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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第67話 中編 

あの想いと共に 


第67話 中編



     ◆  ◆  ◆





「今、曹操さんは涼州の人達と既に一戦を交えたようです。その段階で、一度進軍を停止。何か策を講じていそうですね」

「だろうな」

あれから、一時間半ほど。

案の定、朱里は情報収集をしてから戻ってきた。寝ていた関羽も起こして……買ってきた、見た目としては全く同じ服を着せて。

関羽はそのまま寝台に座り、俺、朱里、華佗はテーブルの椅子に座って会議を開始。

「具体的に、どのようなことをしているのか分かります?」

朱里が前の世界という明言を避けて話す。

前の世界だけで言うなら……。

「涼州には目立った娯楽がない。俺なら、そこを利用するな」

ふむ、と朱里が頷く。

「なるほど……彼らは騎馬を使った間断のない攻めと奇襲を得意とします。そのいつでもやれる、という時間を調整させるんですね」

「可能なのか? そんなこと」

「可能ですよ。少なくとも、わたしなら出来ます」

華佗の言葉に、あっさり断言する朱里。この自信の深さは見習わないと。

「我々は涼州に向かっていますが、実際辿り着いたらどうなさるおつもりですか?」

「この戦いの後に、少し厄介なことがあってな……そのための前準備も兼ねているんだが」

俺は背もたれに寄りかかって、右側に居る関羽を見る。

「……?」

何ですか? という感じで見られて。

「……お話したら、大変ですか?」

「だが、話さないと話が進みにくいよな」

「まとめて面倒を見てやる。今だってそうだろ?」

「まとめて……? え? それって、一刀さま、今この瞬間も具合が悪いんですか?」

「華佗……この二人の前で、そういうのは言わないでよ。心配性が過ぎるんだ」

「話についていけてないのですが」

分かっている三人と、分からない一人。

「何か言い難い……ということであれば、説明しなくても結構ですよ。私は私で、北郷殿の傍でやるべきことを見つけるまでですので」

「今はそれでもいいかもしれないが……魏に戻っても、そのスタンスだとまずい」

「すたんす?」

「あっと……立ち位置って意味かな」

「最低限、魏に協力しろと?」

「それはやだなぁ……」

蜀の名将二人から、早速抗議の声が。

「お前らな……蜀と戦えるとか言っていただろ」

「一刀さまのために蜀の仲間を殺すのと、魏のために蜀の仲間を殺すということであれば、それは意味が全然違いますよ。以前政務のお手伝いも出来るようならさせて頂くって言いましたが、それはあくまで一刀さまと一緒にいる時間を作るための口実と、本来の目的のために時間を割けるようにするってだけですし」

「死なれたら困りますから、戦場で北郷殿の命令は聞きます。生き残る程度の命令を、ですがね。官渡のように部隊を指揮しろ、とか言うのであれば、私は私独自の判断で動かせて頂く。貴方の命さえ守れれば、魏はどうなっても構いませんからね」

