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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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真・恋姫(番外編) 華琳編 第15話  

真・恋姫(番外編) 華琳編 


第15話


「華琳さま。こちら、河北四州の復興状況と、市井に関する報告書です」

「そう、ありがとう」

劉備に対する返事を送った後。

私は、自室で相も変わらず公務に勤しんでいた。

あれから劉備は音沙汰が無い。だが、何かしらの報復行動はしてくるだろう。あの甘ちゃんが、大事な仲間や想い人を殺されて何も思わないはずがないから。

「暴動の殆どは鎮圧……残った袁家も強気な姿勢は見せていない……か」

「袁家自体に、もう忠誠を誓っている者が殆どいないようです。官渡での戦い方は、民の耳にも入っているようで……」

「でしょうよ……馬鹿なことをしたものだわ」

勝とうが、負けようが。

兵を省みない煽り方、戦い方をすれば、例え無事に済んだとしてもその先が続かないだろう。現場の兵士は納得していたのかもしれないが……祖国に残された民からすれば、ただただ暴論を振るう暴君にしか映らないはずだ。

「……先に見える怯えを無視してでも、私を倒したかったんでしょうけどね」

「それほどに、顔良を想っていたのだと思います。ただ……」

「顔良が生きていた、という話?」

机の前に立つ稟が、眼鏡の位置を直しながら、

「未だに、不思議がる者も軍内部に居ます。あれは確実に、そうであったと」

「大丈夫なの? 関羽が討ち取ったという者との口論には?」

「なる場合もありますが……それら二つを同時に体験している者も多い現状でして……」

「…………本当に、不思議なものね」

ただ……恐らくではあるけれど。

討ち取ったというのも、間違いではない。

でも、最後の間際に顔良を見たというのも……数の多さからして、これもきっと、間違いではない。

であるならば、顔良は確かに討ち取られ“戦線に復帰出来ない状態”であった。生きてはいて、しかし、誰にも気付かれない場所に隠されていた……と考えるのが普通なのかしら。



だが、顔良がどうしてそのような状況下に置かれていたのか……知る術は、今はない。



なんにせよ、先の官渡。あれら全ての流れに、何か裏があるはずだ。でなければ…………。

「……華琳さま?」

黙り込んだ私の名前を呼ぶ稟。

…………そうね、稟には具体的に、こうして直接聞いたことはなかったか。

「率直な意見を聞かせて、稟。あなたは官渡での戦いを、どう思い、どう締め括ったの?」

「…………そうですね」

いつか聞かれるだろうと思っていたのか。

少し、稟は考え込んだ後、しかしあまり時間は掛けずにこう答えだす。

「忌憚無く意見を述べさせてもらうならば、私が今まで学んできた戦略、軍略……そういったものが通用しなかった戦いでした」

「ふむ」

「ただただ圧倒的な暴力に、こちらの全力が負け続ける。数の多さというものが、これほど優位に動いた戦いもそうは無いでしょう。それに……」

「それに?」

少し、視線を私から逸らして。

「ただの数の暴力ならば、戦略や戦術で対応が可能です。そのための、情報が必要でした。しかし……その情報も、ありすぎて選別が出来ない状況になってしまった」

「一刀が見つけてきたという、兵糧庫の場所?」

稟が一度頷く。

「勿論、私達も調べました。私も、桂花殿も、風も……でも、全てがそれぞれ違う場所の情報を持ってきたのです。まるで、意図的に与えられたかのように」

「実際、意図的だったのでしょうよ。相手には狡猾な軍師が居たようだしね」

「相手を下に見ていた訳ではありませんが……一度そうなると、こちらも迷いが生まれます。すぐに情報を欲しがって、同時に多方面に密偵を放ったのは失敗でした。見事に、それらを全て利用され……逆に我々は、奇襲という策そのものを潰されたのです」

だから、結果的に私達は相手の要所が“分からない”ということになった。それ故に、ジリ貧の戦いを続けることを強いられ続けた。

正面からの戦いが続いて……それでも、我が軍が弱かったという訳ではない。むしろ、普通にいければ接戦とはいえ押しきれていただろう。

でも、だ。

「正面からの戦いが勝てなかったのは……孫策の傍らに居た、周瑜の知恵ね」

稟が口を強く結ぶ。

「華琳さまが仰られたように、とにかく狡猾な動きをする女でした。正面からの対応は勿論、常に横腹を狙うように部隊を動かし、その動きを隙に見せてこちらを誘い込む。気付いてから対応すると、

