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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第68話 

あの想いと共に


第68話



一晩休み、食事も済ませて、俺らはすぐに街を出た。

会話らしい会話は……俺と朱里の間にはあったが、少し後ろを歩く華佗と関羽の間には無く。

「じゃあ、黄布の時から、もう色々と仕込みをなされていたんですね」

気付いているのだろうが、どうしようもないこともある。

朱里は後ろ二人には触れずに、俺との会話を優先して口を開き続けていた。

「覚えている範囲で、不自然にならない程度に奪えそうな手柄は奪ってきたよ」

桂花然り、風然り、秋蘭然り……風は元々自分がやるべきだった仕事の功績を、全部俺がやったという体で回しているからというのもあるが。

「じゃあ、連合でわたし達のところにやって来たのは? わたし達と知り合いになるため……ということだけなら、理由は薄そうに思えますが」

「魏に居るよりも、そっちに行った方が結果的に面白くなるだろうとは思った。ただ……」

「ただ?」

……朱里は、月のことを知っているのだろうか?

それらしい素振りは見たような気はするが……本人の口からそう言われた訳ではないし。

かといって、気付いてないとは思えないんだよな。

「…………いや、なんでもないさ」

「そういう止め方、すごい気になるから出来るだけ止めて欲しいです」

「善処するよ」

「しないくせに……」

口を尖らせながら、

「一刀さまは、桃香さまが矢を射られるって……知っていたんですか?」

「ん?」

「ほら、それで怪我をして……あれさえ無かったらって、よく思うのですが」

はっきり言うね。お互い遠慮の無い立場ではあるけど。

「肯定しても否定しても、疑問が残るだろ」

「そうですけど……」

肯定したら、桃香はあそこで死ぬってことになる。勿論色んな要素があって死なないんだろうが。

それでも朱里からしたら、俺が居なければあの瞬間、桃香を守れた奴はいないことになるんだ。ということは、否定そのものも矛盾を示すようになっていて。

なのに俺は最初から、三国が成り立つを分かって行動していた……元の世界でもそうだったし、前の世界でもそうだったと話した。



じゃあ、この世界で桃香が死に追いやられた理由はどういうことなのか――――?



「喋りすぎると、痛いんだ。そしてその痛みは、朱里にだって伝染する」

「今更ですよ?」

「繰り返すよりは良いと思うんだけど、どうかな?」

「…………わたしは、知りたいです」

「華佗の苦労が増えるね」

俺はそこで会話を断ち切る。喋るつもりはない。だって、俺もそれは知らないことだから。

「国境までもう少しか」

「みたいだね」

ふと、華佗が遠くを見ながら言った。

確かに遠方にそれらしい建物があり、その傍を巡回するように動いている兵が見える。無視して通るってことは出来なさそうだ。

「簡単に通れるかな?」

「諸葛亮が居るんだ。お手並み拝見だな」

「無事に済ませるつもりですが……あ、華佗さん」

「ん?」

何か思い出したように一度足を止めて、振り返って。

「わたしのことは……そうだな。魏に着くまで……って言うのも都合が悪いですね。今後は真名の方で呼んでください」

「む?」

「ほう」

「朱里……? 何を考えている」

関羽が眉を潜めるが、朱里は当然という顔をする。

「出来れば、愛紗さんもそうしてもらった方が良いと思います。自分で言うのも恥ずかしいですが……諸葛亮とか諸葛孔明とか、関羽とか関雲長とか……結構、知っている人は知っているみたいなんですよね」

「根拠は?」

「昨日、愛紗さんの服を買いに行っている時、街中で華佗さんをお話しながら歩いていたんですが……華佗さんがわたしのことを諸葛亮って言う度に、何人か反応してこちらに視線を寄せている人が居ました」

ほんと? って視線を華佗に向けたら、確かにそうだ、と頷かれた。

「領地でもない場所で知っている人が居るってことは、それなりに危ないです。それが蜀の軍師とか武将とか思われたら……良く、ありませんよね?」

「まぁな。だが、俺はともかくとして、君らにとって真名は大事なものだろ?」

「これからの行程を考えたら……割り切るところと妥協するところ、それどころか諦めたり見捨てたりしなければならないこと、たくさんあると思います。そんな物事に出会う可能性を少しでも減らしたいんです」

