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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第71話 前編 

あの想いと共に 


第71話 前編

「ん……」

「おはようございます」

目を開けると、朱里が俺の前に立っていた。

「あぁ、おはよう」

床に座って、壁を背にして寝ていた俺。

昨夜は色々あったこともあり、少し頭がぼんやりしてる。

頭を振り、眠気を飛ばして、俺は立ち上がろうとした。


すると、左手がなんかに引っ張られた。


「お?」

見ると、左手には……俺の隣で眠っていた、関羽の手が繋がっていた。

「すー……すー……」

「愛紗さん、よく眠っていますね」

「……みたいだね」

多少引っ張る形になったが、起きる様子が無い。珍しく……深い眠りに入っているようだ。

あれだけ色々動いているし、座った姿勢で寝たというのに……関羽の髪や横顔は綺麗なものだな。

「で?」

「ん?」


なんか、朱里の笑顔が怖いんだが。


「どうして入り口側の壁で寝ていた一刀さまが、部屋奥の壁に寄りかかっていて、おまけに愛紗さんと手を握っているんですか?」



「…………あー」



朝から説明が面倒だな。



「……まずは、関羽と華佗を起こそうか」





     ◆  ◆  ◆





「つまり、一刀さまが夜更けに外に出ていて、愛紗さんはそれに気付かなかった、と」

「面目ない限りだ。このような失態を犯すとはな……」

華佗と関羽を起こして。

下で宿の主人から簡単な食事を貰い、俺らは部屋でそれらを食べつつ、テーブルを囲んで作戦会議を行なっていた。

「外で何をしていたんですか?」

「情報収集だよ。この後、朱里に自分でも確認してはもらうが……馬騰の屋敷の中身は大体調べておいた」

「え?」

「は?」

「…………ふむ」

食事をする手をぴたっと止めた女性二人だが、華佗は一つ嘆息しただけで手は止めずに、話の流れを見ている。

「出入り口は正門、西門、裏門の三つ。東は壁が敷き詰められていたが……関羽が一撃で飛ばせそうな厚さしかない。壁をぶち抜くってのも、一つの手だが……前の世界で魏軍が馬騰の屋敷に入ったのは、正門と裏門からだった。西門に隙があるという訳じゃないが、恐らく今回も先にその両門に魏軍が辿り着くだろう。ということも考えると、そちら側に多めに兵が割かれる。馬騰の私室は二階で、これも西側だ。だから――」

「はいはい、一刀さま、一度止まって、止まってください」

「説明しろって言われても困るぞ」

俺は先回りして言う。

地和達のことは話せないし……かといって、みんな寝ていたからバレずに済んだ、なんて誰が信じるだろうか。門番だっているだろうに。

「どうして説明出来ないことをしてくるんですか……」

当たり前だが、不機嫌そうな顔をされた。

「偶然……でもないな。ある意味で必然性があって、それが偶然起こってしまっただけだ。放置していたらそれはそれで事を起こした時に面倒も出るし……とはいっても、今回のことは俺も受身だったがな」

「ぜんっぜん! 意味が分かりません!」

「だから、説明が出来ないんだよ」

「むぅ……」

朱里が一度考え込むと、

「…………じゃあ、いつ頃なら話せるようになりますか? 今回の事が終わって……魏に戻ったら、大丈夫ですか?」

「……んー」

魏に戻ったらか。

これから朱里は魏の一員になる。それも踏まえて、こんな言い方をしているんだろうが……どの道、朱里にも地和のことは話さなければならなくなるだろう。

朱里は妖術に関しても知識があるようだし、仙術の類も知っている。地和との知識と兼ね合わせをすれば、何かしら面白い情報が出てきそうだ。

と言っても、朱里なら俺から説明しなくても勝手に気付きそうではあるが。

「そうだね。無事に魏に戻れたら、何があったか話そうか」

「……じゃ、それでいいです。愛紗さんはどうですか?」

思った以上にあっさり引き下がった。俺に慣れてきたとも言える。

「構わん。どの道、北郷殿がそう言うのであれば、何を言ったところで口を割ることはないだろうしな」

「だそうです。良かったですね」

「ありがとう、二人とも」

朱里の皮肉を流して、話を続ける。

「さっきしていた話だが」

言うと、朱里がはむっと一度野菜料理を口に運んだ後、

「外からだけですけど、パッと見なら、私も大体調べました。中の構造は分かりませんが……侵入に関しては、魏が町の城門を破るのと同時で構わないと思います」

「混乱に乗じないとな。どこから入る?」

「町に辿り着いたら、もう魏は勢いのまま来るでしょう。裏門と正門……一刀さまの情報通りに進むなら、その道程は一刀さまの顔を魏軍に見られる可能性が高まる。余分な危険が多いです」