僅かに出来た対応の時間を突いて、横腹を狙っていた部隊が瞬く間に迫り来る……桂花殿が全体の調整を少しでも間違ってしまっていたら、今頃私達はここに立ってはいられなかったでしょう」

「兵の多さ故に出来た策ね。周瑜もさぞかし楽しかったでしょう。どんな策でも出来るぐらいの物量があったのだから」

「そうですね……その分、我々はこれ以上ない苦戦を体験したわけですが」

一度、息をついて。

「それから……色々ありましたが。天啓だったのでしょうか。北郷殿が、相手の兵糧の場所が分かったと言ってきたのです」

問題の箇所か。

「私はその場に居なかったのだけれど……どんな感じだったの?」

「えぇと……」

言い難そうな表情を作られる。私が寝込んだことを気にしているのかしら?

大丈夫、という感情を込めて頷くと、稟は恐る恐る口を開く。

「華琳さまが倒れられて……すぐに、私達の意見は分裂しました。何も言わない人、戦いを続けるべきだと主張する人、敗北が決まったから撤退を開始すべきだという者……それぞれで」

ここら辺は、以前秋蘭から聞いたことと同じだ。私という柱を失ったがために、皆が浮き足立ってまとまりが無くなったと。

「すると……桂花殿も倒れ、旗色は絶望的。その上、北郷殿も体調が悪そうでした。かなりご無理をなさっていたようで」

「一刀も?」

無理をしていない人間なんて、あの場には居なかっただろうが……。

「はい。気を失いかけたのか、倒れそうになって……そこを関羽殿が慌てて支えて。その時です。ふと、北郷殿がこう言ったのです」




『勝てる策を、作り上げてくる』




勝てる策を作る……?

「一時間時間が欲しいと言われて……その一時間後。北郷殿が持ってきた情報は、まさに私達が喉から手が出るぐらい欲しがっていたものでした。後は……華琳さまもお知りの通り、奇襲は成功。意表を突いて、全兵力を突貫。混乱を混濁にして、勝利を得ました。最後の夜は、不可思議なことも多かったですが……」

「本当に、まとめて色んなことが起こったものね……」

「軍師としては、北郷殿がどうやって情報を持ってきたのか。その点につきます」

「稟は、どうやったら一刀が情報を持ってこれたのか……分かるかしら?」

「…………悔しいですが」

稟が首を横に振る。

「今思えばあり得ないようなことだとは思いますが……当時は藁にも縋る思いでしたし。それに……華琳さまが天の御遣いとまで称している男。私などが考え付かないようなことをやり遂げることもあるのでないか? そうも思ったりしまして」

「確かに、あの男は自身を過小評価するけれど。今まで上げてきた功績は偉大なものばかりだわ」

その癖、神秘的で人を惹き付けるから。こちらは際限なく気になってしょうがない。

「華琳さまは、北郷殿のことで何かをお隠しになっている。そのことに、私も風も気付いています。その暗部とも言えるものが、北郷殿の能力の高さに関係している……とは思っていますが」

少し、稟が眉を潜めた。

「それ以外に、何か気になるの?」

「いえ……ただ、風は私に何も言ってはくれません」

……なるほど、そのことか。

稟が一刀をどう捉えているか……ねぇ。答えられるぐらいには、まとまっているのかしら?

「急に北郷殿の副官になり、私とは疎遠になりました。公の場や、偶然居合わせた場所ではいつも通り振舞って、私との会話を楽しんでいるように見えますが……個人的な付き合いは、もう殆どありません」

「それが寂しいのね、稟は」

「……そう、ですね。そうなんだと、思います」

逡巡して見せたが、結果的に肯定の意を見せる。

「何かに巻き込まれた――それは、分かっているつもりです。そして、私を巻き込まないようにとの配慮から、私と距離を置いた。それも、分かっているつもりです。でも……」

「納得いかない?」

「……風一人で無理ならば、協力をすれば、打倒出来るのではないか? そう思うのです」

一刀を打倒――――ね。



仮に。


仮に、だ。



稟が決意して、風に詰め寄って。



風が折れて、稟と風。二人が協力して一刀という存在を暴こうとした時。




二人は――――一刀に、勝てるのだろうか?





