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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 華琳編 第16話 

あの想いと共に 

華琳編 第16話


「ぐっ……あっ……」


ずりゅっ――――と。


鎧を貫通し、胸にに突き刺さった鎌が引き抜かれる。


「ふん……」

劉備との舌戦。からの、開戦。

しかし、当初の予想通りこちらの劣勢が開幕から続いている。

兵の練度が劣っているとは思わない。だが、やはり数が違いすぎる。

「…………官渡と、同じね」

言いながら、私はまた敵兵を一人薙ぎ払う。

麗羽と対峙したあの時よりも、今の状況の方が圧倒的に楽だ。だが、これはそういう問題ではない。

一刀に安い誇りだと窘められ、そうなのかもしれないと思いながらも、私はやはり私の“らしさ”というものを捨て切れないらしい。

その証拠に、私の周りを支えていた兵がどんどん姿を消している。

だというのに、私は下がらない。下がらなければならないというのに、私は最前線に留まったままだ。

それに付き合う兵は、やはり一人、また一人と地に伏せる。



何を――――やって、いるのか――――?



一度でも振り返れば、私は城へと撤退を開始するだろう。

もうそういう状況であるし、遂には私の周りには、私を支える者は誰もいなくなって。



でも、出来ない――――したく、ない。



「これは、見事な愚者ね…………」

自嘲する笑いが、思わず漏れる。同時に、迫り来た敵の首に鎌の柄を突き立てて。ごりゅっ――という骨が砕ける音が、武器を伝って私の手、延いては脳に届いて――――



「どうして、私は――――どうして、強くなれない……!」



思わず、噛み締めた歯が歯軋りを起こす。

苦痛にも似た想いが、燻るような痛みと怒りが、私の脳内を支配していく。

官渡での戦い、あれは敗戦と言っていい出来だった。

だから、それからというもの、出来る限りの最善を尽くした。武でも、智でも。両方の将の意見をよりよく取り入れ、官渡以前よりも屈強な国造りに努めた。

そしてそれらは成功している。していたはずだ。



だというのに、どうして私は、こうして今ここで、武器を振るっているのか?



『華琳の言う覇道は、犠牲を無駄を出すことじゃないだろ。自分が最初に想った道はどういうものだったんだ? 官渡で起こした過ちを、何度でも繰り返すことなのか!?』



一刀の言葉が、何度も頭の中で繰り返される。

「一刀……私は……」

迷いも、後悔もないのに。


なのにどうして、躊躇いが生まれてくるのか?


武器を振るう腕にも迷いはない。一閃の後、敵が崩れ落ちるだけ。

「…………」

私は前に、一歩踏み出す。私を囲むようにしている敵兵は、殆ど動かない私に畏怖を覚えてか近寄ってこない。

それに……これ以上、進んでどうなるというものでもない。劉備の居場所が分かっている訳でもないのだし。

そうやって考えるなら……本当に私は、後ろに足を踏み出さなければ――――?



その時だった。



後方が、大きくざわつき始めた。



私も、敵兵も、思わずそちらを見る。

すると……私の真後ろ。城の城門から真っ直ぐ、戦場中央に掛けて。


遠く……遠くに、歪な紫色の光が見える。



「一刀……?」



自然と、あいつの名前が口から零れ出た。

どうして一刀の名前が出たのか分からない。

分からないが…………一刀以外、誰があんな超常現象を起こせるのか。

紫色の光は、物凄い勢いでこちらへと迫ってきている。ここまで来るのは、時間の問題だろう。



「――――――曹操ッ!!」



「っ!?」


――――私は振り返り、咄嗟に武器を前に突き出し、相手の武器にぶつけて勢いを殺す。


「あら、関羽。元気そうで何よりよ」

「こんなところに、一人で居るとはな……!」

ギリギリギリ――と武器を重ね合って。

力で敵う部分がない。そう判断した私は、すぐに弾いて距離を取る。

「あなたこそ。大層な姿で戦っているのね」

関羽の姿は……よれよれの服に、泥や血など、汚れが多く付着している。戦場では当たり前であるが……関羽の服装の汚れは、今ついたものではない。もっと前、古い汚れで、洗い落とす間も無かったと分かるぐらいのものだ。

