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のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第73話 前編 

あの想いと共に 

第73話 前編


「くしゅっ」

朱里が、可愛いくしゃみをする。

「大丈夫か?」

「んゆ……は、はい。少し、肌寒いですね」

朱里が両肩を抱いて、軽く身震いする。

多少とはいえど、涼州は蜀に比べて北の方だしな……。

時刻は月の位置からして、深夜。吐く息が白いって訳じゃないが、それでも適温かと言えば、それよりは多少下回ると思う。

「そうですね。体調管理はしっかりしないと」

言う関羽は大丈夫そうだ。



俺達はあれから、そのまま西門の前で迎えを待っていた。

近くに魏の兵士もいたが、色々と任務があるようで出たり入ったりだ。その度に一瞥されて驚かれるのだが、話し掛けられはしなかった。

そうこうしてただ待ちぼうけを食らい続けて。ぼんやりと辺りを観察しているのだが。

戦が終わって興奮も冷めやまぬのか、戦後処理なども相まってなのか、町はまだ起きていた。


「こんな日だ! 大安売りだよー!!」


「ほらほら、見てってよ魏の兵隊さん! 今なら安くしとくよ!」


なんて声が、少し遠くから聞こえてくる。見ると、夜も遅いというのにまだまだ町の光が強い。

「敵兵に売る商人か」

「さすがに、生まれながらの涼州の民は商売なんてしていないと思いますが。行商人などになると、こうした戦が終わった直後は捌き時でしょうね。気が緩んでいる人が多いので」

「人の出入りが激しい場所だからこその光景……かな」

俺はいつも戦後処理に追われていたというのもあり、あまりこうした光景は目にしていなかった。大体は、凪達と一緒に負傷兵の介護ばかりだったし。

「立場が上になればなるほど、こうしたものは見られないでしょう。逆に、一兵卒として戦っている身分なら、いつもこうしたものにあり付けられる」

「関羽はあるの?」

「昔は、ですけどね」

今はないか。そりゃそうか。

「…………くしゅっ」

朱里が、またくしゃみをした。

「んー……」

動いている間は良かったが、終わってのんびりすると途端に冷えるものだな。汗だってかいたし。いつもなんだかんだで動いていたから……。

「……いいや、移動するぞ」

俺は寄りかかっていた身体を起こして、明かりがある町の方へと動く。

「え、良いんですか?」

「いいよ。来ない方が悪い。それに……どれくらい掛かるか聞かなかった俺も俺だし、いつまでも待つと言った訳でもない」

「屁理屈ばかりだ……」

「男なんてそんなもんだよ」

「北郷殿限定の気もしますけどね」

俺が歩き出すと、三人もすぐ後ろに着いてきてくれる。

「ちなみに、身体を温める治療とかあるの?」

「あるにはあるが、使わない方がいい。自然体が一番さ」

「そっか」

華佗が言うならそうなんだろうな。



そうこうして、幾つかの曲がり角を曲がって町の大通りに出て。



パッと目に入る人間は、魏の人間か商人ばかりだ。屋台も動いているし……稼いでるっぽいね。

「あ、ほ、北郷殿……」

「本当に、関羽と一緒だ……」

驚いて距離を取る魏のみんなに、俺が笑顔で手を振る。

無害だって主張したいが、今は何を言ってもこの距離感は拭い去れないだろう。なら、無理なことはせずにじっくり時間を掛けた方がいい。

「おやおや、お兄さん良い子達連れてるね! どうだい、ウチの商品をお一つ!」

そんなことを考えていたら、商人の一人に声を掛けられた。

「ん、どれどれ」

売っているのは……布? 服でも作れっていいたいのか?

「とはいってもな」

思わず苦笑する。自分で布を購入し、服屋に持っていって恋人のために専用の服を卸してもらう……ということをしている奴も居るには居るが。

さすがに俺には、それだけの余裕も時間もないし…………いや、待てよ?