「俺のために、というのを理由として、魏のことを考える……受動的に動くってことか」

「そうなりますね……あ、でも愛紗さん。魏は滅ぼしたらダメみたいです。そうすると、一刀さまが同時に死んじゃうので」

「……はぁ? 前にもそんなことを言っていたが……朱里、お前そんなことを信じたのか?」

「信じられる、と判断しました。その話を……した方が良いとは思うんですが」

朱里に見つめられる。

「……やれやれ。関羽、今から言うことは当然だが極秘だ。誰かに漏らしたり、そんな素振りを見せたら、俺はお前とこの話を聞いたそいつを問答無用で殺す」

「そんなことがあり得るとは思えませんが……以前、話していたことと関係があるのですか?」

「ある……というか。大体、お前の言うことは当たっていたんだよ」

牢屋で言われた数々の言葉。

あれ……確証がないっていうだけで、その殆どが真実だった。

「必然性の話だ。確かに俺は、俺にとって必要になることを行うことしか出来ない……というか、それ以外のことをやっている時間が殆どないってことになる」

「しかし、それを行なえば……」

「死ぬ、な。俺も。それを知った、俺の周りの人間も」

関羽が朱里を見る。

朱里は曖昧な感じで頷いて、

「……桃香さまのためです」

とだけ、言った。

関羽は視線を俺に戻す。

「前提を先に言おう。俺は未来から来た人間だ」

「未来……?」

少し、驚きの表情を作られたが。

「…………なる、ほど。いえ、そうか…………そうなんですね」

視線を俺から外し、口元に手を当てて……頷いて、頷いて、頷いて。

「思い当たることでも?」

「朱里との会話が、それで妙に合致するな、と。予定調和といっていたことや……桃香さまが蜀を建国することも、知っていたということですね?」

「そうなんだが……まだ、この話には裏があってな」

「裏?」

俺は指を二本立てて、



「未来からこの世界に来るのは、二度目なんだ」



それを口にしたと同時に――ズシン、と身体が重くなったのを感じた。



「ぐっ……!」

視界が明滅を繰り返す。意識が飛びそうになり、歯を食いしばって必死に耐える。

「一刀さま!?」

すぐに朱里が俺に歩み寄ろうとしたが、真っ先に立ち上がった華佗がそれを制す。

「いつものか?」

「かも、ね」

華佗が赤い気膜を纏い、俺の背中に手を当てた。それで、少し身体が楽になる。

「鍼は刺さなくて良いんですか?」

「まだ、話すことがあるだろうからな」

と言いつつも、片手には赤い気膜を纏った鍼が握られていた。用意が良いことで。

「大丈夫、なのですか? 苦しいのなら……」

「一度、俺は魏に降りた。そこで、蜀と呉を潰し……三国の平定を魏で迎えることに成功した」

俺は話を続ける。

関羽は口を強く結び、今はただただ、聞くだけの姿勢を取った。

「だが、そこで俺は今のこの感覚に負けてね。そこで……どうなったんだろうな。色々言い方はあるんだろうけれど……俺自身の感覚としては、俺は確かに、そこで死んだんだ」

けふっ、と咳が一度出た。

ぴちゃっ、と床に血が飛び散る。

血……吐血? 吐血は……初めてだけど。

「…………華佗?」

「かなり重い。意識を無理矢理俺が繋ぎとめているというのもあるが……吐血は、やめろ、寝ろって警告だな。その理由の三割は話、残り七割は……」

華佗が二人を見る。朱里は辛そうに指を組んで俺を見て、関羽はまだ意味を分かっていない。

ふーん……いつもは強制的に意識がシャットアウトされるけど、そう出来ない状態になったら、今度は別の方法で教えてくれる訳か。

「続けようか……。俺が死んだ理由として分かっていることは、俺が知る未来。その未来の道筋をなぞらなかった場合、俺という存在は死を迎えるということだ」

「未来……?」

「そうだ。元の世界と俺は呼んでいる、数千年先の未来。そこでは、魏が三国を統一することはなかった。この後に起こる大きな戦に置いて敗北し、魏は決定的な力を失うことになるんだ」

口の中が血生臭い。心臓がポンプのように動いている。まさに、やめろって叫んでいるように。

自然と、手が左胸に動いて、握られる。

「元々、兆候はあった。死ぬはずの夏侯淵を助けたこと、先の言った戦を勝たせたこと……他にもあるが、その二つが特に大きい」

「夏侯淵さん、死んじゃうんだ……」

朱里の呟きを拾いつつ、

「魏がそれらの“本来”を与えられずに勝ち進み、三国が平定されて、俺が消滅ってのは話した通り。そこで……さ、関羽に朱里。君らは当然、蜀にいた」

「あっ……」

関羽がようやく分かった、という顔をする。同時に、朱里と同じように、俺を気遣うように、苦しそうな表情をして。

「君らを蜀から連れ出すということは、それ相応の痛みが俺と同居し続けるということだ。これからのことも考えて、その足枷は本当に邪魔になる。でも……」

「知られすぎた、分かられすぎた、勘付かれすぎた……結果、蜀にわたし達が居ても同じぐらい危険な状況になると思ったんです」

辛そうな俺の代わりに、朱里が喋る。

「……我々が知りすぎて、核心がなくても適当なことを言って、それが当たっていたら問題があるから……ですか?」

「違う。知りすぎて俺に近付きすぎると、こうなる」

自分を指差して――――朱里を指差す。

「……そうか、朱里と同じ……!」

「動けなくなって、周りが気にして調べて、その連鎖が続くと……最悪だ。蜀が廃人だけの国になってしまう」

「だから、一刀さまはわたしを連れ出そうって決心したんです。それ以外にも……まぁ、ちょっとありましたけど」

椅子に座った足をぶらつかせながら、少しだけ顔を赤くして言う。勘違いされそうな態度はやめてほしいんだけどな……。

関羽はそれには気付かなかったようで、話は続いていく。

「だが、朱里。お前や私がいなくなり、北郷殿も見つからないとなれば意識はそちらに向くはずだ」

「大丈夫です。それなりの対応はしてきたし……雛里ちゃんにもお願いはしておきました。愛紗さんのことは……もしかしたら程度の触りだけ書いておいたんですが、それが役に立ちそうで良かったです」