「だから、真名を……いや、真名ぐらい……って考え方か」

魏のみんなと合流したら、みんな朱里のことは諸葛亮って呼ぶと思うが……だからさっき濁したんだろうな。

でも、魏のみんなに囲まれている状況と、今こうして単独で動いている状況……そうしたことを、今後鑑みた場合……。

「そうですね。ですから、華佗さん」

「俺は構わない。改めて、朱里。よろしく頼む」

「はい、お願いします」

俺を含めた三人の視線が、関羽に集まる。

「私は……」

俯く関羽。

少し、時間を要した後、

「……呼ばれたくは、ないです。特に、北郷殿には」

「俺は良いのか?」

「華佗にも思うところはあるが……まだ、な」

俺が真名を呼ぶということは、あの約束にも繋がるってことになってるんだろう……関羽の中では。

「とっくに終わったことだと思うけど?」

「そう思ってないと、言ったはずです」

「だったね。じゃあ、華佗は関羽のことを真名で呼ぼう。俺は出来る限り、人前では関羽のことを名前で呼ばない。これでいいかな?」

「…………はい」

納得してくれたようだ。

「俺もお前のことを名前で呼ばなければ良いだけじゃないか?」

「咄嗟のこともありますし、何より戦闘面ではお二人に頼りきりになります。声を掛け合う時もあるでしょう」

「そうか」

聞くべきことを聞いて、華佗は口を閉じた。

「……じゃ、行こうか? もうないよな?」

「私は特に」

「そうですね。一刀さまと愛紗さんは出来るだけ目立たないように。外套で衣服は隠せていますが……顔まで隠すと怪しいので」

「頑張ろう。何か策はあるのかい?」

「いいえ……多分、策なんて考えなくても通れると思いますよ。戦時中とはいえ……たかだか四人、通しても問題ないと思うでしょうし。女連れでもありますからね」

「こういう時、朱里には必ず算段がある。信じましょう」

関羽の言葉を最後に、俺達は止めた足を動かした。





     ◆  ◆  ◆





「……馬、ねぇ」

俺は後ろを振り返って、もう見えなくなった国境を思いながら言う。

「簡単でしたね」

「そうだが、よくもまぁあれだけ嘘を並べられるな」

華佗がある意味で感嘆の息を漏らす。

「涼州の特産は色々ありますが……やはりその中でも、馬が一番ですから。わたし達は旅人で、涼州の馬が欲しくて、その馬の扱いに長けた馬一族に会いたい……」

「俺らからしたら、この状況でそれって胡散臭く聞こえるけどね」

「四人旅で、女が二人。荷物も多いだろうし、馬一頭くらい欲しいと思うのは当然です。尚且つ、愛紗さんが俯いて、終始黙っているのも良かったですね。おかげで、わたし達は愛紗さんというお嬢様と一緒に旅をする……なんて設定が出来ましたし」

なんて言う朱里を見て、関羽が呆れて横を見て、

「不名誉だ。私が令嬢などと……あの衛兵はどこをどう見てそんな勘違いをしたのか分からん」

「関羽、黙ってたら本当に美人だし。それが喋らない、遠慮して視線そらして、顔を下げて……ってなると、結構な男は騙されると思うよ」

「まるで、喋って視線を合わせたらダメみたいなことを言うのですね、北郷殿は」

「それはそれで魅力があるんだけどね。でも知ってなきゃ分からない魅力だと思うし」

「…………そうですか」

一度俺と視線を合わせたが、すぐに逸らされた。本当のことを言ってるんだけどなぁ……。

「結果として、上手くいって良かったじゃないか。馬騰の屋敷は、ここから真っ直ぐ北にあるんだったな」

「屋敷はそうですね。でも、ご本人がそこに居るかどうか……」

チラッと俺を見てくる朱里。

「そうだね、居ないかな。少なくとも俺の知る限りだと」

涼州には幾つか都市があるが、中央、南東、北西の三つが主だった都市だ。都市といっても、彼らは元々移動する民族なので、根を張った大都市というほどではないが。

その中で俺らは南西から入った。先程の衛兵から聞きだした馬一族の居場所は、北西の都市だが。

「中央ですか?」

「うん」

「そうですか。じゃあ、中央に向かいましょう。わたしもそう思いますし」

「何故、そう思う?」

華佗の当然の疑問に、朱里が答える。

「南東は真っ先に戦に巻き込まれる可能性があるから……というのはそうですが、それを言うなら北西だってそうです。五胡のこともありますしね……その上馬騰さんは病人。でも指示は出さなければならないし、必要とあれば戦いにも出なければならなくなる」