「……ふむ」



俺は、先程からの光景を思い出す。

すると……そうだな。

「黄……いや、白かなぁ? もう一つは赤で良いと思うけど……」

ごそごそと色々品定めを始めた。後ろの三人が頭の上に?マークを浮かべているのが分かる。

「一刀、何をしているんだ?」

「プレゼント選びだよ」

「ぷれぜんと?」

…………うん、これがいいな。暖かそうだし。

「主人、これとこれを………………あ」



そうだ、今、俺って手持ちないじゃん。



「あー…………」

まずいな。買う空気を出しておいて、今更金が無いってのは…………。

「いいですよ。幾らですか?」

「えっ?」

俺の気まずい空気をすぐに察した朱里が隣に来て、財布を取り出す。

「あ……いや、良いのか?」

「何かに使うんですよね? なら、買っておかないと」

俺の目的のために使う――ぐらいのニュアンスで言っている。いや、そうじゃないんだけど……。

「ま、いいか。お願いするよ」

「はいな♪」

「毎度っ!」

俺は赤と白の、長い布を購入した。安物だがそれでも羽毛で出来てるようで、少しふわふわしていて暖かい。

「で、何に使うのですか?」

関羽が興味ありげにこちらを見ている。

「んっとな。朱里、ちょっと動かないでくれ」

俺はまず、赤い布を二つ折りにしてから、朱里の正面から首に巻いてやる。

「んぅ?」

くるっと交差させて、片方を首と布の間を通して下ろす。

「な、なんですか、何してるんですか?」

首を絞められるとでも思ったのか、少し上擦った声を出されたが。

「俺の世界で、マフラーっていう……まぁ、首に巻いて暖を取る布があってな。同じような使い方が出来そうだったから」

張飛が似たような感じで巻いていた布もあるが……あれはファッションだろうな。寒いからつけてるような印象ないし。

「まふらぁ……え? え、あ……そ、そういう……」

少しゆとりを持たせて、もこもこしている感じを出して完了。

「うん、よく似合ってるよ。可愛いじゃないか」

「ん……え、と……」

意味が浸透してきたようで、顔を赤くして赤いマフラーに手を添える朱里。

「あ……ありがとう、ございます。確かに、あったかいです」

「そりゃ良かった」

そして、俺は関羽に向き直る。

「なっ……何か、嫌な予感がするのですが」

思わず後ずさる関羽だが、俺は笑顔で返す。

「俺の頼みは聞いてくれるんだろ?」

「ぐっ……そ、そういう問題ではっ! それに私は別に寒気など感じて、ちょ、ちょっと、北郷殿っ?」

俺は関羽の正面に立って、同じように前から後ろに回す。

「……んー」

関羽のイメージって、可愛いよりも綺麗、凛々しいって感じなんだよな。可愛さも当然あるんだけどさ。

武将ってのもあるし…………靡かせた方がいいかな。

俺は前に持ってきたマフラーの端をもう一度交差させて、それを首とマフラーの間を通した。そして、一緒に巻かれてしまった長く流麗な黒髪を、そっと外に出してやる。

「んっ……しゅ、朱里とは、違う巻き方……なんですね」

「動くことも多いし、その分の見栄えが良いようにって思ってさ。それに、首元が盛り上がっていると、下が見難いだろ?」

「それは、まぁ……」

これで、走ったりするとマフラーが動いて……まぁ、格好良いんじゃないだろうか。こういう時に、女の子に使って良い言葉かどうかは迷うが。

「…………その、ありがとうございます」

朱里以上に関羽の顔は真っ赤だ。こういったプレゼントは慣れてなさそうだしな。

「女の子だし、寒いままじゃなって思ってさ。華佗は大丈夫だろ?」

「辛くなったら自分でなんとかするよ、俺は」

「そう言うと思った」

言って、俺は歩き始める。

見ると……周りの兵士にかなり見られていたが、やっぱり近付いて来る様子はないな。今の光景だけ見れば、この子達を怖がることはないって分かると思うんだが。

「あ、ああああのっ」

ちょこちょこと走ってきて、俺の隣に並ぶ朱里。

「あ、ありがとうございます! これ、大事にしますね。すごく、すごく嬉しいですっ」

手をぱたぱたさせて、全身で喜びを表現してくれる。

「そんなに喜んでくれるなら、もっと格好いいやり方でやりたかったな」

お金を朱里に出してもらったんじゃ、どうにも決まらない。

「全くです。変に格好つけようとするから……」

ぶつくさ文句を言いながら、後ろに居る関羽。

「でも、似合ってて良かったよ」

振り返って見てみるが、やはり格好良いし可愛い。

「…………か、感謝していない、とは言っていません」