「手紙で?」

「です。わたしの信頼出来る凄いお友達ですよ。一刀さまは知っていらっしゃるでしょうけど」

あの包帯の女の子だよな。この世界で見たのは、それだけだ。

「俺がここに来た理由ってのは、俺自身にも分からないことなんだ。だから朱里には最初、それを調べてもらっていた。そういう前例がないか、事例がないか……紆余曲折あって、今じゃこんな関係だけどな」

「どちらにせよ、一刀さまは二度目なんです。これが三度、四度と繰り返されないとも限らない。だから、元の世界に戻る方法を調べたりしていたんですが……」

「それで、あの不調か」

朱里が頬を少し掻いて、

「一刀さまは、一度目と同じ道筋を選んでいます。一度目の最後で、一刀さまはある方に負い目を持った。それがもしかしたら、二度目の原因になったかもしれないと言って」

「ある方……」

華琳だって、すぐに分かるよな。伏せてくれはしたが。

「可能性としては低いがな……でも、俺は俺のこの感情に逆らえない。だから……俺の目的を完遂するために、今はこうして動いているのさ」

「しかしそれでは、北郷殿は最後には……!」

「死なない、らしいです。そこはわたしにも話してくれないんですよね」

むぅ~……と、唸りながら睨まれる。

「華佗は知っているのか?」

「あぁ」

にべもなく頷く華佗。

「ふぅん……」

「ほう……」

当然のように、不満そうな女の子二人。面倒くさい。

「華佗さんには教えて、わたしには教えてくれないんですね」

「まぁね」

「それだけ、華佗は信用されているということですか」

「……信用、とは違うかな。ただ、君らと華佗じゃベクトル……次元が違うって言い方が、大袈裟だけど正しいんだろう」

俺の普段の行いで気付いた朱里&関羽と、そもそも大前提である黒幕のような存在に導かれて現れた華佗。

出会い方と知り方が違うんだ。俺を通じて裏側を知った二人は、こうなってしまったのはある程度流れの中で仕方ない部分もあった。気付いたら、どうしようもないって状況に近い。

だが華佗は、元々ある裏側を見てから俺と知り合った。そこから逃げることも、目を逸らすことも華佗は選択できた。

だけど華佗は、それをしなかった。状況が違うというのもあるが、覚悟の度合いが俺の中で華佗は違うんだ。

「同じ道筋だが、今回は華佗がいること、色々と調べているということ、朱里と関羽、他にも同じ立場の奴らが数人居る。前と全てが同じ……ということにはならないさ」

「はぁ……北郷殿が生き残る算段があるのですね?」

結局教えない俺に嘆息しながら、関羽が言う。

「なきゃ、やらないよ」

「…………なら、いいです。そこを聞いて安心しました」

しかし、と言いながら関羽が腕を足を組む。

「ならば……北郷殿は確実に生き残れるという保証があり、それを朱里が策を考えつつ手伝うというのなら……私は、こうなる北郷殿を絶対に死なせないようにすればよいのですね」

自分の役割を再認識し、明確にしていく。

「元々は、朱里がやろうとしているようなことも、私がやるつもりだった。だが、頭で考えるようなことは、朱里に任せた方が確実且つ迅速だ」

「そうですね。そこは任せてください。代わりに先程愛紗さんが言ったように、一刀さまはこれから政務中から戦場でまで、どこでもいつでも突発的にこうなることがある。そうなったら、華佗さんは治療で手が塞がるから、どうしても無防備な瞬間が生まれちゃいます」

