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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第69話 

あの想いと共に


第69話



「目が合った?」

「あぁ」

「見分けをつけられたって思いますか?」

「間違いなくな」

じゃなきゃ、「あんた」なんて言葉は出なかったはずだ。

「仮に、そうじゃないとしても……」

「バレていると想定して動いていくべきですね」

「また大変になるな」

どかっと音を立てて、床に座り、壁に寄りかかったのは華佗だ。

俺らは今、とても簡素な部屋の中に居る。長方形の部屋で、入り口から見てベッドは北東に一つのみ。中央に木のテーブルと、おんぼろな木の椅子が三つ。掃除は行き届いているが、お世辞にも綺麗とは言えない、二階にある部屋だ。

「外が見える場所で、みんなが入れて、中央広場からは離れていて、魏がどれぐらいの時間を掛けて来るのか分からないので、あまりお金のかからない場所――って思って探したら、ここでした」

なんとはなしに部屋の中を見回したので、朱里が補足を入れる。

「場所や内容はどうでもいいさ。身を隠せて、雨風が凌げればそれで」

「それなら良いんですが……まぁ、問題はその人達がどう動いてくるかってことですよね」

自分の被っている帽子をぽんぽんと触りながら、

「わたしはともかくとして、お三方は顔を知られている……先に追いかけられた兵士二人というのも、そういう理由でしょうし」

「兵士二人と、地和か……彼らは一刀のことを言うかな?」

互いに報告したり、話し合うのかなって……?

「しない……とは思うが」

「どうしてですか?」

「舞台って、精神的な部分が大きく作用するんだよ。何事もそうだって言われればそうだけど、少しでも変調があると客が不審がるし、一つの失敗で客が離れたら元も子もない」

「今回の舞台遠征が終わるまで、彼女らの護衛についている彼らが北郷殿のことを言うことはあり得ない?」

「絶対はないから、断言も出来ないけど……失敗したら、魏軍の勝率そのものが下がるんだ。余計なことはしないと思うから……あくまでも高確率って言葉になるが、兵士の方からは言わないと思う」

