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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第67話 後編 

あの想いと共に 


第67話 後編



「一刀さま、今わたしに注意が必要だ……なんて、考えてませんでした?」

「鋭いね」

否定はしない。したって、状況は良くならないし。

何より、こういった察するのが上手なのは、彼女達の得意分野だ。だとしたらまず認め、その上で会話を発展させ、中身を引き出した方がよっぽど有意義に進む。

「少し心外ですけど……確かに愛紗さんへの当たりは強かったかもしれませんが、ここでこうして話しておかないと、愛紗さんだけじゃなくて、みんながそれぞれ勘違いしてそうで……」

「あぁ、それはそうかも。俺も想定外のところから援護が来たなって思ったし」

「それは私もだ……」

疲れたように言う関羽。

「それはその……ごめんなさいですけれど。ただ本当に、それだけわたしはちゃんと考えてるって分かって欲しかったんです。ちゃんと考えてて、今後のことも視野に入れてるって。だから……もっとちゃんとお話しましょうね、一刀さま」

隠してることを言えって言いたいんだろうけど。

「そうだね。一辺には無理だろうけど、少しずつだな」

「…………一刀さまは本当にけちんぼです」

「そんな言葉、久しぶりに聞いたよ。朱里が言うと可愛いもんだ」

近所の子供の我侭みたいで。

「なんか今、すっごく不名誉なことを言われた気がします! 可愛いって、そういう可愛いじゃないですよね!?」

「男が言う可愛いって言葉は、女が男に言う可愛いって言葉よりも、たくさんの意味があるんだよ。なぁ、華佗?」

「やめてくれ。そういう話題を俺に振るなよ……」

「華佗は色恋沙汰が苦手なのか」

「お前だって得意そうには見えないが」

「むっ……」

「話の方向性が変わってます。お二人を利用して煙に撒こうとしてもダメです!」

「可愛いって、本気で言ったんだけどな」

「本気なら尚更ダメだと思います!」

「やれやれ」

暗くなり過ぎたが、少し刺激したら場の雰囲気を持ち直せた。

朱里が分かってて、敢えて乗っかったのかもしれないが。

「もうっ。とにかく、わたしはそういう考え方でって話でした! おしまいです!」

「北郷殿はすぐに朱里を怒らせますね」

「全部俺のせいにするやり方はどうかと思うんだ」

魏でも割とそうだった。俺が本当に悪いこともあったが、大体は理不尽な当て付けだった気がする。

「それでさ、関羽」

俺は、ようやく聞きたいことが聞けると思い、関羽に話しかけたが。

「……この流れだし、簡単に言います。というか、簡単にしか言えません」

「というと?」

「私にも、どうしてあのようなことが起こったのか分かりません……説明が難しいのですが」

関羽が嘆息して、左腕を掴む。

「あったことを、そのまま説明してみてくれよ」

「そうですね。愛紗さんがついてくるって話もそうでしたが……それ以上に、身体を隠していた布についていた血。あれが全部、愛紗さんのものだっていうのは……正直信じられません」

「…………そうだな」

少し時間を置いたが、関羽は部屋の扉を指差す。

「何がありますか?」

「扉だろ」

「そうですね」

関羽が頷いて。

「ですが、あの部屋……扉はどうなっていましたっけ?」

「壊されていたな」

「どうして、壊れたのですか? 華佗に聞こうか」

「…………さぁな」

華佗は何も答えない。答えられないのが正解だが。

「あれは、北郷殿が壊した……のでしょうか?」

「俺? いやいや、違うよ」

もっと別の何かだ。

「あの扉ですが……確かに、壊れていました。それは、私も確認しております。でも……」

関羽が少し、遠い目をしながら部屋の扉を見る。



「朱里に言われた私は、何があるのかと思い、あの部屋に向かいました。道中、誰にも会わず……静かなもので」



ぽつぽつと、関羽が語りだすが。



すぐに、問題のある発言が飛び出す。



「私は……確かに、あの時……扉を開けて、部屋に入りました」



「は?」

俺も、朱里も、華佗も。頭の上に?マークを浮かべたことだろう。



「そして、扉が叩かれたのです。もしやと思い、誰かと問うと……」





“俺だ。北郷一刀だよ。開けてくれ、関羽”





