FC2ブログ
08«1.2.3.4.5.6.7.8.9.10.11.12.13.14.15.16.17.18.19.20.21.22.23.24.25.26.27.28.29.30.»10

適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

category: スポンサー広告

cm --   tb --   page top

あの想いと共に 第76話 

あの想いと共に 

第76話


今日は随分と晴れやかだなぁ。

なんて、中庭で青空を見上げながら思う。



魏に戻ってきて、一週間程。



官渡からこっち、色々ありすぎてまともに息つく暇もなかったが、こうして戻ってきて見ると、俺は随分と安穏とした生活を享受していたんだな、とも思った訳で。

「それだけ、面倒事の処理が多かった訳だが……」

「? どうかしました? 一刀さま」

そう、面倒事が多かった訳だが、別段今それらがなくなったという訳でもなくて。

「いや、暇と言えば暇だなって思ってただけだよ」

俺は中庭……それも、木の木陰足を伸ばして座っている。常に日陰に隠れられるので、そよ風が心地良いぐらいだ。

「暇って……いいですね、一刀さまは。自由な時間がたっぷりおありのようで」

そんな皮肉を言うのは、伸ばした俺の足を枕にして本を読んでいる朱里だ。

昼前からやることもなくて、ただのんびりと城内の人の流れを見ていたら、朱里がやってきて行儀の悪い居つき方をされてしまった。

これだけ白昼堂々とされると、逆に咎めにくい。今のうちに、俺との仲が良いっていうアピールをしておきたいんだろうけど……。

「そういう朱里は忙しそうだ。華琳から色んな物事の感想を聞かれているんだろ?」

「市政、軍の形態、武将同士の間柄、他方への権力姿勢、細かいこと言い出したらもっとありますけど」

「随分と深いところまで聞かれてるんだな」

「大した内容ではないですよ、今のところ。外から見てみても分かる範囲のことばかり聞かれてますし」

本からを目を離さずに言う。丁度、本が間に入る形になっているので朱里の表情が見えない。

「どうだった?」

「どう……と言われましても。良いと思います。具体的には言いたくないんですけど」

「こっちが有利になる?」

「ぼかして伝えてはいますから。曹操さんも、当たり障りのない回答だなって思ってるはずです」

「それを俺に言うんだから」

「一刀さま……大きい声では言えませんけど。執着があるのは、曹操さんだけなんでしょう?」

あぁ、朱里はそれ関連の話を詳しく話してないから知らないか。

「そのことに関しては、多分魏の殆どの連中が知ってるよ」

「えっ?」

本が下げられて、驚いている朱里と顔合わせ。

「ちょっとしたことがあってね」


俺は大軍議であったことをかいつまんで説明する。


興味深そうに、驚きつつも、少し笑顔になったりして。



「そんなことがあったんですか……」

「その直後に官渡だよ」

「ふーん……」

ぽんっと口元だけを隠すように本を置いて、何やら考え事をしている。

「体調もありますけど……一刀さまが色んなミスをして、それだけ言っても、周りの人は一刀さまを認めたままなんですね」

「当時は表に出していたけど、今は出してないってだけだと思うよ。半信半疑じゃないかな、俺の存在は。君らを連れてきたりもしちゃったしね」

「そうですけど……この前の軍議だって、普通に終わったんですよね?」

「まぁね」

この前の軍議かぁ。普通といえば普通だったけど。





     ◆  ◆  ◆




その日の軍議は、久しぶりに劉備領から戻ってきた間諜の報告から始まっていた。

「……そう。劉備は、益州の周りを次々と取り込んでいるのね」

「はい。荊州も大半は我々が抑えていますし、益州の一部も先日の反撃で手に入れましたが……それが諸侯の反感を買ったようです。黄忠や、厳顔、魏延といった主要な将は、劉備に降ったと」