「戦場で趣きなど関係がない。だが、好都合だ。ここで仕留めさせてもらう」

「一刀をちゃんと戻して来なかったのに、謝辞もないのかしら?」

一刀が無事に戻っていれば、もっとより良い国が出来上がっていただろうに。

私の言葉に関羽の眉が、一瞬動いた…………が。

「なんと言われようが……今は、貴様を倒す」

私の後方を一瞥して言う。

「そう……そうね。主君が戦っているのだもの」

余計な問答は不要……というよりも、したくがないという感じだ。

それに……あの紫の光について、何かを知っているようにも見受けられる。

「急いで終わらせたいって顔ね」

「っ…………だから、なんだ?」

「別に?」

あれが一刀だと仮定して。

私の知らない一刀を知る女が、またここに一人居る――そう思っただけよ。

「すぐに終わらせる……!」

関羽が突貫してくる。

私も前に出て、関羽の横薙ぎを上に打ち上げるようにして弾いた。すぐに姿勢を低くして足元を掬うようにして反撃するが、器用に片足ずつ空に浮かせて距離を更に詰め、私の頭に肘打ちを狙ってきた。手甲でその攻撃をいなし、体当たり。状態を崩した関羽に鎌を振り下ろすが、片手で武器を手の中で回転させて、私の攻撃を弾く。

そこで私は腹を蹴られて、地面を擦りながらまた距離が離れた。

「容赦なしというわけね……。……はあっ!」

私は全力で近付き、咄嗟に合わせられた反撃を頬スレスレで回避。武器を振り下ろす。

だが、それも超反応とも言えるべき速さで間合いを調整され、絶妙な合間に武器が差し込まれ、刃と刃が甲高い音を鳴らした。

「くっ……伊達に前線に立つわけではないか。……なかなかやる!」

「舐めてもらっては困るわね。しかし……さすが関羽……良い腕だわ。どう? 改めて、私のもとに来ない?」

「っ――――」

数瞬、驚いた顔をしたが。

「この状況で減らず口を……!」

力任せに弾き飛ばされた。

「…………」

少し、だが。

関羽が驚いたことに、驚いた。

…………一刀、また何かしたのね。劉備だけじゃなく、関羽にもか。

まぁ……ここに来るまでずっと二人きりだったようだし? 何かしら関羽に仕込んでいてもおかしくないけれど。

「…………ふふっ」

ふと、風が言っていた言葉が、私の脳裏を過ぎった。

「何が可笑しい」

突然笑った関羽が、私を訝しむ。

「えぇ、可笑しいわ。そうやって迷いを見せるところが、とてもね」

なるほど、そういうことなのだろうか。

風も、関羽も、桂花も。他の将もそうだが、一刀のことになるとどこか逡巡することがある。

「でも、私は一刀のことで迷ったことなんてないもの」

知らなくて憤ったりとか。

仕事が出来なくて落胆はしたことがあるが。



北郷一刀という男――その存在に対して、私自身は特に迷いはない。



他者にどう映っているのかは知らないが、一刀を疑う理由も、信じられない理由もない。ただし、それらを行っている方法については追求しなければならないことが多いが。

そういう風に捉えて、接していることが……風にとっては、正解だと思われているのかしら?