「対応が利くのは結局中央都市ってことだと思うよ。前に、そんなことを聞いた」

「それと、馬の育成を主にやっているのは草原の多い北西都市です。そういうことも含めて、気を利かせてくれたんだと思いますが……」

「俺らが聞いたのは、馬一族と馬騰の屋敷の情報で、馬騰本人の情報じゃないってのがな」

「話が小難しいですが、要は中央を目指せば良いのでしょう?」

「そういうことだね」

関羽は話の流れをぶった切って、簡単にまとめる。

「しかし、名は知られていても、顔は知られてはいないようですね」

「そうですね。警戒しておくにこしたことはありませんが」

二人の会話を聞いて……まぁ、写真やネットがある訳じゃないからなぁ。

今の時代はそれこそ、紙一枚に絵を描いて……とかだけど、それだけ本当かどうか分からないってことも多いから。

「天の世界では、どうやって本人確認を行なっていたんですか?」

まさに今考えていたことを質問された。

「ボタン……スイッチ……えーっと、なんていうんだっけか」

「?」

朱里が首をかしげながらも、興味深々にこちらを見上げている。

「分かりやすく……かどうかは微妙だけど。今こうして目に映っている景色そのものを、一瞬でそのまま絵に起こす道具があったんだよ、俺の世界には」

「へぇ……そのまま、ですか。鏡に映るように?」

「そうだね。道具の値段は大小様々だけど、大体の人間がその道具を持っていたと思う。それに……環境さえ整えば、それを世界中の人間に見せられることだって出来た」

勿論、ネット環境がない国や地域もあるだろうが。そこまで説明はしなくて良いだろう。

「前に仰ってた、でんわ……でしたっけ?」

「似たような物かな。それを使った機能がたくさんあって、その一つ。そして、その絵に起こす道具……カメラって言うんだけど。そのカメラが映し出した絵が本物かどうかを確認する術もあるらしい」