「…………」

「…………色よい返事を、なさってはくれないのですね」

私が何も言わないことを、そう取ったのだろう。

「ごめんなさい。稟も風も……とても優秀だと思っているわ。私の自慢の頭脳……そう確信し、多大なる信頼と自信を寄せている」

「でも、北郷殿には勝てないと?」



そう、言われて。


口から出た言葉は。




「無理でしょうね」




自分でも、驚くほどすんなりと、その言葉が出てきた。



「…………はっきり、仰られるのですね」

少し、怒気が混じった言葉だ。自分が最も頼りにしている頭脳という武器を、正面から理由もなく否定されてはそうもなるか。

「風は自分という自信を絡め取られて、一刀の手中に落ちたわ」

「それは……風は確かに、そういった部分があります。いつもは私が、それを諌めることも多く――」

「そうじゃない。そうじゃないわ、稟。私が聞きたい言葉を、ちゃんと口にしてみて」

「っ……」

一度、口を噤んだ後、しかしすぐに開いて。

「北郷殿は……魏という国の中にありながら、どこまでも強力な男でした。華琳さまと唯一対等で……華琳さまの、誰も知らないような笑顔を、自分の笑顔で引き出せるような……そんな男です」

思わず、嘆息する。そういう風に見られている自覚はあったが。恋愛感情に連なる言葉を使われてないだけ、まだマシとも言えるけれど。

「最初は本当に、北郷殿は駄目な男だと思いました。噂は偉大なのに、実物はただの路傍の石にすら劣る。仕事に悪影響を及ぼすならば、何の影響もない石の方がまだマシだと」

「でも、違ったのよね?」

「…………風は、ずっとおかしいと思っていたようです。何度も相談されました。その度に、こう言うのです」

少し、懐かしむように笑みを形作って。

「風は『華琳さまが、あんな男をそれでも信じている。待っているんですよね~。それが不思議で不思議でならなくて。だから……きっと、何かあるんです。風は、それが知りたくてしょうがないのですよ~』って」

「風らしい、好奇心旺盛な言葉じゃない」

「えぇ、本当に。それが仇となって、風は官渡の戦いが終わるまで、北郷殿の犬に成り下がっていました。北郷殿に言われるがままに喋り、筆を振るい、笑って、喋って……大よそ、私の知る風とはかけ離れていたように思えます」

「じゃあ、今は元に戻ったということね?」

官渡の戦いが終わるまで、ということならば、そういうことになるだろう。

もう、魏に一刀はいない。官渡の戦いで――消息不明になっている。それはもう、死んでいることと同義だ。



だが――――やはり、というか。



私の予想通り、稟は首を横に振る。



「風は毎日、北郷殿の部屋で政務を行なっています。自分の部屋でやればいいのに、必ず、毎日、欠かさず。北郷殿の部屋に資料などがあるのでしょうが、一々移動するのも手間だろうから自室へ運べば良い。そう思って声を掛けると……ふふっ、また風らしいことを言われまして」

あら? そこで嬉しそうに言うなんて。

「なんて言われたのかしら?」

「華琳さまも分かっておいででしょう? いつも通りに飴を舐めながら『だって、戻ってきた時にまた運ぶ手間が増えるじゃないですか~』って。そう言うんですよ。全く、おかしいものですよね」

口元に手を当てて、くすくすと笑った後、

「風は……北郷殿が生きていて、必ず戻ってくる。そう確信しているようでした。何かを知っているのかと思いましたが……そういう訳でもないようで」

「ただの勘、ということ?」

「かもしれません。少し、気になることも言っていましたが……」

気になること?

なんだろうか……その部分こそ、私も気になる。

「風はなんて?」

「ん……よく分かりませんが」

言葉を選ぶように、思い出しながら、稟はこう言った。



「確かに風はあの時『この部屋にいると……たまに、息苦しくなるんですよ。だから……これって結局、お兄さんが死んでいるはずがないってことなんですよね』と。呟くように」



息苦しくなる?