だが、関羽の表情は更に渋くなった。

「……何も分かっていないのだな」

そう、口にして。

「まるで、自分は分かっているって言っているように聞こえるけれど?」

「貴様よりは理解していると、今しがた痛感したところだ」

「あら、そう」

何をもってそう言っているのか……なんて思った時、関羽が再び突貫してくる。

私は武器を構え、考える。

まともに受けてはこちらが持たなくなる。だが、避けての反撃では奴の反応には届かない。

なら――――更にその先。反応された先を読んでの、一手を繰り出す必要がある。



…………大丈夫だ。私ならやれる。



光明は見えている。後は、それを手違い無く実践するだけ。



――――そう思い、私は見かけだけ関羽の武器に合わせようとして――――




ガキン――――――と。



「なっ!?」


「ぐっ!?」


突如、私達の真横に現れた紫の光。

その光は私達の武器を弾き、無理矢理突き飛ばして距離を取らせる。



そうして、視界に入ってきたのは。



「か、一刀……?」

「……来ましたか。しかも、そのお姿で」

瞬時に、防御のために上げていた武器を下げて…………予想通りと言うべきか。私達の間に入った、謎の光を纏った一刀を見る。

「一刀、あなた……その姿は」

「話は後だよ、華琳。このままここに居れば死ぬだけだ」

遮るように言われた。

それは当たり前の正論で、しかし、今の私にとっては強力な暴論でもあって。

「っ……けど、私は……!」

「大丈夫」

一刀は私に背中を向けたまま、

「風から聞いたよ。俺が短慮だった。すまない」

「……そう」

どうせ、喋るとは思っていたが……というより、持ち場を離れてまで一刀に会いに行ったのね、あの子。

「だけど、私は下がるわけには行かないわ。ここでそれを認めたら……」

私が私でなくなってしまう――――そんな、危機感のような何かが、私の中を駆け巡って。

「ごめん。認めてもらわないと」

何を? と、言う前に。



ぼふっ! と何かが破裂するような音。



「なにっ!?」

「これは……、か、かずっ――」

煙によって、視界が真っ白に奪われる。


と同時に、浮遊感を覚えたかと思えば、顔を強い風が殴りつけてくる。


この感じ……馬!?


煙が晴れたかと思えば、私は馬の上に座らされていた。

跨っている訳ではないので安定感がなく、咄嗟に騎手の腰に手を回す。

「走るで、華琳さま! 落ちんといてな!」

「ま、真桜!? あなた、どうして……!」

「隊長に頼まれたんやからしょーがないやん! ほら、急ぐで!」

馬の疲労も考えずに、全速力で走り出す。

そして、片手は私が腰に回した手をがっちりと掴んだ。拘束された、とも言えるぐらいの強さで。

同時に、私は察した。

「一刀……!」

一刀が真桜を寄越したのだ。それも、自分が残って囮になる形で。

振り返ると、一刀は関羽と対峙したままだ。しかも、そのすぐ後方には劉備が見えた。

もし私があのままあそこに残っていたら、確実に命を奪われていただろう。そういう意味では、私はまた一刀に命を救われたのだ。

「くっ……」

謎の葛藤と熱さが、私の胸の中を抉る。

「か、華琳さま?」

「真桜、すぐに――あぁもう!!」

私が乗っている馬だと見て、敵の追撃が瞬く間にやってきた。

並走するように馬を並べてくるが、私は真桜に掴まれた腕を逆に掴み返して、馬の上を背中で滑るようにしながら状態を常に変えて、鎌の柄をギリギリで持って相手を攻撃。馬の上から落としていく。

「つっ……うっ!」

無理な動きで掴まれている腕が捩れて、激痛が走るが、今はそれどころではない。

「あっ――」

「ちょっ!? ちょちょちょお、華琳さま!!」

相手の騎兵――六人目を薙ぎ倒した辺りで、思わず体勢を崩して馬の上から落ちかけた。

慌てて真桜が引き上げてくれて、事なきを得たが……。

また、ぎゅっとすごい力で掴まれて。この力に助けられたのは事実。でも……、

「真桜! いい加減にしなさい!」

「後でいくら怒られてもいいから、今はウチの言うこと聞いてもらうで、華琳さま! 城の中まで届けへんと、ウチが隊長に怒られてまうわ!」

「私より一刀の命令を優先するというの!」

「ウチらは誰も、華琳さまに死んでほしくないって思ってるんですわ! だからこうして、一緒に戦ってる! 誰も華琳さまが間違ってないって思うとる! それは、隊長だって!!」

「っ――――」

思わず、言葉が飲み込まれた。

間違ってない? 私が? こうして兵を死なせているというのに?



それなのに……この子達は、まだまだ私を信じて、着いてきてくれると声を大にして叫んでくれる。



「っ…………」

後ろを振り返ると、紫色の光が同じ場所で蠢いている。

今、あの場所には劉備が居る。一体、一刀と何を話しているのか…………。

「くそっ……!」

悪態に近い言葉が、口から漏れて。

結局、私がこうして守られているのも、一刀が戦っているのも、全て私の力不足だ。



こうならないために――なりたくないから、必死にやってきたというのに…………!