「こうなるこうなるって、お前らな……」

「事実でしょう? …………私達のせいだということは、分かっているつもりです。ですから……絶対に守りきります。官渡のような無様はもう、二度と晒しません」

華佗と関羽の目が合っているのが分かる。

「俺はお前を信用も信頼も、期待すらしていない。裏切りがあるとは思わないが、それと同等のことをやりかねん。それだけのことを、お前は一刀の前でほざいたんだ」

「……分かっている。口だけで評価が上がるなんて思ってはいない」

俺を挟んで、二人が火花を散らす。

……あまり、俺の知らない部分での仲違いはやめてほしいが……華佗にとって、関羽は許せない立場の人間だろうからな。

険悪な雰囲気になりかけたところで、朱里が二人の間に入る。

「まぁまぁ、分かりやすくまとまったようで何よりです。わたしはわたしで一刀さまがどうしてこちらに来たのか、三度目を防ぐにはどうすれば良いか、元の世界に帰るにはどうしたら良いのか、一刀さまが死なない可能性をより強くするために、必要なことは何か。それらを考えていきますね」

「朱里が政務に手を付けず、出来る限りの自由な時間で調べ物をするということは、すぐに相応の結果が出そうだが……大丈夫なのですか?」

関羽が言いたいのは、朱里の体調のことだろう。

「華佗がいるよ」

「華佗も含めて、です」

「俺のことは気にするな。俺には俺の目的があって、一刀に同行している。一人が二人に増えようが、三人に増えようが……忌々しいことに代わりはない」

「忌々しい……?」

関羽が眉を潜める。

華佗は誰よりも、この症状に憎しみを持っている。

自分が気付けなかった。

治せなかった。



そのせいで、俺が死んだ。



そう責任を感じ、それこそ二度目を起こさないために。

だから、こんな強い言葉が出るのもしょうがない。

「華佗は華佗なりに考えているのさ。大丈夫、俺の目的が完遂するまで、華佗が俺を裏切ることはないよ」

「それは間違いないな」

華佗が笑う。あまり良い笑い方じゃないな。俺が言えたことじゃないが。

「……私からの確認は以上です。北郷殿からしたら、まだ気になることがあるでしょうけど」

「そうだな」

俺に襲われたってやつ。それが気になりはするが……。

「一度治療だ」

「言われると思ったよ」

嘆息する俺の首に、華佗が鍼を刺す。

途端に、楽になる身体――――だが、頭の中に嫌な鈍痛が残ったままだ。

「どうだ?」

「少し、頭が痛い。痛いっていうか……鈍いっていうか」

「…………ふむ」

別の鍼を、今度はこめかみに刺す。こめかみから頭の中に鍼が埋まっていく様を見て、朱里が「うっ……」と声を出したが、痛みは特にない。

ないが…………。

「治ってないって顔だな」

「そだね……後で、話があるんだ」

「別件か。分かった」

劣化加速の名残のことを話していない。これはあくまでも喪失感の排除をしているだけで、そのための治療をしているのだとすれば、この痛みは無くならないだろう。

「大丈夫なんですか……?」

「色々と問題のある身体だ。痛みの種は一つだけじゃない」

「でも、それはわたし達に関係がないから、話してはくれないんですよね……」

「話すかどうかは、時と場合によるとしか言えない」

朱里は本気で本当に心配している。そして、相談されない自分にか、それともただ耐える道を選んでいる俺にか、どこか悔しさという感情が瞳に映っている。

「……じゃあ、今はいいです。先に、わたしの話を良いですか? 涼州についてから、何をするのかを知りたいのですが」

「あぁ、それか」

俺は華佗が着席したのを見てから、口を開く。

「簡単だよ。馬騰を殺す」

「え?」

「……馬騰を?」

華佗は何も言わず元の椅子に座り、腕を足を組んで背もたれに寄りかかった。

「あぁ。夏侯淵が死ぬ戦い……定軍山で起こるんだが。その戦いの前に、試してみたいことが幾つかあったんだけど……」

本来の予定とは大幅に変更になってしまったな。

「定軍山で、ですか。どのような戦いなのですか?」

「蜀の動向を偵察するって話だ。簡単に見える内容だが、実は定軍山では既に蜀が待ち伏せしていて、夏侯淵はそこで討ち取られる」

俺が、朱里を見る。すると、朱里はとん、とんと机を指で叩きながら、

「伏兵を置いて、気付かせないで定軍山に足を踏み入れさせて……そこを仕留める、という策を考えるとは思います」

「朱里が考えたんだろ。そんなことを聞きはした」

「誰もまだ取っていないという風に見せかけて、誘き寄せ、相手の出鼻を少しでも挫いて……ぐらいだと思いますけどね。だけど、その出鼻が……夏侯淵さんだって言うのなら、大物過ぎたんでしょう」