どういうことだろうか………………いや、待てよ。



息苦しくなる



前に――私は、一刀に関係していることで



そんなことが――――無かった、だろうか――――――?



「まるで、恋焦がれる乙女のような台詞です。そう言うと、珍しく風に怒られましたが」

「あの子、本当に一刀が嫌いのようだもの。それは怒るわよ」

まぁ、いい。大事なことだろうから、これは忘れずにいて……今は稟との会話に集中しよう。

「それで……結局、稟は一刀のことをどう思っているの?」

遠回しに風とのことを言われたが、肝心な内容を聞けてはいない。

いつもはここまで直接的な言い回しはしないが……稟との会話でこういう流れになることは少ないし、たまにはいいだろう。

「ん……難しいですが」

本当に、悩んでいる――――そういう顔をしながらも。

「それでも……私は、北郷殿はこの国にとって必要不可欠な、大きな歯車だと思います」

「へぇ……そう思っているのね」

意外……でも、ないか。

稟はとにかく現実的に物事を考える。色々と変わった妄想癖はあるが……政務や国交を踏まえて考えると、一刀が必要だという結論に落ち着いたのか。

「この国の色んな人間が、どこかしら北郷殿に依存して生きています。それは官や将だけではなく、国民もそうです。それだけ北郷殿の人柄と能力は頼りにされ、好ましく思われている」

「稟もその一人、だということ?」

「はい」

迷い無く、断言された。

「最初こそ道端の石にも劣ると思いましたが……こと、華佗を連れてからというもの、北郷殿の活躍は目覚しかった。政務への姿勢、関羽殿の引き抜き、四大都市の市政調査からの発展まで。関羽殿がいなければ、官渡で生き残れなかったでしょうし……風のことは残念ですが」

「それを差し引いても、一刀の人柄を認めているのね」

「本当にただの屑であれば、風が引き込まれるはずがありませんからね……」

「あら? そういう認識なの?」

それは意外な言葉だった。

「魏に仇名す、もしくはただただ自分勝手なために行動し続けている……それが分からない風ではありません。もしそうならば、どんな実力行使も厭わないでしょう。でも、それをしていないということは……」

「……一刀に協力するだけの理由が、風にはある……?」

「そう、思っています」

なるほど……なるほどなるほど。

それは非常に面白い意見だ。それだけで、また一つ一刀と風のことが分かったように思える。

私は少し満足して、足を組み、肘起きに肘を突いて手に頭を置く。

「実に有意義な歓談だったわ、稟。仕事中だというのに、時間を取らせたわね」

「いえ、そのような。私としても、このことはいつか華琳さまとお話したいと思っていましたので……」

「お互い、丁度良かった訳か」

「そのようですね」

ふふっと、二人で笑い合って。

「…………?」

ふと、慌しい気配が近付いて来るのが分かった。

「どうなさいました?」

「珍客のようね」

武芸に秀でていない稟は気付いてないようだ。

そう思ったとき、ドンドン! と、扉が勢いよく叩かれる。

「曹操さま! 至急お耳に入れたいことが!」

親衛隊の声だ。

「構わないわ、入りなさい」

「は! 失礼します!」

扉を開けて、息も切れ切れに入室してくる。

一度稟を見て驚いたようだが、私は構わないという風に首を横に振って。



「そ、それでは……関所からの報告です! 西で劉備が挙兵! こちらに進軍中とのこと!」



簡潔に言われた言葉。


しかし、やはりか、とも思う言葉。


「華琳さま……!」

「思ったり早かった、というべきでしょうね」

もう少し遅いとも思っていたが……これは、成功しているのかしら?

