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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第74話 

あの想いと共に

第74話



「お兄さん、お兄さん」

くいくいっと、風に袖が引かれる。

「ん?」

「ちょっとちょっと」

そのままぐいぐいと引っ張られる。本陣はもう目の前だって言うのに。

「悪い、少し待っていてくれ」

「どうかしたんですか?」

朱里がすぐに声を掛けてくる。さっきのこともあるからか、風を多少意識しているみたいだ。

「いや、それが……」

「ほら、はーやーくー」

そのまま引っ張られて、他の面子と距離を取って。




「どうしたんだよ?」

「どう説明するんですか?」

珍しく、軍師の顔になって俺に問う。

「どうって……どれを?」

ありすぎて、答えに詰まる。風は俺の袖から手を離して、

「官渡で、兵糧庫を見つけてきた話です。あれ……裏技ですよね?」

「…………」

兵糧庫か……。

顔良の話を素直にする訳にはいかない。かといって、話せないでは通らないだろうし……。

「まさか、何も考えてなかったんですか?」

「そういう訳じゃないさ」

素直に言うか、嘘を吐くか、黙秘するか。三択だ。

なら……。

「嘘を吐くしかないだろ。でも、出来るだけ穏便に済ませたいんだよな。ここに来てだけど、風が気付いていたってことには出来そうにないか?」

そうなれば、風からの土壇場での横流しもあって……とか。

だが、あっさり首を横に振られた。

「無理ですよー。風も調べに調べましたけど、一つに絞り込めませんでしたし」

「俺が攻めた場所。候補には?」

「私と稟ちゃんにはありませんでした。桂花ちゃんが、候補の一つにしてましたけど……」

「確証がなかったか」

「ですね」

桂花……なるほど、桂花か。

「……じゃあ、その線で行くかな」

「桂花ちゃんをダシにするんですか?」

「未来の知識を使ったって言うよりは、よっぽど鵜呑みにさせやすいだろ」

「どうでしょうねー。桂花ちゃんの精神状態は、確かにぼろぼろでしたけど……」

虚ろ状態の桂花が口走ったことを、俺が信じて突撃した……まぁ、これじゃ確かに言い訳としてはなってない。

「それに加えて、風から聞いていたことにしよう」

「んぇ? 何をですか?」

「今少し、話してくれよ。当時の君らの予想。それを俺が吟味して、ぼろぼろの桂花が口走った話を更に煮詰めて……あそこだと確定して突撃したってことにしよう」

「ことにしようって……ほんとになーんも考えてなかったんじゃないですか」

「だから、そういう訳じゃないって」

どういう質問のされかたをされるか分からないし、何よりこちらから答えるつもりはなかった。

聞かれたら、華佗が前線で見聞きしたことを覚えていて、それを聞いた俺が敵の動きを見続けて出した結論が、最終的に一つの結果に結びついた……ぐらいで行こうと思っていた。華佗に質疑が向けられても「一刀が言うなら、そういうことだ」で済ませるだろうし。