俺の背筋に、




悪寒が、走る。




「朱里が言っていたのは、こういうことだったのか。そう思い、私は部屋の扉を開けました」



だが、俺が行った時、部屋の扉は同じように壊されていた。



そんな俺の思いが伝わったのか、関羽が薄く笑う。



「開けた――途端、でしたね。扉が割れるように砕け散って」



関羽が武器を持って、扉を差す。



「咄嗟のことで反応が後れ、砕けた扉の隙間から襲い掛かるように、大量の血液を掛けられて視界を封じられました。ですが、何者かが私を狙っているのは分かった。殺気が……尋常じゃなかったから」



関羽の笑みが、消える。



「それからは、対処して、対処して……しかし、視界がなく、私の傷が増えて……そこで、倒れた私に覆いかぶさるようにして、北郷殿は耳元で呟きましたよね」



「…………何を?」




「一言でした。“来るな、あるべき場所に居ろ”と」



あるべき場所……?



「そこで攻撃が止んで……何も、ここまでしなくても良いじゃないか、と思いました。来て欲しくなければそう言えばいいのに、邪魔だと言えばいいのに……こんな実力行使までして」



悲しそうに言う関羽だったが、すぐに声音が上がる。



「その直後ですね。私が……思考を止めて、呆然としている時に……北郷殿がやってきたのは」



「それが、俺か……?」



「はい。私のよく知る、北郷殿でした」



安心したように、まるで恋焦がれる女の子のような表情で言って。

「嬉しかったです。そして、分かった。私が相手をしたのは、北郷殿を模した何かだったのだと。私が知っている北郷殿はこんなことはしない、やるなら……もっと上手くやるだろうし……そもそも、準備もなしにあれだけの力を出せるものなのか、などなど。考えれば辻褄が合わない部分も多かった」

「…………そうか」

茶化すことは出来なかった。

それは…………中々に、面白いというか。

「相変わらず、面倒な場面ばかり見てくる奴だ」

「そう言われると思いました」

「でも……」

三姉妹のあの事例と、今回の関羽の事変。

似ているが……決定的に違う部分もある。

そして何より、俺に自覚はない。三姉妹の時も、関羽の時も。

特に今回は俺がちゃんと目覚めていて、尚且つ時間だけを考えれば……俺は星と一緒に居た時間ということになるだろう。




じゃあ、犯人は――――誰、か?




俺に犯行は出来なかったはずだ。



はずだ――――――――が?




「また、話してくれないことなんですね」

朱里が抗議の声を上げる。

「どうしてそう思う?」

「考え込んでました。話せることなら話しながら一刀さまはまとめます。でも、一言も口に出さないということは……」

「……ま、そうだな」

言うつもりは、確かにない。

ないが、やはり面白い事象だ。



俺にとって華佗がそうなんだとしたら…………三姉妹の時や、関羽が見たっていう俺は…………。



「……まずは涼州だ。色々あるだろうし、まとめようか」

「…………一刀さまは本当に、わたし達を利用しようって考えがあるんですかね」

とんでもなく不満そうな朱里はスルー。

俺が今考えていることは、誰にも話せないよ。華佗にだってそうだ。

話せるとしたら……“ここは何を口にしても安全”っていう状況を作り上げないとな。



「当面の目標は、涼州で馬騰を殺すこと。その目的は、それを俺の功績だとちらつかせて、華琳の俺に対する評価を上げることだ」



「曹操さんの性格からして、馬騰さんを引き抜きたいと思っていそうですが……」

「そうだな。ところで朱里、馬騰の情報は何か掴んでいるか?」

少し、朱里が首を傾げて。

「えぇっと……体調が悪くて、最近は娘の馬超さんが指揮を執っていることが多い……ぐらいでしょうか」

「馬騰はもうすぐ死ぬよ」

「えっ」

「なっ」

朱里と関羽が驚き、華佗は「だろうな」って顔をする。

「正確には、よっぽど華琳とは会いたくなかったんだろうな。魏が勝って、馬騰の私室まで押し寄せて。そこで、馬騰は服毒をして既に死んでいた。それが、前の世界での内容だ」

