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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第73話 

あの想いと共に 


第73話


「くしゅっ」

朱里が、可愛いくしゃみをする。

「大丈夫か?」

「んゆ……は、はい。少し、肌寒いですね」

朱里が両肩を抱いて、軽く身震いする。

多少とはいえど、涼州は蜀に比べて北の方だしな……。

時刻は月の位置からして、深夜。吐く息が白いって訳じゃないが、それでも適温かと言えば、それよりは多少下回ると思う。

「そうですね。体調管理はしっかりしないと」

言う関羽は大丈夫そうだ。



俺達はあれから、そのまま西門の前で迎えを待っていた。

近くに魏の兵士もいたが、色々と任務があるようで出たり入ったりだ。その度に一瞥されて驚かれるのだが、話し掛けられはしなかった。

そうこうしてただ待ちぼうけを食らい続けて。ぼんやりと辺りを観察しているのだが。

戦が終わって興奮も冷めやまぬのか、戦後処理なども相まってなのか、町はまだ起きていた。


「こんな日だ! 大安売りだよー!!」


「ほらほら、見てってよ魏の兵隊さん! 今なら安くしとくよ!」


なんて声が、少し遠くから聞こえてくる。見ると、夜も遅いというのにまだまだ町の光が強い。

「敵兵に売る商人か」

「さすがに、生まれながらの涼州の民は商売なんてしていないと思いますが。行商人などになると、こうした戦が終わった直後は捌き時でしょうね。気が緩んでいる人が多いので」

「人の出入りが激しい場所だからこその光景……かな」

俺はいつも戦後処理に追われていたというのもあり、あまりこうした光景は目にしていなかった。大体は、凪達と一緒に負傷兵の介護ばかりだったし。

「立場が上になればなるほど、こうしたものは見られないでしょう。逆に、一兵卒として戦っている身分なら、いつもこうしたものにあり付けられる」

「関羽はあるの?」

「昔は、ですけどね」

今はないか。そりゃそうか。

「…………くしゅっ」

朱里が、またくしゃみをした。

「んー……」

動いている間は良かったが、終わってのんびりすると途端に冷えるものだな。汗だってかいたし。いつもなんだかんだで動いていたから……。

「……いいや、移動するぞ」

俺は寄りかかっていた身体を起こして、明かりがある町の方へと動く。

「え、良いんですか?」

「いいよ。来ない方が悪い。それに……どれくらい掛かるか聞かなかった俺も俺だし、いつまでも待つと言った訳でもない」

「屁理屈ばかりだ……」

「男なんてそんなもんだよ」

「北郷殿限定の気もしますけどね」

俺が歩き出すと、三人もすぐ後ろに着いてきてくれる。

「ちなみに、身体を温める治療とかあるの?」

「あるにはあるが、使わない方がいい。自然体が一番さ」

「そっか」

華佗が言うならそうなんだろうな。



そうこうして、幾つかの曲がり角を曲がって町の大通りに出て。



パッと目に入る人間は、魏の人間か商人ばかりだ。屋台も動いているし……稼いでるっぽいね。

「あ、ほ、北郷殿……」

「本当に、関羽と一緒だ……」

驚いて距離を取る魏のみんなに、俺が笑顔で手を振る。

無害だって主張したいが、今は何を言ってもこの距離感は拭い去れないだろう。なら、無理なことはせずにじっくり時間を掛けた方がいい。

「おやおや、お兄さん良い子達連れてるね! どうだい、ウチの商品をお一つ!」

そんなことを考えていたら、商人の一人に声を掛けられた。

「ん、どれどれ」

売っているのは……布? 服でも作れっていいたいのか?

「とはいってもな」

思わず苦笑する。自分で布を購入し、服屋に持っていって恋人のために専用の服を卸してもらう……ということをしている奴も居るには居るが。

さすがに俺には、それだけの余裕も時間もないし…………いや、待てよ?