「ということは……」

うん、まぁそういうことだ。兵士からは、ね。

「地和は……半々かな。兵士に言うかどうかは分からないが……少なくとも、他の二人には間違いなく伝わっているはずだ」

「三姉妹のうちの、残りお二人?」

「あぁ」

言わない理由もないだろうし……あんな場面で様子がおかしくなったら、人和なら確実に聞き出しているだろう。その場に天和がいない可能性も考えられない。

「なら……まずはそこら辺も加味して、魏の動向を調べなくてはいけませんね」

「俺はどうする?」

「華佗さんは……うーん」

「朱里一人に歩かせるのは不安が残る。出来れば、一緒に居て欲しいところだが……」

関羽もそうだが、俺に至っては服装で既にやばい。外套で隠せてはいるが、これをまくられたら一発で終わりだ。

かといって、この制服を今更捨てるってのも出来ない……そういう意味では、こいつは俺の弱点で、最も強い拘りになるんだろうけど……。

「見つかる危険性も多くなりますよね……?」

「官渡で死んだ扱いになってはいるだろうが……死体を見つけた訳ではないしな」

「それを言うなら俺もだよ。他人の空似ってことには……出来るかなぁ?」

「どこかでぼろが出ても困りますし、それは本当に最悪な場合のみにしましょう。見つかって話をしなければならない状況に追い込まれた時だけで」

関羽は椅子に座ったままで、何も言わない。朱里は部屋の中を歩きながら情報を頭の中で整理し、俺は寝台の横にある窓から外を覗き見ている。

「…………」

治安が悪そうには見えないが。

見えないってだけで、今は戦時中。隠れたストレスが人々の中に生まれているのは間違いないだろう。

それらの当てつけが、偶然朱里に向かないってこともないだろうし……。

「やっぱり、華佗は連れて行け」

「え?」

「バレるよりも、朱里をここで失う方が問題だ。今朱里と関羽がここにいて、何が起こるか……それは俺も知らないからな」

「…………そう、ですか」

何か言いたげだったが、すぐに首を縦に振る朱里。

「じゃあ、早速動いて来ますね。舞台は夜からですし、そろそろ日が暮れてきます。舞台の準備があるなら、彼女達はわたし達のために時間を割いてまで来れないはずです」

「そうか。なら行こう」

華佗がすぐに立ち上がる。

「関羽もそれで良いな?」

椅子に座ったまま、ただ黙って流れを見ていたが関羽に確認を取るが……、

「構いませんが…………自然と、私と北郷殿、朱里と華佗が一緒なのですね」

なんて、質問のような言葉を。

「不満か? 別に俺は華佗と一緒でも良いよ?」

というが、すぐに朱里が否定に入る。

「わたしは、それはちょっと……一刀さまと華佗さんをお二人にしておくと、何をしでかすか分かりませんし。わたしの知らないところで、勝手に決めて結果だけを伝えられても困ります」

「お前は、一刀と一緒に居るのが嫌なのか?」

「そういう訳ではない……ただ、気になったから口にしただけだ」

じっ……と俺を見てくる。なんか、口が不満そうに尖っている……気もする。

「……愛紗さん。気になることがあるなら、ちゃんとお話しておいた方がいいですよ。さ、華佗さん、わたし達も行きましょうか」

「あぁ」

意味深な言葉を残して、朱里は手を振って華佗と部屋を出て行った。

「気になることって?」

「いえ……」

目を瞑り、静かに呼吸をしたまま黙ってしまう。

「…………いいけどね」

聞き出したい程、関羽に興味がある訳じゃない。

それにしても……舞台、か。


もう……何年も見てない気がするな……。





     ◆  ◆  ◆





「戻りました」

「おかえり」

朱里と華佗が戻ってきたのは、それから三時間後。

その間、俺と関羽は何も喋らなかった。ただ黙って関羽は目を閉じたまま……寝ているとは思わないが、自分から何かを話す意思はないってことだろうから。

俺は華佗を見る。

「無事だよ。ただ、余所者ってことは分かるんだろうな。たまにギラついた視線を向けてきた奴もいた」

「華佗さんが居たから大丈夫でしたけどね」

笑顔で、ベッドに腰掛ける俺の隣に座る朱里。

華佗も華佗で、テーブルの椅子に腰掛けた。そこでようやく関羽が目を開ける。

「それで、進展はあったのか?」

話を切り出したのは関羽だ。

「魏が攻めあぐねているのは事実らしい……ってことですけど」

「あぁ」

まずそれだ。実際はどうなっているんだろうか。

「潜入からの内部工作をしているってなると、攻めあぐねているというより、今はただの準備期間……そこは前に話した通りでしたが、もう二つ」

朱里が指を二本立てる。

「町中を歩いていましたが、余所者というか……涼州の空気に似つかわしくない人間をちらほら見かけました」

「具体的な数?」

「百は居ただろうな」

華佗が答えてくれる。百か……。

「魏の人間?」

「ほぼ間違いなく。城門などはある町ですが、いざ市街戦となれば浮かれた市民や兵士など簡単に手玉に取られて瞬く間に制圧されてしまうでしょうね」

そこまでのお膳立ては既に完成しているのか……相変わらず、手が早いというか。

「大丈夫だったのか?」

「逆に積極的に話しかけましたよ。馬が買いたいって話ばっかりでしたけど」

「避けたりしていたら、逆に不自然か……でも、華佗は?」

「俺のことは知らないようだったな。俺から見ても、奴らの顔は記憶になかったが」

「知らない顔……?」

そんな奴が? 確かに、魏の人間全員が華佗の顔を覚えている訳でもなければ、知っている訳でもない。逆も然りだが。

……本当に魏の人間なのか?

