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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第66話 前編 

あの想いと共に 


第66話 前編


「それ……じゃ……」

俺は銃を連想させるように、俺のこめかみに人差し指を突き立てて。

「そうだ。だから俺は、これから起こることも、誰が死ぬかも、どこでどうやって戦が起こるかも、全て把握し、記憶している」

「……で、でもっ」

朱里が身を乗り出して、

「未来から来たって……!」

「あぁ、それも本当だ」

そこも当然として、肯定する。

「それも? えっ?」

より分からないって顔をする朱里。

俺はそんな朱里に、両手の人差し指をバツ印交差させて見せる。

「二重構造だよ。それも、嘘じゃないんだ」

「…………んとっ」

朱里は八の字座りをして、腕を組んで、

「未来から来たのは本当で……それで、一刀さまは一度、この世界を体験し、三国を統一。その直後……理由はおいといて、死んじゃって? その後、同じようにまた三国を……?」

「そうだ。戻ってきた理由は分からないが……だが確定していることは、俺が求める形で三国が統一されれば俺は消滅……死ぬってことだ」

「…………一回目の時、三国統一を果たした国は?」

「魏だよ」

「……そうなんですよね。なら……」

少し、目を閉じて。

朱里はすぐに目と口を開ける。

「魏に……曹操さんに負い目があると言っていたのは、一度目の世界のことでしょうか?」

「……よく頭が回るな」

ほんとうに聡い。そこを覚えていて絡めてくるのもそうだが、時間にしたら十秒も経っていないというのに、この考察力。

「蜀と呉が負けて、魏が三国統一。その時、一刀さまは曹操さんに負い目を持った。感じた。だから、もう一度訪れたこの世界で、それを返そうと思って…………うん?」

ちらっと、俺を見てくる。その意味は分かる。

「華琳は俺が二度目だってのを知らないよ」

「じゃあ、どうしてですか?」

「自己満足さ」

「なるほど」

そこは深く突っ込まないらしい。俺の動機はどこに向かっているかは、然程重要ではないようだ。

「俺が来た世界……元の世界と定義しようか。元の世界では、この世界はおよそ数千年前の世界だったんだ」

「……はい」

質問をするよりも、まずは俺から話を聞く体勢を作る朱里。

「その時も、魏……って言えばいいのかな。意味合いが変わるが、それでも魏が勝利し、三国の平定が成された」

「一刀さまが知る通りの歴史になったってことですか?」

「いや……華琳が生きている間に、三国統一は行なわれていない」

「と、言いますと?」

「魏は順調に勢力の拡大を続けているが、ある戦においては敗北を喫する。そして、その敗北が致命的なものとなり、華琳が居る間に三国の統一は成されなかったんだ」

「でも、一刀さまはそれを知っていたから」

「当然。勝たせた。すると……少しずつ、俺の身体は病んでいったな」

「えっ……? じゃあ」

「そういうことだよ」

実際は、それよりも少し前からだが……その説明は今度でいいだろう。

朱里が考えながらも、俺と視線を合わせたまま。

「……つまり、本来辿るべき道筋から外れる行為を行なった場合に限り、一刀さまはあんなことになる」

「そうなる」

「それをしなければ……?」

「生きられる、らしいがな」

「らしいって、どういうことですか?」

「そう言っていた奴がいる。そしてそいつは、俺が道を踏み外した場合は生き残る方法はないと断言した」

「ないと断言ですか……じゃあ逆に何もせずに、本来の道筋に戻すというのは、今からじゃもう遅いですか?」

「遅くはないかもしれないが、どうあっても俺は魏を勝たせる。じゃないと、俺は俺の負い目に永遠に苦しめられることになる」

「同じ状況を作らないと、同じ気持ちを拭えない…………」

