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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第70話 前編 

あの想いと共に 

第70話 前編


…………右、かな。


少し悩んだが、俺は右の飾りつけのない扉を開ける。


ぎぃ…………と音を立てて、開かれた扉。



その中には……。




「馬超……?」

寝台で何事も無く、すやすやと寝ている馬超が居た。

ということは、ここは彼女の私室か。

他には机が一つ、椅子が一つ、着物入れが一つ……後は槍や武器の調整に使う石や道具ばかり。まさに武人って感じの部屋だが……だからといって汚い訳じゃなく、整理整頓はしっかりされている。

「…………」

「すー……すー……」

目の前に槍があって。

起きないであろう、馬超が居て。

絶好の機会っていうのは、まさにこういう状況のことを言うんだろう……けど。




ガタッ――ガタガタッ――――




殺せない理由がある。いや、殺せないじゃなく、殺すとリスクが高すぎるんだけど。



それに……音は、逆の扉から聞こえたな。


ここは馬騰の屋敷。

で、今俺が居る部屋は馬超の私室。



じゃあ、逆の部屋は……自然と、限られてくるんじゃなかろうか。



俺は部屋を出て、音を立てないように扉を閉めて。



カラフルに飾られた扉の前に立つ。




で、堂々とノックをしてみた。



「うみゃああああああああああああ!? だ、誰!? 誰だれだれっ!?」



……普通に起きているな。



馬岱……前の世界では、一、二度話したぐらいの子だったが……。



俺は返事をせずに、扉を開ける。


「っ……!」


「やぁ」



正方形の部屋だ。そして、扉は西側。馬岱はテーブルを挟んで、東側の壁に寄りかかるように立っていた。

右手には前の世界でも見た、彼女の武器。そして……左手は、頭に添えられるようにして置かれており、

「だ、誰よ、あんた……っ!」

「…………」

「な、なによ……なんか言いなさいよ!」

「辛そうだね」

最初の印象がそうだった。

壁に体重を預けなきゃ立てないというように足は振るえ、武器を握る手もしっかりしてはおらず、甘い。そして、頭に添えられている手は……なんだろうな。見た感じ、頭が痛くて、それを抑えようとしての抵抗に見えるけど。

「な、何がよ……てか、あんた! あんたがこんなことしたの!?」

「…………」

「だ、だからぁ! なんで一々黙るのよっ……つっ、いったぁ…………っ」

やっぱり頭痛が酷いようだ。声を出すことに力を使った馬岱は、思わず膝から崩れ落ちる。

でも、この反応……。

「……君じゃないか。そりゃそうか」

腰に手を当てて、嘆息。

ここは寄り道だ。答えがあるとは思っていない。

答えがある場所は……限られている。そして、その予想は多分外れてはいないだろう。

俺は堂々と馬岱に近付いて、片膝を付く。

「な、……な、によ……」

「……いや、ね」

身体に力も入らないのか、涙ぐみながら俺を見上げる馬岱を見下ろす。

じー……っと見つめて、確認を。涙ぐみながら痛みを訴える表情が、なんともそそられるが……。



この子はどうして起きているんだろうか? それを言うならまぁ、俺もなんだが。



俺がこうして起きているのは……何となく想像は出来る。もう普通じゃない身体だから、そこら辺が理由になっているはずだ。

しかし馬岱がこうして起きているのは腑に落ちない。彼女は妖術や仙術を扱うのだろうか? 前の世界じゃ、そんな素振りは無かったが……。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

彼女の左手が、自分の頭を撫でている。

なんか……動きが機械的だな。

「左手で頭を撫でても、痛みは変わらないんじゃない?」

「んくっ……そ、そんなことないもんっ……こうしてると、痛みが和らぐから……でも、痛いよぉ……っ」

「和らぐ……?」

何で?