パチリ――と、脳内で痛みが走る。

一瞬だけ目を細めた俺を目敏く華佗は見つけて、また立ち上がって赤の気膜を纏い、俺の後頭部に手を当ててくれた。少し、頭がクリアになる。

「また、ですか?」

「これからこういうことは何度もあるだろうから、今から慣れておかないと。お互いに」

前ならこれくらいの会話で一々痛みを顔に出すぐらいのことはなかったんだが……名将二人の人生を狂わせていたら、そりゃな。

「そこで華琳は大いに悲しんでいたよ。本当に馬騰に会いたがっていた。だから、とも言えるな、今回の作戦は」

「…………ふむ」

口元に手を当てて、数秒、朱里が考えるように目を瞑ると。

「馬騰さんを殺すのは、毒じゃなくて……自身との戦いの結果だと。そうするおつもりですか?」

「話が早いな」

すぐにそこに繋げる辺り、さすがだ。

「どういうことだ?」

関羽と、華佗もそうだが分かりきってはいない様子なので。

「えっと――ん?」

俺が喋ろうとしたら、朱里が俺に人差し指を立てて首を横に振る。

「わたしが喋ります。間違っていたら訂正してくださいね。今回の行動の目的は、曹操さんの評価を一気に上げること。ここがまず大前提ですね。一刀さま自体の評価は既に一定のもの以上だと思われますが、恐らくただ評価が高いだけだと曹操さんの意思を変えるのは無理……だと思った方が良いでしょう」

俺の負担を減らすためだろうが、代わりに喋ってくれるらしい。華佗を見ると頷いているので、とりあえず俺は朱里に場の進行を任せる。

「そこで、馬騰さんを自分が仕留めたように見せる……というのは純粋に見た目と民衆の聞きが良い判断です。総大将を討ち取っている訳ですからね」

「馬騰とて、一角の将だが……北郷殿が本気を出せば、弱っている将など物の数にもならんか」

そうでもないだろうけどね、と心の中で。

華佗は今、劣化加速のストックがあるのかなぁ。関羽にやらせてもいいが……傷を見て、俺がやってないってバレそうなのが怖いというのもあるし……。

「一刀さまは、いつでもあの力を出せる訳じゃありません。ある程度条件と状況が必要です。そういう意味では、今回は先日の戦いのようなことは出来ませんね」

「うむ? そうなのですか。じゃあ、私が代わりに暗躍する方が良いのか?」

少し訝しむ目で見られたが。

俺が散々脅しで使っていたというのもあるが……そういう感じじゃないな、関羽の視線は。

「いや……」

でも今はまず、話をまとめることか。

朱里の言うことは、確かにそうなのだが。

それはそれとして、関羽の力を馬騰方面では使わないことにしようか――そう、言おうと思った矢先。

「いえ、それは良くないです。愛紗さんは武人としての力も能力も凄いから、見る人が見れば傷の具合で一刀さまじゃないと思う人が出てくることもあるでしょう。そうなって一度でも疑惑が生まれたら、今回の策は失敗。本末転倒です」

「ならば、どうする?」

「そこは俺に任せてくれればいいよ。上手くやるさ」

また肝心の内容を話さない……なんて思われそうだが。

朱里はそれでも良いと思ったらしく、話を続けてくれる。

「どう手を下すのかは、お任せします。わたしと愛紗さんが無理に出て拗れても嫌ですし……いつもやってきたことでしょうから、今回はそれを見させてもらいますね」

と、前置きして。

「役割確認を。まずこのまま涼州へ。今は涼州中央から見て、南東で戦が起こっています。ですので、西沿いに回り込めば、然程問題なく涼州に入ることは可能です。見張りなどは居るでしょうが、戦中なので恐らくは少量。話して通してくれれば良いですが、ダメなら愛紗さんと華佗さんで強行突破をしましょう」

「朱里にしては豪快な策……いや、策とも言えないようなものじゃないか?」

「そうですけど……軍を率いている訳ではないですし、ならこちらの圧倒的な力を持って押し通るのが一番です。百人までなら無傷でいけるでしょうし、それ以上居るというのなら被害が出ない策を講じます。後は何より、時間がそこまでないから、根回しなどをしているよりは……」