「……ま、いいですけどね。お兄さんの助けになるのが、風のお仕事な訳ですし」

「さすがは、有能な俺の副官だ」

「すんごいイラッと来るんで、そういう言い方やめてください」

マジで苦虫を噛み潰したような顔をされた。よく嫌われている。

「んっとですねー……――」

それから、風が幾つか話をしてくれた。

俺が攻めた兵糧庫は桂花だけが候補に上げていたこと。

他の二人は上げておらず、むしろ反対側に意見が集中していたこと。

だが、どちらにしても敵から意図的に渡された情報。実際にどの兵士もそれらしいものを見たと言い、どれもそれはそれで可能性があり、踏み切れなかったこと。

それからも何度か斥候を放ちはしたが、進展は無かったということ。

「あぁ、でも……」

「ん?」

そこで話が終わるかと思ったら、まだ続いて。

「最終的にお兄さんが攻めた場所……桂花ちゃんも、そこが最も怪しいって、瀬戸際で言っていましたね」

「へぇ……理由は?」

「そこまでは。ただ、相手の軍師の性格や工程を看破してきていたので……そういった部分からの予想だと思いますけど」

周瑜の癖を見抜いてきていたってことか……でも、間に合わなかった。

「それ、実に良い情報だよ。後はもう大丈夫だ」

「大丈夫って……ほんとですか?」

「あぁ。桂花をまた道連れにするのは忍びないが」

「微塵もそんなこと思ってないくせにー」

「酷い言われようだ」

苦笑しか浮かべられない。

「それと……」

風が、俺越しに蜀の二人を見る。向こうもこちらを見たままで、俺は手を振ってやった。どっちも振り返してくれなかった。寂しいもんだ。

「あの二人の説明?」

「お兄さん絡みでしょ?」

「そうだね。でも、それは大丈夫だと思うよ」

朱里が自力でなんとかするはずだ。

「……諸葛亮さんのこと、信用してるんですね」

まるで、俺の思考を読んだように眉を顰められた。

「能力は本物だよ。特に、ここぞという時の胆力と発想は凄まじい。華琳に嘘を吐いて、その場しのぎをするぐらい訳ないさ」

「まーた、そーゆーこと言うー」

「華琳も華琳で分かっていながら騙されるだろ。というか、分かっててこんな質問するな。時間の無駄だ」

「これでもお兄さんの心配してるんですけどねー」

「涙が出そうになるね」

ほかには? という感じで風を見つめて。

「あ、風は殆ど喋らないので。そこんとこ、よろしくですよー」

「喋らない?」

なんで?

「諸葛亮の力量の拝見?」

「それもありますけど、風は前の時も今回も、お兄さんとはもういっぱい喋ってるので」

「華琳や桂花に譲るってこと?」

「ですです」

笑顔で見上げてくる。

……建前三割、本音七割ってとこかな。

「……ま、いいよ。でも、困ったら」

「勿論、手を貸しますよ」

「ならいい」



作戦会議はここで終了。三人に合流する。



「お待たせ」

「何を話していたんですか?」

露骨に不機嫌そうな朱里だ。さっきも、手を振り返してくれなかったしな。

「官渡で色々やって勝ったんだ。その説明をどうするのか? ってことを、少しね」

「口裏合わせですか。その時からしていたんですね」

「俺は関羽見たく実直に生きられなくてな。理解出来ないと思うよ」

言って、さっさと本陣へ向かう。

「……朱里」

「良いんですよ。どんな言い方をしても……お互いにお互いが必要なことに、変わりはありませんから」

なんて、蜀の二人の会話が聞こえた。

「ほんと、なにしてきたんだか」

「色々としか言えないよ」

本陣の前まで来る。陣に入る前の衛兵が俺を見て驚いた顔をして、喜びを浮かべて、しかしすぐにまた驚いて。

「あ、あの、北郷殿……そちらは……」

「その説明も華琳にするよ。大丈夫、敵じゃないから」

「は、はぁ……」

無理矢理頷かせて、さっさと本陣に入った。早めに華琳に許可をもらって通達してもらわないと、毎回同じ説明をすることになる。さすがに面倒だ。

「で、華琳はどこに?」

「こっちですよー」

風が先導して歩く。

俺らはなんとも言えない緊張感を持ちながら、そのまま着いて行く。途中少なからず兵士も居たが、やはり同じような反応ばかりだ。今はこちらから話しかけないほうが良いだろう。