朱里が不穏なことを呟き、少し黙るが。

「……それはじゃあ、とりあえず置いておきましょう。改めて聞きますが、一刀さまは、どうしてこちらの世界に?」

「そこは本当に分からないんだ。前に言ったかもしれないが、気付いたら陳留近くの荒野に倒れていたんだよ」

「そこで、星さんと一度会いました?」

「聞いたのか?」

「そんなことを話していたのは聞きました。その時はどこぞの放蕩息子に見えたって」

「確かに言ってたな……一度目も二度目も、俺と星は出会っているよ。当然、二度同じことを言われている」

「…………うん」

朱里は視線を動かしたり、指を折って何かを数えたりしながら。

「こちらに来た理由は、分からないんですね」

「そうだ。そして……二度目があった以上、三度目がないとは考えられない。でも……」

「でも?」

「俺は今回の、この二度目の好機を、負い目を払拭するという形で動いている。もしかしたら……俺のその悔恨の念が、俺自身の時間を巻き戻した可能性は否定しきれない」

「ですが、そうじゃない可能性の方が高い。だから、それをわたしに調べさせていた」

「俺の感情が俺という存在をやり直させた……ってのは都合が良すぎるからな。俺を最初ここに呼び込んだ奴は、なにかしら俺にさせたがっている……そう考えるのが妥当ではあるんだが」

「……分からない、ですよね。本来の歴史を変えようとすればするほど、一刀さまは蝕まれた。じゃあ、何もしないのが正解……? でもそれなら、そもそも一刀さまを呼んだ理由が分からないです」

「あぁ」

朱里が腕を組んだまま、云々と唸る。

一つ一つの仕草が愛らしいなと思いながら嘆息し、

「俺がやるべきことは幾つかある。一つは、一度目と同じように魏を勝たせること。これは朱里にとっては辛いことかもしれないが……」

「分かっています。一度約束した以上、わたしは裏切りません。それに……元の流れに戻したところで、魏が勝つんじゃ意味がない」

不愉快そうに唇を噛むが……今は朱里の言葉を信じよう。

「その上で、俺の目的を完遂させる。悪いが、これは話すことは出来ない」

そう断言すると、朱里が心外だという表情を見せる。

「どうしてですか? 元の流れに戻したら、一刀さまは生き残る……それを知ったわたしが、裏切るとでも?」

「違うよ。話し始めておいてなんだが、俺は恐らく常に監視されている」

「えっ?」

朱里が視線や首を動かして、周りを見るが。

「物理的なものじゃないさ。だが、見られているってのは確かだ。俺が特定のワードを口にすると、奴らはそれを妨害するように現れる。さっきもそうだっただろ」

「…………仙術」

途端に。



辺りが、ざわめく。



「やめておけ。今は華佗もいないし……何より、俺と朱里の関係は奴らにとって余程気に食わないことらしい」

「何か根拠が?」

「いいや。ただ……俺と華佗が一緒にいて、危ない会話をしてもこうはならない。華佗が居る以上、すぐに自分達が霧散させられるから……と思っているだけかもしれないがな」

俺じゃなく、朱里が口にしてこいつらが自己を表現するってのは、少しおかしい気がするが……。

それに、華佗は俺の想像では仙人と呼ばれる誰かと接触しているはずだ。

それも少なからず関係しているだろうが……。

「わたしと一刀さまは、最高に嫌がらせが出来る関係ですか……」

面白い言い方をするね。

「嫌がらせで終わるつもりはないよ。俺は最終的に奴らの度肝を抜いて、確実なる勝利を掴む」

「…………勝算が、あるんですね?」

「なきゃ、最初から足掻いたりしないさ」

しかし、まだそれは口に出来ない。

気付いているのは華佗だけ。そして、こんな馬鹿げた賭けを実行しようとしていることを知っているのも、華佗だけだ。

「……最後に死ぬって言葉は?」

「俺が死んだ生き証人だからな。確実に道を外せば、俺に関わっている人間は……少なくとも、本来の歴史は全う出来ないだろう。現に、朱里の身体には相当な負担が掛かっていただろ?」