「おかげで魏は大打撃だが……まぁ、それは良い。俺がやろうとしていることだが」

一度言葉を切って……三人の視線が俺に集中しているのを感じながら、

「俺は、夏侯淵に代わって、定軍山に向かいたいんだ」

「代わりに……?」

「可能、なんですか? 夏侯淵さんが死んだからと先程仰っていましたが、そう言うからには元の世界でも前の世界でも、夏侯淵さんは死ぬべき存在だったということになりますよね?」

関羽の言葉を引き継ぐように言う朱里に、同意の意味を持って頷く。

「そうだ。そこから色々致命傷が俺に食い込み始めたんだが……」

今回のその問題点は、華佗に解決してもらうとして。

「これは、華琳の意思そのものを変えるってことだよ。夏侯淵が向かうということであれば、俺はまたそれを捻じ曲げなくてはならない。そうなれば、前の世界と同じぐらいの傷が俺の内部に出来ることになる」

「曹操さんが一刀さまを直々に指名したら、その傷は無いものになる……訳ないですよね?」

「あぁ。だが、決められた法則を捻じ曲げるのと、決められた法則を事前に変えることが出来るかどうか……」

「それを試したいんですか、北郷殿は。というより、まだ試しておられなかったのですか?」

「似たようなことはしていたが、決定的な痛みを負うのがその戦いからなんだ。それまでの影響なんて大小の差はあれど、大したものじゃないよ」

言いつつも、何度も倒れたが。それを知っている華佗は黙ったまま話を聞き、朱里は…………何か言いたげな顔をしているが、特に口にすることはなく。

「曹操さんは、この世界の法則とやらは知らないんですよね?」

「俺に関して思うところは多いだろうが、それは間違いない」

「それなら確かに、一刀さまがやろうとしていることは面白い試みだと思います。それまでの影響の結果、法則の中にいる曹操さんが、自ら法則を変えてくるか否か。変えてこないというのであれば、わたしが幾つか描いた策を使ってください。思いつく限り、周りに影響は殆どないはずです」

「頭の回転が早いのは本当に助かるよ」

「お仕事ですし……私情も多分に挟まれていますけど。そして、曹操さんが変えてきた場合。そうなると、それは世界の法則そのものが、元の世界との決別を選んでいる、もしくは選びかけている途中とも判断が出来ますね。一刀さまは、そういうことを言いたいんですよね?」

「そうだ」

華琳が自ら俺を選ぶという、決断。

それは、元の世界とは既に違う結末を歩んでいるということになる。その時点で、俺が最後に死ぬという結末が、変わるという可能性が生まれてくるってことだ。

前の世界で、俺は自分の意思だけで無理矢理華琳や魏のみんなを動かし、秋蘭を助け、赤壁で勝利をもぎ取った。

だがそれが今回、建前や理屈はあるが、俺の功績を見て華琳が自分の意思で、俺を定軍山に向かわせたら。

その時点で元の世界とは別の世界になったとも言えるし、秋蘭は死なないだろうし、俺は内容を知っているから、対処のし様は幾らでもある。

これらが噛み合ったとすれば純粋に俺の中にある希望が大きくなるし、もっと他の、より良い未来を掴み取れる可能性だって広がるはずだ。



まぁ……もう一つ。



もし、秋蘭がそのまま定軍山に向かうことになってしまったら。

その時はその時で……また一つ、打算がある。

死んだ人間は戻ってこない。そのはずだが。

「…………」

「…………」

ちらり、と華佗に視線を移すと、華佗は何も言わずに頷く。

秋蘭が死ぬ。

だが、華佗の能力で復活させたら…………状況は似たようなものだ。

しかし強引過ぎるやり方でもある。それに、秋蘭ほどの影響力がある人間を死んだとしてから蘇生させた場合…………どう、なるか。

前置きがあった顔良の時とは違って、容赦なく処理される可能性だって否定しきれない。前の世界ではなくて、今の世界でもなかったが……。

前の世界の最後のようなことが、顔良が死んだ時に起こった。これが一度目だとして。

次に秋蘭の影響を受ける時、しかもそれが生死に関わる程の重い内容だとして、無理矢理捻じ曲げたら……これが二度目にならないという保証もない。

二度目も前の世界の最後や、顔良の時と同じで前置きがあるだろうから、華佗に治してもらえばいい……という前提がいつまでも成り立つはずもない。だとしたら、次は一瞬で首を切られるかもしれない。