「関所からここまで報告するのに、掛かった日数はどれくらい?」

「は……、み、三日ほどです!」

「なるほど。十分だわ」



だって“いつもなら五日は掛かっていた距離”なのだから。



「良い結果が出ているようですね」

「可愛いあなた達が懇願するのだもの。私だって、必死に考えるわよ」

先の官渡の戦いで一番の敗北は、情報戦の甘さ。これに尽きる。

だから稟は、とにかく情報面での政策強化をしたいと頭を下げてきた。後で知った桂花と風も、すぐにこれに賛同した。

私自身も、官渡での情報面の弱さは実に痛感したところだ。もっと確実で、分かりやすく、更に多岐に渡る方法があればあれだけの犠牲は出さずに済んだかもしれない。

それ故に、私はまず稟が提案してきた『各都市間の情報伝達速度の強化政策』。この案を受け入れ、実行。

関所の数を三倍にし、各関所の間を狭くして連携を取りやすくする。

更に、各関所や都市に情報用のための馬の数を二倍にした。何かしらの不調があっても、これならば不備が出にくい。その分、戦に回せる馬が減ったが、減った分はいつも以上に早く手に入れられる情報で準備が早まる分、補填がきくだろう。

情報を伝える際は必ず関所から関所を繋いでいくことにした。そうすれば馬の大きな疲弊は避けられ、常に一定の速度で移動と報告が可能だ。遠い関所まで時間を掛けて行き来することも無くなる。

関所の人数も通常の倍の人数を動因することにした。その分、関所は今までよりも強固で大きな建物が必要にもなって……経費やら人件費やら、とにかく金が掛かった。

掛かった……が、こうして成果を目の当たりにしていると、思い切って踏み切った甲斐があったと思う。

いつもの倍近い時間の短縮。

武器調達も、戦も、都市発展も。金で何とかなるものばかりだが、それらの準備を始める期間の短縮という――いわゆる、時間というものは金では買えない。

不備があれば直す時間が必要だし、遠くの都市ともなればその不備があった情報が私の元に届くまでの時間も掛かる。

一刀も昔、似たようなことを話して……今までやるべきだとは思っていたけれど、どうしても戦の面での弱体化が気になっていた。馬というのは、それだけで大きな利点がある。速度も、威力も……多ければ多いほど迅速な行動が可能だし、霞などの一騎当千の猛者が乗れば、それこそ怒涛の活躍をしてくれる。

「しかし……戦のことを考え過ぎた結果が官渡だというのなら、考え方を変えなければならない」

「我々の案を受け入れてくれて、本当にありがとうございます、華琳さま。馬も、兵士も、時間も。全ての労力が節約出来る方法を考えた甲斐がありました」

それに……稟がこうして喜ぶ姿を見せてくれもする。

稟は皆が分かりやすく、誰もがやりやすい、考え付きそうな方法を改めて進言しただけだ。

とはいっても、関所を立てる場所、人員の配置、馬の数などの細かい微調整を一つ一つ、戦後処理も交えながら案を煮詰めるのは相当頭を悩ませたに違いない。

しかし、それでも。こうした彼女達の笑顔を作るのが国の主としての勤めだ。戦で勝てることばかりを考えるのは、王でもなんでもない。ただの戦好きな愚者だから。

「また話し込んでしまったわね。具体的な話をしなければならないわ。すぐに軍議を開く。あなたは、他の将を呼んできて」

「は!」

膝を付き、私の言葉を待っていた兵がすぐさま部屋を飛び出していく。

「劉備が来るのは、恐らく五日から一週間ほど。対し、ここから我らが各地に散らばっている同志に情報を伝え、彼らが準備をして戻ってくるのは……今までの方法ならば一週間程掛かったでしょうが今ならば大体、遅くても五日でしょう」