「死ぬぐらい辛かった訳ではないですが……でも、もっと酷くなったら、意識を保てないぐらいまで行くんですよね?」

「勝手に寝てたりするな。政務とか手が付かなくて、散々だったよ。周りの評価も落ちるだけだったし」

「うぅ……想像しただけで嫌になりますね。気付いたら時間だけ経ってて、白紙の書類とか置いてあったら……耐えられないかも」

苦笑いする朱里。体験した俺は苦笑いどころじゃ済まなかったけど……。

「少しは理解出来たかな。朱里がここに残るってことは、朱里が例のことを調べ続ける可能性が残るってことだ。そこで勝手に体調を崩されて、もし死にでもしたら……」

「そう、ですね……何を言われても、多分調べたりすると思います。それで忘れるだけ忘れたとしたら、雛里ちゃん辺りが気にして同じことして……」

「俺という存在に気付いて、連鎖が続く可能性がある。そうやって何も出来ない廃人が増えたら、蜀そのものが危なくなる」

「魏が然るべき方法を取るまで蜀に自滅してもらっては困る。でも、そうでなくてもわたしという人間に死なれたら、それはそれで困る。どちらにしたって、一刀さまが引っ張られるから……」

納得した、という感じで頷く。

「…………少しは、分かったかな?」

「一刀さまが、わたしを殺そうとした理由は、なんとなく」

少しはすっきりしたようだ。表情は厳しいままだが。

「じゃあ、わたしがすべきことは……それでも、あまり変わりませんね。一刀さまについていって、一刀さまを確実に生かす方法を考えることですが……」

俺を生かす方法か……。

「……ねぇ、一刀さま」

朱里が、俺を見てくる。

俺が想定している結果がどうなっているのか。それを知りたいんだろう。

「道を外れると、死んじゃう……ん、ですよね?」

「そうだね」

「でもそれだと、曹操さんに負い目を持ったままになるんじゃありませんか? 一度目のことを全部聞いたわけじゃありませんが、今のところ同じことをして、同じ結果を出そうとしているみたいです

し……」

「確かにそうだ」

「…………」

「…………」

「…………話してくれないんですね」



片足を上げて、そこに手を乗せて。



さて、どこまで話せば良いのか迷う。



…………そうだなぁ。



「言えるのは、一言だよ」

「是非、聞かせてください」

「俺は魏を勝たせた上で、北郷一刀を死なせない」

「…………」

「…………」

朱里が頭の上に?マークを浮かべたのが分かる。

「………………え? それだけ?」

「あぁ」

「そんなの、当たり前じゃないですか……」

口を尖らせて、文句を言われた。

でもしょうがないじゃないか。そうとしか言えないんだから。

「……とにかく、わたしのやるべきことは、一刀さまを死なせないこと。一刀さまが道を外して、負い目を払拭して、その上で魏を勝たせて、一刀さまが消えない道を探す」

「魏が勝つんだぞ」

「分かってますよ……でも」

少し、こっちににじり寄って。

膝の上に置いておいた手を、握ってくる。

「それを知った上で、わたしはわたしなりに動きます」

「魏を勝たせた後に蜀を勝たせよう……なんて、考えてるんじゃないだろうな」

「考えても良いですが、まず第一になんの準備もせずにそれをすると、というか魏が順調に勝ち進むと、一刀さまがいなくなっちゃいます。出来れば、一刀さまがこの二度目だっていう世界の最後をど

う捉えているのか。それをまず教えて欲しいんですけどね……」

朱里に、それだけの確実性はないと俺は考えている。

この子を信じているのは間違いないが……それでも、俺が余計なことを口走りすぎて、朱里が深みにはまりすぎて、

「知りすぎて俺より先に死ぬ……なんてことになったら、本末転倒だ」

「……それ、さっきは言いませんでしたが、可能性があるんですか?」

「無いって、誰が断言出来るんだ?」

「そうですね……失言でした。ごめんなさい」

だが……。

「朱里が俺と共に来るってことは、蜀から諸葛孔明がいなくなるということでもある」

「……一刀さまに、心因的な痛みが来ます、よね?」

「来ないはずがないだろうな」

朱里が不安そうな顔をして、両手で包み込むように、握る手の力を強くした。

「さっきのも、そうなんですよね? わたしの首を絞めてた時……」

少し、苦しそうに言われる。まぁ、気付かれはするか。

「厄介な制限ですね……後で、誰がダメで誰がいいのか、ちゃんと教えてもらわないと……」

「知ってどうする?」

「何もしなくても、魏が勝ちそうですけど……それ以外で手を出さなければならなくなった時、策を立てるのに必要じゃありませんか。直接一刀さまに手は出させません。軍じゃなく、単独で相手を消