「怪しいと思う気持ちも分かりますが、現に一刀さまは魏の親衛隊を見たんでしょう?」

「そうだけど……」

「なら、そこは間違いありませんよ。それに……」

少し言いにくそうに、朱里が言う。

「官渡で大勢の方が無くなったと聞きました。それなら……」

「あぁ……かもね」

官渡のことで具体的なことは何も話していないが、前の世界よりも多くの命が無くなった。魏も、袁も。

それならば、官渡で姿を消した華佗のことを知らない兵士が多くても……不思議ではないのかもしれない。

「一刀さまの中で納得がいったのなら、それでいいです」

話を続けますね、と前置きして。

「そういう人達に限って対応の仕方や、馬のことを深く知らなかったりと。確証が深まる反応ばかりでした」

「それが、百人以上か……」

「はい。それに、裏を返せば……それだけの兵を潜入させる余裕が、魏にあるってことです」

「余裕がないなら、兵なんて送っていられない」

「です。そこを前提において、今度は魏の状況を探ってみたんですが……」

上げていた指を一本折って、人差し指だけになる。

「距離にしたら、歩いて三日ほどの場所に今は陣を構えているようです。そして、長い間その場所から動かずに防勢に徹していると。涼州の方々からしたら、間断のない奇襲作戦で魏が音を上げている……とのことでしたが」

「相手の気勢を削げていないのに、よくそのような意見が出るな……」

「愛紗さんの言う通りです。特に理由もなく、場所がバレていると分かっている状況で同じ場所に留まる理由なんてない……でも、魏は留まっている。何故でしょうか?」

分かりますよね? って感じで俺を見てきて。

「奇襲の回数と、その際の相手の士気を見て判断しているんだろう。三姉妹が上手くやっているかどうかをな……加えて、余裕が出てきたら内部工作をする兵を多くしていく」

「ちゃんと逃げずに、正面から敵を相手して潰しつつ、でも損害を最小限にするために相手に謀略を仕掛ける。さすが曹操さんですね」

「嫌味に聞こえるな」

「純粋に褒めてるんですよ。長い間、戦いながら相手の中枢に策を仕掛け続けるというのは、頭の中で考える以上に難しいことなんです。この二つを同時にこなせるということは、魏は既に官渡と同様かそれ以上の強国になっています。今の蜀は兵の質も、量も、軍師の数も足りませんから……羨ましいですね」

にこにこしながら楽しそうな朱里。こういう会話が好きなのは間違いないんだろうけど。

「魏が完全に優勢なのは分かった。それで、いつ頃奴らは動くのだ?」

朱里は待ってました、とばかり一度間をおいて、



「今――――じゃ、ないですかね」



「は?」


「ん?」


関羽と華佗が疑問の声を上げる。俺も上げるところだった。

「今から舞台があるし、多分そろそろ良いだろう曹操さんも思っているでしょう。歩いて三日なら、走り続けたら二日かそれ以上に早く着きますよ。明日……はさすがに厳しいかな。それでも、明日の夜か明後日の朝には、もうこの町は戦場だと思います」

「早ければ早いほど、相手の虚を突ける」

「です。だから、明日の夜には来ると思います。一気に走ってくれば、兵は疲労困憊……そう、涼州の人達は思うでしょうけど、それこそ相手の思う壺ですし。馬騰さんが居れば、まだ分からなかったかもしれませんが」

「ということは、馬騰のことも調べてきたんだ?」

話の流れ的に、そういう言い方だった。

朱里は「勿論です」って笑顔で頷いて、

「もう随分と、軍の編成や市政にも顔を出していないようです。全て娘の馬超さんと馬岱さんがやりくりしているようですね」

「たまたまって可能性もあるだろ?」

「攻め入られているのに、誰にも顔を見せていないっていうのは尋常ではありません。そういう意味での不安もあり、その不安を消そうとして三姉妹さんの舞台にのめり込んでいる人も多かったです」

なるほどねぇ……どこかかしかに繋がりはあるってことか。

なんて考えていると、関羽が手を上げる。

「その、娘二人に気付かれる可能性は?」

当然の質問だった。

朱里はそれにも流暢に話を返す。

「馬超さんは頭が悪い方ではないですが、どうも物事を表面的に捉える人のようです。一度魏が止まったら“急すぎる行軍で疲れたから止まったんだ”と思い込むんじゃないんでしょうか」