私は、一度だけ固唾を飲み込んで、

「……城に戻るわ。急いで、真桜」

「華琳さま……あいさ! 了解ですわ!」

こうなった以上、私は私のやるべきことをやらなければならない。



官渡からというもの…………いつだって、こうして後手に回るのね、私は。





     ◆  ◆  ◆





城に戻り。


城の兵器を使って、篭城。時間稼ぎに入った私達だったが。



城壁の上で指揮をしていた私の目に――――歪な光景が飛び込んできた。




「なに…………あれは……」



戦場が……暗黒の何かに、切り裂かれて。


それに吸い込まれるように、敵兵がばたばたと倒れて、飲み込まれては。



「…………あいつ」

私の横に居た桂花が、その暗黒の切っ先の向こう――――そこにいる、一刀を見据えていた。

「一刀がやったっていうの?」

「……そうだと思います」

思います?

「はっきりしない物言いね」

「……まだ、分からないことが幾つかあるんです。実際に手を下したのはあいつだと思います。思いますけど……」

「手を下せる力は、一刀自身のものなのか……ということ?」

桂花が驚いて、私を見た。

「か、華琳さま……どうして、ですか?」

「さぁね……」

一刀にそれだけの力がないと、私は思っていたから――としか言えない。

それに、あの一刀を包む光……とにかく禍々しい。天の力なのかもしれないが、傍から見たらただの妖術にしか見えないだろう。それは、そういったものを疎む魏にとっては悪い印象しか与えないものだ。

とはいっても、そうしなければ私を助けられなかったんだろうけど……。




やるべきことをやったという顔をしながら、一刀は当たり前のように空を飛ぶようにして、こちらに戻ってくるようだ。




やっとか……戻ってきたら、ちゃんと話を聞かないと――――――え?




そう思った矢先の出来事だった。


城壁に取り付いていた呂布が、同じように飛翔。一刀に直撃し、二人とも同じ場所に落ちる。


そこから繰り広げられる激戦。猛将を三人同時に相手してもいなしていた呂布を、一刀は一人で互角に渡り合っている。



「…………やっぱり」



全力の一刀は、あれだけの実力を持っていたのか。

どこかいつも、手を抜いている印象があったが。しかし、これほどだとは思っていなかった。

だけど……このままじゃ、まずい。

全力になっている一刀と言えど、呂布と戦って無事でいられるとは思えない。だが、一刀は戦場の真ん中で戦っている。対し、こちらは篭城戦。一刀の謎の攻撃で相手の数が減ったとはいえ、まだまだ劣勢。助けに行けないのだ。

「桂花!」

「分かっています! でも、現状ではどうしようも……!」

呂布が攻城戦に加わらなくなってこちらが楽にはなったが、このままでは……!

「…………ま、お兄さんはこのままで良いんじゃないですかね」


なんて。



私の後ろから、風の声が聞こえた。




「風……?」

振り返ると、そこには目を細くして、飴を舐めながらも睨むようにして一刀を見ている風がいた。

「あぁ、見殺しにしろって言ってるんじゃないですよ~。お兄さんなら、多分自力でなんとかすると思います」

「自力でなんとかって……あいつが、あの状況から?」

「だいじょぶですよ、桂花ちゃん。それに……死んだ方が良いって思っているのは、お互い様じゃないですかー」

「風!!」

遠慮のない風の発言に、桂花が声を荒げる。

「全くあなた達は…………っ、一刀!」

疎む、ぐらいならまだしも、死んでいい、とまで思っているということ最近は隠しもしない。特に風はだが。

そうして目を少し離して、戻したその時だった。



遠くて何があったのか、詳細には分からないが……それでも、呂布よりも先に倒れたのは一刀だ。



すると、そこに駆け寄る二つの小さな影。一つは諸葛亮で……もう一つは、誰だろうか。見たことがない上に、顔を隠すような帽子を被っているからどんな人物なのか確認出来ない。