す方法なら……今後のわたしの自由に動ける立場を考えると、そこまで難しくないでしょうし……」

ハードなことを簡単に口にするな、朱里は。元々表には出さないだけで、こういう子なのか。

……いや、こういうことも考えられる人間、なんだろうな。

「政務をやる必要はないだろうしな」

「必要なら、お手伝いしますよ? 二人でやった方が早めに終わるでしょうし」

善意の笑顔が。

風の顔が脳裏にチラつくが……。

「必要ならな…………まぁ、そっち方面は、ある程度華佗に調整してもらうさ。だから、大丈夫」

「大丈夫って言ってて、さっきのあれですけど。ここから離れるということは……でも、それ自体ではわたしに何か痛みが来ることはありませんよね」

「それは安心していいだろうな。余計なことをすると、また巻き込まれるだろうが……」

「巻き込まれていきますよ。じゃなきゃ、蜀を離れる意味がないですもん。それに……」

じっ……と、俺と視線を合わせてきて。

「わたしだって……一刀さまに、死んで欲しくない、生きて欲しいって思ってるんですからね」

「……さっき聞いたよ」

「適当に流しているように見えました。どうせ道端に転がってる石ころ、ぐらいに思ったんじゃないんですか?」

「なんでそこで膨れるんだ……」

ぷくっと頬を膨らませて、抗議される。確かに重要視はしていなかったけれども。

朱里は、ぎゅっと俺の手を握ったまま、目を瞑り。

少しの間、場に静寂が訪れて。



「……一緒に、生き残りましょうね」



「…………」



「三国が平定した後でも……約束です」



「……守れるように、努力はする」



片目だけ開けて、

「……約束が守れたことって、あります?」

「…………さぁな」

どうあっても……俺が死ぬという点は、変わらないはずだ。

そういう意味を踏まえて考えるなら……俺がどう努力しようが、朱里がどう足掻こうが、この約束は守れないことになるが……。

「必ず、見つけます。絶対です」

俺の感情を読み取ったのか、力強く宣言をする。

「信用はしてるさ」

「ん…………」

開かれた朱里の視線が、すぐに落とされる。

こういう言い方は問題があるのだが……でも、朱里自身も分かっているんだろう。俺が朱里の力をそういった面で特に当てにしていないのは。

朱里を連れて行くのは、不安要素を取り除くためだ。その上で、もしかしたら何か良いことないかな? ぐらいにしか思っていない。

元々は確かに、朱里に元の世界に戻す方法を探してもらおうと思っていた。俺にそのつもりはないけれど、それでも仮に何か見つかったとしたら、このループを止める因果点を見つけられるかもしれな

い。俺がここに来た理由が分かるかもしれない。そんな期待はあった。

あったが……朱里の見ている未来と、俺の見ている未来は最初から食い違いがある。

俺が死ぬということを、俺自身はある程度受け入れているし、それはそうなるであろうという確信もどこかにある。

そして朱里がやろうとしていることは、俺が死ぬという前提そのものを覆したい……そう言っているのだ。

それは途方も無いことだろうし、限りなく不可能に近いことだと俺は思える。



“世界があるべき姿を形作られなければ、俺は死ぬ”



これは最早法則だ。そして、その法則を乱そうとすれば俺の意識すら奪われる。

魏が無事に勝利して、俺が何事もなく生き残るというのは……元々の法則が乱れたということになる。

その法則を乱すぐらいの力を……朱里は持っているだろうか?