「だが、馬岱はそうじゃないと?」

「馬岱さんは目敏い方のようですが、最終的に馬超さんの意見を尊重するようです。姉の馬超さんがそうだと言ったら、仕方ないという感じで従うでしょう。それに……」

朱里が、チラッと俺を見て。

「馬岱さん、三姉妹さん達の舞台に相当お熱のようですよ。最近は毎日通っているらしいですね。自分の出撃の際には、別の人に代わってもらってまで見に行っているようです」

「あぁ、そう……」

大人気じゃないか。良かったな、地和達。

「恐らくは、馬岱さんの情報も曹操さんに筒抜けと見ていいでしょう。それだけの点を全部結び合わせて考えたら……、
 三姉妹さんの舞台が最高に盛り上がっていること、
 馬一族の人間すら虜にしている現状も踏まえ、
 長期間潜入しても不自然にならない程度の人数を潜り込ませることに成功し、
 そこからの情報を元に、兵の士気の緩み、動きのだらけの再確認も出来て、
 その上、優勢と慢心しているここを落とすのは“今”なんじゃないかなって」

最後の今、という言葉を強調して言う。

「……不思議なもんだな。俺も一緒に話を聞いていたが、とてもじゃないがそこまでのことは思いつかん」

華佗が感嘆の息を漏らす。

「不思議、ですか?」

「傍から見たら、ただの世間話だからな。しかも大体の切り口が、馬の売買の話、馬一族の馬術の話、そして三姉妹の舞台の話。今朱里が話した部分は、殆ど数分の会話の間、触れていなかったに等しいものばかりだ」

「一言でも欲しい言葉が聞ければ、それでいいんですよ」

少し照れたように言う朱里。素直に嬉しいって感情が顔に出ている。

「相手が分かりやすく、興味を引く内容で会話を誘って、気分を良くしたところで一言聞く……分かっていれば、対処の仕様もあるけど」

「分かってないと思いますよ。それに……わたしが話した人達としては、悪い話をしている訳ではありませんし」

そこが厄介なんだよな。俺も気をつけないと。

「では、これからどうなさいますか?」

関羽の声の後、三人の視線が俺に集まる。

「どうも何も無いよ。今日は休むさ……何だかんだで歩き詰めだったしな。明日の夜が勝負だって言うなら、それまでに関羽と華佗には身体を休めておいてもらわないと」

「分かりました」

「了解」

二人がすぐに返事を。

逆に朱里はというと、

「わたしは?」

なんて、子供らしい仕草で首を傾げて。

「明日、今日聞いた、予定されていた舞台はないだろう」

「ですね」

「だとすると、介入がある可能性がある。朱里は朝から悪いんだが、三姉妹の動向探ってみて欲しい」

「三姉妹……なるほど、最もです」

すぐに朱里が理解してくれる。

夜にまた舞台がある――そう言って、チケットでも売るだろう。

だが、それは罠だ。実際は明日の夜、ここは戦場になる。しかし、そのチケットが買えたという兵士や民衆は嬉々としてそれを待つ。目の前に敵が迫っていることも知らないで。

しかし舞台がないとなると、地和達は時間が空くだろう。また勝手に出歩くかもしれないが……その勝手というやつが、俺を探すという行為になる可能性がある。

「ギリギリで邪魔が入っても困ります。彼女達の動きを探って……それと、こちらも潜入する場所を少し調べないといけませんし。わたしは明日は朝から出ずっぱりですね」

「頼むよ。始まるまでは朱里が頼りだ」

「勿論です。また、華佗さんの力を借りることになると思いますが……」

「幾らでも使え。俺の力が一刀の勝利に導かれるというのなら、なんの不満もないさ」

「なら、良かったです」


そこで、会話は終了。各々寝る準備に入り始める。

寝台は朱里が使うことに。俺と華佗は壁を背にして。関羽は座ったままで大丈夫とのことで、そのままだ。



さて……後は。

問題さえなければ、馬騰と会い、その上で馬騰を殺して。



華琳に……何食わぬ顔で、再会か。





     ◆  ◆  ◆





「…………ん?」

目が、覚める。

「朝か……」

空が僅かに白んでいる。そういう時間ってことだろう。

みんなは……まだ寝ているな。町の住民もそろそろ動き出す頃だろうし、朱里だけでも起こした方が良いだろうか。

「よっと……」

立って、身体を伸ばす。節々がパキパキと音を鳴らして……充足感と気だるさが同時にやってくる。

溜息を吐きつつ、俺はなるべく歩く音を立てないようにベッドの前まで行く。関羽辺りならもう気付いてそうだが、それはそれだ。

「朱里、朱里……」

規則正しく寝息を立てている朱里の肩を揺する……が、中々起きない。疲れているんだろうか。

「朱里……朝だ。そろそろ起きてくれ」

…………起きない。

なんだろうな。力が弱いんだろうか。

少し強めに揺すってみる――――が。


「…………変だな」


一向に起きる様子が無い。

別に、自分が起きる時間じゃないと起きないって訳じゃないだろう。なのに、どうして…………?