「……ふむ」



俺は、先程からの光景を思い出す。

すると……そうだな。

「黄……いや、白かなぁ? もう一つは赤で良いと思うけど……」

ごそごそと色々品定めを始めた。後ろの三人が頭の上に?マークを浮かべているのが分かる。

「一刀、何をしているんだ?」

「プレゼント選びだよ」

「ぷれぜんと?」

…………うん、これがいいな。暖かそうだし。

「主人、これとこれを………………あ」



そうだ、今、俺って手持ちないじゃん。



「あー…………」

まずいな。買う空気を出しておいて、今更金が無いってのは…………。

「いいですよ。幾らですか?」

「えっ?」

俺の気まずい空気をすぐに察した朱里が隣に来て、財布を取り出す。

「あ……いや、良いのか?」

「何かに使うんですよね? なら、買っておかないと」

俺の目的のために使う――ぐらいのニュアンスで言っている。いや、そうじゃないんだけど……。

「ま、いいか。お願いするよ」

「はいな♪」

「毎度っ!」

俺は赤と白の、長い布を購入した。安物だがそれでも羽毛で出来てるようで、少しふわふわしていて暖かい。

「で、何に使うのですか?」

関羽が興味ありげにこちらを見ている。

「んっとな。朱里、ちょっと動かないでくれ」

俺はまず、赤い布を二つ折りにしてから、朱里の正面から首に巻いてやる。

「んぅ?」

くるっと交差させて、片方を首と布の間を通して下ろす。

「な、なんですか、何してるんですか?」

首を絞められるとでも思ったのか、少し上擦った声を出されたが。

「俺の世界で、マフラーっていう……まぁ、首に巻いて暖を取る布があってな。同じような使い方が出来そうだったから」

張飛が似たような感じで巻いていた布もあるが……あれはファッションだろうな。寒いからつけてるような印象ないし。

「まふらぁ……え? え、あ……そ、そういう……」

少しゆとりを持たせて、もこもこしている感じを出して完了。

「うん、よく似合ってるよ。可愛いじゃないか」

「ん……え、と……」

意味が浸透してきたようで、顔を赤くして赤いマフラーに手を添える朱里。

「あ……ありがとう、ございます。確かに、あったかいです」

「そりゃ良かった」

そして、俺は関羽に向き直る。

「なっ……何か、嫌な予感がするのですが」

思わず後ずさる関羽だが、俺は笑顔で返す。

「俺の頼みは聞いてくれるんだろ?」

「ぐっ……そ、そういう問題ではっ! それに私は別に寒気など感じて、ちょ、ちょっと、北郷殿っ?」

俺は関羽の正面に立って、同じように前から後ろに回す。

「……んー」

関羽のイメージって、可愛いよりも綺麗、凛々しいって感じなんだよな。可愛さも当然あるんだけどさ。

武将ってのもあるし…………靡かせた方がいいかな。

俺は前に持ってきたマフラーの端をもう一度交差させて、それを首とマフラーの間を通した。そして、一緒に巻かれてしまった長く流麗な黒髪を、そっと外に出してやる。

「んっ……しゅ、朱里とは、違う巻き方……なんですね」

「動くことも多いし、その分の見栄えが良いようにって思ってさ。それに、首元が盛り上がっていると、下が見難いだろ?」

「それは、まぁ……」

これで、走ったりするとマフラーが動いて……まぁ、格好良いんじゃないだろうか。こういう時に、女の子に使って良い言葉かどうかは迷うが。

「…………その、ありがとうございます」

朱里以上に関羽の顔は真っ赤だ。こういったプレゼントは慣れてなさそうだしな。

「女の子だし、寒いままじゃなって思ってさ。華佗は大丈夫だろ?」

「辛くなったら自分でなんとかするよ、俺は」

「そう言うと思った」

言って、俺は歩き始める。

見ると……周りの兵士にかなり見られていたが、やっぱり近付いて来る様子はないな。今の光景だけ見れば、この子達を怖がることはないって分かると思うんだが。

「あ、ああああのっ」

ちょこちょこと走ってきて、俺の隣に並ぶ朱里。

「あ、ありがとうございます! これ、大事にしますね。すごく、すごく嬉しいですっ」

手をぱたぱたさせて、全身で喜びを表現してくれる。

「そんなに喜んでくれるなら、もっと格好いいやり方でやりたかったな」

お金を朱里に出してもらったんじゃ、どうにも決まらない。

「全くです。変に格好つけようとするから……」

ぶつくさ文句を言いながら、後ろに居る関羽。

「でも、似合ってて良かったよ」

振り返って見てみるが、やはり格好良いし可愛い。

「…………か、感謝していない、とは言っていません」

視線を逸らして言う。こういう部分が可愛らしいと思うんだがね。

そのまま少し、気分を楽しみつつ歩きながら。

「町の被害は……そんなに出ていませんね」

朱里が嬉しそうにマフラーを撫でたり摘んだりしつつ、俺の隣に並んだまま言う。

「野戦が主だったんだろ? そうもなるんじゃないか?」

「んー……とはいっても、ですけど」

少し不思議そうに町並みを見ている。

確かに殆ど荒れてはいない。市街戦が無かった訳じゃないと思うんだが……。

「馬に乗れば強いでしょうが……街中では自由に動けないでしょう」

会話を聞いていた関羽が口を挟む。

「馬でってこと?」

「はい。だから、野戦で決めようとした」

「そっか……でも、決まらなかった。そして市街戦じゃ馬に乗れないから、本来の実力も発揮できず……」

「俺達相手に人数を割いた、という部分もあるんじゃないか?」

「指揮系統がもし屋敷にあったままだったとしたら、そうですね。影響は大きかったと思います」

涼州の連中、馬術はすごいって話はよく聞くが、それ以外は……馬超ぐらいか? 猛将って言われているのは。

他にも居るには居るんだろうが、目立ってなかったしな……三姉妹のステージに釘付けだったのかね。

「ん……」

関羽が足を止めた。

それに気付いた俺達も、足を止める。

「どうした?」

「屋敷の方から……何か来ますね。氣を纏っている……のか?」

「氣?」

氣って言うと……思いつくのは一人だが。

と、思ったら。

曲がり角から勢いよく現れたのは…………。

「凪?」

少し離れた場所にいるから、今の声が届いたわけじゃないだろうけど。でも、反応するようにこっちを見て。


俺が居るって分かったって顔をして。


すぐさまこちらに向かってくる。


「隊長っ!!」


その勢いのまま、抱きつかれた。なんとなくそういう感じがして心構えはしていたので、俺は勢いを殺すように一回転しながら抱きとめる。

「凪、危ないじゃないか」

「隊長、隊長……よく、よくご無事で!」

周りに多くの人が居るというにも関わらず、潤んだ瞳でこちらを見上げてくる。

「あぁ、一応元気だよ。凪も、いつも通りっぽいな」

ぎゅっ――と、一度強く抱きしめて、頭を撫でた後、離してやる。だが、不安なのか凪は俺の腕を掴んだままだ。

「は、はい……自分は、この通りです。真桜や沙和も近くには居ませんが、無事にやっています」

「そっか、良かった。俺がいなくて大丈夫だったか?」

力強く頷いて、しかし不安そうな表情を作って。

「色んな人の助けを得て、なんとかここまでやって来れました。ですが、自分達は隊長が居てこその部隊です。一日でも早い帰参を、待ち望んでいるのですが……」

「あぁ、大丈夫だよ。無事にこうして合流できただろ? このまま一緒にみんなと帰る予定さ」

「ほ、本当ですか!!」

凪にしては珍しいくらい、感情が表情に乗っている。それだけ、大変で……俺のことを待っていてくれたのかな。

「あぁ。幾つか紆余曲折あったけど、魏にちゃんと戻れるから、安心してくれ」

「それは、本当に良かった……ですが、紆余曲折……?」

俺の腕を掴んだまま、凪は関羽と朱里を見る。

「初めまして。諸葛亮と言います」

「…………あぁ」

朱里がにこやかに挨拶するが、凪は俺と会話していた時とは打って変わっての仏頂面だ。

「しばらく、魏……基、一刀さまのところでお世話になります。色々とご迷惑を掛けると思いますが、よろしくお願いしますね」

その言葉に、周りの兵士がざわついた。

「や、やっぱり、着いてくるのか……」

「あれが諸葛亮なのか……ということは、関羽も……?」

一緒に居るのが半信半疑という感じだったが、今の朱里の言葉で一気に疑惑の方に傾いてしまったかな。

「何故、魏に? それと、隊長とはどういう関係だ?」

凪が朱里を睨みつける…………が、朱里は飄々とした態度だ。

「私と一刀さまは、限定的ではあるものの主従です。主が困っているのなら、それを助けるのか臣下の役目では?」

誇らしげに、マフラーをふわふわ触りつつ言う。

「主従……っ!?」

さっきよりも周りが騒がしくなった。

しかし、言っていることがあながち間違いでもないのが困るんだよなぁ。

「しゅ、主従とはどういう意味だ! 隊長は魏の人間だぞ!」

「国が違ったら、主従関係を結んだらいけないんですか?」

「そんなの…………!」

「ダメ、と断言出来るものでもないですよね。それに……これは私と一刀さまの問題なので。詳しく知りたいなら、一刀さまご本人にどうぞ。私の口から話せること……殆ど、ないんですよ」