涼州に出ている間に、華琳は更に多方面にも軍を進めていたらしい。本隊はあくまで涼州、分隊が他を守り、やれそうなら落として手に入れる……よくやるもんだ。

「黄忠に厳顔か」

「知っているの? 一刀」

口に出すと、華琳がすぐにそれを拾って聞き返してくる。

「俺が劉備のところから出てくる時には、もう厳顔や黄忠はいたよ。魏延は見なかったけど」

「そうなの?」

「報告にズレがあると思うべきか……もしくは、ある程度操作されて遅らされたか」

「どちらにしても、優秀な将を手に入れる機会がなくなったという点は面白くないわね。是非とも手に入れて、私の手で楽しみたかったのに」

「やれやれ……」

不敵に笑う華琳はいつも通りだ。

しかし、黄忠の話がここで出るってことは……そろそろ定軍山だ。

やれることはやってきたつもりだ。官渡からしばらく、華琳の評価を上げる機会がなくなったのが痛いが。

今からでもやれることをやりたいけれど、まずは渡される仕事をこなさなければならない。今日はそれを言われるはずだしな。

「……何度も? それほど南蛮の将の層が厚いというの?」

「いえ。正確に言えば、南蛮王と名乗る首領格の人物がいるのですが……それを捕まえるたびに、劉備の命で逃がしているのだとか……」

「……はぁ? なんだそれは」

桃香の話が続いていく。

南蛮かぁ……俺には関わりの薄い部分だな。前の世界でも、数はいたがこれだっていう脅威があった訳でもない。

「ふふっ……一刀、あなたはどう思う?」

「華琳さま! どうしてこんな奴に……!」

案の定振られる。難しい話じゃない。

「力で屈服させたくないんだろ。心から味方になって欲しい……ってとこじゃない?」

「……全くの理想論ですね。南蛮のような相手に通じるとは思えません」

稟が眉を寄せながら反発するよう言う。

「それを何とかしたいのでしょう。あの子は」

「だろうね」

「……ふーむ?」

首を傾げる春蘭の横で、桂花が一歩前に出る。

「しかし華琳さま。劉備が南蛮と戦っているというのなら、これはまたとない好機かと」

「これ以上劉備が勢力を大きくする前に、こちらから攻め込んでしまうのが得策だと思われます」

桂花と稟がすぐに献策を。

「……まぁ、劉備の側の話ばかり聞いて判断しても仕方ないわ。南方の孫策はどうなっているの? そちらの間諜も戻っているのでしょう?」

「現状、孫策に大きな動きはありません。袁術に奪われていた江東を自領に制圧した後、周辺にいる袁家筋の豪族達を平定すべく戦っているようです」

劉備は陣地を広くして、南蛮を見ていて。

孫策は周りの領土の平定を。

今ならどちらも背中を向けているから、狙い目に見えるが……実際はそうではなく。

「劉備も孫策も、南蛮や豪族と戦いながら、こちらの動きをずっと見つめています。ゆえに、背を向けた瞬間に牙を向いてくるのはどちらも同じ」

「ある程度は仕方ないな。残した戦力で防衛線を張れば……決着が着くまで保つのではないか?」

「それでは意味がありません。もし劉備と孫策が通謀し、攻められた方が持久戦に徹している間に残る一方がこちらに総攻撃を仕掛けて来たとすれば……今の我が国に、その戦略を打ち破る術はありません」

持久戦に巻き込まれて、そこを余った勢力に背中を抉られたらこっちの負け。

結局、別々に相手は出来ないってことだ。魏の戦力と、呉蜀を合わせた戦力は五部と五分。苦しい状況を作られるぐらいなら、相手同士が組んで向かってきた方がまだ戦いになる。

