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適当広場

のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第66話 

あの想いと共に 


第66話



「それ……じゃ……」

俺は銃を連想させるように、俺のこめかみに人差し指を突き立てて。

「そうだ。だから俺は、これから起こることも、誰が死ぬかも、どこでどうやって戦が起こるかも、全て把握し、記憶している」

「……で、でもっ」

朱里が身を乗り出して、

「未来から来たって……!」

「あぁ、それも本当だ」

そこも当然として、肯定する。

「それも? えっ?」

より分からないって顔をする朱里。

俺はそんな朱里に、両手の人差し指をバツ印交差させて見せる。

「二重構造だよ。それも、嘘じゃないんだ」

「…………んとっ」

朱里は八の字座りをして、腕を組んで、

「未来から来たのは本当で……それで、一刀さまは一度、この世界を体験し、三国を統一。その直後……理由はおいといて、死んじゃって? その後、同じようにまた三国を……?」

「そうだ。戻ってきた理由は分からないが……だが確定していることは、俺が求める形で三国が統一されれば俺は消滅……死ぬってことだ」

「…………一回目の時、三国統一を果たした国は?」

「魏だよ」

「……そうなんですよね。なら……」

少し、目を閉じて。

朱里はすぐに目と口を開ける。

「魏に……曹操さんに負い目があると言っていたのは、一度目の世界のことでしょうか?」

「……よく頭が回るな」

ほんとうに聡い。そこを覚えていて絡めてくるのもそうだが、時間にしたら十秒も経っていないというのに、この考察力。

「蜀と呉が負けて、魏が三国統一。その時、一刀さまは曹操さんに負い目を持った。感じた。だから、もう一度訪れたこの世界で、それを返そうと思って…………うん?」

ちらっと、俺を見てくる。その意味は分かる。

「華琳は俺が二度目だってのを知らないよ」

「じゃあ、どうしてですか?」

「自己満足さ」

「なるほど」

そこは深く突っ込まないらしい。俺の動機はどこに向かっているかは、然程重要ではないようだ。

「俺が来た世界……元の世界と定義しようか。元の世界では、この世界はおよそ数千年前の世界だったんだ」

「……はい」

質問をするよりも、まずは俺から話を聞く体勢を作る朱里。

「その時も、魏……って言えばいいのかな。意味合いが変わるが、それでも魏が勝利し、三国の平定が成された」

「一刀さまが知る通りの歴史になったってことですか?」

「いや……華琳が生きている間に、三国統一は行なわれていない」

「と、言いますと?」

「魏は順調に勢力の拡大を続けているが、ある戦においては敗北を喫する。そして、その敗北が致命的なものとなり、華琳が居る間に三国の統一は成されなかったんだ」

「でも、一刀さまはそれを知っていたから」

「当然。勝たせた。すると……少しずつ、俺の身体は病んでいったな」

「えっ……? じゃあ」

「そういうことだよ」

実際は、それよりも少し前からだが……その説明は今度でいいだろう。

朱里が考えながらも、俺と視線を合わせたまま。

「……つまり、本来辿るべき道筋から外れる行為を行なった場合に限り、一刀さまはあんなことになる」

「そうなる」

「それをしなければ……?」

「生きられる、らしいがな」

「らしいって、どういうことですか?」

「そう言っていた奴がいる。そしてそいつは、俺が道を踏み外した場合は生き残る方法はないと断言した」

「ないと断言ですか……じゃあ逆に何もせずに、本来の道筋に戻すというのは、今からじゃもう遅いですか?」

「遅くはないかもしれないが、どうあっても俺は魏を勝たせる。じゃないと、俺は俺の負い目に永遠に苦しめられることになる」

「同じ状況を作らないと、同じ気持ちを拭えない…………」