そうして、五分ほど歩いた時だろうか。



丁度、軍議を開くようにスペースを切り取られた場所。長方形の机と、椅子が数個ある。



そこに……華琳は居た。



背を向けていたが、足音に気付いてこちらを振り返る。

「やぁ、華琳。お待たせ」

「遅かったわね」

そのまま歩いて、テーブルの向こうへ。丁度、俺達と華琳はテーブルを挟み込むようにして立つ。

「……ほんとに、諸葛亮と関羽」

華琳の隣に立つのは当然、桂花だ。案の定、秋蘭も居る。

「すまなかったな、北郷。使いを出すのが遅れた」

「いいさ。そっちは忙しかっただろうし。俺は特にやることもなくて暇だったからな」

「そういう割には、西門に居なかったくせに」

「お前はそもそも西門に来てないだろ」

「ふふっ」

華琳は椅子に座って、俺と風のやり取りを笑顔で見る。懐かしいって感じなんだろうな。

「本当に久しぶりね、一刀。先程は、取り乱して悪かったわ」

なんてことないように、笑顔を作って言う。

……少し、無理しているな。朱里や関羽には分からない程度だろうけれど。

「気にしてないよ。それに、そう言うのなら俺の方が悪かったよ」

「意思疎通が無かったのだから、起こるべくして起こったことだったのよ。蒸し返し続けても仕方が無いわ」

そこで、馬騰との話を一気に切り上げる華琳。

……この話は、いずれ二人きりになった時にもう一度しよう。俺が馬騰を倒したという印象を強くしておかなければ。

「それで……」

まずは、という感じで華琳が蜀の二人を見る。

「こうしてお目に掛かるのは三度目ですね。改めまして、諸葛孔明です」

「えぇ、そうね。あなたの智謀にはいつも苦しめられていたわ。そんな蜀の忠臣であるあなたが、どうして一刀と一緒に?」

俺の口からではなく、朱里の口から答えを聞きたいらしい。俺は黙ったまま、話の行く末を見守る。

「私もここに居る関羽もですが、独自の判断です。一刀さまを助けなければ、己が目的を成就することが叶わない……そう思い、しばらく一緒に居させてもらうことにしました」

「その目的とは?」

「お答えできません」

キッパリと拒絶する。

それは予想通りだと言うように、華琳が一度頷いて。

「関羽も、久しぶりじゃない。今日はあの時のような格好はしていないのね」

「苦戦はしなかった。それだけです」

「そう、それは何よりだわ。諸葛亮はこう言っているけれど、あなたはどうなのかしら?」

「…………」

少し、間を置いた後、

「北郷殿に付き従うことに、理由は確かにある。だが、私と諸葛亮ではまた別の理由だ」

「……ほう」

「申し訳ないが、こちらも具体的には言えない。蜀にも魏にも関係のないことだからな」

「でも、私の国に入って、堂々と闊歩するということでしょう?」

「もし私の存在が魏にとって不利になると判断した場合は、すぐに追放なり処断なりしてくれて構わない。それぐらいのことを言っているつもりはある」

「私もです」

朱里もすぐに同意した。

確かに、理由があってついてきて、でもその理由は言えない。だが、俺の傍にはいる。俺の傍に居るってことは、城にも出入りするってことになる。

それを説明もなしに認めろってのは……。

「言いたい放題ね。そんな言い分を、私に認めろと言うのかしら?」

「お話ぐらいにはお付き合いしてもいいですよ? でも、元の理由は一刀さまのことを第一に、なので。あんまり時間は割けないと思います」

「お前、口に聞き方に――」

朱里の物言いに、思わず桂花が口を挟む。が、すぐに華琳が手を上げてそれを制した。

「いいわ、桂花。一刀を上に見てはいても、私のことは停戦しているだけの敵将、ぐらいに思っているのでしょう?」

「そう思ってくれて構いません」

「ふぅん……」

華琳が少し、思案する顔になった。

と、そこで秋蘭が俺を見る。

「北郷。お前は、この二人をどう評価している?」

「また、面倒くさい言い方だね」

評価ってなると、意味合いが違ってくる。どう思う? って聞いてくれた方が楽なのに。

「どっちもとにかく優秀だよ。諸葛亮の知識は類を見ないし……関羽も、さっき春蘭と一対一で戦って、圧倒したしね」

「え?」

「は?」

「姉者が?」

さすがに、まだその情報は届いてなかったらしい。三人とも目を丸くしている。

「すぐに広まると思う。部下の目の前で戦って、一撃も与えられずにボロ負けだ。春蘭が勝てないとなると、魏の将は誰も関羽には勝てないってことになるね」

「……それ、本当なの?」

思わず、華琳が聞き返してきた。俺はすぐに頷く。

「うん。ここに居る俺らと、春蘭本人や季衣が証人だ。以前よりも更に関羽は強くなっている。それと比較すると……春蘭の伸びは然程でもないな」

「姉者が、そうもあっさり負けたか……」

「秋蘭には信じがたいことかもしれないけれど」

「……いや、この場においてそのような嘘を吐く理由もないだろう。だとするなら、姉者は関羽に手も足も出なかったということになるな」

「そうだね。そういった部分も加味して取り上げるなら、条件付きだけど、それだけの猛将が俺を守ってくれもする。諸葛亮も、俺らとの会話を拒んだりはしない。聞けば答えることは答えるだろうし、逆にこちらが間違っていたら指摘もしてくるだろう。華琳やみんなが思っていることも分かっているつもりだけど、俺個人の主張としては、二人が魏に不利な要素を呼び込むことは無いな」

「断言するのね」

「出来なきゃ連れてこないさ」

それに、呼び込もうとしても呼び込めないはずだ。今の彼女達は、魏が滅んでも、俺に死なれても困る立場なんだから。

「諸葛亮が対話に応じるということは、それ相応に知識を引き出すことは出来るでしょう。関羽も、魏に居るということは最低限、自分の実力が落ちない程度には身体を動かすことはするはずよね?」