「らしい?」

「俺はそこら辺、詳しくないよ。専門の人しか知らない知識だろうからね」

警察とか科学捜査とか……中身はドラマで見たようなものばかりだし、何よりうろ覚えだ。

「一度そのかめらとやらで絵をとられたら、悪人はもう逃げられませんね」

「そうだね」

建前は……ね。

指名手配犯がネットに晒されたところで、そういう奴らはそういう奴らで頭がすこぶる良い。逃げ方や隠れ方が尋常じゃなく上手くて捕まってない人も多いのが事実だ。

「あまり、反応が良くありませんね。それでも悪人が捕まらないのですか?」

「…………どうだろ」

目敏く見ている。というか、どうして俺がそう思っているのが分かるのだろうか。

「もう……聞きたいことがたくさんあるのに、一刀さまは制限が多すぎますっ」

「急になんだよ」

怒ったように言われても。

「だって……わたし達のせいで具合が悪くなるのもそうですけど。それを踏まえて会話をしなくちゃならないから、今みたいな曖昧な反応をされると……」

「頭が痛いのか、ただ言いたくないだけなのか分かりにくいって?」

「です」

「関羽は分かってたじゃないか」

「それはっ……」

一瞬驚いて、決まりが悪そうな顔をする。

朱里がじーーっと関羽を見て、

「愛紗さんは……んー、付き合いが長いからってだけじゃなさそうなんですけどね」

「それは……桃香さまよりは、確かに分かりにくいがな」

「……うん? じゃあお前、一刀のことをちゃんとした主として認めているってことか?」

「うっ――」

失言だった、という風に首元に巻いた布で顔を隠されるが。

「ちょっとズレがあったね、華佗。関羽からちゃんと聞き出してからその質問をぶつけていたら完璧だった」

「あぁ……それもそうだな」

「でも、この状況で答えないって選択肢を選びますかね? ねぇ、愛紗さん」

「何か、詰問をされている気がするな……」

関所まで一日半。そして、町までまだ一日弱ある。

なら、疲れない程度に会話はしておいた方が良い。悪い交流にはならないだろうし。

関羽は呆れつつも……いや、かなり嫌がっているようだが……。

「別に……以前、本当に具合が悪い状態の北郷殿を見ているので。その感覚に近いと思ったから……というだけです」

「以前? 魏で、そんなことが?」

「いや、逃避行中」

「ですからっ!」

怒られるのを分かってて言う俺も俺だが。

「でも、分かるんだ?」

「全く……分かるというか、感じるというか。不思議と……こう、真っ黒な沼に北郷殿が落ちていっている感覚を覚えるのです」

「なんだ、それは?」

こういうことにはすぐに首を突っ込むな、華佗は。

「それ以上落としてはダメ、というか……上手く言葉に出来なくて済みません。ただ、私がそう思っているというだけなので」

「だから、引き上げようと思う?」

「引き上げることは私には出来ないのだろう? だから……手を掴むだけだ。北郷殿は振り払う仕草もないのに、気付いたらこちらの手をすぐにすり抜けるから……目を離せん」

「子供見たいに言わないでくれ」

「子供の方が感情をそのままに表現してくれるので、よっぽど分かりやすいですよ。北郷殿は隠すのが本当にお上手だ」

「やったね、褒められたよ」

「……いつか思いっっっっきり、殴ってやりたい……!」

握り拳を震わせながら関羽が言う。

だが、遊ぶ俺とは違って、朱里は真面目な顔で考え込んでいた。

「……わたしは、そういうの分かんないな……」

「普通は分からないものだと思う。私は最悪の北郷殿を体験したから分かるのかもしれないし」

「そうですけど……桃香さまは桃香さまで変わった感覚があり、愛紗さんも独自の掴み方をしている」

「朱里はないの? そういうの」

「わたしは知識だけで判断しているので……それは確かに、お二方はやってないのかもしれませんが」

朱里の視線が華佗に向けられる。

「俺は医療の知識が多いだけだ。そういう意味じゃ、朱里と俺は似ている部分があるだろう」

「でも、華佗さんも華佗さんで良く分かってますよね? 昨日会話している時も、わたし達より先に気付いていたみたいだし……」

「仮にも医者だからな……見て察するぐらいじゃないと務まらん」

この世界、見ただけで相手のことが分かる人多いんだよね……そこまで分かるものなんだろうか。

……俺が鈍いだけなのかな。

「…………っ」



――今、僅かに視界がブレた。



何度か瞬きする…………うん、もう大丈夫。

あぁでも、本当に面倒だ。

突発的に来るってのもあるが……そのせいでいつも気を張っているので、疲れが取れにくい。悪いものがどんどん嵩んでいく。

後は、これをなるべく女性二人にバレないようにしなきゃならないってのも――――。

「…………たまに、思うのですが」

すっ――と、関羽が寄ってきて。

「そうやって我慢をするから、身体に負担が掛かっているのではありませんか?」

腕をそっと取ってくれる。すると、どうしてか歩くのが少し楽になった。

体重を預けている訳じゃないが……いやでも、少しは俺の方が寄りかかっているんだろうな。そういうことを相手に意識させずに、関羽が歩いているんだろうけど。

「……何が?」

一応、知らない振りをするけれども。

「…………そうですね。先程朱里に言われたことですが、身体の力の入り具合を見ているのかもしれません」

「力?」

興味深く頭を突っ込むのは、やはり朱里。

「あぁ。いつも注意深く見ているからな……北郷殿のことは。今少し、身体が強張った。だから、眩暈でもあったのかと思って……違いましたか?」

「…………かもね」

なるほど……身体に力が入った、ねぇ。

無意識に力が入るってのは、人間としてよくある反射だ。熱いものを触った時とか、驚かされたりとか。

「そうですか……今までの話で、一番分かりやすくて納得出来る話でした。愛紗さんらしい内容、と言いますか」

「俺も武芸が出来る訳じゃないから、そういう方向での理解は出来ないな」

「私は頭で、愛紗さんは身体で……華佗さんも私と同じように頭でなんでしょうけどね」

「華佗のことは分からない方が良いよ。多分、理解は出来ない」

朱里が無駄な思考の迷路にはまりそうだったので、助け舟を出す。

「理解出来ないって、どうしてですか?」

「自分で説明出来そう?」

「先に言っておいて、俺に振るのか……いや、良いがな。とはいっても、俺の口からはなんとも言えん」

「……? 説明出来ないってことですか?」

「様々な事情がある。それを知っているのは一刀だが……一部を除いて、俺が持っている情報は全て一刀に渡してある。その一刀が自分から喋るというのであれば、俺はその判断を尊重するし、しないというのであれば、俺の口からは言えないってことになる」