「ならば、足並みを揃えてきた劉備と孫策を同時に相手にして互角に戦えるというわけか」

「……互角では駄目よ。そんな博打に賭け金を払う気はないわ」

「その通りです。ですが、資源や職人の数、そして兵の増強の度合いに関しては……張三姉妹の活動もあって、我らの国が群を抜いています」

「っ……」

張三姉妹という言葉に、身体が反応した。

魏に戻ってきたから数日。

帰りの道中や、陳留のみんなに盛大に迎えられて、自分の戻ってくる場所を再確認した。

だが、まだ件の三姉妹には再会していない……今は陳留にいるという話は耳にしているが。

「なるほど。その成長が二面作戦を展開して十分な量に達した段階をもって、両国に一気に攻め込むか」

「既に装備類は十分な数を確保しています。後はそれを使う人材の確保と、早急な育成が終わりさえすれば……」

「結構。桂花、風。あなた達の意見は?」

……ま、流れは変わらないか。

結局は劉備と孫策。この二つを同時に相手にするために、しばらくは力を蓄え続けるだけ。

でも、この間に偵察という名目で定軍山がある。もう猶予は十日もないはずだし、気を抜くわけにはいかないな……。


「その通り。ならば今後の大方針は、劉備と孫策の二面作戦ということにするわ。いいわね」

「は!」



ここで、軍議は終わりか。

各々ぞろぞろと話し合いをしながらも部屋を出て行く。



「一刀」



「ん?」



人もまばらになり、王座の傍には俺と華琳だけになった時、華琳に話し掛けられた。ようやくか。

「随分と大人しかったわね。この場にいない二人の心配でもしていたのかしら?」

「関羽と諸葛亮なら一人で何とかしているよ。それに、わざわざこの場で暴れる利点もない」

「それなら良いわ。監督不届きは許さないわよ?」

俺は肩をすくめて、それを返事にした。

「あぁ、それと」

「仕事の話?」

先回りをするように言う。華琳もすぐに頷き、

「しばらく、何もしなくていいわ」

「…………え?」

少し、華琳の言葉の意味を図りかねた。

「何もしなくていいって?」

「えぇ。久しぶりの陳留でしょう? 私から指示があるまで、ゆっくりしていなさい」

笑顔で言うと、華琳はそのまま大広間から出て行った。

「…………んー?」

さすがにその場では、俺は首を傾げるだけだった。





     ◆  ◆  ◆





「何もしないまま、もう一週間ですよ」

「自主的に警邏とかさ。顔は出してるけど……さすがに、割り振られてもいないのにあれこれ指示を出すのもね」

おかげで暇も暇。朱里や関羽は各々やることがあるし、魏のみんなにもいい顔をしなければならないしで大変そうだけど。

俺は俺で、現状流れに身を任せている状況だ。桂花が何かしてきそうな空気は常にあるのだが……今は俺が何も手をつけてないないということもあり、万全。仕掛けるタイミングじゃない。