「じゃあ、西門か」

「東の壁を壊してって案も面白いんですが……そもそも、目的が完遂されるまで、私達は魏軍に顔を見られると良くありません。悪いとも言い難いですけどね」

「余計な軋轢を生む前に、一転突破ね……」

すっ……と小さく関羽が手を上げて、

「何より、私は北郷殿の傍を離れたくはありません」

「だったね」

関羽には心労を掛けっぱなしだ。今後どうなるかは分からないが、そういった面で不利な要素をこれ以上積み上げるようなことは避けた方がいい……とは思ってはいる。いざという時に言うことを聞いてもらえないのは困るしな。

「じゃあ、飯を食ったら俺と朱里で散策。一刀と愛紗はここに待機。で、昼過ぎにもう一回情報を煮詰めて……」

「夜に備える、ですね。今日魏軍が来なければ、まぁそれはそれですが……」

チラッと朱里が俺を見てきたので。

俺は首を横に振った。

「来る。これはもう確定だ」

「だそうですよー。もう、嫌になりますね……」

露骨な嘆息をされる。

……関羽もそうだが、朱里にも近いうちに、もう少し話を付けて置いた方が良さそうだな……。

その近いうちってのが、いつになることやら。





     ◆  ◆  ◆






華佗と朱里が部屋を出て行って。

「…………」

「…………」

俺と関羽は、部屋に二人きりになる。

二時間もすれば帰っては来るだろうが……それまでは暇だな。

「北郷殿」

「ん?」

寝台に座る俺に、テーブル傍の椅子に腰掛けている関羽が話しかけてくる。

表情は……普通だ。深刻な話題ではなさそうだが。

「そう身構えないでください」

「分かっちゃった?」

「なんとなく……身体に力が入ったので。そんなに難しい内容ではありませんよ」

じゃあ、なんだろうか?

「昨日……何があったのかはお聞きしませんが。ただ、もしまた同じことが起こった場合……私は起きられるでしょうか?」

「あぁ、それか」

武人としての話だった。

んー……起きられるかどうか、か。

「無理だろうな」

結論から言うと、だけど。

「起きられる方法はありますか?」

だが、間髪入れずにそう聞いてくる。

「まず、どうして無理なのかは聞かないんだ?」

「朱里が聞いても答えなかったではありませんか」

「そうだけどさ……微妙な食い違いがあるんだけど。でも、君にとっては同じことか……」

町が妖術に包まれていたことと、関羽に妖術の耐性があるかどうかなんて、今は関係がない。

「同じ答えになるな。無理だ」

「…………そう、ですか」

少し悔しそうに歯噛みして、

「差し支えない範囲で、どうして無理なのか答えられませんか?」

「……関羽の向上心は素晴らしいものだって俺も思うけどさ」

俺は、首を横に振る。

「いずれ話してやるって言っただろ? それまで待ってくれ」

「…………はぁ」

返事なのか溜息なのか、分からない発音だった。

「……悔しい悔しくない以前に、この場合、私は無知なのです」

「そうなるね」

「だから、何を鍛えればいいのか分からない。今北郷殿は私の向上心がどうこう言いましたが、これは向上心ではなく、危機感ですよ。知らない現象が目の前にあるのに、対処法が分からない。だから、鍛え方や戦い方も逃げ方も分からない」

「知らなきゃ戦えない、逃げられない、戦うべきなのかも分からない」

「同じ考えだとは思っていました」

「だろうさ。その分、桃香がのんびりしすぎなんだ」

「だというのに、あなたは私に何もかも教えない」

「ヒント……じゃないな。そこそこ欠片は落としてるよ。それらを上手くはめれば、一つの絵にもなる」

と言っても、今回のことは突発的過ぎて気付く要素はないけれど。

「意図的に落としている訳ではないでしょうに」

「そりゃそうだ。俺の知識量は確かに一つ次元が違うんだろうけど。でも、神になれた訳じゃない。細かい失敗を重ねて、それを修正して、微調整しながらここまで来ているんだよ」