「どこまでも難解な二人だが……華佗が知っていて、北郷殿が知らないことがあるのですね」

俺の腕を取って、寄り添う関羽が言う。遠くから見たら、勘違いされそうだ。

「あー……牢屋の時に話してくれた、アレですか?」

「うん」

朱里には話していた。関羽だけが分からないって顔をしている。

……華佗も居るし、話してもいいかな。

「関羽はさ、今俺達が誰かに見られていると思うかい?」

「えっ?」

俺に言われて――瞬間的に、関羽の周りがぞわっと――寒気のようなものが走ったが、すぐに収まる。

「いえ……特に、視線や気配は感じませんが」

「だが、聞かれていることに間違いはない。そういう認識で居てほしい」

「…………そうですか」

それ以上聞かず、踏み込まず。

違和感がある訳じゃないが、飲み込みが早すぎるというのも不安になる。

「随分と素直だな」

「北郷殿がそう言うからには、そうなのでしょう。もう一々疑いませんし……私自身が北郷殿を揺さぶるような事柄は特に知らないので、余り関係もない。違いますか?」

「桃香は良い家臣を持っているね」

「「それは桃香さまですから」」

即座に二人の声が揃う。本当に桃香を敬愛している証拠だ。

後は……このまま華琳と合流するまで、上手くやれればいいんだが。





     ◆  ◆  ◆





町に着く。

「じゃあ、魏は苦戦しているんですね」

「そうだ。我が涼州の騎馬隊に掛かれば、魏の軍勢など赤子のようなものよ」

「そうですか……」

俺と朱里は町の門番と、現状確認のための会話をしていた。

「なるほど。だから、町の空気も柔らかいんですね。色々旅をしてきましたが、戦時中の町はいつもぴりぴりしていて……わたし達のような旅人には、厳しいことも多くて」

「それは大変だったな。涼州の気風は自由を尊ぶものだ。目の前に敵が居るとかならばともかく、優勢な状態の遠くの敵に怯えるような輩は一人も居らんよ」

「それは助かります。それと……出来れば、馬を一頭ほしいと思っていまして。俺達……四人の荷物が積めるぐらいの、強い子が良いんですが」

「見たところ軽装のようだし、それなら大体の馬ならば問題は無かろう。なにせ、我らが涼州の馬だからな!」

自信たっぷりだな……。

「おい、そろそろ……」

「お、もうそんな時間か? 済まないな、俺達は交代の時間だ。特に怪しいものも持ってないようだし、中に入っていいぞ。そちらの女性も疲れているようだしな」

関羽が分かっている人間から見ると、嫌そうに目を逸らす。

武器は華佗が握っている。関羽が握っていると、せっかくのお嬢様設定が崩れるだろうし。

「ありがとうございます。街中で出会ったら、よろしくお願いします」

「あぁ、いつでも頼ってくれ。それでは!」

慌てて、尚且つ嬉しそうに二人は走っていく。

そして新しく来た二人は、溜息をついてとても嫌そうにしていた。

「何かあったんですか?」

「いや……何も無いよ。ただなぁ……今日は夜からだってのに」

「夜?」

「あ、あぁ、こちらの話だ。通っていいぞ」

そう言われたので、俺達はそのまま門を通る。

町の中は……本当に普通だ。

いや、それどころか……。

「浮かれていますね」

俺の隣に立って、自然と俺の腕を取って歩き出す。まるで介護されているみたいだが……本当に楽なんだよな、関羽が隣に居ると。

「浮かれている?」

「わたしもそう思います。まだ距離はあるとはいえ、戦時中なのに……緊張感もないし。これは、読みが当たっていそうですね」

俺の右後ろを歩く朱里が言う。華佗は俺の後ろに着いたままで、何も言わない。

「先程の門番、夜がどうとか言っていましたし……」

関羽が口にするのと同時に、朱里が動く。近くを歩いていた若い男に話しかける。

「すみません。夜から楽しい行事があるって話を聞いたんですが、どんなことをしているのですか?」

「ん? あんたら旅人か。いやな、少し前から旅芸人が舞台を開いているんだよ。これがすごいのなんのって! 可愛い女の子三人組なんだけどよ、歌が上手いし演出もすげぇし! 一気に虜にされちまったね、俺は!」