苦笑いしながら言う。

凪が俺を見るが、俺も首を横に振った。

「敵じゃない。魏の味方でもないがな。ただ、俺の味方ではある。その繋がりだけ考えたら、魏の行動に手を貸すこともあるさ」

「で、ですが、隊長……信用出来るのですか? この二人は、多くの味方を……!」

「そこはお互い様だ。それを割り切れ、とは言わないが……ただ、この二人の力は必要になる。なるから、連れてきた。色々と身を削ってね」

文字通り、今この瞬間も生命を削ってるんだ。華佗のおかげで表に出さなくてもいいぐらいのダメージで済んでいるが、永続でダメージが入り続けるってのはやっぱり辛いものがある。

「し、しかしっ!」

「戦力が増えるのはいいことだろ? また俺の周りの噂が酷くなるのを心配してくれているのなら……それは、すまないとしか言えないけどさ」

「隊長……」

しゅん、と子犬のように項垂れる。

俺は凪の肩に手を置いて、

「まぁ、何かあったら助けてくれ。頼って……いいんだろ?」

「そ、それは勿論です!」

ばっと顔を上げて、キッと二人を睨む。関羽は涼しい顔で、朱里は苦笑いが止まらない様子だ。

「隊長の身に何かあったら、お前達を許しはしない」

「そう言うのであれば、しっかり守るのだな。とはいっても、どうしようも無くなれば私がお守りするが」

「隊長をお守りするのは我々の役目だ!」

「なら、せいぜい努力しろ。前回とは違って、私は魏には従わない。部隊を動かすのはお前達なのだから、ちゃんとやれるのなら北郷殿に危害が及ぶことはないだろう」

「貴様……ッ!」

「……一刀さま、好かれてますねー」

律儀に付き合う関羽に、もうそろそろ面倒だという空気を出す朱里。

やれやれ……だったら自分で追っ払えばいいだろうに。俺に任せた方が、凪の心象はよくなるとはいえさ。

「……その辺にしておけ。凪も、まだまだ仕事があるんじゃないか?」

「うっ……それは、はい」

上げていた肩を落として、俺を見て。

俺はそんな凪に、笑顔を返す。

「こうして仕事を放ってでも俺に会いに来てくれて、嬉しかったよ。俺はこの通りで、これからは魏に戻って一緒に仕事が出来るから。心配で来てくれたんだろうけど、安心してくれ」

「隊長……」

少し、顔を赤くして頷いて。

「自分の心配は杞憂だったようで、安心しました。仕事に戻ります。では」

「あぁ、頑張ってな」

一礼して、「あ」と言って、凪が顔を上げて、

「魏の本陣は、ここから真っ直ぐの城門を出て少し歩いたところにあります。華琳さまもそちらにいらっしゃるかと。それでは」

言って、すぐに走り去る。

「楽進さん……実直で真面目な方ですね」

少しだけ離れていた朱里が、また俺の隣にまでやってきてそう言った。

「知っている通りだ。そう言いたいんじゃないか?」

俺の言い返しに、朱里は少し不満そうに唇を尖らせた。

「情報は知っていますけれど、そういう言い方ってないと思いますっ」

「そりゃすまなかった。でも、知っていることは知っているって言っていいよ。魏の戦力面で知らないことなんて殆ど無いだろ」

「どうでしょうねー。今度そこら辺も、一刀さまと詳しく話し合ってみたいですね」

「魏に戻れば、そんなことを言い合える余裕も生まれるだろうさ」

同じ話ばかりしていても、息が詰まるだけだしな。

「それで、どうする? 買い物をするのもいいが、曹操の居場所は分かったぞ」

「そだね。一度、そこに向かおうか」

華佗に促されて、俺は大通りから城門へとそのまま歩く。

にしても……。

「……? どうかしましたか?」

「いや……」

チラッと関羽を見る。すぐに気付いて、不思議そうにこちらを見るが。

「関羽さ……なんか、強くなったよな」

「……はぁ。そう、ですか?」

「何となくね」

前から強いとは思っていた。

思っていたんだが……屋敷での戦いでもそうだが、朱里の予想を上回る性能を発揮したり、町の喧騒がある中で遠くから近付いて来る凪の足音と氣を感知したり……どうにも、性能が上がっている気がするな。

「……知っているよりも、強い……ですか?」

「そんな風に見えた?」

「…………自覚のようなものは、あるので」

自覚?

足を止めて、身体ごと関羽に振り返る。朱里も気になるのか、首を傾げていた。

「覚えのようなものが?」

「……上手く、言い難いのですが」

「分かる範囲で、教えて欲しいです。今後、愛紗さんの動きを想定するのに、誤差はなくしておきたいですし」

「自分の予想を上回れたことが、悔しかった?」

「嬉しい誤算ですけどね。でも、そのせいで他の計画に支障が出ても嫌なので」

「ふむ」

関羽がどうしようか――と言った空気を、マフラーを触りながら出す。



出していた、が。



「…………?」

関羽が、俺の肩越しに何かを見ているようだ。

再び振り返ると……正面から、飴を舐めながら歩いてきた奴が居た。



「おや? おやおやー、お兄さんですか~?」



「ここで、お前が来るか」



これまた、当然久しぶりだが――――風が、のそのそと現れた。

歩数にして五歩ぐらいのところで、足を止める。

「あぁ。久しぶりだな」

「えぇ、ほんとですね~。こんなところに居るなんて、驚きですよー」

驚きって……ほんとか? 軍師の風が、用もなくこんなところを一人でほっつき歩いていて良い訳が無い。

だとするなら、全部分かっていると思うんだが……そんなことを口にして。

「……ま、話は歩いてたら勝手に耳に入ってきましたが、関羽さんと華佗さんもお元気そうで。後は……」

案の定じゃないか。

そして……じっ……と、風が朱里を見る。

「初めまして、諸葛亮と言います。私事ですが、しばらく一刀さまのところでお世話になるので、よろしくお願いします」

特に動じず、朱里は笑顔で応対するが。

「…………ふーん、へーへー、ほーほー」

しばらく見ていたかと思うと、梟みたいな声を出して。

「あ、程昱といいますー。どうぞよろしくー」

口調は優しいが、風の目は厳しく睨んだままだ。

「酷い顔をしてるぞ」

「お兄さんがおサボりしていたせいで、色々大変なんです。暇なら手伝ってくださいよ」

何言ってんだ、みたいに言われる。

「サボりたくて、サボってた訳じゃないんだけどな……」

「はいはい、そういう言い訳は結構ですのでー。わざわざ探しに来たんですから、さっさと本陣に戻りますよ~」

「さっき、居るとは思ってなかったとか言ってなかったか?」

「…………」

「……風?」

「…………zzz」

おーい!