俺は遠慮なく馬岱の左手を掴み、その手の平を見る。

「な、なにすんのよっ!」

「黙って」

「だま、だまっ……この、あんた……!」

右手が振り上げられたが、俺は空いた手でそれを払いのける。大した力は込めなかったが、馬岱手はあっさりと払われ、握っていた武器が音を立てて床を転がっていった。

「いっつ……!」

「……ふむ」

俺は馬岱の様子を無視して、左手を撫でる。

すると…………どこか、身体に馴染む感触を覚えた。



――――妖術――――あの、三姉妹の香り――――




俺が手を離すと、馬岱はすかさず左手で頭を撫でる。

「はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!」

ほんの数秒だが、今度はぽろぽろと涙が零れ落ちていた。それほどまでの激痛だったんだろう。

でも……。

「だとするなら……」

「はぁ、はぁ……なに、よ! てか、あんた、誰……?」

同じ言葉を繰り返す、息も絶え絶えの、という表現が正しい状態の馬岱。

「少し、抱きしめるよ」

だが、俺は確かめたいことが出来た。


それに、俺の予想が当たっていれば――――だ。



俺は馬岱の頭を抱え込むようにして、彼女の身体を優しく包み込んでやる。



「ちょ、ちょっと、急になにすんのよ! あたしはそんな安い女じゃ――」


口だけは達者だが、抵抗は全くなく、


「頭痛は?」


「こういうのはちょろそうなお姉ちゃんにやるべ…………え?」



喚いていた馬岱が一度止まって。



頭の上に?マークを出しているかのように、首を傾げながら俺を見上げてきた。



「だろうなぁ……」

「え? え? なになに何これ? なんか、頭痛なくなったよ?」

「そうだろうさ」

俺が頭痛を覚えてないってことは、つまりはそういうことだ。

それに……逆の確信も得た。



俺の身体はもう、どっぷりと術に漬けられたぐちょぐちょの身体だってことが、よく分かった。



華佗が言っていたしな……俺の身体に妖術の痕跡があるって。

「君が頭を撫でているのを見て……これは、頭、脳に作用する術なんじゃないかなって思ったのさ。それも踏まえて、じゃあ対応力のある俺が君を包み込んだら……って思ったわけ」