…………なんて、朱里や関羽に話したら、どう思うだろうな。



俺を意地でも止めるか、他の打開策を見つけ出してくるか……。


高確率で止めるって内容になりそうだし、本当に廃人になるぐらい悩んで、考えて、行動してくれそうだから。

そこまでされるってことは、俺にも悪い影響が出る。

…………話しにくいなぁ。もっと彼女達をしっかりとした形で有効活用できれば、事は簡単に済むかもしれないのに。

「…………かなり難しい話ですね。人一人の判断が、北郷殿に多大な影響を与える」

「華琳ぐらいだろうけどな、俺に影響を与えられることが出来るのは」

桃香も同じぐらい厄介なんだが、それをこいつらの前で口にしたくはない。

「我々は、その範疇にはないのですか?」

「断言出来るような要素はないが……多分、出来ない。知ってしまっているだろ、裏側を。知らずに世界の流れの中にいるのと、知ってしまって、流れから逸脱した俺ら。裏に居る俺達は、もう世界の流れに影響を与えることは出来ないと考えて動くべきだと、俺は思う」

出来ていると思っていても、それは外側から手助けしているだけであって。中から中身を演出出来ているわけじゃない。舞台で言うなら、俺らは舞台に立つ演者ではなく、一度その劇を見た上で、二度目の観客として劇の内容に文句を言うようなものだ。

「そうですね。希望的観測で動くことは一切ないように。最悪の事態を常に想定して、そこに足を踏み込まないことを第一に策を考えるようにします。成功案よりも、妥協案の方が大事って難しいな……」

腕を組んで、色々と考えを巡らせてくれる朱里だが。

「朱里、改めて聞かせて欲しいのだが」

関羽がその思考にちゃちゃを入れる。かなり、真面目な顔で。

「わたしがどうして、一刀さまに着いてきたか……ですか?」

「あぁ」

そこはそこで、関羽は気になるだろう。確執は取り除いておくべきだし、俺は一度背もたれに体重を預けて、成り行きを見守る。

朱里は「んー……」と、上を見ながら考えつつ、

「んっと……まず、第一は一刀さまが死ぬと思ったから……かなぁ」

「俺が?」

急な話だな。桃香が大前提だと思っていたが。

「そうですね。桃香さまがやたらと一刀さまが気に掛けるのは……色々私情があるとは思うんですが。でも一番は多分……命を助けてくれたのに、一刀さま自身は生き残る気が全くないから、気になって気になってしょうがない……とかだと思ったんです」

「桃香さまの仰りようと、北郷殿への執着は私も理解している」

「そうですね。でも、それを本当の意味で理解しているのって、多分見る場所、見てきた場所、感じた内容……全部が全然違いますけれど、わたしと愛紗さんだけなんですよね」

ということは、他の蜀の面子は桃香がどうして俺に執着しているのか気付いていない……?

なわけはないか。気付いていないではなく、分からないと思っておくべきかな。

「わたしはあの時、一刀さまが桃香さまを想う声を聞いた。それを聞いたのは、一部の兵士とわたし、そして当の桃香さまだけ。だからわたしは、あの声をあれだけの意味を持って、それを自分の名前で表されたら……大体の人は……その」

「その?」

俺が続きを促すと、朱里が少しバツを悪そうにしながらも、

「……まぁ、惚れ込む……んじゃ、ないでしょうか。当事者じゃないわたしだって、あの時の一刀さまの声には心が揺さぶられましたし……本人の桃香さまは、それ以上の衝撃で、その上で命まで救って……となると」

「聞かない方が良かった内容だな、今のは」

「ですが、桃香さまはそれだけ北郷殿を慕い、敬い、救おうとしておられます。北郷殿自身にご自覚は薄いかもしれませんが」

「それは呪いだって言ったよ。でもあいつは、呪いだろうがなんだろうが、もう俺を救いたくてしょうがないって言ってた」

「何故、劉備は一刀に構う? 命を助けられたといえばそうなのかもしれないが、一刀をこうして生かし続けようと判断し、実行させたのも劉備だろう? 命と命、同じ価値観じゃないのか?」