朱里が不穏なことを呟き、少し黙るが。

「……それはじゃあ、とりあえず置いておきましょう。改めて聞きますが、一刀さまは、どうしてこちらの世界に?」

「そこは本当に分からないんだ。前に言ったかもしれないが、気付いたら陳留近くの荒野に倒れていたんだよ」

「そこで、星さんと一度会いました?」

「聞いたのか?」

「そんなことを話していたのは聞きました。その時はどこぞの放蕩息子に見えたって」

「確かに言ってたな……一度目も二度目も、俺と星は出会っているよ。当然、二度同じことを言われている」

「…………うん」

朱里は視線を動かしたり、指を折って何かを数えたりしながら。

「こちらに来た理由は、分からないんですね」

「そうだ。そして……二度目があった以上、三度目がないとは考えられない。でも……」

「でも?」

「俺は今回の、この二度目の好機を、負い目を払拭するという形で動いている。もしかしたら……俺のその悔恨の念が、俺自身の時間を巻き戻した可能性は否定しきれない」

「ですが、そうじゃない可能性の方が高い。だから、それをわたしに調べさせていた」

「俺の感情が俺という存在をやり直させた……ってのは都合が良すぎるからな。俺を最初ここに呼び込んだ奴は、なにかしら俺にさせたがっている……そう考えるのが妥当ではあるんだが」

「……分からない、ですよね。本来の歴史を変えようとすればするほど、一刀さまは蝕まれた。じゃあ、何もしないのが正解……? でもそれなら、そもそも一刀さまを呼んだ理由が分からないです」

「あぁ」

朱里が腕を組んだまま、云々と唸る。

一つ一つの仕草が愛らしいなと思いながら嘆息し、

「俺がやるべきことは幾つかある。一つは、一度目と同じように魏を勝たせること。これは朱里にとっては辛いことかもしれないが……」

「分かっています。一度約束した以上、わたしは裏切りません。それに……元の流れに戻したところで、魏が勝つんじゃ意味がない」

不愉快そうに唇を噛むが……今は朱里の言葉を信じよう。

「その上で、俺の目的を完遂させる。悪いが、これは話すことは出来ない」

そう断言すると、朱里が心外だという表情を見せる。

「どうしてですか? 元の流れに戻したら、一刀さまは生き残る……それを知ったわたしが、裏切るとでも?」

「違うよ。話し始めておいてなんだが、俺は恐らく常に監視されている」

「えっ?」

朱里が視線や首を動かして、周りを見るが。

「物理的なものじゃないさ。だが、見られているってのは確かだ。俺が特定のワードを口にすると、奴らはそれを妨害するように現れる。さっきもそうだっただろ」

「…………仙術」

途端に。



辺りが、ざわめく。



「やめておけ。今は華佗もいないし……何より、俺と朱里の関係は奴らにとって余程気に食わないことらしい」

「何か根拠が?」

「いいや。ただ……俺と華佗が一緒にいて、危ない会話をしてもこうはならない。華佗が居る以上、すぐに自分達が霧散させられるから……と思っているだけかもしれないがな」

俺じゃなく、朱里が口にしてこいつらが自己を表現するってのは、少しおかしい気がするが……。

それに、華佗は俺の想像では仙人と呼ばれる誰かと接触しているはずだ。

それも少なからず関係しているだろうが……。

「わたしと一刀さまは、最高に嫌がらせが出来る関係ですか……」

面白い言い方をするね。

「嫌がらせで終わるつもりはないよ。俺は最終的に奴らの度肝を抜いて、確実なる勝利を掴む」

「…………勝算が、あるんですね?」

「なきゃ、最初から足掻いたりしないさ」

しかし、まだそれは口に出来ない。

気付いているのは華佗だけ。そして、こんな馬鹿げた賭けを実行しようとしていることを知っているのも、華佗だけだ。

「……最後に死ぬって言葉は?」

「俺が死んだ生き証人だからな。確実に道を外せば、俺に関わっている人間は……少なくとも、本来の歴史は全う出来ないだろう。現に、朱里の身体には相当な負担が掛かっていただろ?」