「安全に通れたけど、間に合いませんでしたってのは嫌だな。そうなるぐらいなら、誰かを殺してでも間に合わせた方が良い」

「極力そうならないように努力はします。でも、実らなかったらごめんなさい」

朱里がぺろっと舌を出す。過激な話をしてるのに、顔は涼やかだ。

「涼州についてからは、一刀さまを含めたお三方は小休止を。わたしは状勢と馬騰の居場所を探りに。数時間もあれば分かると思います」

「状勢が圧迫していたら?」

「安全に分かる数時間じゃなくて、危険だけどすぐ分かる数十分に切り替えます。わたしの見立てだと……ここから涼州の、馬騰さんの屋敷がある町まで何事もなく移動できて三日。妨害があったとしても四日ですが……」

俺に意見を求めて来る。前の世界の情報を照らし合わせて、間に合うかどうかを聞きたいんだろう。

「間に合うよ。まだ一週間は掛かると思う。娯楽を生み出して気勢を削ぐっていう、策の性質上もあるしな」



一応は、だが……。



ちょっとした不安要素があるんだよな。既に、前の世界と決定的に違う部分があるから。




「それが聞けて安心しました。曹操さんも、良い文官を持っておいでですね」

面倒そうに言うのは止めて欲しいもんだ。敵対すると大変だって思っているんだろうけど。

「ただ……ちょっと気になることもある。だから、早めに着いておくに越したことはない」

「気になること、ですか?」

「あぁ」

俺は一度頷いて、

「結果として、前と同じになったが……華琳は官渡での一戦から学習し、前の世界よりも情報収集に大きく力を入れている」

「……へぇ」

少し意外だったらしい。朱里が分かりやすく驚いている。

「本来なら、君らと開戦とほぼ同時に多方面に分かれていた魏軍は間に合う予定だったと聞かされた。しかし、どうしてか来なかったがな……」

「そのための時間稼ぎで、北郷殿は無理をなさった」

「わたしも周りを調べてさせていましたが、すぐ見える範囲に魏軍は居ませんでした。一刀さまを捕縛して、篭城戦を行ない始めて、三時間ほどしたらやってきましたが……」

「三時間か」

……前の世界よりは、確かに早い。早いが、華琳の中ではそういう結果ではなかったはず。

「何かがあって無理矢理修正されたのか、そもそもその情報戦のやり方に間違いがあったのか……これは、魏に戻るのが楽しみになってきましたね、一刀さま」

「嬉しそうだな」

「えぇ、とても。こういう話はわたし、好みなので」

「だろうさ」

朱里は少し嬉々としつつ、本題に話を戻す。

「では……いざ、情報が集まったら。機会が合うのであれば、曹操さんとの戦を利用して、わたしは目的地まで邪魔が入らないように動ける道筋を作ること。でも妨害が皆無にはならないでしょうから、愛紗さんは行く手を阻む敵兵の処理をお願いします。馬騰さんの場所に着いたら、愛紗さんはそこを死守。一刀さまと華佗さんお二人は、いつもの通り……で、いいのかな。やってくださいね」

「了解した。北郷殿から見て、他に私にやってもらいたいことはありますか?」

「傍を離れないでくれればいいよ。今回……というか、これからはさすがに俺から離れて行動しろ、なんて言わないからさ」

「古傷を抉るようなことは言わないで頂きたい……私だって、そのつもりです」

ここで、一度話が終わる。まとまったってことだ。

華佗が俺のこめかみにまた鍼を刺して……さて、と俺は頭の中で。


①まずは涼州へ西沿いに。三日から四日で到達出来る。魏の情報戦の強化という不安要素があるから、これ以上の遅れは取れない。

②涼州についたら、宿を取るなりして少し休憩を。状勢が圧迫していたら、すぐにでも行動開始。華琳が馬騰の死を見る前に、俺が殺人を犯したという偽装工作。その上で、華琳と再会する。

③速度が色々と求められるが、タイミングも重要だ。朱里が少しだけ口にしたが、殺した直後に華琳と出会うのが恐らくベストだろう。そう考えると、華琳が勝ち続けて町に乗り込んできたぐらいで、

俺らも行動を開始すべきだろう。


「……というところか」

「そうですね、細かい修正はこちらで行ないます」

「分かりやすくて助かりますが……ですが、北郷殿。馬騰殺しを行なうということは、曹操にとって予想外のことではないのですか?」

「嫌われはするだろうね」

おおっぴらにどうこう言わないだろうが。

「元々の予定の一つに、馬騰さんとの邂逅を楽しみにしている……というのがありますもんね。それを一刀さまの手で潰すって作戦ですし」

「色んな失敗があっての軌道修正だ。割り切っていくしかない」

「というより、曹操が悲しむ姿を見たくないのでしょう?」

…………え?