「そういう方向に考えてくれたら、俺としては助かる」

「一刀としては、そうなるのよね」

「ですが、華琳さま! こいつらは……ッ!」

俺としては最も助かる方向に華琳の思考が動いてくれたが、すぐに桂花が異を唱える。それはそれとして、桂花の考えもまた必要なんだよな。

「今桂花が声を荒げた通り、この子の危惧も最もだわ。一刀が幾ら保証したとしても、周りがそれを認めるかは分からない。許さないという者もいるでしょう」

「だから、鶴の一声が欲しいんだけど」

そう言う俺に、華琳が嬉しそうに口角を上げ、一度瞬きをする。

「劇薬という意味であれば、我が国には一刀だけで十分よ。あなたのおかげで、魏は更に強くなり、まだまだ飛躍するわ。その発展途上、というところね、今は」

「その途上に、私と愛紗さんは不要ですか?」

「不要と断言すれば、魏の王としての品格が疑われる……そう言いたいのでしょう?」

華琳が挑発的な笑みを浮かべる。

「ですが華琳さま。こやつらは危険です。北郷も含め……先の戦いで、あのようなことをしでかしているのですよ!」

「あぁ……あの力ね。一刀、劉備と戦った時のあなたのあの力、あれって結局なんだったの?」

二人がいるのに、聞かれるか。まぁ、秋蘭以外はみんな当事者だしな。

「俺の全力ではあるね。でも、この世界では別のものに見えもするんじゃないか?」

「妖術に似たような力、ということは認めるのね?」

「そうは言ってないよ。ただ、俺の中の箍を完全に外すのには条件があるのさ」

「それを外すために、妖術と思しき力を使った?」

「んー……また、それも違うんだけど」

俺はわざとらしく頭を抱える。

妖術じゃなくて仙術……と言いたいが。だが、地和達に話が伝わればすぐに露見するだろう。あの薬は仙術の側面を持っているが、発動条件は妖術と同じだし……そもそも、華琳達にとっては妖術も仙術も大した違いはないはずだ。

「やろうと思えば、いつでも出来るよ。ただ、俺自身が俺自身の力を上手く制御出来ないんだ。元は……と、あんまり言うことでもないかな」

大法螺吹きとはこのことだな。でも、華琳達には真偽を確かめる方法はないだろうし、風が口を割っている可能性もない。

なら……今ここで、俺の力がどういったものなのか。その真実を突き止める方法はないはずだ。

唯一の問題が桂花だが……。

「…………」

「…………」

視線が合わさったが、特に何も言わず。

それなら……俺は、視線を横に――後ろにいる奴、という意味で一度だけ向ける。

華琳もその視線に気付き、嘆息した。

「そうね……それは、また後でちゃんと聞きましょうか。ただ、一刀。あれがあなたの全力だとして、あのような形でしかその力を発揮できない……というのであれば、使う前に私に必ず言いなさい。時間制限付きとはいえ、呂布と対等に渡り合えるその力……使わずに放置するのは勿体無い、ぐらいじゃ済まされないわ」

……へぇ。

ちょっと、意外だな。妖術っぽく見えるから、すぐに否定的な意見が出ると思ったのに。

「意外って顔ね?」

「まぁね。桂花や秋蘭も同じ顔をしているけど?」

俺の視界に映る二人も、不思議だ――という面持ちでいる。

華琳はやれやれ、という感じで言葉を紡ぐ。

「別に、不思議がることでもないわよ? あの力が無ければ、私は今この場に居ない……私の命を救った力を、ただ私や魏の在り方だからという理由で押し潰しては、兵にいらぬ疑心を与えるわ。他者の力に救われたのに、その他者の力を認められず、否定する意固地な王……などと言われてね。あの場では確かに、一刀の力は必要とされ、行使し、結果まで出したのだから。なら、それを含んだ上での運用を考えるべきよ」

「既に、俺の力は魏の一部として考えられているってことか」

「当たり前じゃない。私のために、力を行使してくれるのでしょう?」

「そりゃね」

意外と言えば、意外だが。

でも、呂布ですら欲しがった女の子だしなぁ。

見た目の拒絶反応はあるだろうが、それでも一度使われたのだから、それなら認めて自分の力だって公言した方が収まりが良いんだろう。現に、俺はここに来るまでに妖術の話題を一度もされてはいない。関羽や朱里が目立っていたってのもあるだろうけど。

「だけど、意外と言えば私の方よ? 全力のあなたは凄いと思っていたけれど、あそこまでだとは思っていなかったわ」

「あぁ……」

そういえば、なんか華琳には流琉と季衣の喧嘩の一件から、やたらと過大評価をされていたな。

「せめて、戦に耐えうるぐらい長時間使えると良いんだけどね」

「いつでも脅威的な奇襲が可能な力が、魏にはある……そう思わせておくだけでも、相手は恐ろしくて仕方が無いでしょう。無闇にあなたに前に出ろとは言わないわよ」

「助かるよ。さすがに何度も血を吐きたくはない」

劣化加速に対する誤魔化しは、まぁ上手くいった方だろう。

「脱線したわね。あなた達二人だけれど、二つ条件を飲むならば、一刀の傍に居てもいいわ」

「か、華琳さま!?」

「……よろしいのですか? 華琳さま」

忠臣二人が、あっさり言う華琳に異議を唱える。

「えぇ、勿論。春蘭が敗れたという話が無ければ放り出していたところだけれど……さすがに、春蘭が何も出来ずに関羽に敗れたという話を聞いては、看過出来ないわ。せっかくこうして自分から魏に身を置いてくれると言っているのだし、間近で関羽を見て、我が兵には力を付けて貰わなければね」