旅芸人ねぇ……素性は名乗れないよな、どっちの意味でも。

「なるほど……旅芸人の方々が。今日はどこでその舞台を?」

「北の方だぜ。ただ、もう今日の分の入場券は売り切れちまってるだろうから入れないな。明日もやるっていうから、明日の昼に大広場で券を買えばいい」

「そうですか。ご親切に、ありがとうございます」

「敵が増えるのは大変だが、嬉しいし良いぜ。じゃあな」

若者が立ち去っていく。

「だそうですよ」

しれっと言うが。

「北でやるってことは……もう魏の人間がこの町に紛れ込んでるってことになりますね」

「だろうな」

「なのに、この空気。悠長なものだ」

「でも、俺達は油断出来ないな」

魏の人間が紛れ込んでるってことは……。

「バレたらまずいですからね。幸い、わたし達は西側の入り口から入って、まだ中央の広場にも着いていない。早めに身を隠せる場所を探した方が良さそうです」

「頼めるか?」

朱里が敬礼するような仕草をして、

「すぐにでも。華佗さんを借りていきますね。十分後に、またここで」

「あぁ」

言って、すぐに二人は立ち去って行く。

一瞬、華佗が関羽に目配せしたが、関羽は首を横に振った。

…………なんの確認だろうか。

「我々はどうしましょうか?」

「下手に隠れていると目立つよ。この通りの屋台でも見ながら楽しもう」

まぁいい。確認が必要なことでもないだろう。

「……楽しむ振りをすれば良いのですね」

「そういった余裕のない物言いから看破されるんだ。心から楽しもう、ぐらいの努力はしろよ」

「……苦手です、そういうのは」

言いながら、戸惑いつつも俺との距離を若干詰める。そういう仕草が可愛らしいと思うのだが……口にしたら怒られるんだよな。

「好きな食べ物ってあるの?」

「いえ……好き嫌いは特にありませんが」

「そうなんだ? らしいっちゃらしいけど、せっかくだし何が食べようよ」

全くお腹空いてないけどね。ただ、時間を潰すには屋台がもってこいだろう。

「そういうあなたは、何かないのですか?」

「俺……? そうだなぁ……やっぱ肉まんとか好きだけどね。あるかな」

「それならあると思いますが……ほら」

関羽が視線で屋台を見る。定番だし、そりゃあるよね。

「幾つ食べる?」

「一つで良いですよ……すぐに二人も戻ってくるでしょうし」

少し遠い目をしながら言う。周りの気配でも探っているんだろうかね。

俺は屋台で肉まんを二つ買って、関羽に一つ渡す。

それに噛り付いて、もぐもぐ租借しながら。

「涼州の兵士はどう? 強そう?」

「弱くはないでしょうね――はむっ」

俺の腕を取りつつ、空いている手で肉まんを頬張る関羽。

そういや、武器は華佗が持って行ったままだな……素手でも大丈夫だろうけど。

案外、さっきの確認はそれかな。

「ただ……野戦での馬術は得意そうですが」

「城内戦とかはそうでもない?」

「本拠地を守る番兵の足運びが、正直気に食わないです。普段から馬に頼りきっている証拠だ……」

「俺はそういうの全然分かんないけどな」

それでも弱くはないって言うんだから、相応の実力があると見て間違いないんだろうけど。

「君の部隊の兵士は理想が高そうだ」

「必要最低限はしてもらいます。それは当然です。そこからは長所を伸ばします。その上で、味方との連携を取ればいい」

「どうして簡単そうに言うんだろうね、君らって」

「簡単に言葉にしているだけであって、実際はそうではないですよ。あなただって……簡単に生きてきた訳ではないでしょう?」

「君らの訓練よりは簡単かもしれないけどな」

未だに、親衛隊の訓練についていける気はしないし。

「よく言う……はむっ」

こうして頬っぺたをもぐもぐさせている時は普通の女の子なんだけどなぁ。

「…………どうして、こちらを見ているのですか? 足りないのですか?」

「あぁ、いや。そういう意味じゃないよ」

俺の分は話しながらで、すぐに食べ終えてしまった。というのも、なんだか何かを食べたり飲んだりしていると、異物を身体に入れているというか……なんか腹も空いていないのに無理に食べるのは気持ち悪くなるのだ。