「あなたの場合、大きな失敗はもう取り返しがつかない…………いや、でも」

関羽が何かに気付いたように、俺の後ろにある窓から晴れ渡る空を見る。

「何が分かったんだ?」

「人は転んでも、立つことが出来ます。出来なければ、誰かに助けを求めて、引っ張って立たせてもらうことも出来ます」

「そうだね。それが?」



「北郷殿が転べない人間だって、桃香さまはいつ気付いたのでしょう?」



「…………」



「…………」




言われて見ると……まぁ、確かに。

あの子の直感は少々どころかかなり尋常じゃない。俺のことを分かりすぎているのもそうだが……。

「……確かに、本当に気付いたら、だったな」

そうとしか言えない。

『そう感じから』

とか。

『そう思えたから』

とか。

「普通に考えたら理由にならないことばかりだが……それでも桃香の言葉は、必死さは、純真さは、どうしても相手の心に響く。時には掴んで、時には傷付けて、時には抉る」

「それが、助けになることもあります」

「助けになりたいって思っているからだろうさ。だけど……根っからの悪人には、桃香の言葉は暴論にしか聞こえないんだよ」

「俺のように、なんて言うつもりじゃありませんよね?」

「さてね」

善人である可能性は、もう俺には残されていないけれど。

関羽は足を組んで、膝の上で指も組む。

「私から見れば、二人とも暴論ですよ。常識がない。でも分かってはいるからって真顔で言う。分かっているのに説明出来ないって。その説明が大事だと思うのですけどね」

「桃香は説明の努力は放棄してないよ。あの子の感覚を、この世界では……俺らが使う単語では、言葉にはしきれないんだろう。未知の、それこそ超常現象だとも言える。桃香の能力は単純だが、明快ではない。話して、思って、感じたことが……全て必ず正解だなんて能力。正解にどうあっても帰結するなんて暴論。そんな暴論があるなんて、誰が信じる」

「桃香さまに面すれば、誰でも信じられると思います」

「強気だね」

思わず、俺の口が嘲笑の形を作ってしまう。

関羽は少し眉を潜めて、

「反論でも?」

「誰もが桃香を信じられる訳じゃない。言ったろ? 根っからの悪人は、桃香の考えが暴論で……どうあっても浸透はしないんだ」

「…………曹操殿のことではないですよね?」

あぁ、そうも取られるか。

俺は肯定も否定もしない。

「華琳は華琳で、また違う。華琳は桃香と同じぐらいに、強すぎる野心がある。その野心はどこまでも凶暴で、苛烈で…………それこそ、純真なんだよ」

「……なるほど。だからこそ、桃香さまは曹操殿と相容れない」

「どっちが間違っているとか、どっちが正しいとか……そういう話じゃないんだ。人には人それぞれの傾きがあって、華琳の意思が自分にとって心地よかったら、そいつは奸雄の僕になるだろうし、桃香の意思が自分にとって癒しになるのであれば、そいつは仁君の餌になるだろうさ」

「あまり、納得しがたい表現です」

「でも、そうじゃないか? 傾きは誰にだってある。華琳と桃香は、その傾きが異常なまでに鋭くて、急傾斜で。その作られた傾きが……二人が作った傾きの後を歩いているのが町人で、兵士で、大きくまとめれば国民だ。関羽、お前だってその部品の一つにしか過ぎない」

「ご自身には関係のないように言うのですね」

「実際、関係ないよ。俺は天の遣いで、多分…………最も傾きのないところに立っている。常人であればあるほど、俺の考えなんてすぐに分かりそうなものなのに。強くなりすぎれば、賢くなりすぎれば、常人から見て人ならざるような存在になればなるほど……俺のことは図れなくなる。関羽、今の君もそうだよ」

「…………」

「そんな顔するな。君らが分からないから、俺はまだ生きていられる。知れば、気付かれれば……誰だって、知られたくないことがあるだろ?」

「そうかもしれませんが……それでも、北郷殿のそれは……」




「関羽」




「っ?」




俺は笑顔を作って、関羽の言葉を止める。

この子は本当に純粋だ。敵には容赦をしないが、味方……それこそ、一度心を許すと、どうしようもない程にその相手を守る。助けようとする。

「関羽。君が今ここに居るのは、桃香のこともあるが……」

「無論、自分の意思です。桃香さまに責任を押し付けるようなことは、何一つありません」

「そうだな。なのに、君は俺を心配している」

「それは…………まぁ」

渋々、というように頷く。

「それは、どうして?」

「…………」

「死なれたら困るってのは分かるよ。俺だってそうだ。だから君を気遣いはするけれど、心配はしない。腕っ節が弱いから……なんて理由もありそうだけど、そうじゃないだろ?」

「…………」


少し。



少しの間、静かな時間が流れる。



町の喧騒もない。



ただただ、お互いがお互いのことを想う時間が。





「――――わたし、は……」




どれくらいの時間が経過してか。



関羽が、口を開いて。



「私は…………きっと、あなたが怖いんだと思う」

「…………どうして?」

「似たような話を前にもしましたね。あなたは桃香さまの心を掴んでいるのに、同時に曹操殿の心も掴んでいる。決して相容れない二つの傾きなのに、あなたにだけは二つのまるで違う傾きが、立つ場所を与えている」