「ここで寝るな。風邪引くぞ」

近付いて、軽く頭を小突く。

「おぉっ?」

「サボっていいのか?」

「戯言は寝てる時だけにしてください」

「だってさ……あぁ、こういう奴なんだよ」

俺は朱里に言う。

「変わった人ですね……だから、変わった策を思いつく」

「いえいえ、諸葛亮さんには敵いませんよー」

「あはは……」

何か言いたそうな朱里だったが、敢えて口にはしていないようだ。

「変わらんな、程昱」

「華佗さんこそ。その暑苦しい感じは健在ですねー」

でも、と風は付け加えて。

「……ご無事で、何よりでした」

そう、心の底からの笑顔を見せてくれた。それは華佗だけじゃなく、俺にも言っているようだ。

「お互い様だよ、それは」

「官渡以来だからな。しかし、そう言うお前も相当無理をしてきただろう。後で看てやる」

「おぉ? よろしいんですかー?」

「構わないよ」

言って、チラリと俺も見て。

……華佗の中で、俺は当然だが、多分風も別格なんだろう。元々は、俺と華佗と風の三人で始めたような関係だからな、これ。

それに、風も華佗にこう言われても抵抗しないしな。なんだかんだと警戒心が強いのが風だけど……素直に受け入れてるのはそれなりの信頼関係がある証拠だ。

「…………ふむ」

「元々、この三人はこういう感じだ」

朱里が俺達三人を吟味するように見ているのを見て、関羽が補足するように言った。

「変?」

「独特な空気を持っているのは、前に居た時も感じていました。今なら、その理由も少しは分かりますが……」

「え? そういう関係なんですか?」

驚いて、朱里が風を見る。

「やっぱりそっち関係ですか。風が後日的な存在だとしたら……諸葛亮さんは、現実的な存在なんですかね」

「後日的……?」

朱里の目が一気に細まる。

それを見て、風が気を良くしたように口元に手を当てて笑い、

「あらあら~、まだあんまり知らないんですね~」

「煽るなよ。口論するのはいいが、喧嘩はやめてくれ」

「あらま、それは残念」

知っている情報量で言えば、朱里の方が圧倒的に知っているだろう。

ただ、役割としては風の方が確立されている。朱里の存在は俺が決められるものでもないし、朱里が自分でどうにかして足場を固めるしかない。

「程昱さんがいるなら、私は必要なかったんじゃないですかね……」

「ん~、どうでしょうねー。風は風で殆どなーんにも知らないですし。信じてもらえるかどうか分かんないですけどね。それに……」

風が俺を見る。

「本当に必要がないなら、連れてこないでしょうしね……それとも、必要はないけど連れてこなきゃいけない理由でも出来たんですか?」

「ご想像にお任せするよ」

相変わらず聡い。朱里も表情を元に戻したが、今の風の台詞には考えさせられるものがあったはずだ。

「…………程昱か」

関羽がそう呟く。

関羽も関羽で、あの時と状況が違う。風がこっち側の人間だってことには気付いているだろう。

ただ、風がどの程度まで食い込んでいるのかは二人には分からない。華佗は限りなく俺の隣に居るが、その分風の立ち位置に靄が掛かってしまっている。

実際は本当に殆どのことを知らないんだけどな……核心だけは知っているが、これからの過程や今までの経緯は何も。知らないなりに調べて、状況把握だけでそれらしいことを言ってくるだけで。

そのそれらしいことも、結構当たっていたりするから侮れないんだけど。

「まーまー、積もる話はありますが、これぐらいにして行きましょうか。華琳さまが呼んでいますので」

「華琳が? 先にそれを言えよ」

「西門に居なかったのはお兄さんのほうじゃないですかー。どこ行ったのかなって思ってぐるぐる回ってたら正面に居たので、こうして会いに来たのに。なんて言い草ですか」

あぁ、こいつを迎えに寄越したのか。

「風が歩くのが遅いからだな。結構待ってたんだぜ」

「大人しく待っていればいいのに、堪え性の無い男ですよ、お兄さんは」

「俺と手を繋ぎに来た風の台詞とは思えないな」

「んぐっ……それをここで言いますか」

本当にバツが悪そうな顔をする。

「……結局、一刀さまが優位なんですね」

なんて、朱里が呟いて。

「お兄さん相手に同列に居るのは華琳さまぐらいじゃないですかねー」

「あ、じゃあ曹操さんに加えて、桃香さまも付け加えておいてください」

「ほう……」

浮気? って感じで首を傾げられるが。

「限りなく面倒ではあるよ。ただし、あの子の能力を根本から理解出来る人間が、この世にはいない。だから、安心していられる」

「それはまた孤独なお方なことで」

「桃香さまが、孤独……」

関羽が言うが、それはもう分かっていることじゃないだろうか。

それを言うなら華琳だってそうだ。袁紹や孫策だってそうなるだろう。王って奴には、それ相応の独自の孤独が付き纏う。

その見えない孤独に各人が勝手な幻想を抱いて付き纏うのが王国というものだ。こんなこと、華琳に言ったらなんて言われるか分からないけどな。

「ほらほら、早くいきましょーよー」

「雑談する割には急かすね」

「関羽さんがいたんだなーって思いまして。春蘭さんが結構大変なんです」

「春蘭が?」

関羽絡みで……?