……なるほど、そういう結論に至ったか。

これは春蘭に感謝だな……朱里の考えていたであろう策が披露されないのは残念ではあるけど。

「私は、ですか」

「えぇ。でも、関羽だけ引き入れて諸葛亮は引き入れない……というのは少し見栄えが良くないでしょう? 一人も二人も、蜀の忠臣を引き入れるのならば同じことよ」

「同じって……すごいですね、曹操さん」

思わず苦笑いの朱里。

全然同じじゃないと思う。関羽だけならばまだしも、朱里の専門分野は頭だ。中に入り込んで得た情報を、どう扱うかという選択肢は関羽の比じゃない。

それでも同じと断言して受け入れようとする辺り……どれだけの打算と度胸が華琳の頭の中で渦巻いているのか、想像もつかないな。

「それに」

そう、前置きして。




一瞬――華琳の目が妖しく光ったような、そんな錯覚を覚え、






「この二人が一刀が持つ問題を解決してくれるというのならば――――願ったり叶ったりよ。そのための二人の存在と、力でしょう?」






薄く、華琳が笑う。




同時に――――まるで空間が切り替わったかのように、場の温度が、一気に下がったのを感じた。




「……ふむ」

「どう取ってもらっても、私は構わん」

華琳が起こしたとも言える、一気に変動した場の空気に瞬時に対応する、蜀の二人。

朱里は厳しい表情で、関羽も無表情だが、思わず臨戦態勢とも言えるぐらいに身体に力が入っている。

「一刀は一刀で、色々と大変だもの。私がその問題に着手したいとは思うけれど、そうもいかないのが現実。なら……別の人間がそのためだけに動いてくれるというのなら、私は別に構わないわ。それが終わったら、一刀は本当の意味で私に全てを捧げられるでしょう?」


