿命は縮む。



でも、また成功はした。



相手にぶつけるのと、自分に取り込むのと。

今回は取り込んだわけだが、意外どころじゃないぐらいにきつい。

「か、一刀、さま? どうして……?」

「俺の台詞だよ……」

頑張って声を出したが、少し消え入りそうだった。

落ち着いて深呼吸して、体勢と意識を整える。

「だ、大丈夫、ですか? 具合が悪そうですけど……」



そうだ、具合が悪い。



自分に取り込む、なんて無茶をしたばっかりに。



だが、なんだって試してみるべきだ。今はまだやり直しが華佗のおかげで聞くんだから。

反対はされても、怒られても、泣かれても。使い道がありそうなら、試しておくことに越したことはない。

「さっきまで工房に居てね。熱くて熱くて……みんな、よくあんな場所で仕事が出来ると思うよ」

「あ、そうだったんですか」

汗を流す俺に納得したように、手を合わせる。

「で?」

「ん?」

なんですか? と言わんばかりの態度。

「さっきのは誰だ? 逢瀬にしては、ちょっと雰囲気が無さ過ぎる場所だと思うけど」

「あはは……まぁ、見られていますよね」

ここで話しかけてくるんだ。そうだろう、という風に。

「雛里ちゃん……龐統ちゃんに、手紙を渡そうと思って。無事に魏に着いたこと、真名で呼び合う友達のような子が出来たこと、お料理しなきゃならないってこと。とにかく、わたしは大丈夫だよっていう内容の手紙です」

「それだけ?」

「です」

嘘だろう。馬鹿馬鹿しい。

「それだけのために、人の目を忍んでこんなところに?」

「蜀まで行ってくれる人は希少ですから。あまり人目につきたくない、とのことでして」

「俺に内容も知らせずにか」

「個人的なことですから。魏に問題が出るようなことは書いてませんし、一刀さまのことも勿論です」

「証拠はもう遠くにあるのに、それを信じろと」

「ん……見られると思ってなかったので、そう言われると辛いですね」

うやうやしく目を伏せる朱里。狸にしか見えないな、こうなると。

「…………」

だが、証拠はもうこの場にはない。あの身のこなしからいって、恐らくは蜀の斥候の一人……住民に紛れて住んでいるということだろう。

どこにだって必ずほつれはある。そこをちゃんと見抜かれ、朱里に利用されていた。そう思って間違いない。

「……まぁ、いいか」

どちらにしたって、この場で打つ手立てはない。戻って風に話をして、対策を考えなければ。

「次に、こういうことがあったら確実にお前の首を刎ねる。何があってもだ。意味が分かるな?」

「…………はい。ごめんなさい、一刀さま。次からは、必ず一刀さまに預けて、一刀さまから書簡を出してもらうように――」

「そんな取り繕った口上なんて不要だよ。別に信頼していた訳じゃないが、著しく……あいつなりに言うなら、好感度は下がったって言うんだろうな。どちらにしても身の程を知れたんだろうし、ちょうど良かったんじゃないか」



――女に優しすぎるよな、お前――――。



なんて、ふと言われたことを思い出した。

元の世界の、友のために殴り合いまでしていたらしいメガネのあいつ。俺どころか、俺以上に女に優しかったあいつは、こういう時でもこいつを許すんだろうか? なんて。

前の世界の俺なら許しただろうし、騙されもしたんだろう。

でも、今の俺には余裕がない。だから、許しもしないし騙されてやりもしない。相手の言葉を鵜呑みにだって出来ない。


俺はさっさと背を向けて、城へと歩き出す。



「あ、あの、一刀さまっ」



「もう話すことはない」



こういう関係だと分かってはいたが、早かったな。

後ろめたいことを先にしたのは、向こうだ。ならば、それ相応の対応をするのが必然というもの。



しかし、朱里が一人でこの場に…………か。



これは紛れも無く、風が煙に巻かれたってことだろうし……どうしたもんかな。





     ◆  ◆  ◆





体調の悪化もあり、結構な時間を掛けて城まで戻ってきた。

その間も、思考は止まらない。考えることが多すぎて反吐が出るが、思考の巡りを止めた瞬間に、俺は喉笛を誰かに噛み千切られる。

対策を、対策を……そう思って門を潜り、城内に入った時だ。



…………桂花?



桂花が、城門の上に歩いていくのが見えた。

「…………」

関わるべきだろうか?