「あ、いたいた! 朱里さん!」

「ん?」

「流琉さん?」

木の影から現れるように出てきたのは流琉だった。

「探してました! 良かったら、今からお菓子作りしませんか?」

「え……あー」

朱里が俺を見てくる。なんで俺を見るか分からないが。

いや……というか。

「真名で呼び合ってるんだ?」

そこが気に掛かった。随分と早いもので。

俺の言葉に、流琉が笑顔を向ける。

「はい! 朱里さん、とってもお料理が上手で……この前意気投合して、一日中厨を使っていたら華琳さまに怒られちゃいました」

嬉しそうに言う。華琳も怒ったというよりは、呆れたという感じだろう。

でも、だ。

「初耳だな」

別に俺に報告する義務はないが、もうそんなことをしていたのか。

視線を下に向けると、間違いを指摘された子供のように視線を逸らした朱里。

「んと、はい、まぁ、お料理というか、お菓子作りなんですけどね」

…………言いたくないって感じだな。

「朱里が作ったお菓子はどうだったんだ?」

「とっても美味しかったですよ! 華琳さまも絶賛していて! これは負けられないって思って、私も最近は色んな料理に挑戦しているんです!」

テンションが高い。それほど、朱里と馬が合ったということか。

「あ……で、でも、ごめんなさい。もしかして、お邪魔でしたか……?」

俺と朱里の体勢を見て、何を勘違いしたのか流琉が途端に顔を赤く染める。

「いいや。俺が暇だったのを見つけて、じゃあ枕になる仕事をあげるって朱里が寄ってきたのさ」

「だそうです。気にすることないですよ」

言って、朱里が本を閉じて起き上がる。

「申し訳ありません、一刀さま。職務放棄をさせてしまいます」

頭をぺこっと下げて、流琉の方へと寄っていく。ここで断ると、流琉はともかく華琳の耳に入ったら心象が悪くなるだろう。



それに――――。


朱里のことで、少々気になっていることがある。まだ彼女自身から口にはしてこないが…………。




「そ、そうなんですか? もしお二人の時間を邪魔してしまったなら、別に私のことは構わずに後日に回しても――」

「大丈夫、大丈夫です。それじゃあ流琉さん、行きましょう。今日はまた別のお菓子を作るので……流琉さんにも手伝ってもらいたいな」

「ほんとですか!? わぁ、楽しみです!」

キャッキャとガールズトークが始まる。

二人は俺に一礼して、そのまま城の中へと歩いていった。

「何をしているのやら」

朱里が自分から話題にしてこないというものそうだが、今の反応から見るに、間違いなくそちらの話は俺に隠しておきたいらしい。

だが、俺も俺で朱里に構っている理由もない。

あれから何度か朱里と話す機会があったが、現状はただただ何も変わらず平行線だ。関羽も関羽で…………――――。



「っ…………ふぅ」



俺も一つ息を吐いて……頭を軽く振る。



“最近はほんとに多い”



多くて困るぐらいだ。

「まーたでーすかー?」


ひょこっと。


俺の目の前に顔を出したのは、風だった。

「都合が良いな」

「狙ってましたので」

ほんとかよ……?