諸葛亮は一刀の横に膝を付いて、慈しむように背中を撫でてあげていた。何か話しているようだが、当然聞こえなくて。



その上……こちらを見て、勝ち誇ったように口端を上げた。



「っ――――!!」

一瞬、頭の中が沸騰するような熱が襲ってきた。

それがどんな感情なのか、私はすぐに分からなかった。



だが……じんわりと、浸透するように。




私は“一刀が奴らに奪われて、それが嫌で怒りを覚えた”んだという事実に気付いて。




「華琳さま! 援軍が間に合いました! 攻勢に出れます!」

その私の怒りを刺激するように、稟が最も欲しかった言葉を持ってきてくれた。

「っ……全軍、よく耐えてくれた! すぐに出る! 魏の本当の力を見せるのは今だ! 進めーーーーー!!!!」



すぐに城壁を下りて、援軍に合流した私達は反撃に出た。





     ◆  ◆  ◆





…………結果として。

反省点の多い戦いだったが、我々は勝利を得た。

だが、私の中ではこれはまたもや敗戦だ。官渡と、何も変わってないという醜態を世間に晒したのだから。

「…………」

「華琳さま……」

私の後ろには、春蘭と秋蘭がいる。

心配するような声を聞きながら、私は一刀が握っていた武器を手に取った。

武器は…………何故か、刀身だけが綺麗になくなっていた。ただ、柄だけが地面に落ちていた。

「…………何故、遅れたのかしら?」

「言い訳を、許してくださるのならば」

「勿論、聞きたいわ。今後のためにね」

ぎゅっ……と。一刀が持っていた武器の柄を力強く握る。

先に口を開いたのは、秋蘭だ。

「華琳さまからの情報を受け、我々はすぐに出立いたしました。ですが……途中で、賊に襲われている大商団を見つけまして。普段は、涼州で商売をやっているとのことでしたが、馬が足りなくなっているという話を聞きつけて、こちらにやってきていたようです」

「それを助けていて、遅れたという訳ね」

「はい……被害も酷く、途中合流した霞達の部隊も手伝って、安全と思われる都市まで護送してからの合流となりました。後からの、こうした報告になったのは――」

「良いわ、秋蘭。霞も……何も間違ったことはしていないもの。我々の力は民を守るために使う。正しい国と兵の在り方よ。それに、助けたというのだから、安く商談もまとまるでしょうし」

「その点に関しましては、抜かりなく話を進めておきました」

「さすがね。それで、春蘭は?」

少し、間を置いて。春蘭が話し出す。

「華琳さまの報告を聞いて、すぐに部隊を編成しましたが……そのぅ」

「何か、不備でもあったの?」

振り返ると、項垂れた子犬のような顔をしていた。

「こちらが動き出したと同時に、敵兵も動き出しまして。まるで、狙っているかのように」

「……あら」

それは、もしかして……。

「情報が相手に抜けていた、ということ?」

「そう思われるような行動を、何回かされました。今、桂花に私の部隊の人員を見てもらっていますが……」

「内通者が居たのでしょうよ。それは確かに、仕方が無いわ。そんな状況でも、この速さで追いついてくれたのは嬉しい限りね」

「は、はい。それと、途中の行軍でへばっている凪達を拾いました。急な知らせで混乱したらしく、無理な行軍で部隊全体が疲弊していたのもあって、えぇっと、それからそれから」