なんとはなしに嫌な予感を覚えた時。


まぁ、そういうのは得てして当たるもので。


「兄ちゃんが居るって聞いたけど、西門に居なかったですね、春蘭さま」

「関羽も居るらしいが……あ奴ら、どこに行った…………のだ?」

雑踏の中から、ひょいと顔を現した春蘭と季衣。

その二人と目が合って。

なんか、時間が止まったようにみんながそれぞれ固まって。



「………………………………やぁ、久しぶり」



とりあえず、俺がなんか言わなければならないという使命感があって、苦笑しながら手を上げて、そう口にする。

「に……」

季衣が驚いたままの顔で、

「にいちゃあああああああああああああん!!」

バッ――と、その場から飛び掛るようにして俺の胸に飛び込んできた。

「むっ、ぐぉ……ッ」

凪のときよりも圧倒的な躍動感と衝撃だったが、なんとか取りこぼさずに済んで。

「ひ、久しぶりだな、季衣」

「うんっ、うんっ……兄ちゃん、兄ちゃんだぁ……っ」

泣きながら、俺の胸に顔を擦り付けて来る。

「季衣……」

妹に心配されるって、こんな感じなんだろうか? なんて思いながら。

俺はしばらく、季衣を抱き締めたまま、頭を撫で続けてやる。

「……北郷に、関羽か」

春蘭も驚いた顔をしたままこちらを見ながらそう言う。

「春蘭も……変わらずだな」

季衣は俺の身体をしっかりと抱き締めたまま、まだまだ離れそうにない。

「ふんっ……貴様も、生きていたのだな。てっきり劉備にやられたのかと思っていたぞ」

「俺を連れ去ったのは、理由があったからだったんだ。俺はそこら辺を上手く使って、脱出してきたのさ」

「そいつらを連れてか? 後、何故華佗もいる?」

「俺は官渡で逃げながら戦っていて、離れた場所で負傷していたんだ。だから、合流に時間が掛かっただけだよ」

「…………ふん」

信じてないって顔だな……。確かに、色々と変な意味で都合が良すぎるように見えるけれど。

「まぁいい。北郷、貴様これからどうするつもりだ?」

「うん? 魏に戻るつもりだよ」

「兄ちゃん、ほんと!?」

「あぁ、勿論」

季衣がようやく顔を上げてくれて、嬉しそうに頬を胸に摺り寄せてくる。あぁもう、可愛いなぁ。

「そうか。なら、私からはとやかく言わん。どうせ秋蘭が根掘り葉掘り聞くだろう。それより……」

珍しく妥当な判断だ……と思ったが。

「関羽……」

睨むように、春蘭が言う。

「どうし、ん?」

様子がなんか変だと思って聞こうとしたら、くいくいっと、袖が引かれる。見ると、風が俺の服の裾を掴み、渋い顔をして飴を舐めていた。

「どうした?」

他の奴に聞こえないように聞くと、

「まずいかもですよー。春蘭さん、かーなーり、関羽さんを目の敵にしているみたいですから」

「え、なんで?」

「官渡で、私に一度も勝ったことが無い~みたいなこと言ってたじゃないですか。あれがどうやら、時間が経って相当な立腹に繋がったようでして」

「あぁ……」

「あー……春蘭さま、結構気にしてたよ。私の方が絶対に強い! って」

関羽はただ事実を言っただけなんだろうけど、でもまぁ、確かに言われたらムカつくだろうな。

「どうかしたか?」

「私と勝負しろ、関羽!」

「…………は?」

見られていたから聞いた、みたいな関羽に対して、春蘭は瞬く間に武器を抜く。

「何を考えている?」

「はっきりさせたいと思っただけだ! 貴様と私、どちらが強いのかを!」

言って、豪気に構える春蘭。

関羽の目尻が、少し下がるが……。

「出来れば、こういった無駄な消耗は魏に戻ってからして欲しいんだけど」

間に挟まれている形になった、俺と風と朱里と季衣。ただ、朱里はさっさと端側に移動していった。華佗もそれに続く。

季衣も俺の身体から離れさせて、

「春蘭、止められないかな?」

「ボクとしては、春蘭さまに思いっきりやらせてあげたいけど……」

「そりゃそうか……んー、でもなぁ」

「これは誇りの問題だ、北郷! この私が蜀の将より弱いなどと……あり得ん!」

「色々端折って言ってるな、こいつ……」

「兵士の方々も、気になってはいたようですしね」

風がまた、俺にしか聞こえないように言う。その言い方だと、多分陰口と言うか……噂ぐらいのものなんだろうけど。でも、囁かれていたんだろう。

それは春蘭にとっては、プライドを傷つけられたに違いない。関羽が魏に居た時に手合わせと言う形で、訓練をしていたんだろうけど……訓練は訓練だ。戦闘とはまた、少し違う心持ちだろうし。

「どけっ、北郷! さぁ抜け、関羽!」

「あのさ……戦後処理がたくさんあるだろ? こんなことしている時間なんて無いんじゃないか?」

季衣が走ってって、春蘭の後ろまで移動する。そして、そこから俺に「兄ちゃん、お願い!」って意思が伝わってくるかの如く、手を合わせてぺこぺこ頭を下げてる。

「多くの部下が見ている。今以上に都合の良い時などない!」

「だからさ……」

季衣の気持ちは汲んでやりたいが……なんて言えば納得するかなぁ。春蘭はマジで全力でぶつかるつもりみたいだし。そうなると、関羽もただじゃすまない。春蘭も同様だ。

ここで猛将二人を消耗させる理由なんてない。春蘭の気持ちには申し訳ないけど……。

「…………はー」

だが少し間を置いた後、関羽が疲れた、というように嘆息して、マフラーを靡かせながら俺達の前に出た。

「すぐに済ませます」

言って、武器を構える。

「許可してないぞ」

「していただけませんか。少し……憤ってしまいまして」

首だけ振り向いた関羽の声には、分かりにくいが確かに怒気のようなものが含まれていた。

「思うところでも?」

「……華佗の言い分と同じですよ」

「華佗さん?」

風が俺が思った言葉を口にする。

華佗と同じ言い分…………?



「……………………あぁ」



少し、分かったかも。

俺は風の手を握って、朱里達とは逆側の端に移動する。

自然と屋台をやっていた主人達も少し移動し、丁度ギャラリーで円形を組むようにして場が出来上がった。

「良いんですか?」

「良いよ……口で言っても分からないのが春蘭だろうし。だから、武器で訴えるんだろ」

掴んでいた手を離そうとして――――逆に握り返された。

「ん?」

「お?」

なんでお前が不思議がるんだ?

……まぁいいや。握っていたいのか分からないけど、改めて握り返しておこう。

「…………むー」

朱里が細い目でこちらを見ているのが分かった。風は気付いてないようだが……これが狙いか? だとして、朱里を煽ることにどんな意味があるんだろうか。

「よく逃げなかったな、関羽!」

「逃げる理由もない。貴様こそ、戦後で疲れなどないだろうな? 後で言い訳にでもされたら敵わん」

とと、今はこの二人に集中しようか。

「誰がそのようなことを言うものか! 貴様こそ、北郷に現を抜かして腕が下がったなど抜かすなよ!!」

一気に振り上げて――勝負の号令もなく、春蘭が一気に距離を詰める。

「北郷殿に現か……」

そう呟いて、関羽は微動だにせず真正面から春蘭の攻撃を受け止めた。激高とも言える音が辺りに鳴り響くが……関羽はビクともしていない。

「全力で来い。分からせてやる」

「貴様、抜かしたな!」

春蘭がその場から猛攻を続ける。遠心力を生かした横薙ぎ、飛び上がっての唐竹割り、全身をバネにしての突き。

だが、関羽は一歩もその場から動かず、しかも難なくそれらをいなし続ける。

「何故攻撃してこない! やる気があるのか、貴様!」

「…………」



関羽が……ん? 今、俺を見たのか?