「へー……へーへー」

目をぱちくりさせながら、しきりに俺を顔を見て、視線を外してを繰り返すと。

「じゃあ、お兄さんがコレをやってるって訳じゃないんだ?」

十秒ぐらい考えた後、そう聞いてきた。朱里の言う通り、頭の回転は早いようだ。

「俺も巻き込まれたクチだよ」

「そっかー……ふむふむ」

頭痛が取り除かれて、ようやく落ち着いて考えられる環境になったからか、馬岱がぎゅっと俺にしがみつきながら辺りを見回す。

「で、お兄さん、誰?」

「最もな疑問だね」

俺は彼女を抱きかかえて、寝台に座る。

「わわっと。もう、急に動かないでよ! びっくりするじゃん!」

「それはすまない」

小柄な身体の通り、ふわっとした柔らかさと軽さだ。

「俺は通りすがりの旅人だよ。昨日来たばっかりさ」

「うわぁ……昨日来て、今日これとか急に怪しくなったんだけどー……名前はー?」

「お互い名乗らないでおこう。これは多分夢のようなものだし……夢が覚めて現実でもし再会できたら、自己紹介しあおうじゃないか」

「ふーん、いいけどさ」

俺の膝の上に座って、ごろごろと楽しそうに頭を首にこすり付けてくる。

「くすぐったいよ」

「頭が痛いんですぅー。お兄さんはどうして大丈夫なのさ?」

「似たようなものだから……かな」

俺は部屋の中を見回す。馬超を模った人形やら、洒落た簪のような小物など、女の子らしい部屋だ。

「ちょっとちょっと! 女の子の部屋をじろじろ見ないでよ!」

「あぁ、ごめんごめん。ところでさ」

ぎゅっと胸辺りの服を掴まれる。

あんまり話したことはなかったが、そこそこ強気で言いたい事は言う子みたいだな。

「最近、おかしなことあった?」

「おかしいこと?」

トン、トンと胸を人差し指で叩かれる。状況が状況じゃなきゃ、そっちが好きそうな男は騙されてそうだ。

「こういうことが起こったことに心当たり~、みたいな?」

「うん」

「ないけど。ってか意味分かんないし! でもでも、お兄さんはあるんでしょ?」

「あるね。君が起きている理由も、なんとなく察しは付く」

「ほー……」

目を爛々と輝かせて、説明して! って見上げてくるけど。

「多分、俺が解決しなきゃいけない問題なんだと思ってる。それを踏まえるなら……」

「うんうん」

「君は他の人達と同じように、寝ていないとまずいってことになるな」

成功しようが失敗しようが、どう転ぼうが。さすがにまともに術の影響下にあれば、元の世界に戻れるだろう。

だが、このまま起き続けていて影響が何もないまま、でも他の人間と同じように元に戻れる…………そう考えるのは、さすがに安易だ。

「え? なんで?」

「んー……」

痛みを覚えたまま起き続けているってのは可哀想だしまずいと思うから、ここに寄り道したのは正解といえば正解だった。イレギュラーだと思うしな……。

だけど、おかげでこの子をどう扱って他と同じすればいいか……。

「ねーねー! ちゃんと説明してよ!」

「説明か……まぁいいか」

どこまで華琳が知っているのか知らないが、ちゃんとあの子達を管理し切れていないミスだ。最大限のフォローはするが、最低限の割り切りも必要だろう。

「これは妖術だよ。この町全体を包み込んで、みんなを眠らせている」

「妖術……? まさか……」

なにやら考え込み始める。予想外の反応だ。

「心当たりでも?」

「こっから西の……五胡の奴らなんだけど。あいつらって、いっつも変わったことするんだよね」

五胡……そういえば、居たな。

俺には深い係わり合いが無かったから、結局どういう奴らなのかは分からないままだったが。

「彼らの仕業の可能性が?」

「あるのかなぁって。こうして見てみたら、お兄さんも不思議な格好してるし。どこから来たの?」

「南の漢中。連れが何人か居るけどね」

「あ、そうなんだ? じゃあ違うのかなぁ……」

「可能性の一つとして、頭の中に入れておいた方が良いとは思う」

俺の予想は違うけれど。

タイミングが俺にとってドンピシャ過ぎるし……何より、北西の都市が落ちたっていう話も聞かないのに、そこを無視して中央にいきなり仕掛けてくるってのは考えにくい。

「じゃあじゃあ、お兄さんの予想は? 誰が犯人?」

「それは……」

……言えないだろう。昨日まで、彼女達はこの町の癒しであり、原動力にもなっていたはずだ。

「悪いが、言えないな。無事に現実で再会できたら、そこで説明するよ」

「ええええええええええええぇぇぇ!? 何それ! ずっるいよ!」

別にずるいも何もないと思うけれど。

さて……後は、この子を眠らせる方法なんだが。

俺が手を離しても、今のこの子には左手がある。それを封じる方法かぁ……。

手袋をする――とかじゃダメだよなぁ。俺の身体は衣服越しに触れている訳だし。

「うーん……」

「一人で悩まないでよ! ほらほら、二人で考えた方が、良い案が出たりすると思わない? だから話しなさいってば!」

……真面目なのかなぁ、この子。実は、だけど。

不真面目っていうか、お調子者の色が強い子だと思っていたが。状況が状況だからか、真面目に俺と向き合っているし、この状況を必死に解決しよう、したいって心意気が伝わってくる。

「そういう子じゃないと思ってたよ」

「え? 何が?」

「楽が出来そうなところなら楽をして、美味しいところは自分がかっさらうような子に見えてた」

「な、なにそれ……初対面でふつーそこまで言う?」

不満というか、引かれた顔をされた。そういや、確かに初対面といえば初対面だ。

「別にお姉ちゃんいじって遊んだりしてないし、お姉ちゃんが弱らせた敵をあたしが倒したりとかはしたことあるけど、意図的じゃないし! たまたまとかそういうのが重なっただけだってば! お兄さんに言っても分かんないだろうけど!!」