だから、時間は掛けずにすぐに食べてしまう。早食いぐらいならおかしいと思われたりしないだろう。

「……人が何か食べている姿をじっくり見るのは失礼だと思います」

「じゃあ、俺から離れればいい」

「面白い冗談ですね…………っ?」

半分ぐらい食べたところで、関羽が一度止まる。

そして、髪を人差し指で整えながら、周りを見回すように後ろを振り返って、すぐに視線を前に戻すと。

「誰か、ついてきています」

俺にもっと身体を寄せて、残った肉まんを一口で頬張って言う。

「誰か分かる?」

「魏の人間かと」

「分かるんだ?」

「足運びが以前戦った親衛隊のそれです。ここまで訓練されすぎた足並みと気配の消し方、隠れ方は正にそれですよ」

「そっか」

気配消してても分かるんだね。消せてないじゃないか。後で華琳と春蘭に報告しておこうか。

しかし、まいったな。身体は隠せているが、顔は隠していない。俺と関羽ってことがバレたのかな。

「俺らに接触しそうな感じ?」

「…………探りを入れているような気はしますね。私達が急に声を潜めたから、距離を近付けて来ました」

「んー……」

どうしようか。

近付いて様子を見ているってことは、確信がある訳じゃないんだろう。何より、隣にいるのが関羽で、居る場所が涼州。普通ならあり得ないって思うはず。

「……このまま歩こう。そこ、右に曲がるよ」

「何か、お考えが?」

「ちょっとね……」

待ち合わせの通りの場所をズレて、十字路を右に曲がる。

その時、視線だけを動かして来た道を見ると――――なるほど。

「お知り合いでしたか?」

視界に入った二人は、見事に俺の知り合いで。

「華琳の親衛隊の二人だ。俺とも面識あるし……飲みに行ったりもしたことがある。兵士の中では、仲が良い部類かな」

以前、謹慎になった俺の部屋の門番をやってた二人だ。それからの付き合いだが……。

「気付かれる訳ですね。本人かどうかの確認をしないと、気が済まないのでしょう」

「でも、君がいるから迂闊に話し掛けれない……おまけに、自分達の仕事もある。何が怪しいと思われるか分かったもんじゃないしな」

「迎撃すれば良いというものでもありませんからね……私はあなたに従いますが」

「そうだな……」

接触――――しても、良いんだが。

しかし、これからの馬騰のことを考えるとそうもいかない。彼らは俺がここに居ることを喜んでくれるだろうけれど、同時に華琳に報告が行くだろう。

そうなったら、華琳からの連絡も来て「余計なことはせずに、合流を待て」と言われるがクチだ。華琳は馬騰に会いたがっているし、俺の近況を自分で理解していないから、今回は俺を使おうとは思わないはず。