……無いだろう、どう考えても……。



少なくとも、この世界の住人でしかなく、華佗のように未知なる何かに遭遇してもいない朱里が、それだけの力を持っているとは思えないし、これから持てるとも思えない。



いや…………仮に、持ったとしても…………。



「……一刀さまの予想、絶対に裏切りますから」

「あぁ」

「どうして、気の無い返事なんですか」

「お互いがお互いを案じると、こういう感じになるんだなって思っていただけだ」

「あー……」

少しだけ、朱里の頬に朱が差した。

「そう、ですね……一刀さまは一刀さまで、わたしが、その……」

「心配だよ。これからたくさん苦しむことになる。俺と同じぐらい、苦悩することになる。その上で待ち受けるのは、絶望しかないかもしれない……そんな極限が、身体を蝕むかもしれない」

「そ……そう、なんですか。なんか、意外……」

「意外?」

「目的ばっかり見て、周りはそんなに気にしてない印象が強かったので……」

それはそうだ。朱里や桃香、関羽。蜀の連中は俺にとって途中経過にいる位置づけであって。最終的な場所にはいなかった。

「仲間に引き込んだ人間には、そこそこ優しいと思うよ」

「……嘘ですよね?」

あっさりバレた。風や地和にはかなり厳しいし。

「良いですけどね……一刀さまが言う仲間っていうのは、色々あるんでしょうし。そういう意味じゃ、わたしは良い位置に付けたのかな」

「間違いないと思う」

「……そっか」

悪い気はしていないようだ。

朱里にとっては俺の安否さえなんとかすれば、俺の周りの人間はどうだっていいんだろう。必要なら手を貸したり助けたりもするだろうが。

「一刀さまは……一度、絶望したんですか?」

「したよ」

「そんな時、どうしたんですか?」

「…………そうだな」

俺は華佗と出会って、ある種の道標を見つけて、気付いて。

それを確実に実行しよう……そう思ったが。

「目標とする場所を、見間違えていたのかもしれない……そう思ったんだ」

「間違えていた?」

「そうだ、それに気付かせてくれた奴がいて……ただ無意識に本能で生きていた俺を、とにかく意識的にした」

「…………??」

「分からないと思う。多分これは、俺とそいつにしか分からないものだよ」

華佗もきっと、俺の知らない奴らに出会ってなければ気付きもしなかったはずだ。

「この世界に存在する意味に、俺は気付いてなかったんだが……まぁ、これ以上は危ないか」

「今の言葉が、一刀さまの最終目標に引っかかってるんですね」

「どう取ってもらっても構わないよ」

俺はそこで、ようやく朱里の手を握り返す。

「んっ?」

「もう、朱里は俺の手を離すことは出来ない。離したいなら、自分の腕を引き千切るしかない」

「そんなことしませんよ。それより、一刀さまこそ、覚悟してくださいね」

何が? と思う俺に対して、

朱里はどうしてか恥ずかしそうに、こう言った。

「わたし……理想が高いので。わたしの理想に、一刀さまは振り回されることになります。これから大変ですからね」





     ◆  ◆  ◆





「これ以上の話は、華佗も含めた三人でしよう」

「そうですね。嫌なものが来て、どっちも眠っちゃったりしたら困りますから」



その会話を最後に、朱里は戻ってきた衛兵に扉を開けさせ、そのまま外に出て行った。



「…………」

意識の違い、というのは確かにある。

蜀にとって必要じゃないと思えたなら、もうなんでもありだ。

だが……弱くなりすぎるのは困る。朱里は俺についてくると断言した。これはもう覆らないだろう。

後は、関羽だ。

彼女は……どうするのだろうか。

仮に俺に付いてくるとなった場合、蜀にとっては強力すぎる二つの武器を同時に失うことになる。

だからって、そんな簡単に負けはしないだろうが……。

……いや、あり得ないな。

関羽が俺と共に歩く道は全く想像出来ないとはずっと思ってはいるが。そこに更に、朱里が抜けるともなれば尚更だ。明確な弱体化が決まりきったのに、それを無視してでも俺の隣を歩く……そんな奴

ではないだろう。

「…………でも」

あり得ない、あり得ないとは思いつつも。一つの可能性は残されている。

それは、関羽が包み隠さず桃香に全てを話して、判断を仰いだ場合だ。

そうなると……桃香のことだ。自分を守ることよりも、俺を生かすことを優先させるだろう。

しかし、そうなった場合……それは関羽にとって絶対的な理由であるだろうが、俺にとっては確実性のある信用が置けたとは言い難い。

後……関羽自身も、桃香にこのことを話せば、そういう結果になるって分かりきっているはずだ。

それを分かっているのに、判断を仰ぐようなことをするだろうか……?