時間があるといえばあるし、それが余裕に繋がっている部分もある。

その余裕がある時間で、桂花に牽制を入れてもいいが……薮蛇を突く、とも言うしな。



…………いや、やめておこう。



余裕があるのは華琳がそういう風に組み立ててくれているだけであって、実際は予断を許さない状況だ。

突いた結果、対応に追われて秋蘭がそのまま定軍山へ……なんてことになっても困る。



と、思っていたのに。



「………………」


視線を上に戻したら、桂花がこちらを見ていた。



にやぁ……と、口角を上げて。


こちらに来いと、手招きをしている。



「…………やれやれ」



朱里に続いて、桂花か。

だが、桂花の問題からは目を背けたりは出来ないだろう。

ここで下手に背を向けて後回しにして、延々と続く泥沼にでもはまったりしたら最後だ。風の力も桂花相手では最大限に振るえないだろうし……それこそ、朱里が居れば面白くなるんだろうが、朱里は朱里で暗躍に忙しいみたいだからな。



俺は城壁の階段を上っていき、丁度城門の上に居た桂花の元に歩いていく。



「なんだよ」



強めの風が、桂花の髪を撫でている。



「…………あんた、無能ね。それとも、こういうやり方って訳?」



人をとにかく見下すように笑いながら、桂花は俺に寄って来て――通り過ぎる時に、ぽんと俺に一枚の紙を渡してきた。

咄嗟なことだったので、俺はそれを抵抗なく受け取る。

「これ……なんだよ?」

「…………ふぅん? じゃ、あいつの勝手な判断か。手間を増やしてんじゃないわよ」

「何を言ってるんだ?」

「見下さないでくれる? 自分が一番だとでも思ってるわけ? あんたもあの女も、まとめてここから排除してやる。その時が今から楽しみでしょうがないわ」

俺の反応を見て何を納得したのか。桂花はそのまま城壁の上から降りていった。


完全に置いてけぼりだ。


意味も分からないまま、俺は手渡された手紙のようなものを開く。



『雛里ちゃんへ。 早急に書いたので、説明が不足している部分があると思います』



「これっ……!?」


思わず、声が出た。反射的に周りを見回すが、見回りの兵士は遠くにいたため俺の反応には気付いていないようだ。



だけど、この書類……さっきの問題の、朱里のじゃないか!?

どうして、これがこんなところにあるんだ……?



混乱する頭を必死に押さえつけながら、俺は内容に目を通していく。




『元気にやっています。無事に陳留について、一刀さまと一緒に。愛紗さんも……少し様変わりしてしまいましたが、ご主人様への忠誠は変わっていません』

『時間もないから、出来事だけを簡単に書いていくね。お料理をすることがわたしの役目……なのかな。多分、戦時中にお菓子を戦場へ持っていけるようにするためだと思う。より美味しくて、保存が利いて、量も作れるような物をね。保存食ばかりだと飽きちゃうし、食事という部分で士気の向上と安定を曹操さんは図ろうとしているみたい』

『その都合で、料理上手な親衛隊の子二人と真名で呼び合うようになったんだよね。良い子だよ、やっぱり。曹操さんが手元に置いておくだけあって優秀だし。二人でいつも組んで戦場に出てる、あの子達。連携はさすがだけど、やっぱり桃色の子は好きとか言われ慣れてないかな。ご飯もたくさん食べるし。緑色の子は何でも出来るって感じ。自信あるっていいことだよね』



ふぅん……?


なんか、書き方が少し変だな……。


それに、この後のこの文……。


『それと、わたしが書いておいた立案だけど。定軍山の方は危険だよ。わたしが書いておいたって部分が、特に危険。それだけは伝えておくね。無事と言うことを、わたし達のご主人様に伝えておいて。必ず、戻るからって』



そこで、手紙は終わっていた。



「…………」

俺はすぐに手紙を畳む。



……まず、順序だてて考えろ。



俺は朱里を見つけて、そして朱里が書いたこの手紙の輸送を阻止できなかった。

と、思っていたが、今俺の手の中に朱里が書いたであろう手紙がある。

ということは……だ。



「さっきの桂花の言葉も考えて……桂花だけは、朱里に対抗出来ているってことになるのか」



風は出し抜かれた。

稟も同じだろう。気付いていたら止めているはずだ。



だが、どちらの動きもなくて、逆に桂花だけがこれを持って俺の前に現れた。



その理由は……それしか考えられない。

風は密接に接している方で。

桂花は完全に敵対だろう。

稟はその中間と考えれば。


…………朱里が最も気にしそうなのは桂花だが、その桂花こそが気付いたという。


そう考えると、不自然にも思えるな……この手紙。


「…………んぅ」

裏ばかり考えていてもしょうがないが、最もマークされている桂花に朱里が尻尾を見せるだろうか?