「う~~~…………む」

「悩んでいますね」

「かなり、ね」

朱里が居れば何か妙案をくれそうだが、今はどんどん二人との距離が離れていっている最中だ。

「これだけ歩いたし、尾行が無くなったとか――」

「ないですよ。夜まで適当に歩き続けますか? 夜には例の舞台があるから、さすがに居なくなると思いますが……」

「昼過ぎから夜まで適当にただ歩いているだけって、不自然だよな?」

「普通に考えれば」

だよねぇ……散歩するのが好きなカップルも居るだろうけれど、何時間も同じ町をただ歩いていて足を止めないって変だよな。

かといって足を止めて何かしているところに近付かれて、じっくり観察されるのもリスクがあるし……。

「あぁもう…………ん?」

思考が堂々巡りを始めたところで、前方に人だかりが出来ているのに気付く。

「なんだろうな」

「なんでしょうね」

俺らに分かるわけがない。

だが……ちょっと、閃きが。

「もしかしたら、煙に撒けるかもしれない」

「本当ですか?」

「あぁ。行くぞ」

「は、はぁ……」

あまり信用ならないって顔をしているが、関羽は俺と腕を組んだまま付いてくる。

そして……問題の人だかりまで来た。



俺の予想だが――――この、人だかりの原因は――――。



「もー! 今は私的な時間だから、揮毫とかはなしですってばー!」

「でもでも、もうあたし達これぐらいの人気が出てるのね♪ みなさん、今日の舞台も楽しみにしててくださいねー!」



「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」



「なんで煽るのよ、ちぃ姉さんってばもう……」

案の定だった。

人だかりの中心。そこには、張三姉妹が居る。

慌てて対応したり断ったりしている姿を見るに、今はオフの時間なんだろうな。そこを適当に出歩いていたら捕まった、と。当たり前すぎて泣けてくるね。

それに……護衛の人間もいないな。自分達だけで抜け出してきたのか。人和も居るのに、随分と警戒心が薄いな。

「……いや、それも込みでか?」

より身近に感じられるようにすれば、更に敵兵の関心も向けられる。そういった意味合いもあるのかもしれない。

「なるほど……あぁ、あの三人の傍には誰も居ませんよ」

「そっか」

聞きたいことを先に言ってくれた。護衛が隠れているって状況でもないらしい。

「俺の考えていること、分かるか?」

「利用するのでしょう? 今はまだお待ちください」

「あぁ」

人混みを利用して、奴らを撒く。

俺達は更に人混みの中に入っていく。しかし、そこまでしなくてもどんどん人が集まってきて、すぐに俺達は大勢の人に囲まれて前も後ろも見えないような状態になってしまった。

「……どうだ?」

完全に囲まれている俺ら。

「もー♪ そこまで言うなら、舞台の上からお兄さんに向けてイイコトしてあげますねっ」

「姉さん、調子良すぎ! ちぃちゃんもたくさん魅力的な姿を見せてあげるから、みんな期待しててねー!」

「はぁ……これ、どうしようかしらね」

三人がそれぞれ対応を行なっている中、俺らは脱出の機会を伺う。

すると……全く楽しんでいる様子の無い関羽が、一度だけ息を吐いた。

「私達よりも、三人を優先したようですね。急いで人を掻き分けて動いています」

俺らを見失ったのか、この場を仲裁する方に動いたようだ。

「よしよし……じゃあ」

「えぇ、抜けましょう」

関羽に引っ張られて動き出す。

これだけの人混みなのに、まるで人の動きが分かっているかのようにするすると抜けていく。

これも武人だからなんだろうな……夕暮れのバーゲンセールとかですごい役に立ちそうだ。

なんて考えながら、関羽の動きに身を任せつつ、


何だろうか。



なんとなく気になった――――とも、違う





まるで、引っ張られるように、騒ぐ中心部を見ると、





「えっ――――」



「あ…………」






ほんの、人と人の






一瞬の、隙間――――






――――そこから、地和と、目が合った。






笑顔を浮かべてファンサービスしていた地和が、途端に固まって、固唾を呑んで、俺を見つめて。




「あんたっ――――」




と、彼女が言ったところで俺の方が引っ張られて、人混みから抜ける。

「……? どうしました?」

関羽は気付かなかったらしい。

「……急ぐぞ。地和に見られた」

「えっ!?」

「騒ぐかどうかは分からないが……すぐに離れよう」

関羽の返事を聞く前に、俺が早足で歩き出す。

「……音は、拾っておきます」

「頼むよ」



すぐに通りを逆戻りし、待ち合わせの場所で二人と合流。



「もう! お二人ともどこに行ってたんですか! 心配したんですよ!!」

朱里が心配して、声を上げながら俺らに近付いて来る。

「宿は?」

「取れましたけど! 何をしていたのか説明を――…………何か、あったんですか?」

俺が緊張しているのを見て、朱里が表情を引き締める。

「色々。奴らは?」

「聞こえる範囲で聞いていましたが、笑わなくなった彼女を見て観客が驚いている様子でした。追いかけてきている様子もありません」

「そうか。じゃあ、急ごう」

「わ、分かりました……でもっ」

「あぁ、すぐに説明する」



必要経費と割り切るには、大きすぎる失態だ。


どうして俺はあの時、振り向いたんだろうか。そんなことをしなければ、目だって合わなかったのに。


「……一刀? 大丈夫か?」

「心配ないよ、華佗。行こう」

俺達は、朱里の先導の元、目的地へと向かった。






続く



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