「一刀さま、そこで驚く顔を見せますか……わたしだって分かりますよ。服毒をして死んだとなれば、やり切れません。本当に会いたくなかったって思われていることですし」

「ですが、北郷殿が殺したともなれば話は別です。悲しみや憤りをぶつける場所が生まれる。そういうことを行ないたいのではないのかと、私は考えていたのですが……違いましたか?」

「…………いや、まぁ確かに驚いた」

その通りだ。

出来る限り、俺は華琳が悲しむ姿が見たくない。だから、今回の件を思いついたというのがある。

馬騰の死は華琳にとって相当のショックを与えた。本当に楽しみにしていたんだ、馬騰と会うのを。

だが馬騰は、それを一方的に踏みにじった。会話をする機会すら与えなかった。

前の世界と同じ道筋をある程度歩んでいる以上、華琳はまた馬騰と出会うことは出来ないだろう。また同じ悲しみを覚えるだろう。



それならいっそ……その行き場のない悲しみを背負い込むよりは…………。



「結果を分かっているからこそ出来る行動ですね」

「……私とて、同じ状況なら同じことをするかもしれん。桃香さまが悲しむ姿は見たくないからな」

「どう思ってくれてもいいさ。都合の良いように考えてくれ」

俺のそういった感情を話すつもりはない。

「そういうところがあるから、わたしは一刀さまを見捨てられないんですけどね……」

「ありがとう、朱里。君の美徳を利用させてもらうよ」

「ほら、また」

朱里が口を尖らせる。可愛いって言われる理由がまだ分かってないみたいだ。

「…………じゃあ、これぐらいでいいか?」

華佗が言う。

「どうかした?」

「さすがに腹が減ったよ。丸一日食わずで来て、服探しからの話し合いだ。食える時に食うものは食おう。そういう面で、俺はお前らを補助していけば良いんだろうしな」

「そうですね。華佗さんがいれば、わたし達が体調によって行動や策に不具合が発生するってことはないでしょうし。安心出来ます」

「……空腹は感じるな。だが、路銀は大丈夫なのか?」

「多めに持って来てはいますから。さ、食べにいきましょう。豪勢にはいきませんが、こういうのって大事ですよ」

「最初だしな。まぁ……これから改めてよろしく、二人とも」

俺がそう言うと、

「はい、一刀さま♪ こちらこそ、最後までお傍においてくださいね」

笑顔で返事をする朱里と、

「出来る限りはやらせていただきます。ですから、北郷殿も諦めないようにお願いします」

渋い顔で言う関羽。



対照的だが、非常に強力な二人だ。制限の中ではあるが、上手く使っていこう。





     ◆  ◆  ◆





「二人はちゃんと寝たのか?」

「多分。ただ、関羽は神経をすり減らしているから……多分俺らが外に出たのは気付いているだろうね。時間が経っても戻ってこないなら、探しにきそう」

深夜。

俺と華佗は、二人が寝たのを見計らって、宿の外に出た。出入り口を背にして扉に寄りかかり、月明かりを見ながら酒を飲む。

「月見酒なんて、いつ以来だろ……」

「飲める時に飲んだ方がいい……が、珍しいと俺も思ったよ。で、それが原因の話か?」

さすが、絡めてくるね。

「うん……なんかさ、目が覚めてから、どうにも腹が減らないし、喉も渇かないんだ」

「…………なんだって?」

華佗が神妙な顔つきになる。

「俺の身体は、まぁ俺の身体だからね。色々あるのは分かるんだけど……少なくとも劣化加速を使う前は、そんなことはなかった。喪失感で痛手を幾ら負っていても、腹は減ったし喉は渇いたよ」

「だが、今はそれがないのか」

「うん……代わりに、ずっと頭の中で変な鈍痛がある」

「それが、さっき言っていたことなんだな」

手元の茶碗に入った、月を水面に映し出している酒。

それを飲むが……喉を通った感触が薄い。

「今再確認しているけれど、感触が変かな。薄いって言うか……」

「鈍くなっているんだろうな。少し、見るぞ」

「うん」

気膜をまとわずに、華佗が俺の額や喉、腹に手を当てる。

「…………ふむ」

「分かりそう?」

「……そう、だな」

分かるという意味合いの言葉を出しながらも、華佗の表情は暗いものだった。

「分かるけど、治せない感じ?」

「治せないというよりは、劣化したんだよ。文字通りな」

「劣化?」

どういうこと?