「……――ん?」



そこで――――少し、変なことに気付く。



外が……白んではいる。朝が近いってことなんだろうが。

「なんだ……?」

変だ。

なんか、不自然な明るさっていうか……。

「これ……」

思わず、そう声が漏れる。

明るい……明るいが、これは…………太陽の明るさじゃない。

前の世界ではよく馴染み、この世界ではそこそこの付き合いしかない明るさ。



これは――――妖術の、明かりだ。



俺は窓から外を覗く。

下を見ると、地面には紫色のスモークが撒かれていて、まるで町全体が霧に埋もれている印象だ。

彼女達の舞台でよく見てきた現象だ。明るさを調節したり、スモーク状に霧を出して幻想的な雰囲気を演出したり。

だが、どうして今こんなことが…………華琳の指示とは思えないが。こんなことをして、もし三姉妹が魏の人間だとバレたら、魏の印象は妖術を使う怪しい国家と世間で言われてしまう。

でも独自であの子達がこんなことをするか……? 確かに、町の中を混乱させるには優秀な手段の一つだが、戦いで使うという風には……俺が二日も寝ていたとか? 

いや、それにしては争った形跡はない。町が完全に無傷のまま掌握出来るはずもないし……。

「それに……」

ここに寝ている、この三人……おかしくないか?

「関羽、俺だ。関羽!」

俺は関羽に近付いて、大きく身体を揺さぶる――――が。



どさっ…………と。



関羽が、俺に揺さぶられた衝撃で、床に倒れこむ。

「すー…………すー…………」

だが、死んでいる訳じゃない。ただ、眠っているだけだ。

俺は安堵の息を吐き、関羽を寝台の傍に寝かせておいた。

しかしこれで確信を得た。三人は、死んでいると言う訳ではない。ただ、眠っているだけで。



夢の世界から、戻れなくなっている――――ということだ。



「こんなことが出来るのは……」

あの子達しか……居ないだろう。

何故、こんなことをしているのかは分からない。町全体を包んでまで、何をやっているのか。

それとも、俺が前の世界で知らなかっただけで、同じことをやっていたんだろうか? だとしても、何故?

もしこれが意識操作の類の妖術だとしたら、これは黄布の時と同じだ。本人の意思に介入し、捻じ曲げ、自分にとって都合の良い人形にする。

ここにいる三人が寝ているってことは、この霧に当てられた人間全員が起きられない状態になっているということだ。

意図的に起こしているとすれば、すごいことだ。相手を完全に無力化してしまっているんだから。

寝込みを襲えば、そりゃ楽に勝てる……勝てるだろうが…………華琳のやることとは、到底思えない。

それに、前の世界では普通に市街戦があった。そう考えるなら、やっぱりこれは華琳の仕業ではないはずだ。

「…………」



危険だが……外に出るべきなんだろう。



ここでこうしていたって、事態が良い方向に動くとは限らない。かといって、俺が動けばその分悪い方向に進むこともあるだろうけど。

だからといって、このままここで指を咥えて待っているか……? ずっとこの状況だったらどうする……?