…………俺は、他人の言葉が理由になっている奴に、自分の秘密を洗いざらい話すなんてことは出来ない。

本当の自分を見せてもらっていない訳じゃないんだけど……でもそんな気持ちが、わだかまりが、どこか自分の中にしこりとして残るからだ。

それがいずれ、どこかで致命的なことにならないという保証もない。そういった保証が無い以上、リスクは徹底的に省くべき。

それに、俺と共に在った場合、蜀と戦うことになるだろう。

すると、桃香の言葉と、あくまでも俺を救い出すという理由の下、俺についてきた関羽は、蜀を相手には出来ない。

だが朱里は、必要とあらば蜀を潰す覚悟があるだろう。桃香だけは生かすだろうが。というか、桃香さえ生きていれば幾らでも再起が可能だと思っているだろうしな。

その“今までを裏切ることが出来る”という覚悟があるかないかは、俺の中でかなりの大きさを占めている。

関羽は俺にも、魏にも、桃香にも筋を通して、全てを生かす考え方だ。

でも……その考え方の奴は、俺には必要がないとも言える。必要ならば殺す覚悟がないと、ダメだ。嬲っても、裏切っても、殺してでも。





文字通り、どんなことをしても。



俺のためだけに生きてくれなければ、俺の隣を歩く権利を持たせてはならないんだ。





























ふわっと














座り込む、音

















「……………………また、怖い顔してるね」












「……そっちが、そう思っているだけだ」






「そうかな? 一刀さん、出会った時から、ずっとそんな顔してたよ。辛いよーって、子供みたいに」









「君に、子供がどうとか言われるとはな」







「似てるってさ、わたしと一刀さん。みんなそう言うんだ。厳顔さんもね、さっき会った時にそう言ってた。それでね、それはおかしいことなんだって」










「……なにが?」











「自分と似すぎている人って、人は嫌悪するものなんだって。相手が自分より優秀だったり、手柄を立てたりすると、嫌だったりするんだって。でもわたしは、そうじゃなくて、一刀さんを助けたいっ

て思ってる。それがおかしいって言うんだよねー……おかしいかなぁ?」









「…………はは」






「?」







「いや……俺と鏡合わせのあの子は、俺を許容しつつも敵対者となった。俺はあの子を許容すら出来なかった。でも――――」

















俺は、下げていた頭を上げて、













「でも、桃香。君は許容するどころか、それを超えて、許して、手を繋ごうなんて言うんだな」










のんびりと











いつもの、普段の彼女らしい姿で座る、その佇まいは









「んむー? 前から言ってなかったっけ?」


「今の俺と君じゃ、立ち位置が違いすぎる」


「違わないと思うよ。一刀さん、最初から自分以外どうでも良さそうな感じだったし」


「お得意の勘か?」


「勘って言うか……そう思っただけで。変だよね、みんなして勘とか鋭いとか言うけどさー。ちゃんと見たら、そんな風に思えるじゃない?」


「…………試してみたくなるよなぁ」


「何が?」










「君に――――仙術という闇を与えた場合、どうなるのかってことを」












ぐちゅっ

















ぐちゅ、ぐちゅちゅ――――――











「…………?? せんじゅつ? 仙人さまが使う術ってこと?」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………な、なんか喋ってよぉ」












ぐちゅ












ぐ――――ちゅ――――










――――ぐ――――――――――

















――――――――――――――――












「…………そうか。何も起きないんだな」


「何が?」


「何も。理解が増えたってだけだよ」


「?? よく分からないけどさ。でも一刀さん」


「ん?」


「愛紗ちゃんのことなんだけど」


「…………何か、話してきたのか?」


「何も話してないよ。ただ、悩んでるみたいだから……一刀さんのことで。それで、一刀さんはどうしたいのかなって」


「どうも。俺にとって関羽は必要がないよ」


「そうなの?」


「そうさ」


「……でもさ、一刀さん。前に言ってたよね。良いことだけしてもダメだったから、悪いこともしてるんだって」


「言ったな」


「でも多分…………それじゃ、ダメだと思うよ」


「ダメじゃないさ。きっと、成功する」
















「一刀さんは死んじゃう」




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