「死ぬぐらい辛かった訳ではないですが……でも、もっと酷くなったら、意識を保てないぐらいまで行くんですよね?」

「勝手に寝てたりするな。政務とか手が付かなくて、散々だったよ。周りの評価も落ちるだけだったし」

「うぅ……想像しただけで嫌になりますね。気付いたら時間だけ経ってて、白紙の書類とか置いてあったら……耐えられないかも」

苦笑いする朱里。体験した俺は苦笑いどころじゃ済まなかったけど……。

「少しは理解出来たかな。朱里がここに残るってことは、朱里が例のことを調べ続ける可能性が残るってことだ。そこで勝手に体調を崩されて、もし死にでもしたら……」

「そう、ですね……何を言われても、多分調べたりすると思います。それで忘れるだけ忘れたとしたら、雛里ちゃん辺りが気にして同じことして……」

「俺という存在に気付いて、連鎖が続く可能性がある。そうやって何も出来ない廃人が増えたら、蜀そのものが危なくなる」

「魏が然るべき方法を取るまで蜀に自滅してもらっては困る。でも、そうでなくてもわたしという人間に死なれたら、それはそれで困る。どちらにしたって、一刀さまが引っ張られるから……」

納得した、という感じで頷く。

「…………少しは、分かったかな?」

「一刀さまが、わたしを殺そうとした理由は、なんとなく」

少しはすっきりしたようだ。表情は厳しいままだが。

「じゃあ、わたしがすべきことは……それでも、あまり変わりませんね。一刀さまについていって、一刀さまを確実に生かす方法を考えることですが……」

俺を生かす方法か……。

「……ねぇ、一刀さま」

朱里が、俺を見てくる。

俺が想定している結果がどうなっているのか。それを知りたいんだろう。

「道を外れると、死んじゃう……ん、ですよね?」

「そうだね」

「でもそれだと、曹操さんに負い目を持ったままになるんじゃありませんか? 一度目のことを全部聞いたわけじゃありませんが、今のところ同じことをして、同じ結果を出そうとしているみたいですし……」

「確かにそうだ」

「…………」

「…………」

「…………話してくれないんですね」



片足を上げて、そこに手を乗せて。



さて、どこまで話せば良いのか迷う。



…………そうだなぁ。



「言えるのは、一言だよ」

「是非、聞かせてください」

「俺は魏を勝たせた上で、北郷一刀を死なせない」

「…………」

「…………」

朱里が頭の上に?マークを浮かべたのが分かる。

「………………え? それだけ?」

「あぁ」

「そんなの、当たり前じゃないですか……」

口を尖らせて、文句を言われた。

でもしょうがないじゃないか。そうとしか言えないんだから。

「……とにかく、わたしのやるべきことは、一刀さまを死なせないこと。一刀さまが道を外して、負い目を払拭して、その上で魏を勝たせて、一刀さまが消えない道を探す」

「魏が勝つんだぞ」

「分かってますよ……でも」

少し、こっちににじり寄って。

膝の上に置いておいた手を、握ってくる。

「それを知った上で、わたしはわたしなりに動きます」

「魏を勝たせた後に蜀を勝たせよう……なんて、考えてるんじゃないだろうな」

「考えても良いですが、まず第一になんの準備もせずにそれをすると、というか魏が順調に勝ち進むと、一刀さまがいなくなっちゃいます。出来れば、一刀さまがこの二度目だっていう世界の最後をどう捉えているのか。それをまず教えて欲しいんですけどね……」