珍しく華佗が会話に参加してくる。

「……守るために死ぬとか、戦いで死ぬとか、政務で力を尽くすとか、田畑を耕すのが楽しいとか。色々、生きる意味がありますよね」

「あぁ」

「華佗さんは、どうして生きているんですか? 目標とか、あるんですか?」

「俺は一刀を最終目標に導き、それを達成させるのが目的であり、人生だよ」

うん、と朱里が頷く。

「今、それを仰った華佗さんは、とても自信に満ち溢れていて、何より満ち足りた顔をしているとわたしは感じました。愛紗さんはどうですか?」

「……華佗に、それ以上の生きる目的があるとは思えん」

「ま、まぁそれがそうであるかはわたしには判断できかねますが……ただ、本当にそこなんですよ」

「ん?」

何が?

「満足しているかどうか、です。桃香さまは、一刀さまを見て、一刀さまの声を聞いて……一度も一刀さまが満足していない、満足出来ていないって感じているんだと思います」

あー……。

それは、なんというか。

「戦うのが楽しい、政務が楽しい、耕すのが楽しい、人助けが楽しい……どこかに自分のやりたいことがあって、どこかで満足感が得られるから、人間は頑張れるものです。でも……」

「北郷殿は常に必死です。必死に足掻いて、苦しんで……どこまでもそれが続いて、続きすぎて、どこで満足して、どこが充実していて、どこが楽しいのか」

「わたしは分かりませんでした。愛紗さんも……そう言うからにはそうなんでしょう。だとしたら、桃香さまは?」

「……君らより感覚的に聡い桃香は、それをより濃く実感していて然るべき、ね」

なるほど。俺が満足出来ていないか。

「…………なるほどなぁ」

頭の中で考えていた言葉が、自然と口に出る。

「少しは分かったよ、劉備のことが。そして、焦るわけだ」

「何がです?」

朱里の問いに、華佗がこう答える。

「一刀の満足は、最低限前の世界で消えたあの瞬間まで辿り着かなければ得られないものだ。だがそこは限りなく死に近く、その途上にも死が転がりすぎている。救いたい、なんて真正面から言う奴には、一刀のこれからは絶望にしか見えないだろう」

「そうなんだろうね。だから桃香は、その道から俺を外したいんだ……本音はね」

しかし桃香は、それは出来ないと言った。無理にそれを行なえば、それが人としての尊厳を破壊すると。

……あの子、やっぱ割りと考えてるんだなぁ。朱里のような通訳がいれば完璧だけど、そういう状況って中々ないだろうし……。

「本音はね? って何ですか?」

「密談をしただけだよ」

内容は言えない。今回のこの話で、やはり桃香はどこまでも核心を見つけ出してきているから。

「……いいですけど。話を戻すと、結局そこなんですよ、愛紗さん」

「そこ?」

「桃香さま一人じゃ、一刀さまは救えません。でも、桃香さまは一刀さまだけを考えていて良いお人じゃない。だけど、一刀さまをこのまま一人で行かせたら、ずっと桃香さまは一刀さまのことを考え続ける……」

「やるべきことはやる人だから、そこは問題ない。だが、それ以外の自由な時間が、全て北郷殿のことで埋まってしまうのは良くない……か?」

「分かりやすく言うなら、そういうことになります。わたしじゃなきゃ出来ないことは、正直に言うと蜀にはあまりないです。大体は雛里ちゃんがなんとかしてくれますし、新しく来てくださった将の方々の協力を得られたら、もっと上手くいくことでしょう」

「そういう意味で言えば、私の場合、星や鈴々がいるしな……」

「勿論、居た方が良いし、居なきゃいけないって場面もたくさんあります。だけど……蜀の中で、桃香さまが想う一刀さまのことを多大に理解し、尚且つ一刀さまを知っていて、おまけに一刀さまの中のことを許容出来るぐらいの結び付けが出来る蜀の人間……と、考えると」