「君のお姉さんは苦労してそうだ」

「可愛いよー、お姉ちゃん。お兄さんとお似合いかもねっ」

「どうだろね」

馬超とも全く話したことがない。興味がないわけじゃないが……。

「ってかさ、話逸らしちゃだめだってば! なんでなんで? なんでこんなことになってんの? 教えてよ! おーしーえーてー!」

がくがくと身体を揺すられる。んー……。

そうだなぁ。

やっぱり、俺らしいやり方で行くしかないか。

「……はぁ。まぁ、あんまり言いたくないんだけどさ」

「うんうん」

ようやく話してくれる気になったと思ってくれたらしいが……そうではなくて。

「このまま起きていると……君は一生、ここに囚われたままになる」

「えっ?」

俺が選択したやり方は……俺らしいやり方で。



いつも通り――――騙すってことだ。



「他の人は寝ているけれど……あれは、囚われてないってことにもなるんだ。逆もまた然りっていうのかな」

「ど、どどどどどういうこと? あたしとお兄さん、なんかおかしいの? みんながおかしいんじゃなくて?」

予想外の言葉だったのか、動揺した様子を見せる馬岱。

「寝ているみんなが正常なのさ。そして、起きている俺と君が異常なんだ。何事も無ければ、みんなこんなことに気付かずに寝て起きて……戻ってこられる」

「じゃ、じゃあ、あたしやお兄さんは戻れないってこと?」

条件をクリアしない限りは、この空間に閉じ込められたままだろうな。それを開くのも閉じたままにするのも、俺次第なところがあるだろうが。

「その可能性が非常に高い。だから……酷な言い方だけど、頭痛に負けてさっさと眠るべきだよ」

「んー……」

僅かに悩んだが。



「そんなのやだ!」



まるで駄々っ子のように俺の意見を突っぱねる。

「やだってな……」

「あたしが寝ちゃったら、お兄さんはどうするの? 原因を解決させに行くんでしょ?」

「そう思う?」

「思う。だって頭痛がないお兄さんは、妖術の影響下で眠れないってことじゃん? じゃあじゃあ、普通に眠っても起きたらここに居るってことになるよね?」

「…………そうだねぇ」

驚いたな。やっぱり、頭の回転はそれなりか。

「じゃあさ、それならあたしとお兄さんの二人で解決した方が良くない? 二人の方が絶対早いし、これでもお兄さんよりは槍の扱いが上手いと思うんだけど!」

「俺にくっ付いたまま槍を振るうのかい?」

「あ」

口を空けて呆然と。変なところで抜けてるな。

俺の胸をぎゅっと掴んだまま、空いている手で見ながら俯く馬岱。

「む……むむぅ~……あたしが足手まといって言いたいのか、お兄さんは」

「そこまでは言わないけど」

「いやぁ、まぁ、あたしがお兄さんの立場だったらそう思うなー。邪魔くさいだろうしなー……でもなー、でもなー……とうっ」

俺の身体から、飛び退くように離れて。

「お……? 頭痛が………………いたっ、いたたたたっ!」

一瞬の間の後、すぐに左手で頭を押さえながら、俺の膝の上にダイブしてきて定位置に戻った。

「無理無理、絶対無理だってばこんなの! お兄さんは痛みを感じないから、痛んで寝ろとか言えるんだよ! この不感症!」

「誤解を招くような言い方をしないでほしいな」

「だってだって! これ我慢して寝ろって鬼畜過ぎるよ!」

「うん……そうは思うよ」

かといって、それ以外に方法が無いんだよな。

無視して突き飛ばして駆け去るのもありだろうけど……というか、それが一番かなぁ。大体の情報を整理できたし。

「……ね、お兄さんさ」

「うん?」

不思議な笑顔でこっちを見て固まっている馬岱。

「なんか、良からぬことを考えてはいませんかな?」

「察しがいいね」

笑顔の馬岱の頬がひくついた。

「ちょ……ちょーーーーっとだけ、待ってくれないかなぁ? いたいけで無力な可愛い美少女をほっぽって行こうみたいな考え方って、男として良くないなーなんて思うよ、あたし」

「言葉だけを取ると、手を出さないのはおかしい、みたいな発言に聞こえたよ」

「お兄さんはそこそこ気遣いは出来るけど……顔は並だし、経済的な部分も知らない、名前だって不明な不思議な服来た人だから、そういった方面はお断り!」

「じゃあ、俺から離れたらどうだい?」

「それは嫌!」

我侭だ。思わず溜息が出た。

「あれはダメ、これもダメ……となると、強引な手段しかなくなるなぁ」

「うぐっ……お、お兄さんの言いたいことも分かるんだけどさー……で、でもぉ……」

面倒になってきた。さっさと発生源だと思える場所に行こう………………ん?