俺は嘆息しつつ、立ち上がる。


しかし――その時、足がふらついて倒れそうになった。


「っ」

「とっ、とと。も~、お兄さん気をつけないと」

ぎゅーっと力強く俺の腕を抱くように状態を安定させてくれて。

小声で一言。

「誰が見ているか分からないんですよ」

と、したり顔で。

「じゃあ、離れろよ」

「いやでーす。風がぶら下がったりして遊ぶので、ほらほら、気張っていきましょー」

「全く……」

明滅する視界に嫌気が差しながら、俺はある場所へと向かった。





     ◆  ◆  ◆





「今日もか」

「うん」

俺の足が向いた先――――そこは、華佗の部屋だった。

「大変ですねぇ、お兄さん」

「そう見える?」

「見えない方がおかしいですよね~」

華佗の部屋――普段から俺の部屋は色んな人の出入りが多い。朱里や関羽を始め、魏の諸侯も多くやってくる。

特に華琳を救ったということ、馬騰を倒した逸話を聞きたいなど、とにかく俺が成した功績を聞いて自分の糧にしようという奴も多い。

確かに特別なことをやってきてはいるのだろうが、おかげで俺の部屋での治療行為は人の目に止まる可能性があるため、今はほぼ出来ない状況となっていた。

だから、今俺は華佗の部屋に居る。

「いくぞ」

「うん」



ぷつっ――と、こめかみに鍼が刺さる。



「うわぁ……」

ぎゅっと風が俺の手を強く握る。ドン引きしている顔だが、それでも刺されている鍼から目を逸らさない。

「いつも思うが、よく見てるよな」

「んぅー? だめですか?」

「そうじゃないけどさ。痛みはないから大丈夫だよ。異物が入ってきている感覚はさすがにあるけど」

おまけに、最近はよく俺の手を握ってくる。まるで看病しているかのように。

嫌いだ嫌いだという割には、最近はこういうスタンスが多い。仕事がない時は極力俺と一緒に居ようとするし。

「午前は出先での政務が終わったので、これからはお兄さんの仕事をこなさないとってところです」

「何も聞いてないけど?」

「聞きたいって顔してたじゃないですかー」

してたのだろうか。今俺と一緒に居るってことは、緊急の仕事はないってことなんだろうけど。

「よし、いいぞ」

「ありがと」

鍼がくにゅっ――と音を出して抜かれた。その度に、驚いた猫のようにびくっと風が身体を震わせるのは最早恒例だ。

「気持ち悪いですねー」

「そう思うなら、来なきゃいいだろ」

「除け者政治反対です、はんたーい」

やれやれ。

今、この部屋に居るのは俺達三人だけだ。というより、華佗に治療をしてもらう時は華佗と二人か、風を入れて三人か。他の面子は一切呼ばないし、居る時はしない。

「しかし、本当に頻度が多いな。三日に一回は排除が必要だ」

「あのお二人のせいなんですよね、これ」

大体は勝手に察する風が言う。

「一刀」

寝台に座る俺の前に椅子を持ってきて、足を組んで座る華佗。何か話したのか? という意味で俺を見てくる。

「どの道、朱里か風。そのどちらかを選ばなきゃならないなら、風を選ぶさ」

言葉は慎重に、だ。煙に巻くような言い方になるが。

「ほー……ほほー」

俺の隣に座って手を握ったまま梟みたいに声を出す。

「諸葛亮さんは、これをご存知なんですか?」

「知ってるね」

「じゃあ、諸葛亮さんの方が良いんじゃ?」

「深みにはまる奴を選んだってことだよ」

「うわぁー鬼畜お兄さんが出たー」

ようやく手を離して、ごろんと寝台に寝転がってごろごろしている。

「朱里は所詮おまけで、本命は程昱か」

「流れに沿った結果、あの二人がついてきたってだけでさ。理由がなきゃ殺してるよ」

「お兄さん、発言が物騒ですよー」

「誰かに聞かれても困らないよ」

元々、この場はそういう場だ。何かあるなら華佗と風が気付いているだろうし。

「だけど、お前もお前だよな」

「んぅ?」

仰向けになった風が、前髪がめくれて額を出しながら首を傾げる。

「戻ってきてからというもの、猫みたいに懐いてくるじゃないか。何が狙いだ?」

風は俺と一緒にいる時間は多かった。それは間違いない。

だが、こういう風に手を握ってきたり腕を組んだり。今までにはない傾向だ。

見下ろすと、それこそ猫のようにじーっと俺を見てくる。

「何が、と言われましても。風はお兄さんの副官ですし」

「それ、まだ続いているのか? 現状実務は何もしていないし、俺がやっていた仕事は全部風が引き継いだんだろ?」

「ですねぇ」

ごろん、と寝返りを打ってうつ伏せになって。

「お兄さんが戻ってきてすぐ、風は華琳さまに言いに行きましたよ。仕事はぜーんぶお兄さんに回してくださーいって。そしたら、しばらくお兄さんには仕事を与えないから現状維持だっていう鬼のようなお言葉を頂きまして」

「良かったじゃないか」

「喧嘩を売られたのは分かりますが買いません。まー、お兄さんがこなしていた実務の量なんてたかが知れてるのでよゆーに済ませているんですが」

喧嘩を売られたが、俺も買わないことにしよう。

「それで?」

「……ま、風的にはお兄さんの容態が特殊なんだっていうのを知れてちょっと前進したのかなって」

「…………前進?」

風が「くぁ……っ」と欠伸をする。それだけリラックスしているのか。

「全然知らなかったじゃないですか。未来とか二度目とかは知ってるけど、それ以外でお兄さんが今どういう状況で、どういった状態なのか。なーんにも教えてくれないし。察しろって言われるだけ」

「本筋を知っているじゃないか」

「本筋だけを知らされて、他をうまくぼかされたらたまりませんよ。答えを知っていても問題に入る導入式が何にもないんですもん。おかげでなにもかも分からないまま、普段のお二人の行動を見て頑張って想定して、対処して、失敗したら事後処理でなかったことにして。大変で大変で。それでも、見返りは何にもなくて」