視線を逸らして言う。こういう部分が可愛らしいと思うんだがね。

そのまま少し、気分を楽しみつつ歩きながら。

「町の被害は……そんなに出ていませんね」

朱里が嬉しそうにマフラーを撫でたり摘んだりしつつ、俺の隣に並んだまま言う。

「野戦が主だったんだろ? そうもなるんじゃないか?」

「んー……とはいっても、ですけど」

少し不思議そうに町並みを見ている。

確かに殆ど荒れてはいない。市街戦が無かった訳じゃないと思うんだが……。

「馬に乗れば強いでしょうが……街中では自由に動けないでしょう」

会話を聞いていた関羽が口を挟む。

「馬でってこと?」

「はい。だから、野戦で決めようとした」

「そっか……でも、決まらなかった。そして市街戦じゃ馬に乗れないから、本来の実力も発揮できず……」

「俺達相手に人数を割いた、という部分もあるんじゃないか?」

「指揮系統がもし屋敷にあったままだったとしたら、そうですね。影響は大きかったと思います」

涼州の連中、馬術はすごいって話はよく聞くが、それ以外は……馬超ぐらいか? 猛将って言われているのは。

他にも居るには居るんだろうが、目立ってなかったしな……三姉妹のステージに釘付けだったのかね。

「ん……」

関羽が足を止めた。

それに気付いた俺達も、足を止める。

「どうした?」

「屋敷の方から……何か来ますね。氣を纏っている……のか?」

「氣?」

氣って言うと……思いつくのは一人だが。

と、思ったら。

曲がり角から勢いよく現れたのは…………。

「凪?」

少し離れた場所にいるから、今の声が届いたわけじゃないだろうけど。でも、反応するようにこっちを見て。


俺が居るって分かったって顔をして。


すぐさまこちらに向かってくる。


「隊長っ!!」


その勢いのまま、抱きつかれた。なんとなくそういう感じがして心構えはしていたので、俺は勢いを殺すように一回転しながら抱きとめる。

「凪、危ないじゃないか」

「隊長、隊長……よく、よくご無事で!」

周りに多くの人が居るというにも関わらず、潤んだ瞳でこちらを見上げてくる。

「あぁ、一応元気だよ。凪も、いつも通りっぽいな」

ぎゅっ――と、一度強く抱きしめて、頭を撫でた後、離してやる。だが、不安なのか凪は俺の腕を掴んだままだ。

「は、はい……自分は、この通りです。真桜や沙和も近くには居ませんが、無事にやっています」

「そっか、良かった。俺がいなくて大丈夫だったか?」

力強く頷いて、しかし不安そうな表情を作って。

「色んな人の助けを得て、なんとかここまでやって来れました。ですが、自分達は隊長が居てこその部隊です。一日でも早い帰参を、待ち望んでいるのですが……」

「あぁ、大丈夫だよ。無事にこうして合流できただろ? このまま一緒にみんなと帰る予定さ」

「ほ、本当ですか!!」

凪にしては珍しいくらい、感情が表情に乗っている。それだけ、大変で……俺のことを待っていてくれたのかな。

「あぁ。幾つか紆余曲折あったけど、魏にちゃんと戻れるから、安心してくれ」

「それは、本当に良かった……ですが、紆余曲折……?」

俺の腕を掴んだまま、凪は関羽と朱里を見る。

「初めまして。諸葛亮と言います」

「…………あぁ」

朱里がにこやかに挨拶するが、凪は俺と会話していた時とは打って変わっての仏頂面だ。

「しばらく、魏……基、一刀さまのところでお世話になります。色々とご迷惑を掛けると思いますが、よろしくお願いしますね」

その言葉に、周りの兵士がざわついた。

「や、やっぱり、着いてくるのか……」

「あれが諸葛亮なのか……ということは、関羽も……?」

一緒に居るのが半信半疑という感じだったが、今の朱里の言葉で一気に疑惑の方に傾いてしまったかな。

「何故、魏に? それと、隊長とはどういう関係だ?」

凪が朱里を睨みつける…………が、朱里は飄々とした態度だ。

「私と一刀さまは、限定的ではあるものの主従です。主が困っているのなら、それを助けるのか臣下の役目では?」

誇らしげに、マフラーをふわふわ触りつつ言う。

「主従……っ!?」

さっきよりも周りが騒がしくなった。

しかし、言っていることがあながち間違いでもないのが困るんだよなぁ。

「しゅ、主従とはどういう意味だ! 隊長は魏の人間だぞ!」

「国が違ったら、主従関係を結んだらいけないんですか?」

「そんなの…………!」

「ダメ、と断言出来るものでもないですよね。それに……これは私と一刀さまの問題なので。詳しく知りたいなら、一刀さまご本人にどうぞ。私の口から話せること……殆ど、ないんですよ」