笑顔だ。


実に、華琳らしい笑顔だ。



実に、魏の王としての、笑みだ。



「ま、俺はこの二人に期待しているけれどね」

だが、俺はこの空気も、華琳の王としての笑顔も。

どちらもただただ、華琳らしさがあって大好きだ。思わず固唾と飲んだ桂花や秋蘭も居るが、俺は特に気にもならず。

「せめて、結果ぐらいは伴ってもらわないとね。城に置いてあげるのだから」

「諸葛亮や関羽で結果が出せないっていうなら、もう華琳しか居なくなるよ?」

「やめてちょうだい。王の責務を果たしながら、あなたの失策の尻拭いを私にしろと言うの? それに、劉備ならば別の結果を出せるのではなくて?」

「うむ? どうしてそう思うの?」

「不思議よね。考え方も国の在り方も全然違うけれど。一刀に対する考え方は、どこか似ているように思うのよ。全く話したこともないのに」

……なんとまぁ。

「聡過ぎると、それはそれで人と距離を置かれるよ」

同意とも言える内容を聞いて、華琳が少し肩を落として笑む。

すると、張り詰めた空間が、弛緩していくのを感じた。あまり調子に乗るなって意味で、本気を見せたんだろう。

朱里や関羽も、華琳に合わせるように身体から力を抜いていく。

「良いのよ、理解してくれる人間が居れば、それでね。桂花も秋蘭も一刀も、私がより聡明になったからといって、私の傍を離れるということはないでしょう?」

「と、当然です、華琳さま! 華琳さまのお傍が、私の居る場所ですから!」

「勿論です。私もそうですが、姉者もこの場に居たら同じように言うでしょう。我が生涯は、華琳さまと共に在ります」

「…………そう、言っているけど?」

あなたは何か言わないの? という風に視線を向けられて。

「……後で、二人きりで話さなきゃならないことがあるだろ? その時にでも言うよ」

「んなっ――」

咄嗟に言葉にしたのは桂花だったが。

「あら、それは期待出来るわね」

「か、華琳さまッ!? ダメです、妊娠させられちゃいます!!」

「にんし――」

「北郷殿……」

桂花のいつもの野次だったが、あんまり耐性が無い朱里と関羽は真面目に反応している。

「あぁ、安心していいわよ? まだ一刀のお手つきにはなってないから。でも、あなた達がのんびりしていたら、私が逆に一刀を貰っちゃうかもしれないけどね」

「むっ……」

「別に……私は構いませんが」

朱里が露骨に嫌な顔をして、関羽は対照的に済ました顔だ。

「というより、そろそろ二つの条件とやらを言って欲しいのですが」

関羽が言う。確かに、また脱線していた。

「あぁ、そうね。とはいっても、二人とも同じ条件ではないわよ? それぞれ別の条件を二つ飲んで欲しいの」

「別の条件、ですか」

これは俺が口を出すことでもない。黙って成り行きを見守ろう。



さて、どんな条件かな。



「諸葛亮にはまず限定的なことを一つ。ここに居る荀彧と話し合って欲しいの。官渡のことを、出来る限りね」

「官渡……ですか?」

「華琳さま、それは……」

官渡のことをか。

多分、朱里だけが華琳の言いたいことを理解出来ていないだろう。だが、官渡を体験した他の人間は、華琳が言いたいことを瞬時に理解したはずだ。

「えぇ。あの時の戦い。その時に起こったことを、順を追って、桂花が説明していくわ。その度に、あなたはどういう策を練り、どういう用兵をするのか。それを知りたいの」

「……合点がいきました。より確実に、官渡で勝て、ということですね」

朱里がまた表情を引き締めた。華琳が嬉しそうに頷く。

「あれは敗戦よ。完全な負け戦という状況になったのに、様々な偶然が重なってたまたま勝利が転がってきただけ。あんなことを繰り返すわけにはいかないわ」

「それは、実に面白そうです。分かりました、良いですよ」

朱里の得意分野が条件の一つか。

桂花が納得いかないって顔をしているが……力不足なのは自身でも痛感しているところ。加えて、朱里がどういった策を思いつくのか興味があるだろう。俺だってそうだ。

「後はもう一つ。あなた、料理が得意みたいね」

「えっ?」

俺も頭の中で同じように「えっ?」って言ってた。何言ってるんだ、華琳。

「一刀の報告書にあったのだけれど。料理が得意で、お菓子作りもするのでしょう?」

「あ……あー」

声にならない何かが口から漏れた。確かに、そんなことを連合軍の時の報告書で書いたな。

「えぇ、まぁ……しますけれど。でも、得意という訳ではないですよ。というか一刀さま、よくそんなこと覚えて……」

「いやまぁ、一応な」

朱里が料理をしているところを見たって訳じゃない。でも、話の流れでそんなことを言っていたのを覚えていて、報告書に書いていたんだが。

いたんだが……まさか、ここで拾ってくるか。

「そうなの? でも、お菓子が作れる子なんてそんなに居ないわよ? 是非、その腕前を披露して欲しいの」

「それは……まぁ、構いませんが」

そんなことなの? って感じで首を傾げる朱里。

「ここに居る夏侯淵と、もう一人、典韋という料理が得意な子が居るの。その二人とたまにでいいから話し合って、是非料理に関する話に花を咲かせてみてくれないかしら?」

「はぁ……いえ、分かりました。大事なことだっていうのは、分かっているつもりです」

拍子抜けした感じが抜けず、変な返事になる朱里。

だが、明確な了承が得られて、華琳は満足げだ。

「諸葛亮に関する条件はその二つよ。それを守り、料理に関しては定期的に実行してくれるなら、後は一刀に一任するわ」

「……勿論、受け入れます」

「ありがとう。では、これからよろしく頼むわね、諸葛亮」

「……はい」

拍子抜けと、でも緊張が抜けない感じで、朱里との会話は終了。

官渡の話は実に面白そうだ。俺も参加したいが……桂花は許してくれるかな?

でも、料理ってのは……なんでだろう? 流琉の料理でも現状十分すぎるぐらいに役立っている。なのに、更に何かを加えるのか……?

華琳が口にした、お菓子って言葉。あれが何かあるように思えるんだけど…………まぁ、後で聞くか。

「では、関羽」

「…………」

「出来れば兵の訓練や部隊指導をして欲しいけれど、そんな暇はないでしょう。それに今のあなたには、以前あった余裕や優雅さがまるで感じられない。だからこそ、より鋭利になって強さが際立っているのかもしれないけれど……我が軍に、その窮屈さは不要よ」

……分かっていたのか、華琳。

見ただけで、そこまで看破するっていうのはさすがだ。ここ最近一緒にいた俺は何も気付いていなかったというのに。

「それでは?」

関羽が促す。

兵の訓練や部隊に関する仕事をしなくていいって言うのなら、何があるだろう?