「劣化加速というのは、徐々に性能が劣化していくから……そういう意味合いもあるが、副作用としては大体の人間が使った後は死ぬ」

「だろうねぇ」

生き残ったのは奇跡に近い。朱里のサポートがなければ、俺は多分もうこの世に居なかっただろうし。

「だが、生き残った場合。その上で日常生活が出来るようになるまで回復する見込みってのは殆どないんだが……稀に、死なずに回復する奴もいる。それだけの回復力と対応力が身体に備わっているということだな」

「まさに、俺みたいな奴か」

華佗が前に言っていたな。未来の人間は病魔に強いって。

「前例はどこにでも必ずあるものだよ。だけど……さっきも言ったが、劣化したんだ」

「劣化…………ん?」

待てよ。

使った薬が最初からすごいて、徐々に効果が下がっていく……だから劣化加速。俺が見た書にはそう書かれていたが。

「効果が下がるから、劣化…………って意味じゃない?」

「そういう風に見えるから、そう記述されていることが多いだけで。実際は、使用者の身体そのものが劣化しているんだよ。だから死ぬ」

「……そうか。万全な状態で爆発的な力を使って、身体はすぐに悲鳴を上げる。でもそれでも使い続けていたら当然疲れるし、身体自体にガタが来る」

「亀裂が入った身体だが、薬の効果は顕在だ。どんどん動かなくなっていって……その薬が抜けたとしても、後遺症は間違いなく残る。亀裂自体は入ってしまったんだからな」

「それが……」

「そうだな。空腹を感じない、喉が渇かない……人として大事な食欲というものが壊れたんだろう。頭が鈍痛をずっと覚えているというのは、なんとかして戻そうと頑張っているのかもしれないが……」


華佗が申し訳なさそうに目を逸らす。

「あー……もしかして、戻らない感じ?」

「だから、使って欲しくなかったし、俺が居ない状況ではやってほしくなかったんだ。一刀がどうこうじゃなくて、身体そのものの力が劣化したんだ。まともな状態から、そうじゃない状態が普通だって……階級が落ちた、と言えば分かるか?」

「うん、分かる」

レベルダウンしたってことだな。

ゲームだと、最初のレベルは1だ。だけど、俺はもうそのレベル1すらない身体なんだろう。

そしてそれがそのゲームの仕様で、一度やったら元には戻りません。戻せません。ごめんなさいってことね。

これは……まずいなぁ。

旨味がない酒を飲み干して、頭を抱える。

「…………うわー、これはやらかしたかなぁ」

「俺達の目的を考えると、かなりの痛手かもしれないな」

「うん……」

いや、かなりどころじゃないかもしれない。



俺が見据えている未来と……その時の、そこからの華佗の行く末を考えると……。



「華佗」

「分かっている。なんとかしよう。だが、知識不足は否めないし……喪失感のこともある」

「そだね。面倒かもしれないけど、朱里に協力を頼もう。劣化加速についての知識を思いっきり調べてもらって……どこかに治療法があるかもしれない」

「あぁ、それは助かる。あまり医療の面で他の奴に頼りたくはないが……そうも言ってはいられないからな」

「うん……って、そうだ。その朱里だけど」

あの子はあの子で、問題があったな。

「どうかしたのか?」

「記憶がなくなるってこと、あり得るかな? それも、一部を残して」

あの時の、牢屋での会話。気になっていたんだ。

「…………詳しく聞かせてくれ」

「いやさ。朱里は俺のことを調べてくれていた。それは華佗も知っているよね」

「あぁ」

「それで、仙人に目星をつけてさ。劣化加速のことも知っていたんだ。だから対処法も分かっていたし、そのおかげで俺は生き残った。でも、その劣化加速のことが載っていた書のこと……朱里はそれ以外のことを、全て忘れているんだよ」

「昔読んだから、とかじゃないみたいだな」

「あの諸葛孔明だ。さすがにないと思う……それに朱里は、今まで読んだ本の内容。その全てのことを覚えているって言ってた。多分それも、嘘じゃない」

「そうか……だが、記憶の改竄か」

一部だけ残して一部だけ消えたとなれば、確かに改竄だな。

華佗は椀の中に入った酒を回しながら、

「普通ならば、出来ないな。それこそ、死んでいたとかでもない限り」

「死んでいた? どういう意味?」

「死んでいた人間に本を読ませたところで、意味なんてないだろう」

「そんなの、当たり前じゃん……」

そういうことを言っている訳じゃないんだろうけど……どういう意味だろう?