「それが、怖い?」

「これはきっと傾きが無いんじゃない。あなたは、傾きなんて違う、もっと別のところに立っている。それは桃香さまにも、曹操殿にも分からない。分からないから、あの二人はあなたを求める。あなたを知ろうとする。知らない場所に立つあなたの手を掴んで、振り向かせることが出来れば……目の前にある知らないあなたを知ることが出来れば、その時はもう、怖いものなんてないから。それを……あの二人は、それこそ本能で察しているから」

「……ふーん」

それこそ、本当に……似たような話を、当人達ともしたが。

「……知らない俺、か」

あの子達は、俺を知らないとは思っていなかった。ただ、分からない俺を知りたい……分かりあいたいと言ってくれた。

「知識がどうこうではありません。あなたの存在そのものの話です。例えあなたが記憶喪失でこの世界に現れたとしても……曹操殿の心を掴み、桃香さまの興味を引いて……二人の心の底からの笑顔を引き出すことが出来る。そんな気が……私はするのです」

「…………」

「だから、怖い。あなたがその気になれば、魏も、呉も、蜀も関係がなくなって……あっさり、簡単に、天下が統一されてしまうような。人の心を満たしながらも、全てを一つにするような暴力性が……あなたの中に見え隠れして、私は気が気じゃない」

「監視ってわけだ?」

「何もかも滅茶苦茶にされたくはないと思います。それが出来るかどうかはさておいても…………でも」

「うん?」

「でも…………そうなってしまうのも、いいんじゃないか? なんて思う自分も居るのです」

「それは、本当にらしくなく聞こえるけど?」

「何もかも滅茶苦茶にされて、一つになって。そうなれば……桃香さまはご自分の好きなことが出来ます。美味しいお菓子を食べて、子供と遊んで…………好きな人と、一緒に暮らして」



そこで、俺を見てくる。




なるほど。




俺は、目を閉じた。




関羽の空想は……ある意味で正しいのかもしれない。



今の俺には……華佗が付いてくるという前提があるが、やろうと思えば他人の国を奪うことなんて簡単だろう。もし自分の国に戻るのに自身の力で三国の統一が必要というのであれば……俺は俺の持ち得る全ての力を持って、三国の打倒に動くこともあるかもしれないが。




しかし……今のところ、その可能性は無い。






だって――――――――






「だから私は、北郷殿と一緒に居るのです。監視と言われればそうですが……あなたに死んで欲しくないと思う自分も居ます」





ふと、どうしてだろうか






コレを、関羽に言うべきなんじゃないか?






そう思う俺が現れた





「以前にも申し上げましたが、救ってあげたいと思う自分も、やはりいます。約束や裏切り……色々ありましたが」





しかし、言ってどうなるというのだろうか?





一人ぐらい、限りなく真実に近いほうが事が運びやすい?





いや……そういう理由は俺の中には無い。




関羽にコレを言うということは、多大なるリスクを背負うということになる。




下手したら、関羽が俺を見限る可能性だって含まれている。








しかし…………。





「こうして……言葉にすると、まだまだ自分の感情の整理が追いついてはいないのが分かりますが……。それでも、私は私が分かった範囲で、あなたを助けたい。あなたを助けることが……桃香さまの心を助けることにもなる。だから――――」



「あぁ……それかも」




「えっ?」



関羽が俺を見るが、俺が考えているのは別のことだ。





そうだ……こいつは何も知らされてなくて





何も分からないのに





誰よりも俺のことを理屈で理解するのが早かった



桃香のように本能からではなく



朱里のようにそれまでの実績や経緯で予想したわけでもなく




実際の俺を見ての――――境遇も、感情も、想いだって











「関羽」



「……?」



「一つだけ、教えてやる。これは華佗しか知らない、とっておきだ」






言ってみよう












そう、            思った






だから――――俺は     笑む。







その笑みは紛うことなく俺で。







「北郷、殿……?」






でも、その笑みは…………関羽が一番嫌いであろう、俺なんだ。







「俺はね、関羽」










一度、言葉を区切って












関羽がこの言葉を、どう判断して、どう想って、どう租借して、












どう――――俺を、見てくれるのか













「俺は――――俺を殺すために、生まれてきたんだよ」










「えっ――――――」





喪失感が













瞬く間に、襲い掛かってくる









でも、



       俺の笑みは崩れない









「だから――――もし、俺を救いたいって言うのなら――――――」












開いた瞳に飛び込んできたのは









俺のことを――――まるで、宿敵と言わんばかりに睨みつける関羽の顔で――――










「俺を確実に殺す方法を――――――考えないと          
            

              お前――――――死ぬぞ」



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