「落ち着きなさい、春蘭。今の説明でもう十分よ」

……なるほど。なるほどなるほど。

私は一人で頷いて、思考をまとめていく。

今の話で、また我が国の弱点も見えた。

秋蘭達の話は仕方がなかったにせよ……情報関連だけ強くしても、それを受けてからの迅速さがないと、せっかくの情報も無駄になるということだ。

おまけに、速さを意識しすぎて漏洩部分の気の使い方が以前と同じままだったのも失態だ。成果ばかりに目が行っていて、その他がおざなりになっていた。

「……なによ、全く」

分かってみれば、簡単なことだった。まだまだ私の考え方と、煮詰め方が甘すぎたというだけ。

魏はこれからも、もっともっと強くなれる。今はまだまだ発展途上なのだ。新しいやり方を試しつつ、その新しいやり方の穴を埋めて、更に順応も早くしなければならない。

一つの物事だけを見ていて満足してはならない……分かってはいたが……分かってはいても、これはとても難しいものね。

「華琳さま」

「なにかしら?」

笑って頷く私に、しかし秋蘭は神妙な顔だ。

「北郷が、戻ってきていたと聞きました」



……あぁ…………。



「…………そうね」

気になるわよね。特に、私と同じぐらい付き合いが長いこの二人は。



でも……。



「本当に、一刀が居たのは一瞬だったわ。戻ってきて、私に篭城を進めて……でも、それでも出撃した私を助けて、私は助けられて……結果、一刀は劉備に連れ去られた」

今でも、諸葛亮の勝ち誇った笑みは脳裏にこびり付いて離れない。

あれだけの損害を相手に与えた一刀だが……それでも、あの甘ちゃんのことだ。恐らく、一刀は生きているんだろう。

なんとなく……諸葛亮の笑みにも、裏があるように感じられた。ただ復讐したいからとか、そういった負の観念から、一刀を連れ去った訳ではないように思えるのだ。

「北郷が、華琳さまを助けたのですか!?」

驚く春蘭だが。

「えぇ、そうよ。それに、ようやく一刀の本気というものも見れたわ。桂花の様子を見るに、何か含みがあるのでしょうけどね」

「北郷の本気、ですか」

「呂布と対等に一人で渡り合っていた――と言ったら、あなた達は信じるかしら?」

「呂布と!?」

春蘭が驚いてばかりだ。でも、それはそうだろう。私だって、目を疑ったぐらいなのだから。

「ほ、本当なのですか、華琳さま」

さすがの秋蘭も驚きを隠せない様子だ。

「えぇ、事実よ。後で兵にも聞いて見ると良いわ」

「あの呂布とか……」

「ですが、含みがある?」

「桂花がそういう様子だったってだけよ。気になるなら、聞いてみれば何か答えてくれるかもしれないわね」

言わないだろうと思うが。

「…………」

私は、手に残った一刀が持っていた残り物を見る。


……これが現実だ。


この力の無さが、真実だ。




私はまた、守られて…………そして、守れなかったのだ。




「…………悔しいわね、春蘭、秋蘭」


何かを考えていた訳じゃない。


でも、気付いたら、私は二人に弱音を吐露していた。


率直な私の物言いに、二人が息を飲んだのを感じる。


「悔しいわ、本当に……結果だけを見れば勝利だとしても、これは官渡と同じ敗戦よ。私達は、大事な戦で連敗を喫したという事実を忘れてはならない」

「華琳さま……」

「…………」

何も言わない、この無言な空間は、二人の沈痛な想いが伝わってくるようだった。

「でも……でもね。私は、またって、次こそはって、そう言いたいわ。私も、私の国も、まだ生きている。同じような失態を繰り返して、無様だと思われても、蔑まれても……こんなところで諦められない……こんな場所が、こんな高さが、私の居る場所ではない……そう思うの。二人は、どう――」


「そう思います、華琳さま!」


「勿論です、華琳さま。華琳さまはこのような小国で収まるような器ではありません!」


私の言葉の意図を読み取って、すぐに二人が声を荒げて叱咤してくれた。

「…………ふふっ」

そうね、本当にその通りだ。

「大きくなったけれど、それでもまだまだ魏は小国か……本当にその通りだわ。天下を統べたぐらいの国じゃないと、私は収まらないもの」

「はい、その通りです! 華琳さまは、常に前に進んでこその華琳さまです!」

「華琳さま、ご命令を。私も姉者も、いつでも華琳さまが描く未来を実現するため、粉骨砕身の覚悟で望む所存です」

「……ありがとう。思い切って、二人に話して良かったわ」


また、多くのものを失った。



その代わりに、また国を強くする機会を得られた。



…………ごめんね、一刀。少しだけ待っていて。



まだ、私はあなたを助けられる程強くはない。



もっと国を強くして、私自身も強くなって…………その上で、今度こそ、胸を張って、あなたを迎えに行くわ。





続く


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