「記憶をいじるっていうのは、俺にも無理だ。だとするなら、その本を読む前に何かをされていたか、本を読んでいる時に何かをされたか。基本的には、このどちらかだろう」

「読んだ後に何かをされたって可能性はない?」

「それこそ、そういうことが出来る奴らかもしれないが……だが、出来るというのなら、俺や一刀がとっくにされているんじゃないか?」

「あー……」

腑に落ちる物言いだ。

「読む前に、その本を読んだら死ぬように操作されていたのか、読んでいる時に劣化加速以外の場所を読んだら死ぬようになっていたのか」

「死ぬってそういうことね」

文字通りの死じゃないのか。

操られていた……という可能性ね。口にはしにくいな。

「だが、妨害工作であることに変わりはない。それだけ相手は、諸葛亮を危険視しているってことになる」

「関羽もじゃない? 例の部屋で襲われたってアレ……多分、マジだよ」

「一刀に襲われた……か。だが、三姉妹の時はそういう意味じゃなかったんだろう?」

「多分ね。関羽が襲われたのは、蜀から離したくなかったから。三姉妹が俺じゃない俺と会っていたっていう発言は…………」

「助けを求めて――辺りが、妥当かな?」

「全く同じことを考えていたよ」

「そうだな。そう考えるなら……やはり、あの二人を蜀から移動して欲しくはなかったんだろう」

「うん……俺の中に、そういう打算はなかったし。華佗が居れば満足していた部分があったのも事実だからね」

「ここまで食い違いがあったのは、相手も誤算だったはずだ。妨害が杜撰で分かりやすい」

「目に見えるやり方だよね……怖いし、痛いものばかりだ。でもそういったやり方をしてきたってことは、そういうやり方じゃないと妨害出来ないのか……」

「もしくは、誰かがそういうやり方しかさせないように企てたのか」

「…………後者、かな」

「同意だな」

少し、冷たい風が吹く。寒いわけじゃないが、長居していると身体は冷えそうだ。

「華佗も、少し注意していてくれ。朱里と関羽もそうだが……風や地和も。彼女達の身体に、いつ何が起こるか分からないから」

「出来る限りはやっておこう。都合良く死なれると……厄介極まりないからな」

「うん……ほんとにね」

操られる可能性があるってことだ。

俺が見ている範囲でそれが行なわれた訳じゃないし、そんなものも可能性に過ぎないんだが……。

「……大体、このぐらいかな?」

「そうだな。隠れて話す内容は、こんなものだろう」

華佗も酒を煽るように飲む。

と、いうところで。



コンコン――と、扉が叩かれる。



「……お話は、終わりましたか?」

「関羽か。いつから?」

扉越しに、関羽の熱が伝わってくる。丁度、俺と背中合わせになっている感じか。

「今です。あまり納得はいきませんが……お話の内容は聞いていません。我々には話せないから、離れて話していたのでしょうし……」

そういうところは徹底している。多分、話し声がする程度の場所で様子を見ていて、その会話が止まったから近付いてきたんだろうな。

「悪いな。今戻るよ」

「そうしてください。私はともかく……お二人がいないと、朱里が酷く心配します」

「二人じゃなくて、一刀が、だろ? 俺が居ても然程じゃないと思うが」

「…………結果が出る前に死なれて一番困るのは、華佗……お前だ。何を話していたのかは知らないが、無理はするな」

「忠告は聞いておくよ」

喧嘩腰だなぁ、二人とも。もう俺からは言わないけどさ。



さて……現状の確認は終わった。



涼州に入ったら……馬騰を殺して、華琳と再会。



不安だけど……嬉しくもあるし。どうしたもんかな。





続く


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