だが、こんな手紙を運び出そうとしていたのは事実だ。だって、俺はその事実を目の前で見たんだから。

あの場面を見ずにこの手紙だけを渡されても、俺は一笑に付したかもしれない。朱里が早々にこんなリスクを冒すはずがないと。


だが、文に明記されている定軍山…………こればかりは、今じゃないと伝える意味の無い情報だ。


桂花は定軍山進撃の話を知っているだろう。時期もそうだし、桂花から進言していた可能性もある。

でも…………。

「…………」


…………分からないな。



だが、邪推せずに考えれば、朱里の目的を桂花が阻止したってことになるんだ。

今は……そう思っておこう。朱里と桂花が共謀する理由も考えられない。

それに、風に話を聞けば、もう少し詳しい話が聞けるかもしれないしな。何か、桂花のことで掴んでいることがあるかも……。


俺はポケットに朱里の手紙をしまって、城壁の上から降りる。



それと……この手紙、どうするか。


朱里に見せて是非を問うか、それとも……。


定軍山の話もあるし…………この時期に、色々と重ねてくれる。



「北郷?」

「っ……? 秋蘭か」

問題児の声がして、少しドキッとした。

城門の方を振り返ると、今帰ってきたのか、秋蘭が歩いてこちらにやってくる。

「どうしたんだ?」

「それはこちらの台詞だ。こんなところで何をしている?」

手には書類を抱えているけど……一人か。

「暇でね。そっちは仕事?」

俺は笑顔を取り繕って言うと、秋蘭が頭を抱えるように盛大に嘆息する。

「そうだ……姉者が関羽関羽と子供のようにはしゃいでいてな。おかげで、その皺寄せがこちらに来ているよ」

「あー……」

それは悪いことしたなと思う。関羽を連れてきたのは俺の判断だし。

「すまないね」

「構わない……と簡単には言えないがな。それでも、本番の戦でその実力差が出て軍が瓦解、なんてことになる前で助かった部分の方が強い。そういう意味では、これぐらいの皺寄せ、なんてことないさ」

明確な言葉にしていないが……。

「一歩間違えば、春蘭を失うことになりかねなかった……」

「言ってくれるな……それほどの実力差ではあるがな」

あの春蘭が太刀打ち出来ないのか。いよいよまずくないか、それは。

「そこまで強いんだ?」

「戦場では一対一で戦うことなど稀だからな。もしそういった状況になるなら、私がすぐにでも駆けつけて姉者の援護をする。そうすれば、関羽といえども好きにはさせないさ」

「そりゃ良かった。連れてきた甲斐があったよ」

「これはこれで、姉者には良い薬になるだろう。なりすぎて困るかもしれんが」

そう言って、また歩き出す。仕事に戻るってことだろうけど…………あ、そうだ。

「今は、何を任せられているんだ?」

「うん?」

足を止めて、こちらを見て。

「暇だから、手伝ってくれるのか?」

「それは良いけど……手伝えること、ありそう?」

「北郷ほど有能な奴を遊ばせておくなんて、華琳さまはお前に対してどれほど深く考えていらっしゃるのか」

「判断に困る言い方だな、それ……」

「はは。私が任せられていることは、ただの政務だよ。しばらくは陳留で書類と睨み合いさ」

「陳留で……ねぇ」



つまり……出撃の話はないってことか?



「どうかしたか?」

「いや、暇なら秋蘭を誘って遠出でもって思っていただけ。見事に野望が打ち砕かれたよ」

「姉者の分もあって忙しいと言っているのに、何を言っているんだお前は」

俺は苦笑しつつ、秋蘭の横に並ぶ。

「本当に手伝ってくれるのか? 華琳さまからは、しばらく身体を休めておけと言われているんだろう?」

「良い方向に取りすぎだよ。しばらくいなかったから、また魏の空気に馴染みなおせ……ぐらいじゃないの?」

「だといいがな……あのお方は、たまに突拍子もないことを考えるから」

「言えてる」

お互いに笑み浮かべつつ、今日の残りの時間は秋蘭の政務を手伝うことにした。

それはもうとんでもない量で、よくこれを一人で処理しようと思っていたなと感嘆の息が出た。



だが、まだ秋蘭は定軍山のことを聞かされていないようだ。


朱里、桂花もそうだが……。




華琳…………君は君で、今、何を考えているんだ……?




続く


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