「それに……」

俺はさっき、みんなが寝ていて、俺だけが起きてしまった状況だと思ったが。

何事にも、逆の可能性があるということを、俺はこの世界で学んだ。


つまり……俺だけが現実世界で眠っていて。



――俺だけが、夢の世界に堕とし込まれている――――そういう可能性だって、あるんだ。



だとすれば、俺から動かないと状況は変わらない。むしろ悪化するばかりだ。

加えて、時間が過ぎれば過ぎるほど俺には不利になるだろう。仮に現実で俺が眠っているとすると、タイムリミットは一日も無いってことなんだから。

「…………ふぅ」

大きく息を吐く。



よし…………行こう。



俺は決断し、部屋から廊下へ、そしてそのまま宿の外に出る。

明るさのせいで、今の時間が分からない。

スモークの高さは膝の上ぐらいまでだ。足元が全く見えないから、気を付けて歩かないと。

「…………」

通りで一度止まって、音を聞いて見るが――――やはり、何も聞こえない。無音特有の耳鳴りが煩いだけで。

「…………はぁ」

どうして俺だけが起きているかも分からない。

だが、今の町の状況と……俺が起きているっていう状態。

これには関連性があるはずだ。

もしくは…………、

「あの子達の意思で――――俺だけをターゲットにした」

俺だけを起こして、他を寝させたままにした。

そういう可能性がない訳じゃない。むしろ、一度その可能性に気付くと、そればかりが頭を支配する。

これほど器用な真似が出来るとも思えないんだけどな……前の世界では、ここまでのことはやってなかったはずだし。



…………歩く。


………………ただ、歩く。



俺の歩く音だけが、街中に響く。

無音で、無人で、生気が感じられなく、妖気だけが与えられる世界。

気持ち悪いとは思うが……でもこれは、ある意味で俺らしいんだろう。

身体の調子を仙術に支配されている俺としては、この感じは実にらしい。気持ち悪さも、異様さも、何もかも。

しかし、だからといってこの世界を共有して永住するつもりはない。

ここには誰も居ない。俺しかいない。俺という音と色しかない。



中央広場までやってきた



何もない。

噴水があるが、それすら動いていない。なんだこれは。

時間が止まっているとでも言うんだろうか? 元の世界じゃないんだ。スイッチでオンやオフの機能はないだろう。

「…………」

異様さが、増したな。

だが、何もない。人もいない。

「…………」

ふと、思ったが。

今、馬騰の屋敷に行ったらどうなるんだろうか?

何事も無く、簡単に殺せるんじゃないか? 武器もないけどさ。

いや……そうではなくても、門番ぐらいはいるはずだ。



馬騰の屋敷まで向かってみよう。




…………。


………………。


……………………。






来て見た。


「…………寝ている」

まるで、崩れ落ちるように二人の門番が寝ていた。

片方は門の塀に寄りかかるようにしながら。

もう片方はそのまま前のめりに倒れたんだろう。仰向けにしてやると、鼻血が垂れていた。

どちらも息はあるが……いくら声を掛けても、揺さぶっても起きようとしない。これじゃ死人と一緒だ。

「…………」

一見、城のような形をした建物が目の前にある。

大きさはそうでもないな。遠くから見ても小さいと思ったが……やはり同じ場所に根を張るってタイプの人間じゃないからか。




中に入ってみよう




中に入ると……それでも、城は城。似たような造りにはなっていた。

魏よりは呉の方が造り的には近いのかな。同じ職人が作ったのかもしれないけど。



廊下を、ただ歩く。



たまに寝ている兵士がいるぐらいで、後は何も無い。

本当に……武器を持って誰かの首でも刺したら、何の苦労もなく一瞬で殺せそうだ。



しかし、来て見たはいいが、ここには何も無いな。



今後のことを考えると、馬騰はともかくとして、馬超か馬岱を殺しておけば有利になるだろうけど……。

まずはこの状況を打破することを考えなければ。殺したはいいが、華佗のフォローが無くて倒れて死にましたって最悪すぎる。

「…………っ?」



ガタッ――――――――




…………音?

思わず、飛び上がりそうになった。何もないと思い込んでいたからというのもあるし、久しぶりに自分以外の音を聞いたからというのもある。



誰か…………居るのか?



俺は音がした方。通路を右に曲がって、そのまま歩いていく。



ここら辺だと思うが……。



あったのは、扉が二つ。どちらも私室のようだが。


誰の部屋かは分からないな……それに、どっちからの音だ?


右の飾りのない、木の扉か?


それとも、カラフルな布でゴージャズな飾り付けがされている左の扉だろうか?



「…………」



どっちを――――開けよう?





続く




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