なんて、思ったのも束の間。

誰もが分かるぐらい、分かりやすく、関羽の全身に力が入ったのを、周囲の誰もが感じ取った。

「っ……!」

春蘭もすぐに反応し、数歩離れて――――だが、その数歩離れたと俺が認識した時にはもう、関羽は春蘭の目の前に居た。

勢いよく武器を振り下ろし、咄嗟に春蘭がそれを受け止めて……かと思いきや、関羽は身体を前に押し込ませて、春蘭の胸に掌打を一発。

「……くっ、ははっ、ハハハッ!!」

楽しくなってきた、と言わんばかりに、ダメージも気にせず春蘭が殴り返す――が。

「えっ?」

「なっ……」



一瞬、何が起こったのか……少なくとも、ギャラリーに居る人間には分からなかったんじゃないだろうか。



俺が今口に出来ることは、関羽が攻撃して、春蘭がカウンターをしようとしたら――――春蘭が、地面に仰向けに叩き付けられていた、というだけだ。



春蘭の目にも、驚きが見えて――――っ、まずい!!



「関羽、もういい、よせっ!!」

関羽が今持っている感覚が、俺には分かった。俺だけには。

しかし、静止も聞かずに、関羽は一瞬でくるりと武器を逆手に持ち、僅かな間硬直した春蘭の腹部に――武器を、真下におろして突き刺した。

「がっっっ!?」

「恵まれているよ、お前は」

すぐに抜いた――が、武器の柄で顎を上げさせる。刃から血が一気に伝って、春蘭の頬が春蘭の血で濡れていって。

それでも、関羽は春蘭の目を自分の目に合わせるように調整して言葉を続けた。

「だから、今のお前ではもう私には勝てない。恵まれた環境で、与えられ続けるお前に、飢餓と焦りしかない私……もう何もかもが違う。戦場で迷いがない、躊躇いなど無い……そう思って戦ってきたが、それでもまだまだ私は自分の心を制御しきれてはいなかった」

「なっ……が、んう……!」

腹を貫かれても攻撃しようとするところはさすがだったが、反攻に出た春蘭の武器を押し返すように弾き、春蘭の右腕を今度は突き刺した。地面に、縫い付けるように。

更に、無駄な抵抗をされないようにするためか、左肩を力強く踏み潰す。ゴキュッ! そういう、嫌な砕かれるような音が耳に入る。

「ぎっ、あっああああああああぁぁっ!!」

「人間が一番怖いと思っていた。でも……人間如きで苦戦するようでは、この先何にも勝てない。あの時、あの部屋で、私はそれをこれでもかと思い知らされた。その上、北郷殿は私の敵と来ている……こんな四面楚歌な状況で、お 前 如 き に 傷 を 負 っ て な ど ら れ ん」

冷徹に、見下ろして。

武器を抜いて、柄で春蘭の顔を一発殴って。

刃についた血を振り払って、こちらに戻ってくる。



最初、盛り上がっていたギャラリーも…………今じゃ、波が一切立たない湖のように沈黙している。



「あぁ、華佗。治してやってくれ。それも込みだった」

「…………あぁ」

華佗は少し関羽を見ていたが……結局何も言わずに、春蘭に近付いて鍼を突き刺す。眩い光と共に、春蘭の傷が一瞬で完治した。

「んっ……な、なにっ?」

春蘭が驚きつつも、呆然とした様子で上半身を起こす。

「疲れるから、あまりこういうことはさせるな」

ここまで強い力を、魏の面々に見せてないってのもある。そういう批判でもあったけど……。

…………華佗と、同じ面持ちか。

「問題がありましたか?」

飛び出した俺の傍に戻ってきて、なんてことなく聞かれるが……。

しかし、憤ったって、まさにそういうことだろうな。

…………華佗も、関羽に憤っていたし。結局、そういうことなんだ。

「事前に伝えてない、俺の失敗だよ。気にするな」

傍までやってきた関羽に申し訳なさそうに聞かれたので、そう返しておく。

「関羽……貴様……」

まだよく状況が飲み込めてない春蘭が、こっちを見てくるが。

「お前の負けだ、夏侯惇。もう……お前じゃ、私には勝てん」

「な……なんだとっ!」

ようやく状況が飲み込めたのか、すぐに立ち上がるが。

関羽が武器の切っ先を、春蘭に向けて言う。

「ここにいる全員が証人だ。それが望みだったのだろう、貴様は。それとも、再戦なんぞを望んで武人の面を自ら汚すか? それならそれで私は構わんが」

「ぐっ……くっ!」

言い返そうとしたが、周りの視線を見て……春蘭が、地面に武器叩き付ける。轟音が鳴り響き、大きな穴も開くが……あれだけの力を振るわれていたのに、関羽は難なくいなしていたのか。