苦笑いしながら言う。

凪が俺を見るが、俺も首を横に振った。

「敵じゃない。魏の味方でもないがな。ただ、俺の味方ではある。その繋がりだけ考えたら、魏の行動に手を貸すこともあるさ」

「で、ですが、隊長……信用出来るのですか? この二人は、多くの味方を……!」

「そこはお互い様だ。それを割り切れ、とは言わないが……ただ、この二人の力は必要になる。なるから、連れてきた。色々と身を削ってね」

文字通り、今この瞬間も生命を削ってるんだ。華佗のおかげで表に出さなくてもいいぐらいのダメージで済んでいるが、永続でダメージが入り続けるってのはやっぱり辛いものがある。

「し、しかしっ!」

「戦力が増えるのはいいことだろ? また俺の周りの噂が酷くなるのを心配してくれているのなら……それは、すまないとしか言えないけどさ」

「隊長……」

しゅん、と子犬のように項垂れる。

俺は凪の肩に手を置いて、

「まぁ、何かあったら助けてくれ。頼って……いいんだろ?」

「そ、それは勿論です!」

ばっと顔を上げて、キッと二人を睨む。関羽は涼しい顔で、朱里は苦笑いが止まらない様子だ。

「隊長の身に何かあったら、お前達を許しはしない」

「そう言うのであれば、しっかり守るのだな。とはいっても、どうしようも無くなれば私がお守りするが」

「隊長をお守りするのは我々の役目だ!」

「なら、せいぜい努力しろ。前回とは違って、私は魏には従わない。部隊を動かすのはお前達なのだから、ちゃんとやれるのなら北郷殿に危害が及ぶことはないだろう」

「貴様……ッ!」

「……一刀さま、好かれてますねー」

律儀に付き合う関羽に、もうそろそろ面倒だという空気を出す朱里。

やれやれ……だったら自分で追っ払えばいいだろうに。俺に任せた方が、凪の心象はよくなるとはいえさ。

「……その辺にしておけ。凪も、まだまだ仕事があるんじゃないか?」

「うっ……それは、はい」

上げていた肩を落として、俺を見て。

俺はそんな凪に、笑顔を返す。

「こうして仕事を放ってでも俺に会いに来てくれて、嬉しかったよ。俺はこの通りで、これからは魏に戻って一緒に仕事が出来るから。心配で来てくれたんだろうけど、安心してくれ」

「隊長……」

少し、顔を赤くして頷いて。

「自分の心配は杞憂だったようで、安心しました。仕事に戻ります。では」

「あぁ、頑張ってな」

一礼して、「あ」と言って、凪が顔を上げて、

「魏の本陣は、ここから真っ直ぐの城門を出て少し歩いたところにあります。華琳さまもそちらにいらっしゃるかと。それでは」

言って、すぐに走り去る。

「楽進さん……実直で真面目な方ですね」

少しだけ離れていた朱里が、また俺の隣にまでやってきてそう言った。

「知っている通りだ。そう言いたいんじゃないか?」

俺の言い返しに、朱里は少し不満そうに唇を尖らせた。

「情報は知っていますけれど、そういう言い方ってないと思いますっ」

「そりゃすまなかった。でも、知っていることは知っているって言っていいよ。魏の戦力面で知らないことなんて殆ど無いだろ」

「どうでしょうねー。今度そこら辺も、一刀さまと詳しく話し合ってみたいですね」

「魏に戻れば、そんなことを言い合える余裕も生まれるだろうさ」

同じ話ばかりしていても、息が詰まるだけだしな。

「それで、どうする? 買い物をするのもいいが、曹操の居場所は分かったぞ」

「そだね。一度、そこに向かおうか」

華佗に促されて、俺は大通りから城門へとそのまま歩く。

にしても……。

「……? どうかしましたか?」

「いや……」

チラッと関羽を見る。すぐに気付いて、不思議そうにこちらを見るが。

「関羽さ……なんか、強くなったよな」

「……はぁ。そう、ですか?」

「何となくね」

前から強いとは思っていた。

思っていたんだが……屋敷での戦いでもそうだが、朱里の予想を上回る性能を発揮したり、町の喧騒がある中で遠くから近付いて来る凪の足音と氣を感知したり……どうにも、性能が上がっている気がするな。