「関所を増やした、ぐらいのことは知っているでしょうけどね。でも、連絡方法に馬を惜しんでいない……とまでは思ってはいないでしょうね」

「ただでさえ、我々は官渡で多くのものを失っています。その分、そこに割く余裕はないと考えるはず」

だからこその、出兵だろう。劉備の軍勢は、我が全軍の半分程しかないと聞く。まともに戦えば勝てる道理はない。

「空いた本拠地を狙えると思っていたのでしょうけど……」

「逆に、誘い込まれた鼠です。領地を通した恩も忘れて……思い知らせてやらなければなりませんね」

稟が不敵に笑うので、私も同じように笑みを返してやる。

「もうあのような惨めな戦は許されないわ。勝つわよ、稟」

「は!」





     ◆  ◆  ◆





稟との歓談から五日が経った。


私は陳留から南に少し言った城を本拠地とし、劉備を迎え撃つ準備を数日前からしていた訳だが。

「華琳さま」

城壁の上で、晴天の青空を眺めながら風に揺られる私に。

「…………その顔、状況は変わらないようね」

桂花が少し、緊張した面持ちでやってくる。

情報伝達速度の強化……これに成功していたと思っていたが。

「兵を遠くまで放ちましたが、まだ報告がありません。どの部隊も、この城を捉えてはいないようです」

「代わりに、私達を捉えているのは劉備達か」

視線を下ろすと、遠くには劉備達の陣が見える。

そろそろ向こうも戦支度が整うはず。これ以上、援軍をのんびりと待っている時間はないだろう。

「……どう、なさいますか?」

「篭城しろ、とでも言いたげね」

桂花の気持ちも分かる。だが、それは私と、私の国の在り方に反する行為だ。

…………そうならないための、政策強化だったのだが。

「いつまでもこのことを言っていても仕方がない。下に降りて、兵を鼓舞するわね。桂花、あなたは改めて武器と馬の数……それと、万が一に備えて、城の中にある兵器の最終確認をお願い」

「…………は」

何か言いたそうだったが、結局何も言わずに桂花は下に下りていった。

しかし……誰も戻ってこないか。

一つや二つならば、劉備が何かしらの妨害工作をした――――とも考えられるが。

報告だと、劉備の兵士の数は変わらずだ。だとするなら、妨害などしているは思えない。



でも、現に私の元には誰も戻っては来ていない…………。



「…………ふぅ」

鬱屈した感情を吐き出すように息をついて、私も城壁の上から下りる。

下に降りて……私は、既に整列していた部隊の前に立った。

皆、緊張した面持ちだ。兵力に大きな差があるというのは誰もが知るところ。

それでも、恐怖に彩られている者は一人もいない。皆、自分の在り様と、私の意思を理解した上でここに立ってくれている。

ならば……私はその意を汲みつつ、その上で私と共に――――ん?



何か、騒がしい。


そして、よたよたと近付いて来る足音。



気になった私は、そちらを振り返って――――、




「華琳」




あまりにも――――――あまりにも、懐かしい声が聞こえて。



「その声……?」




動揺と、謎と、わずかに歓喜が混じったと自分でも分かる声が漏れた。

「出撃準備をしているって聞いたけど」

挨拶もなしに、一刀はぼろぼろな姿でそう私に言う。




でも…………一刀?


「……か、一刀なの?」




本当に?