「一刀に関する話よ。もし、一刀が私の許可も無しに全力を出して暴走した場合……あなたが、一刀を殺しなさい」



「っ――」



殺せ――――ってか。



…………なるほど。なるほどなるほど。



「…………私が、手に掛けろと」

「そんなことには絶対と胸を張って言うぐらい、させないけれどね。でも、何らかの影響があり、もしそれが実現してしまった場合、いついかなる理由であれ、一刀を確実に殺しなさい。この条件、飲めるかしら?」

「……くくっ」

俺は腰に手を当て、目を瞑ってほくそ笑む。

「…………何を、笑っているのですか?」

関羽が俺の声を聞いて、そう言うが。

「何かしらの制限がないのはおかしいと思っていたが……ってところかな。それに、確かに春蘭じゃ俺は止められない。呂布ぐらいの力がないと。なら……その力に一番近いのは、関羽って訳だ」

「そうなるわね」

それに――――まだ、理由があるんだろう。

建前はそうだ。俺にだってそれは分かる。



だが――――本当に、俺が危険だって言う部分だけでの発言かな?



まだまだ華琳と話さなければならないことがあるな。

「で、ですが華琳さま! そんな約束、関羽が守るとは思えません!」

「ふむ……そう言われているけれど?」

俺も関羽に視線を向ける。

少し……考えるように、俺と曹操を何度か見ていたが。




「……それが必要だと言うのなら、我が身命に賭して成し遂げましょう」





そう、言い切った。

桃香やら蜀やら、色んな建前があるのに、あっさりと言い切ったな。

なんだろう。不思議と、こうして言い切られたことが、何故か嬉しく思える。

「よく言ったね。偉いよ、関羽」

「自分が殺されるというのに、何故先程から笑っておられるのですか」

「さぁ……でも、これで俺はより楽が出来るってことになる」

裏を返せば、華琳は「関羽、そうならないようにちゃんと守れよ」って言っていることにもなるし。

「そんなの、誰が信じるのよ!」

「そりゃそうなんだけどさ」

一々、桂花の意見が最も過ぎて。

関羽が俺を殺す可能性かぁ…………限りなく低いんだけど。

だって、死なれたらアウトだしなぁ。最悪、関羽としては朱里や華佗が死んでも良いだろうけど、目的が達成されるまでは俺だけは絶対に死なせちゃならない。

でも、俺を殺すと断言出来る根拠がある……ある?



…………いや、待てよ。



「……あー、そうか。そうかそうか」

俺を殺しても…………って、ところか。一応、後で真意は問いただしておかないといけないけど。

「何よ、あんた。気持ち悪い声出して」

「相変わらず酷いな、お前。でも、安心していいよ。そうなったら確かに、関羽は俺を殺すだろう」

「…………なんで、言い切れる訳?」

「一度、俺は関羽を裏切っているからね。だけど、桃香……劉備こともあり、建前が多すぎて俺を殺す理由が作れないのさ。気持ち的には、いつでも殺したくてしょうがないってのにね。だから、華琳の提案は関羽にとって、渡りに船だと思うよ。ね?」