「……知っているよりも、強い……ですか?」

「そんな風に見えた?」

「…………自覚のようなものは、あるので」

自覚?

足を止めて、身体ごと関羽に振り返る。朱里も気になるのか、首を傾げていた。

「覚えのようなものが?」

「……上手く、言い難いのですが」

「分かる範囲で、教えて欲しいです。今後、愛紗さんの動きを想定するのに、誤差はなくしておきたいですし」

「自分の予想を上回れたことが、悔しかった?」

「嬉しい誤算ですけどね。でも、そのせいで他の計画に支障が出ても嫌なので」

「ふむ」

関羽がどうしようか――と言った空気を、マフラーを触りながら出す。



出していた、が。



「…………?」

関羽が、俺の肩越しに何かを見ているようだ。

再び振り返ると……正面から、飴を舐めながら歩いてきた奴が居た。



「おや? おやおやー、お兄さんですか~?」



「ここで、お前が来るか」



これまた、当然久しぶりだが――――風が、のそのそと現れた。

歩数にして五歩ぐらいのところで、足を止める。

「あぁ。久しぶりだな」

「えぇ、ほんとですね~。こんなところに居るなんて、驚きですよー」

驚きって……ほんとか? 軍師の風が、用もなくこんなところを一人でほっつき歩いていて良い訳が無い。

だとするなら、全部分かっていると思うんだが……そんなことを口にして。

「……ま、話は歩いてたら勝手に耳に入ってきましたが、関羽さんと華佗さんもお元気そうで。後は……」

案の定じゃないか。

そして……じっ……と、風が朱里を見る。

「初めまして、諸葛亮と言います。私事ですが、しばらく一刀さまのところでお世話になるので、よろしくお願いします」

特に動じず、朱里は笑顔で応対するが。

「…………ふーん、へーへー、ほーほー」

しばらく見ていたかと思うと、梟みたいな声を出して。

「あ、程昱といいますー。どうぞよろしくー」

口調は優しいが、風の目は厳しく睨んだままだ。

「酷い顔をしてるぞ」

「お兄さんがおサボりしていたせいで、色々大変なんです。暇なら手伝ってくださいよ」

何言ってんだ、みたいに言われる。

「サボりたくて、サボってた訳じゃないんだけどな……」

「はいはい、そういう言い訳は結構ですのでー。わざわざ探しに来たんですから、さっさと本陣に戻りますよ~」

「さっき、居るとは思ってなかったとか言ってなかったか?」

「…………」

「……風?」

「…………zzz」

おーい!