「飴と鞭なら、鞭ばっかりだったからな」

「たまのたまーに与えられた飴が、美味しすぎたってことです。そういう意味では諸葛亮さんには感謝しないといけませんねー」

朱里はしょうがないとして。俺の喪失感の治療は誰にも見せるつもりはなかった。それこそ、同じ治療を受けた朱里にもだ。

だが…………少し、華佗と二人で話して、気になったことがあった。




     ◆  ◆  ◆





魏に戻ってきたから、三日程のことだ。

「まずい可能性?」

「あぁ。俺と一刀の二人で出会っているというのもそうだが……あの二人のことだ」

「ふむ」

華佗の部屋で治療を受けていたら、唐突にそう切り出された。

「何か問題あるの?」

「一刀からしてもそうなんだろうが、向こうもそうだろう。お互いに見張っているんじゃないのか?」

「それはそうだろうけど……」

かといって、ここは魏だ。胡坐をかいている訳じゃないが、大それた行動には出れないだろうし、桂花達三軍師は諸葛亮を、春蘭達武官は関羽をそれぞれ大きく気にしている。何かしているというのであればすぐに俺の耳に入ってくるだろう。

「大丈夫じゃないかなぁ?」

「魏の連中を信用しているからか?」

「そうだけど……不安? っつ……」

ぷつっ――と鍼が入り込んでくる。異物が俺の頭の中を蠢いているのが分かるが、同時に身体のだるさなどは取れていく。

「一刀は表向き二人は協力しないと言っていたが、どうにも解せなくてな……それにだ」

「うん?」

鍼を俺のこめかみに刺したまま、華佗が俺の正面に回りこんでくる。

「関羽だけなら俺がなんとか出来るが、あの二人に協力されたらさすがに敵わん。事前に対策をしておくべきだと思う」

「あー……不安ってそういうことか」

確かにそういった方法で来られたら、俺達はひとたまりもないだろう。何かしらの確信を得て動き出し、その上でどちらとも手を取り合う必要があるという結論に至ったら迷わないだろうし。

「愛紗も鬼神じみた強さになってきているし、朱里も……あぁ、そうだ」

何か思い出したらしく、一度言葉を切って。

「朱里の治療だがな」

「朱里の……ここ?」

明言はさけて、頭を指差す。

「あぁ」

華佗はもったいぶるように間を置いて、少し時間を掛けてから。

「痕跡……というかな。いじくられたような後はあったと思う」

「……なんか、はっきりしない言い方だね」

「難しいんだ。どちらかというと、妖術とかそっちの類に思えてな」

「妖術……」

仙術、と言わないのは治療中の俺を思ってのことだろうか。

「それと……幾つか質問をしても見たんだが。どうにもおかしい部分が出てきた」

「具体的には?」

「たまに……だがな。日付のズレというか。時間の感覚が違ったよ」

「…………なにそれ?」

不穏な方向に話が進んできた。

華佗は鍼から手を離して、俺を万全の状態に維持しながら話を続ける。

「例えばさ、三日前の朝にこんな話を聞いたとしよう。「今日の食堂の夜ご飯は酢豚」だと」

「美味しそうだね。酢豚が好物な人は楽しみで一日の活力になる」

「あぁ、そうだな。だが、それは三日前の話で、今日の夜ご飯はラーメンだと朝に話をされていた」

「…………いや、ちょっと待ってよ」

華佗が言いたいことが分かった。だが、それは…………。

「そうだな。俺が治療中、朱里は「今日の夜ご飯は酢豚だそうです。楽しみですね」と口にしたんだ。その日の夜ご飯が、ラーメンなのにも関わらずにだ」

「…………」

俺は固唾を飲み込む。

「指摘は?」

「したよ。すると、不思議そうに首を傾げていた。夕食が済んでからまた話をしにいくと「やっぱりラーメンでしたね。勘違いしちゃいました」と舌を出して笑っていたよ。気にしていない様子だったが……」