嬉しくもあり、驚きもあり――――今の自分と魏を見られたという複雑さもあり。

そんな混濁した感情を持つ私の傍まで来て、

「うん。遅くなってすまない。関羽も劉備のところに戻ったよ」

笑顔で言いながら、目の前に整列する部隊を見る。

「ほ、北郷さま……?」

「北郷さまだ……生きておられたのか……」

兵達がざわめくが……どれも嬉しそうな、喜びの声。加えて、緊張していた面々も解く力を抜いていくのが見える。

やはり、一刀の人望はただならぬものじゃないというわね……それが今は、なんだか誇らしいわ。



でも…………。


一刀は既に、満身創痍だ。見ただけで分かる。服がぼろぼろなのもそうだが、足取りや呼吸、身体全体の力の入り方。全てが頼りなく、か細い。

「一刀……よく無事で……」

感じた誇らしさと、こんなぼろぼろの身体でも私のところ駆けつけて来てくれたことと。

相まって、思わず一刀にしか見せないような笑みを浮かべている自覚があった。あったが、すぐに止められるものでもなくて。

「色々あった。でもまずは現状の整理からだよ。劉備が攻めてきて、それの対応をしているんだろ?」

だが、一刀からそう言ってくれた。

危ない危ない……あんな、私らしくない表情を兵の、それも戦の前で見せる訳にはいかないわ。

「え……えぇ、そうね」

気付かれないように、破顔を直すため一つ咳払いをして、深呼吸をすると。

「一刀。あなたが戻ってきてくれて嬉しいわ。おかげで、部下の士気も上がることでしょう」

「それは良いことだけれど。それで?」

先を促されたので、私は当然のように華琳が頷いて言う。

「出撃するのよ。敵が目の前にいるのに、城の中に篭ってなんて居られないでしょう?」

一瞬の沈黙の後、一刀が分かりやすく眉を潜めた。

「…………本気で言ってるのか?」

低く、厳しい声だ。この現状を見れば、そんな声が出るのも仕方が無いというものだろう。

しかし、今は兵士の手前。言い訳するなんて許されないし、説明をする余裕もない。

「本気かって? そんなの当たり前じゃない」

…………結局、こうなるのね。ほんとどうしてこういう時ばかりを狙ったように帰ってくるのかしら。

「当たり前ってな……兵士の差は? まさか、ここに居る分で全員だって言わないだろ?」

一刀の表情が、より厳しくなる。頭を抱えそうな雰囲気ね。

「これで全部よ」

「…………待て待て。頼むから待ってくれ」

案の定、一刀が頭を抱えた。全然変わってないって思われてそう。

「兵力差は? 遠目から見ても、劉備の兵の数はそれなりに見えたんだけど」

「そうね。倍以上の差があるわ」

なんと言われても、冷静でいるしかない。

というより、甘んじて受け入れるしかない状況なのだ。

「官渡であれだけの失態を犯したのに、まだ続けたいのか」

まぁ、そういうでしょうね。

その場合の対応もちゃんとしたのだが……目に映るものがこれなら、信じられるものでもないだろうし。

「そうね……あれは私が作り上げてきた歴史の中で、最も忌むべき、そして経験の多い戦いだったわ」

「経験したんだろ? なら、今のこれはなんだよ」

「前にも言わなかったかしら? だからこそ、だと」

一刀が戻ってきたことで騒いでいた兵達だが、私達の口論でそれらは少しずつ治まっていく。

「華琳さま! 準備が……って、北郷一刀っ!?」

「あらら、隊長やん。ほーら桂花、隊長はちゃんと生きとったやん」

出撃準備が整ったか。

なら……これ以上、一刀との会話は無駄ね。平行線のままだろうし。

「同じ愚を冒すっていうのか」

一刀も一刀で、二人には構わず私を見据えたままだ。

「失敗すればでしょう? 私は勝つわ」

「……援軍の見込みは?」

少し、ドキッとした。

ある……そう答えるのは簡単だ。それも、遅くても今日には辿り着くはずだったというのも。

だけど…………。

「明日の朝ね」

私は、兵に伝えている情報と同じものを口にする。

「倍以上の兵力差があるって言ったよな?」

「だから? 勝てるか勝てないか、じゃないわ。私達はやって、勝つしかないのよ。一刀だって、それは分かっているんでしょう?」

「分かる、分かるよ……! でも華琳、俺は篭城すべきだと思う。外に出て勝ちの目がある戦じゃない」

「劉備相手に尻込みしながら戦えというの? 私と、私の国を支える彼らに――」

一刀は大袈裟に手を振り、私の言葉を遮る。

「そうやって形に拘った結果、官渡で無様さを露呈したんだろ!」

「っ……一刀」

……何もかもあなたの言う通りだわ。

ただ、熱くなりすぎているわね。兵の前で、言っていい言葉じゃない。

「あなた、あの時の戦いが無様だったと言いたいわけ?」

「以前、華琳は俺に理想がどうのこうの言っていたな。じゃあ、今の君はなんだ? ご自分の“理想”ってやつを貫こうとしているんじゃないのか!」