「無駄な時間を取らせてしまいました。華佗もすまなかった。余分な力を使わせたな」

「構わん。だが、後で話がある」

「あぁ……北郷殿を見るに、何となく言いたいことは分かるがな」

「……ま、いいか」



“俺ら側”は、いつも通りだ。



問題は、春蘭だな。

俺は、俯いたまま歯軋りをしている春蘭に近付く。

「どうだった?」

「うぬぬぬぬ……なにがだ!」

「何がだろう? でも、自分で蒔いた種だよ、これ」

「くっそ……!」

本当に悔しそうだ。勝つつもりでいたんだろうが、ここまで大きな差があるとは思ってなかったんだろう。

現に俺だって、思ってなかったし……関羽以外の誰もがそうか。

「まぁ……さ。俺も関羽も諸葛亮も。このまま魏に入るつもりだ。仕返ししたいなら、機会は幾らでもあると思うよ。適当に頑張れ」

「関羽が? そういえば、何故お前と関羽が一緒にいるのだ?」

「ここで、それを言うのか……」

らしいっちゃ、らしいけどさ。

「後で、華琳から説明が入るよ。その時に聞いてくれ。華琳に呼ばれてるから、行かないと」

「華琳さまに!? 何故それを早く言わん!」

「聞く耳持たなかったのはそっちだろ……とにかく、そういうことだから。この場は君らに任せるよ」

見ると、季衣もすぐに傍に来ていた。

「負けちゃいましたね、春蘭さま……」

「う…………うむ。すまん、季衣。情けないところを見せた」

季衣には素直で殊勝なんだよな、こいつ。

だが、そんな春蘭を元気付けるように、季衣が笑顔を振りまく。

「でもでも、関羽さんも魏に来るっていうし! もっと強くなってやり返してやればいいんですよ! このままで終わる春蘭さまじゃないですもん!」

「む……」

一瞬、止まった春蘭だったが。

「そうだ……そうだな、その通りだ! 私が関羽如きに負けたままの将であるはずがない!」

ビッ! と関羽に指差して、

「今は見逃してやろう、関羽! 私はもっと強くなって、貴様に打ち勝つ! 首を洗って待っているんだな!」

「…………好きにしろ」

「言ったな! その言葉、覚えておけ! 華琳さまが待っているようだし……行くぞ、季衣」

「はい! 兄ちゃん、また後でね!」

「あぁ」

春蘭と季衣が去っていく。

それに連鎖するように、ギャラリーも少しずつ散っていった。

んで、華佗と朱里、関羽と風が俺の傍まで来る。

「お疲れ様でした、愛紗さん」

「別に……夏侯惇は、私の言っていたことは理解出来なかったようだな」

「それが春蘭だよ。難しいこと考えるよりも、何事もそこそこに流して考えずに戦う方が強いのさ」

「後に残らないのは、春蘭さんの良いところですよねー」

「普段はもう少し考えて欲しいって思うことが多いが、今回は助かったな」

おかげで、重くならずに済んだと言える。

「…………」

「…………? 何か?」

「いいや」

それに、関羽が今、どれくらい重く物事を捉えているのか……ってのも分かった。それも収穫と言えば収穫だったな。

でも、だ。

「さっきの話だけど」

随分と強くなっている――というか、もう前の世界と同じように考えられるような実力じゃない。

それぐらい……関羽が見違えていた。

「私が強くなって……という、お話ですか?」

「うん。何か、自覚があるんだろ?」

「……自覚、と言いますか」

そう、前置きして。

「便宜上、言い方が分からないので……北郷殿に負けたから、と言い替えますが。あの事件があってから、少しずつ……私の中で、考え方というか、意識がとにかく変わっていっているのが分かります」

「どういうことですか?」

朱里がすぐに追求する。

「無駄を徹底的に省いている……訳じゃないが。あれも、これも、何もかも。戦いにおいてはとにかく効率化を優先するようになってきている。こう受け止めれば衝撃が少ない、こうやれば確実に仕留められる、こうすれば、相手を確実に殺せる……今までもそうしてきていたが、そのやり方や対応そのものが甘かったと、戦う度に、武器を向けられる度に脳内を駆け巡って、修正しなければと思うのです」

逆刃の方を腕に挟んで、血を手袋で拭い取る。

「前に、北郷殿に力を与えられた時がありましたね? あのような状態に……近付いている、と言えば分かるでしょうか?」

劣化加速に……っ?

華佗が、俺を見てくる。頷くが……関羽、本当なのか?

「見えてはいても対応出来ない状況はあります。ただ、以前は出来なかったことが、僅かなズレの修正と……一つの心持ちで出来るようになってきている。そういう状態です。今なら……いや、それでもまだ私は呂布や北郷殿には遠い位置に居る。お二人には勝てずとも、せめて食らいつけるぐらいにならなければならない……だから、夏侯惇如き、簡単に屠れないようでは意味が無い」

言って、少し口元が隠れていたので、マフラーを掴んで下に戻す。

「速さとか、力とか……単純な話もありますが。でも、呂布と私、速度も筋力も然程の差はありませんでした。でも、実力の差は歴然……戦い方や感じ方の違いではあるだろうと思ってはいたのですが……一度切り替わり始めると、なるほどと思いますね」