「……しているだろうさ」

自分の記憶違いがまた生まれたんだ。表には出していないだけで、頭の中の葛藤は激しいはず。

「そこから、一刀みたいな例があるとも限らない。俺はそうも思っている」

「……俺が関羽を倒したっていう、アレ?」

華佗は一度頷いて、

「誰が敵になるか分からない上に、目の前にいるそいつが本物かどうかも分からん。俺と一刀は完全に枠から外れているから、今更俺らを使って騙そうとしてもすぐにボロが出るだろう。だが……」

「普通に舞台の上でいつもを演じている子達が、舞台袖に隠れた後、何食わぬ顔で舞台に出てきても……観客席で背を向けながら座っている俺らじゃ気付きにくいか」

「まだ、朱里や愛紗もその中に当てはまる……特にあいつらは、何を言ってきてもおかしくない状況だからな」

疑心が俺の心の中に渦巻く。

「だから、対策を講じておくべきか」

対策か……対策ねぇ。

「一つぐらいしか思い当たらないな」

苦笑して言う俺に、華佗も同じような笑みを返してくる。

「だが、適役じゃないか? 俺らには頭が必要だ。だろう?」

昔言われたようなことを、また言われたな。

「より強く引き込むことになる。あの子には長生きして欲しいんだけど……」

「俺らよりはするさ。最低限、その後に場を整えるぐらいはな」

出来れば、それよりももっともっと長く生きて欲しい。天下が平定した後も、華琳にはあの子の力が必要だろうから。

「でも……その力は、今の俺にも必要か。全く、また嫌われるよ」

俺の頭の中に浮かんでいたのは、嫌そうに俺から距離を置こうとしている風だった。





     ◆  ◆  ◆





そうした状況判断の結果、こうした場に風が参加することになった。

最初は驚いてはいたものの、「あぁ、そういう感じなんですか」と言ってすぐに場に居付き始めた。

ついでに朱里のことに関しては今まで以上に気を張ってもらっている。お菓子作りの話がこっちに漏れて来なかったのは気になるが。

「で? その問題の二人は、最近どうなんだ?」

「だってさ」

「なんで風に丸投げするんですか」

数日の前に起こったことを思い返しつつ、風を見る。

「…………んー?」

なんで見るの? って感じで不思議そうにしている。

でも追求はなく、うつぶせになったまま飴を舐めて、

「関羽さんは書庫によく篭っていますよ。食事や鍛錬はきちんとしているみたいですね。春蘭さんによく懐かれているみたいですけど、今のところ関羽さんが負ける要素はないって状況ですかねぇ」

「そんなに差があるんだ?」

「それはもう。一太刀も浴びせられませんし。というか、お兄さんはそんなことも見ずに最近は何をしているんですか?」

華琳の動向を探って、秋蘭が定軍山へ出立する動きがないかをひたすらにチェックしていたよ。言えないけど。

「まーた黙る……もーいいです」

ぷんぷんしながらも、話を続ける。

「諸葛亮さんは、華琳さまから言われたことをそこそこにこなしているみたいです。お料理とか官渡の話とか、政務とか」

「料理してるんだ?」

一応、かまを掛けてみる。

すると、珍しく風が口ごもった様子で、

「あー、まー、なんといいますか~……そですねぇ、しているみたいです。流琉ちゃんや季衣ちゃんはもう真名で呼び合ってましたよ」

「なんか、言い難くそうだな。何を隠している?」

華佗が直球で風に詰め寄る。今更疑いはしないだろうが、それでもこういう部分に華佗は聡いというか、強いというか。

「んっと……こう、乙女の事情なので言い難い部分があるんですよね~」

「乙女の事情?」

俺と華佗が目を合わせる。

「なにそれ……?」

「女の子しか分からない、特殊な事情ですよ。別にお兄さん達に不利になるようなことはないですけど……知りたいなら、言いましょうか?」

知ってはいるが、言いたくはないらしい。

「んー……」

そう言われるとどっちでもいいが……。

「知っておいたほうがいいだろう。それが朱里に関することなら、尚更だ」

だが、華佗は譲らない。ここにきて乙女の事情一つで聞く聞かないを選択する余地はないということだ。

「……ま、そりゃそうか。で?」

無駄なことに時間と記憶容量を使いたくないというのもあるが、知らないままでいて不利になる方が怖い。結局はこういう思考だ。

「んっとにお兄さん達は~……えっとですね。諸葛亮さん、お料理というかお菓子作りをしているんですけど、それは久しぶりみたいなんです。そこら辺はお兄さんも知っているかもしれませんね」