「……そうね。あなたの言葉は正しいわ」

だからといって、今ある魏を否定してはいけない。

「でもそれじゃあ……あなたは、私が私である理由を止めろと言うの?」

「華琳の言う覇道は、犠牲を無駄を出すことじゃないだろ。自分が最初に想った道はどういうものだったんだ? 官渡で起こした過ちを、何度でも繰り返すことなのか!?」

「一刀……私は、官渡での行ない全てが間違いだったとは思っていないわ」

だからこそ、より良い国の発展を目指した。あなたに笑われないように。

「よく言えるな、そんなこと……!」

心に刺さる言い方……そんな言い方じゃ、兵に動揺が走るわ。

「もういい。あなたの言い分はよく分かったわ」

腕を組み、不機嫌だという態度を表に出して話を締めくくりに掛かる。

「どう見ても納得していないように見えるんだが」

「あなたの心配事は、要はこういうことでしょう? 私が覇王としての振る舞いを重んじるばかりに、この戦いでも無駄な犠牲が出る」

「そうだ。だから俺は――」

「でもそれは、官渡から今ここに至るまでの魏の内情を何も見ていない、あなたの考えよね?」

ぐっ……と一刀が息を呑んだのが伝わってきた。

「それは……そうだけど! だけど――」

「けどはなしよ、一刀。あなたは今、この場で誰よりも魏のことを分かっていないの。これ以上の問答は、兵の不安を煽ることになるわ」

最もな正論だけを並べて、一刀を封殺。

だけど、一刀は辺りを見回した。まだこの会話を続けたいらしい。すぐに口を開いた。

「勝算はどの程度あるんだ? 精神論だけで彼らを無謀な戦いに巻き込むわけにはいかない」

「無謀ではないし、勿論勝算もあるわ」

…………はぁ。

思わず、嘆息が出る。私と、兵と、私の国を思ってのことなんでしょうけど。

「篭城ではなく野戦で? ならば野戦をするとして、そこにどんな…………か、華琳?」

「一刀、ちょっと待って」



はっきり言って、時間の無駄だ。



私は口元に人差し指を立てて静かにしろという合図をして。

「っ……?」

一刀が、少し戸惑うように言葉を止める。

それを見て、私はすぐに一刀に身を寄せて、耳元で。

「……ありがとう、一刀。でもね、私は本当に冷静なの」

「……? なに、言って……?」

「こんな形の結果を見られるなんてね……でも、あなたも冷静になるべきよ。そんな身体じゃ、何事にも満足に望めないでしょう?」



その言葉と同時に、何かを察したようだが。




――――もう、遅い。




私は力強く、深く、思い一発を一刀の腹部に入れる。


「ぐっ、がっ!?」


思わず、彼が腹を押さえて膝をついた。

それを支えるように、すぐ私は一刀を抱きしめて支える。

「もう時間がないのよ。あなたが起きる頃には、私の勝利で戦は終わっているでしょう。待っていなさい」

「ぐ……か、り……」

思った通りだった。全力で入れた一発だが、それでも一刀ぐらいになると気を失うにはまだ遠い一撃のはず。

でも……まるで眠るように、一刀の目が閉じられていく。



「おやすみなさい、一刀。次こそは、あなたに頼らず、勝利を得て見せるわ。だから……今は、休んでいて」



自分でもびっくりするぐらい、優しい言葉が出た。


それを最後に、一刀の身体から力が抜けた。


「…………」

完全に気を失ったようだ。

「真桜」

「は、はいな」

少し離れた場所で見ていた真桜を呼ぶ。

「一刀を倉庫に閉じ込めておいて。すぐに無理をしそうだから。後、あなたとあなた。倉庫の見張りをお願い」

「え……で、でも、隊長……」

躊躇う姿勢を見せる真桜。言いたいことは分かるが。

「いいから、お願い。華佗もいないし……こんな状態で、戦えるはずがないわ」

「うむ……そ、そうやね。分かったで、華琳さま」

真桜が駆け寄ってきて、一刀を抱えて連れて行った。

「…………ふぅ」

私は兵に背中を向けたまま立ち上がり、

「皆、よく見たでしょう。官渡で最も功労を上げた者が、あれだけの姿になっても私のために、魏のために、こうして駆けつけてくれたわ。些細な行き違いはあれど……国を想う姿は皆同じなはず」

一度深呼吸して、振り向く。

すると……私が想う通りの表情を、兵達は見せてくれた。

迷いも、躊躇いも、恐れも無い。ただしっかりと、私の目を見据えて。



ほんと……部下にも友にも、恵まれたものだわ。



「出撃するわ。皆、勝つわよ!」



多くの言葉は必要ない。


後は、眼前の敵を屠るだけだ。




続く

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category: あの想(番外編)

thread: 二次創作:小説 - janre: 小説・文学

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