笑顔で言う俺に、関羽は鋭い視線をぶつけてくるだけだった。

「あんた……自分を殺したがっている奴を連れてきたって訳?」

本気で気味が悪いって顔で見られるが。俺は挑発するように返す。

「今更敵が増えても関係ないさ。誰かに止められるつもりはない。それは桂花、お前だって同じだ」

「…………ッ」

そういうと、桂花の顔が殺意に満ちたような形相へと変化した。

しかし、俺はそれも笑って受け流す。

「そういうお前の顔が大好きだよ。悔しかったら止めてみろ。お前が思う、後戻りが出来ない状況になる前にな」

「あんたッ……絶対に、絶対に殺してやるわ……ッ!」

「華琳の前なのに、隠そうともしない。我慢を忘れた方から自爆していくんだ。せいぜい、自制しろよ」

「チッ…………!」

俺と桂花が怨恨に満ちた言い合いをするが、それこそ華琳は涼しい顔だ。

「魏に一時的に入るとはいえ、客将が二人も居るようなところでする会話ではないわよ、二人とも」

「悪い」

「……申し訳ありません、華琳さま」

華琳は髪を軽くかき上げて、

「ごめんなさいね、二人とも。一刀と桂花は、こういう仲なのよ。日常茶飯事だから、今後同じような場面に立ち会っても流すぐらいで丁度いいと思うわ」

「流すって……」

「…………」

傍から見たら、本気で憎しみあっているように思えるだろう。特に、桂花からの怨念のような想いの強さは本物だ。

それだけ何かに気付き、画策しているんだろうが……その時が来るまで桂花はボロを出さないだろうし、となるとぶっつけ本番だ。油断はしないようにしなければ。

「まぁ、それが条件の一つよ、関羽。後、もう一つね」

簡単に話の流れを戻して、華琳はこう言った。



「魏に居る間に、一刀を男として好きになりなさい」



「…………は?」

「えっ?」

「ん?」

「お?」

「んん?」

秋蘭と桂花を除いた全員が、変な声を上げた。

「…………ど、どういう意味ですか?」

「言葉通りよ。それが約束できないのなら、魏に入れる訳には行かないわ」

「や、約束って……そんなこと、確約できるようなことでもないでしょう!」

「あら……本当にそうかしら?」

卑しい笑みを、華琳が浮かべる。その笑みに、思わず関羽がたじろいだ。

「別に、出来ないというのであればここに置いていくだけよ。どうする? 好きになるの? ならないの?」

「で、ですから……っ」

さすがの関羽も困惑しているようだ。

でも……俺も少し、考える。関羽ほど混乱してはいないが。



俺を好きになれ…………ねぇ。



幾つか意味は考えられるが……どれが正解かなぁ。

好きになったからといって、関羽の手が緩むことはないだろう。

俺が張飛に言ったような工作とも違う。

うーん…………。

もしくは、俺が考え付かないぐらいの想定が、華琳の中にはもうあるのかもしれないが……さすがに分からないな。

「一刀はどうなの? 関羽に好かれたら、嬉しいかしら?」

「そりゃ、勿論。みんなに自慢出来るだろうね」

「だって。一刀に問題は無いわよ」

「そういう問題では……っ」

珍しくおろおろして、助けを求めるように俺を見る。

「朱里のように、定期的に何かしろって話じゃないんだから、楽じゃないか?」

「そ、それは……楽とか、そういった問題なのですか?」

「問題って考えるから戸惑うんだよ。純粋に、華琳のこの条件が自分にとってどういう位置に収まるものなのか。それを考えてみたら?」

「北郷殿を好きになる、条件…………」

下を俯いて、考え込んでしまう。

それから、じっくり時間を掛けて。

数分っていう、まぁ短い時間だけれど。



「…………っ――――――――」



関羽が、ふと顔を赤らめて、マフラーを上に上げて顔を隠す。

「……決まりね。じゃあ、よろしく頼むわ、関羽」

「わ……私は、まだ、何も……」

「みんな答えは分かってるわよ。ちゃんと、一刀を好きになってちょうだいね」

言って、華琳は終わったというように立ち上がって。

「それじゃあ一刀。少し話をしましょうか」

「ここじゃなく?」

「面倒事は先送りにはしない性質なの。私の天幕に来なさい。桂花は諸葛亮を、秋蘭は関羽の相手をお願いするわ。華佗は負傷兵を見てあげて。風はその案内をお願いね」

「……御意」

「は!」

不満そうな桂花と、いつもと同じ調子の秋蘭。

「やれやれ、早速仕事か」

「仕事が無い人よりはマシですよー。ほらほら、華佗さん行きましょ」

「あぁ」

二人はそんな会話をしながら、すぐに居なくなる。

「……じゃあ、一刀さま。また後で」

「桂花にいじめられないようにな」

「あんたと一緒にしないで!」

「失敬な。俺は朱里をいじめてなんていないよ」

痛めつけたりはしたけど。

「あはは……よろしくお願いします、荀彧さん」

「ふん……誰がよろしくするもんですか」

「それはそれとして。最近、魏じゃ情報伝達関係の方針を変えたそうですね。あれのことなんですけど――」

少し離れたところで、朱里があれやこれやと質問をしだす。

桂花は桂花で、面倒そうにしながらも会話に乗ってやっているようだ。

「関羽」

「……あぁ」

「姉者を倒したという話を、詳しく聞きたい。話してもらえるか?」

「構わないが……大した話にはならないぞ」

「それならば尚更だ」

なんて言って、その二人も会話をしだした。

「みんな、なんだかんだで話すことがあるな」

「私達程じゃないわ。ほら、早く来なさい」

「ん、了解」


目立った問題は……クリアはしたと思っていいんだろうか?


でも……今話した全ての話題に、まだ細かいフォローが必要だろう。だから、華琳も深く突っ込んでは来なかったんだ。



そのフォローを、これから俺がしなければならない。更に、風と話した先のこともある。



さて、俺の本当の正念場はここからだ。上手くやらないとな……。





続く


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