嫌味を言われたが、俺は顎で続きを促す。

「出来たお菓子自体はとても美味しかったみたいで、その場に居た人たちに大絶賛でした。ただ、緘口令が敷かれて……理由は、流琉さんがお兄さんにも食べてもらいましょうとか言い出したのが切っ掛けですね」

「俺? 俺がなんで理由になる?」

「だーかーらー、乙女の事情ですよ。久しぶりで、諸葛亮さん的には出来栄えはよろしくなかったそうです。それをお兄さんに持っていこうとしたから、すぐに止めたってことですよ。お兄さんには出来る限りの最高傑作を食べてもらいたいっていう乙女心ですね~」



………………あぁ、そう。



「……いや、なんていうか」

コメントに困る。華佗も同じような顔をしていた。

「ほらー、だから言ったじゃないですか。不利にも何にもならないって。なのに口も頭も出してくるんですから」

これだから男って、みたいなことを延々と言っている。

「くだらないとは言わないが、今の環境で一刀に対してそんなことを言ってられる余裕があるのは羨ましいな」

「逆かもね。余裕があるように見せているのかも。時間もあるし、焦っても急いでもいないっていうね」

「……どうしてそういう方向にばっかり考えるんですかね……」

呆れた顔の風だが、それはそれだ。



それから数分して、治療は終わり。



「よし、もういいぞ。今日はこれからどうするんだ?」

「そだねぇ……」

時間で言えば、正午過ぎ。元の世界の時間で考えると午後二時ぐらいだろう。

「お兄さん、昼食は?」

「食べたよ」

嘘だ。

だが、今日は朝はちゃんと食べたし、空腹は感じてないから昼は抜こうと思っていた。身体の調子もこんなんだったから。

「…………ほんと?」

見上げるように見てくる。

風に空腹関係の話は一切していない。いないが、俺の食事関係は官渡以前から気にしているようだった。質素倹約とは言わないが、酒も食事も大体いつも適量だったから文句はなかったが。

「ほんとだよ。少し外に出てくるから、なんかあったら教えてくれ」

「どこに行くんだ?」

「関羽を見ておきたいけど、どこに居るか分からないし……少し、町まで行ってくるよ。気になることもあるからね」

「そうか。俺はこれから軍事練習に付き合わなきゃならないから、一緒にいけない。無理はするなよ」

「ん」

返事をして立ち上がり、部屋を出る。

「じゃあ、風が一緒に行きましょうか?」

一緒に出てきた風にそう言われるが。

「仕事は?」

「そこそこにありますね~。明日に回していいものばかりですけど」

「溜まっていくぞ。済ませておけ。何かあったら、すぐに聞きに行くよ」

「そですか。じゃあ、お気をつけて、お兄さん」

華佗の部屋の前で風とも別れる。




さて……一週間か。



そろそろ定軍山に動き始める時期だったはずだが、まだ華琳に動きはない。何かの動向を探っているようだけど……そちらに探りを入れたが、そうなると風を使わなくちゃならなくなり、朱里への警戒が薄まる。

「…………」

まぁいい。どちらにしても、そろそろ俺も動かないとならない。

関羽もそうだが……先に、あの子かな。




続く


スポンサーサイト

category: あの想

thread: ひとりごとのようなもの - janre: 日記

cm 0   tb 0   page top

コメント

page top

コメントの投稿

Secret

page top

トラックバック

トラックバックURL
→http://lisereaend1234560.blog.fc2.com/tb.php/288-300e30cc
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

page top

プロフィール

最新記事

最新コメント

最新トラックバック

月別アーカイブ

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。