「限られすぎる」

二人が、俺を見てくる。やめてくれよ、自分でも自分自身が幻みたいな存在だって自覚はあるんだ。

「わたしと愛紗さん以外には、居ないんじゃないかなって。まぁ、星さんは何か勘付いていそうですが」

「あいつは自分から深く突っ込んでこないからな。からかえる内容なら、すぐに顔を出すが」

「そういうところまでは、一刀さまと牢屋で話す前に大よそ考えてはいました。後は、件の牢屋で話して……より事実を知って、わたし自身が生き残るためにも……一刀さまと一緒にいなきゃダメだなって」

「生き残る……?」

その部分に強く反応する関羽。

朱里は自分の首をなぞりながら、

「です。殺されかけましたし、わたし」

「なっ――」

関羽の顔が驚愕に染まり、すぐに俺を睨みつけてきて。

「殺そうとして、何が悪い?」

「あ、あなたは……ッ!」

「良いじゃないか、再確認も出来て。お前ら二人は俺にとって、いつでも殺せる環境にいる奴らなんだ。忘れるなよ」

「っ……!」

眼光が強くなる関羽に、華佗が露骨に嘆息する。

「こういう奴なんだぞ、一刀」

「邪魔なら捨てるさ」

俺の言葉にも、華佗の言葉にも、何の温情もない。

それが分かるから、冷たすぎるから、関羽は悔しそうに口噤む。



そして……思わぬ援護射撃も加わる。



「愛紗さんは、まだそういった感情があるんですねー……まぁ、昨日の今日で、ちゃんとした説明が今なされたからかもしれませんが」

「朱里……?」

殊更冷静に、朱里が水を飲んで。

「わたしは結構、冷静ですよ? 必要になったら桃香さま以外は殺しますし、その対象が愛紗さんだとしても迷いません」

抑揚のない、冷たい視線が、関羽を射抜く。

「お前……!」

「そういう世界なんだって、覚悟はしてきました。一刀さまが桃香さまに害を為そうとした場合のみ、わたしは一刀さまを裏切りますが……そういう状況でもないのに愛紗さんが一刀さまを裏切ったら、どんな手を使ってでも口封じしないとなりません」

「決意っていうのは、そういうものだ、関羽。お前はやはり、まだまだ鈍い。俺も、諸葛亮も、他に一刀に手を貸す奴らも、その点に関してはとっくに察している」

「くっ…………」

四面楚歌、みたいな感じかな。

俺が助け舟を出してやらないと場がまとまらないか。

「桃香も俺も……本来相容れないものを同時に二つも無理矢理手にしようって言うなら、国やその周りの人間を潰すことへの躊躇いはなくしておけ。関羽で言うなら……張飛とか良いんじゃないかな」

「北郷殿、私は!」

「俺と一緒に来てくれるんだろ?」

関羽の想い……その場所と発生源が、俺と華佗とは違う。そして、朱里とも決定的に分かたれているのも分かった。

だから関羽は迷う。どこかで、犠牲がなくやれるって思っている。信じている。



…………そんな夢物語は、きっとこれから先どこにもないというのに。



「…………勿論、です」

「なら、良かった」

「認識の甘さや、決意の程度が知れたと思われたかもしれませんが……でも、それでも、私は私のやるべきをやります」

「関羽……!」

華佗が言葉を荒げるが。

「その上で私が必要なくなったと思えば、一思いにどうぞ。その段階で朱里がまだ生きているというのなら……私を殺すという判断が、最も正しいとなった時でしょうから」

「そう言っているけど?」

「……愛紗さんは、こういう人ですから」

理想論を追いかけ続ける。そんな状況でも、どんな状態でも、それを諦めず、挫けず、決して。

「私は……必ず、皆が生き残る世界に、そんな世界に、北郷殿も、朱里も、華佗も……連れて行きます。連れて行って見せる」

「そのためなら、誰でも斬れるって訳だ」

「必要以上の殺生はしません。誰だってそうだと思いますが」

「それは、勿論さ」

殺しすぎれば、その分俺へのダメージも蓄積されるだろうしな。

「でも、良かったですね。改めてこうして話して、わたし達の考え方みたいなのが分かって」

朱里が笑顔で言う。

この笑顔の下で、どれだけのことを考えているのか分かったもんじゃない。

関羽は分かりやすく理想を掲げるが……朱里は俺への摺り寄せが上手な分、今後の動向に注意が必要そうだ。





後編へ


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