「ここで寝るな。風邪引くぞ」

近付いて、軽く頭を小突く。

「おぉっ?」

「サボっていいのか?」

「戯言は寝てる時だけにしてください」

「だってさ……あぁ、こういう奴なんだよ」

俺は朱里に言う。

「変わった人ですね……だから、変わった策を思いつく」

「いえいえ、諸葛亮さんには敵いませんよー」

「あはは……」

何か言いたそうな朱里だったが、敢えて口にはしていないようだ。

「変わらんな、程昱」

「華佗さんこそ。その暑苦しい感じは健在ですねー」

でも、と風は付け加えて。

「……ご無事で、何よりでした」

そう、心の底からの笑顔を見せてくれた。それは華佗だけじゃなく、俺にも言っているようだ。

「お互い様だよ、それは」

「官渡以来だからな。しかし、そう言うお前も相当無理をしてきただろう。後で看てやる」

「おぉ? よろしいんですかー?」

「構わないよ」

言って、チラリと俺も見て。

……華佗の中で、俺は当然だが、多分風も別格なんだろう。元々は、俺と華佗と風の三人で始めたような関係だからな、これ。

それに、風も華佗にこう言われても抵抗しないしな。なんだかんだと警戒心が強いのが風だけど……素直に受け入れてるのはそれなりの信頼関係がある証拠だ。

「…………ふむ」

「元々、この三人はこういう感じだ」

朱里が俺達三人を吟味するように見ているのを見て、関羽が補足するように言った。

「変?」

「独特な空気を持っているのは、前に居た時も感じていました。今なら、その理由も少しは分かりますが……」

「え? そういう関係なんですか?」

驚いて、朱里が風を見る。

「やっぱりそっち関係ですか。風が後日的な存在だとしたら……諸葛亮さんは、現実的な存在なんですかね」

「後日的……?」

朱里の目が一気に細まる。

それを見て、風が気を良くしたように口元に手を当てて笑い、

「あらあら~、まだあんまり知らないんですね~」

「煽るなよ。口論するのはいいが、喧嘩はやめてくれ」

「あらま、それは残念」

知っている情報量で言えば、朱里の方が圧倒的に知っているだろう。

ただ、役割としては風の方が確立されている。朱里の存在は俺が決められるものでもないし、朱里が自分でどうにかして足場を固めるしかない。

「程昱さんがいるなら、私は必要なかったんじゃないですかね……」

「ん~、どうでしょうねー。風は風で殆どなーんにも知らないですし。信じてもらえるかどうか分かんないですけどね。それに……」

風が俺を見る。

「本当に必要がないなら、連れてこないでしょうしね……それとも、必要はないけど連れてこなきゃいけない理由でも出来たんですか?」

「ご想像にお任せするよ」

相変わらず聡い。朱里も表情を元に戻したが、今の風の台詞には考えさせられるものがあったはずだ。

「…………程昱か」

関羽がそう呟く。

関羽も関羽で、あの時と状況が違う。風がこっち側の人間だってことには気付いているだろう。

ただ、風がどの程度まで食い込んでいるのかは二人には分からない。華佗は限りなく俺の隣に居るが、その分風の立ち位置に靄が掛かってしまっている。

実際は本当に殆どのことを知らないんだけどな……核心だけは知っているが、これからの過程や今までの経緯は何も。知らないなりに調べて、状況把握だけでそれらしいことを言ってくるだけで。

そのそれらしいことも、結構当たっていたりするから侮れないんだけど。

「まーまー、積もる話はありますが、これぐらいにして行きましょうか。華琳さまが呼んでいますので」

「華琳が? 先にそれを言えよ」

「西門に居なかったのはお兄さんのほうじゃないですかー。どこ行ったのかなって思ってぐるぐる回ってたら正面に居たので、こうして会いに来たのに。なんて言い草ですか」

あぁ、こいつを迎えに寄越したのか。

「風が歩くのが遅いからだな。結構待ってたんだぜ」

「大人しく待っていればいいのに、堪え性の無い男ですよ、お兄さんは」

「俺と手を繋ぎに来た風の台詞とは思えないな」

「んぐっ……それをここで言いますか」

本当にバツが悪そうな顔をする。

「……結局、一刀さまが優位なんですね」

なんて、朱里が呟いて。

「お兄さん相手に同列に居るのは華琳さまぐらいじゃないですかねー」

「あ、じゃあ曹操さんに加えて、桃香さまも付け加えておいてください」

「ほう……」

浮気? って感じで首を傾げられるが。

「限りなく面倒ではあるよ。ただし、あの子の能力を根本から理解出来る人間が、この世にはいない。だから、安心していられる」

「それはまた孤独なお方なことで」

「桃香さまが、孤独……」

関羽が言うが、それはもう分かっていることじゃないだろうか。

それを言うなら華琳だってそうだ。袁紹や孫策だってそうなるだろう。王って奴には、それ相応の独自の孤独が付き纏う。

その見えない孤独に各人が勝手な幻想を抱いて付き纏うのが王国というものだ。こんなこと、華琳に言ったらなんて言われるか分からないけどな。

「ほらほら、早くいきましょーよー」

「雑談する割には急かすね」

「関羽さんがいたんだなーって思いまして。春蘭さんが結構大変なんです」

「春蘭が?」

関羽絡みで……?


なんとはなしに嫌な予感を覚えた時。



後編へ続く


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