「ねぇ」

「え、なぁに?」

「足元を見てみてくれ」

馬岱は俺の顔を見上げるようにして見ているから、足元がずっとお留守な状態だ。

「ん?」

言われて、視線を下に向けると。

俺は今、寝台に座っている。

だが……その座っている、腰の部分にまで。

「煙が……」

「広がってるね。上昇しているって言えばいいのかな」

高さが上がっている。俺に影響は今のところ無いが……。



ぽふっ




ぽふっぽふっぽふっ



「……な、なんか音しない?」

「いや、見たまんまだろ」

俺らが見ている煙。それらが、爆発とまではいかないが、ぽふっと音を立てて弾けているのが分かる。

「何が……」

起こっているんだろうか? 絶対に良いことじゃないだろ、これ。








「ん……?」






すると





一瞬だけ








「………………地和?」











彼女の横顔が、脳裏を過ぎる。












「あ…………あれっ……」

ふと、馬岱が何かに気付いたように言う。

その声に、俺も現実に引き戻された。

当然、目の前にあの子はいない。今居るのは、蜀の未来の一つを担う騒がしいこの子だけだ。

「どうした?」

「えっ……と……」

だが、馬岱は答えることなく。

少しずつ。


少しずつ、瞼を閉じていく。



「やばっ……なにこれ、すっごい…………ねむぃ……」



「……術の影響が強まったんだね」



そう考えるのが妥当だ。

煙が広がったのもそうだし……このポップコーンが弾けているような音はよく分からないが。

「うぎゅぅ……ねむすぎ……」

目を擦って、必死に眠気に抗おうとしている。

「寝た方がいいよ。そうすれば、きっとまた会える」

「で……でもっ、お兄さん……」

「ん?」

俺の顔を必死に見て、

「一人って…………つらく、ない……?」

「……そりゃあ」

辛いさ。すぐに、華佗の顔が浮かんだよ。

「俺の心配をしてくれて嬉しいよ。今日が初対面だってのにさ」

「ううぅ~……げ、げんかいかもっ……」

頭が舟をこぎ始めている。多分、俺の声はもう遠くなっていて、まともに聞こえていないだろう。

「大丈夫……そのまま、おやすみ」

俺は優しく言って、馬岱を寝台に寝かせる。

「で…………もっ……………………」



すると、俺という壁がなくなったからか、馬岱は騒ぐこともなく、頭痛も訴えずに、そのまま眠りに落ちた。



「…………やれやれ」

手間が掛かった。

俺は部屋から出て扉を閉めて、一つ嘆息。

後はこの屋敷から出て、彼女達の舞台に向かうつもりだが……。

「……そういや」

明日もここに来るんだよな。

そういう意味では、今ほどこの屋敷の中を調べるに当たって絶好の機会はない。

…………よし。

少し時間は掛かるだろうが、この状況は利用させてもらおう。



俺は屋敷の中を、観察しながら駆ける。



どこに何があるのか、誰がどの部屋に居るのか。

音を立てても起きやしないんだから、部屋も堂々と開けて。調べて。



そして。



「…………ここか」



以前は、死に顔をチラッと見ただけだったが。

扉の隙間から、馬騰の寝顔を見る。ここからでは呼吸の音も聞こえないが……場所は変わらずか。



それだけを確認して、俺は大体の箇所と大雑把に把握した後、すぐに屋敷を出た。



入り口は正門以外に、西門と裏口があるが。多分どちらもその時になると守りが堅いだろう。

逆に、東側。門こそないものの……壁はそこは厚くなかった。所詮は屋敷だしな。関羽にならぶち破って貰えるだろうけど……朱里と追々相談が必要か。



「……ふむ」



多少なりとも時間は掛かったが、やるべきことはやった。

犯人はあの子達だろうけど……屋敷のこともそうだが、自分の状態を再確認出来たのは良かったんだろうな。

腹が空かないのも、喉が渇かないのも、妖術に身体が侵されているせいだ。だから…………だから?

「待てよ……」




腹 が 空 か な い 身 体?






俺は、移動しながら考える。

確かに、今の俺の身体はどっぷり妖術に浸かっていると考えて良いだろう。馬岱の様子を見てもそうだし。

華佗が目を覚まさないのは、やっぱり根本的に妖術と仙術には違いがあるからなのかもしれない。劣化加速自体は仙術に近い能力だろうが……妖術としての側面も持っているだろうしな。

でも…………だ。



屋敷から、俺は出た。目的地は一つだ。




俺がこうして目を覚まして。







確か…………一度だけ、空腹を覚えた時があるはずだ。







あれは…………何故、だ?



それからだ。牢屋の中で何日も腹が空かず、出された食事には手を付けず。

気付いたら……全く食べなくても良いと身体が思うようになっていた。

しかし、目を覚まして。

星達とやりあって。

朱里を連れて戻って。

華佗に治療をしてもらって。



その直後に空腹だ。そこまでは……そこまでは確かに、俺の身体は正常だったはず……?



いや、これを正常と捉えるのは間違いだろうか。

元々異常があった身体だが、その時だけ異常が取り除かれた可能性がある……そうとも考えられる。




じゃあ…………何が、原因で…………?








そこまで、思考が進んだところで。









「おーそかったわねー」




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