冷静に、淡々と言葉を並べていく。

「以前も全力でした。今も同じように全力です。でも……全力の質が、上がってきているんですよ。今はそう、思ってください」

と、綺麗な微笑で締め括る。

「……と、すると。言葉にするのは少し難しいですかね?」

俺は今の話を聞いて、様々な危惧が脳内に浮かび上がっているが、朱里はそうでもないらしい。

「すまないな。口でどうこう分かりやすくは説明出来ない」

「そですか、分かりました。なら、これからの愛紗さんを見て、私の方で微調整することにします」

「手間をかけるな」

「いえいえ。頭を使うって、そういうことですから」

ね? って感じで朱里が風を見て。

「そですね~。いやはや、でも春蘭さんがあそこまでぼっこぼこにされちゃうなんて……華琳さまにどんな言い訳をするのか、今から楽しみですね」

したり顔で俺を見やがる。

「言い訳が必要ですか?」

なんで? って顔で関羽が見てきて。

ん~……言い訳というか、なんというか。

「魏の最強の将が、蜀の将に太刀打ちできないって現状を、どれだけ上手く伝えて重くならずに済ませるのか楽しみってことだよ」

「愛紗さん、蜀にいないとはいえど、魏の将は誰も勝てないってことになりますからね」

「一対一が全てじゃないだろう。特に、戦中はそうなることが稀だ」

「理屈はそうなんだけどね」

俺のような根っからの武官ではない奴には通じるだろうが、春蘭のような武に誇りを持っている奴には通じにくいだろうな。

「それに……一対一で、勝てるなら勝ちたいだろ?」

「それはまぁ……そうですが。でも、悲観的にはなりませんよ。夏侯惇も、鈴々と同じで直線的に物事を見すぎなのだ」

割り切ってらっしゃる。まぁ、最後に勝てればそれでいいのは確かだけど。



そこで、ふと関羽が城門の方を見た。



「……部隊が来ますね」

「部隊?」

関羽が急に言い出した。魏の本陣がある方を見ている。

見てみると……確かに、十数人の部隊を率いた稟がこちらに向かってきていた。

「よく気付くな、さっきから」

「気味が悪いようならやめますが」

「まさか。頼りにしているから、傍を離れないでくれよ」

「…………当たり前です」

今度は逆に、マフラーを上にあげて顔下半分を隠してしまう。照れた……のかね。

「揉め事があったというのは、ここか!」

「もうとっくに終わりましたよー、稟ちゃん」

「あ……風? 北郷殿も……」

あぁ、それで部隊を率いて様子を見に来たのか。騒がしかったもんな。

「久しぶり、郭嘉」

「……えぇ、そうですね。話は人伝に聞いていました」

飄々とした俺の視線と、郭嘉の厳しい視線が絡み合う。

「それは良かった。ここでの騒動だけど、ちょっと関羽と春蘭が諍いを起こしちゃってね。今はもう終わって収まったところだよ」

「春蘭殿が……? なるほど、関羽のことで。そうでしたか」

関羽を一瞥して、納得したように稟が言う。

「でも……風、あなた、随分と動きが早いのね」

「んー? 何がですかー?」

「華琳さまに言われて北郷殿を迎えに言ったのは知っているけれど……ついさっきのことでしょう? それとも、揉め事が気になって来たの?」

「あー……」

バツが悪そうな声を出す風。

ついさっきのこと……? 風は、結構俺を探して回ったとか言っていたが。

「程昱さんは、一刀さまの思考や行動を読んで、最初から屋敷に向かわずにこちらに来た……ということですか」

「え? そうなの?」

風が振り返って、飴で口元を隠しながら、

「むぅ……そういうこともあるかもしれませんね~」

「郭嘉さんが驚いていることと、程昱さんの合流までの時間を考えたらそれしか思いつかないですよ。屋敷と、今いるここと、本陣と。見事に道は交わってないですからね」

幾つか道を曲がってきた。本陣から真っ直ぐ来るルートは別にあるし、確かにここを通るのは遠回りだ。

「風……やっぱり、あなた北郷殿と……」

「ちょっとちょっと稟ちゃん! そこで区切ると、風がお兄さんを好きみたく聞こえちゃいますよー」

「え……あ、あぁ、ごめんなさい。そういう意味で言った訳では無いわ」

眼鏡の位置を直しながら、何やら思考に耽る稟。

「気になることがあるんだな」

「……改めて、北郷殿と風の関係性に疑問を持ったところですよ」

「それは一生解けなさそうな問題だ」

風本人すら知らない事実を、この二人で気付けるはずもない。

「この際です。前々から疑問に思っていたことを聞いてもよろしいでしょうか?」

「この場で? 俺が華琳にも呼ばれているって知ってるだろ?」

「すぐに済みますので」

下がらないって顔だ。稟……郭嘉と交流は、この世界じゃ殆どない。風も、俺の側になってからは意図的に避けるようにしているみたいだし。

そんな郭嘉が、諸葛亮や関羽にも目もくれずに聞きたいこと……。

「北郷殿……あなたは、何を為そうとしているのですか? そして、そのために風を犠牲にするおつもりなのですか?」

……まぁ、これだろうな。

桂花はかなり怪しい部分まで確信があるみたいだが……郭嘉に至っては特に怖いものでもないか。三軍師の中では、この子が一番何も知らない。

「稟ちゃん、それは――」

「――そのまま、蚊帳の外に居たほうがいい」

風が何かを言う前に、俺が言葉を言う。

「蚊帳の……外?」

「俺への抵抗は桂花と風がするさ。この諸葛亮と関羽もその位置に居る。俺にとってはね。なのに、郭嘉。君まで俺に現を抜かすようになれば、誰が華琳を補佐するんだ?」

「桂花さんと、風が…………」

「私と愛紗さんが同じ位置? それって……」

ん……少し、余計な判断材料を朱里に与えたかな。まぁ、大きく影響のあるものでもないだろう。

「魏に仇名すつもりはない、それは分かっています。でも、あなたは魏の中で魏に影響のある何かを為そうとしている。そしてそれは、華琳さまに知られてはならないこと、というのも理解しています。諸葛亮や関羽がここに居る理由は分かりませんが……」

そこでようやく、二人を見て言う。

「必要だから。俺にとってね」

「魏に必要とは仰らない」

「この情勢下で、魏に力を貸すはずがないだろ、こいつらが。俺のために力を使ってくれるんだよ」

「…………そんな女が、魏に入るのか」

「止めたければ、止めてもいいよ」

「出来ると思うのならば、すぐにでも行動に起こしますよ。諸葛亮との知恵比べも面白そうですが……風を奪われた状況で、そんな余裕は今の私にはない。それに、関羽に関しても華琳さまは欲しがっていたので喜ぶでしょう。諸葛亮が魏に入るというのも……華琳さまならば、面白いという一言で終わらせるかもしれません」

「かもね」

「…………分かっていて、連れて来ているくせに」

郭嘉の視線が俺を抉るように鋭い。

「これ以上、俺に関わる必要はないはずだ。事が終われば風との関係も元に戻るだろうさ。風にその気があればね」

勿論、嘘だ。俺が消えたら……遅かれ早かれ、風もきっと消える。

だが、彼女にはそれが分からないだろう。分かるような情報もないし……緩かった時期の俺を見ていたら、まだ何か気付けたかもしれないが。

「風……あなたは本当に、そんな生き方で良いの?」

「んー……良いと思ってはいませんよー、勿論」

「なら……!」

「だけど、妥協点っていうのが必要になっちゃいましてー。そういうのを模索してごろごろ猫のようにまごついていたら……ま、こんな感じになってたってことですね」

チラッと風が俺を見上げてきたので、笑顔を返して。

反吐が出るって顔をされた。酷いもんだ。

「郭嘉。これ以上の問答は無意味だ。俺達からは情報は引き出せないだろうし、君にはそもそもその情報は必要がない。得られても、それをどう吟味していいのかすら分からないだろうからね」

「そんなこと……っ」

「あるさ。さて、これで終わりだ。風のことが心配だって言う気持ちは良く伝わってきたよ。良ければ、その感情を忘れないまま、華琳の力になるようにお互い努力しよう」

俺はさっさと歩き出す。

「北郷殿!」

叫ばれるが、彼女には脅威も感じないし、この手の話題に置いては俺の視界に入れる必要性も感じない。

注意はする。警戒もする。でも、時間は割かない……そんなところだろうな。

「くっ…………今に、今に見ていろ……!」

負け惜しみのような声が聞こえるが……必要になったら、付き合いもするさ。



俺は郭嘉の横を通り過ぎて、そのまま城門へ。



少し遠くに、本陣の光が見える。

「ただ町を出るだけなのに、異様に時間が掛かった気がします」

また俺の隣に来て、朱里が嘆息した。

「お兄さんの特権ですね。何事もすんなりいかないのは」

「酷い物言いだ。撤回を要求したいね」

「事実でしょうに。私も朱里も、どれだけ振り回されているか」

「こういうのって、言ったら本当になってしまうものなんだよ。口にしたらダメ。分かった?」

「無理です。私は一刀さまとお喋りしたいですもん」

「無理ってな……」

「はーいはーい。足を止めずに行きましょー。これ以上遅れると、さすがに風が華琳さまに怒られちゃいますよ」

てとてとと、少し先を歩く風。

俺は一度振り返って、華佗を見て。すぐに、頷かれる。身体の方は、まだ大丈夫って合図だ。


じゃあ……さっさと、行くか。


大体の子とは会った気がするが……そもそも、本命と本題は華琳だし。

桂花も居るだろう。恐らく秋蘭も。その場限りの嘘では誤魔化しが聞きにくい面子ばかり。



風のフォローがなんだかんだで入るだろうが……さて、どうなるかな。






続く



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