朱里に、それだけの確実性はないと俺は考えている。

この子を信じているのは間違いないが……それでも、俺が余計なことを口走りすぎて、朱里が深みにはまりすぎて、

「知りすぎて俺より先に死ぬ……なんてことになったら、本末転倒だ」

「……それ、さっきは言いませんでしたが、可能性があるんですか?」

「無いって、誰が断言出来るんだ?」

「そうですね……失言でした。ごめんなさい」

だが……。

「朱里が俺と共に来るってことは、蜀から諸葛孔明がいなくなるということでもある」

「……一刀さまに、心因的な痛みが来ます、よね?」

「来ないはずがないだろうな」

朱里が不安そうな顔をして、両手で包み込むように、握る手の力を強くした。

「さっきのも、そうなんですよね? わたしの首を絞めてた時……」

少し、苦しそうに言われる。まぁ、気付かれはするか。

「厄介な制限ですね……後で、誰がダメで誰がいいのか、ちゃんと教えてもらわないと……」

「知ってどうする?」

「何もしなくても、魏が勝ちそうですけど……それ以外で手を出さなければならなくなった時、策を立てるのに必要じゃありませんか。直接一刀さまに手は出させません。軍じゃなく、単独で相手を消す方法なら……今後のわたしの自由に動ける立場を考えると、そこまで難しくないでしょうし……」

ハードなことを簡単に口にするな、朱里は。元々表には出さないだけで、こういう子なのか。

……いや、こういうことも考えられる人間、なんだろうな。

「政務をやる必要はないだろうしな」

「必要なら、お手伝いしますよ? 二人でやった方が早めに終わるでしょうし」

善意の笑顔が。

風の顔が脳裏にチラつくが……。

「必要ならな…………まぁ、そっち方面は、ある程度華佗に調整してもらうさ。だから、大丈夫」

「大丈夫って言ってて、さっきのあれですけど。ここから離れるということは……でも、それ自体ではわたしに何か痛みが来ることはありませんよね」

「それは安心していいだろうな。余計なことをすると、また巻き込まれるだろうが……」

「巻き込まれていきますよ。じゃなきゃ、蜀を離れる意味がないですもん。それに……」

じっ……と、俺と視線を合わせてきて。

「わたしだって……一刀さまに、死んで欲しくない、生きて欲しいって思ってるんですからね」

「……さっき聞いたよ」

「適当に流しているように見えました。どうせ道端に転がってる石ころ、ぐらいに思ったんじゃないんですか?」

「なんでそこで膨れるんだ……」

ぷくっと頬を膨らませて、抗議される。確かに重要視はしていなかったけれども。

朱里は、ぎゅっと俺の手を握ったまま、目を瞑り。

少しの間、場に静寂が訪れて。



「……一緒に、生き残りましょうね」



「…………」



「三国が平定した後でも……約束です」



「……守れるように、努力はする」



片目だけ開けて、

「……約束が守れたことって、あります?」

「…………さぁな」

どうあっても……俺が死ぬという点は、変わらないはずだ。

そういう意味を踏まえて考えるなら……俺がどう努力しようが、朱里がどう足掻こうが、この約束は守れないことになるが……。

「必ず、見つけます。絶対です」

俺の感情を読み取ったのか、力強く宣言をする。

「信用はしてるさ」

「ん…………」

開かれた朱里の視線が、すぐに落とされる。

こういう言い方は問題があるのだが……でも、朱里自身も分かっているんだろう。俺が朱里の力をそういった面で特に当てにしていないのは。

朱里を連れて行くのは、不安要素を取り除くためだ。その上で、もしかしたら何か良いことないかな? ぐらいにしか思っていない。

元々は確かに、朱里に元の世界に戻す方法を探してもらおうと思っていた。俺にそのつもりはないけれど、それでも仮に何か見つかったとしたら、このループを止める因果点を見つけられるかもしれない。俺がここに来た理由が分かるかもしれない。そんな期待はあった。

あったが……朱里の見ている未来と、俺の見ている未来は最初から食い違いがある。

俺が死ぬということを、俺自身はある程度受け入れているし、それはそうなるであろうという確信もどこかにある。

そして朱里がやろうとしていることは、俺が死ぬという前提そのものを覆したい……そう言っているのだ。

それは途方も無いことだろうし、限りなく不可能に近いことだと俺は思える。



“世界があるべき姿を形作られなければ、俺は死ぬ”



これは最早法則だ。そして、その法則を乱そうとすれば俺の意識すら奪われる。

魏が無事に勝利して、俺が何事もなく生き残るというのは……元々の法則が乱れたということになる。

その法則を乱すぐらいの力を……朱里は持っているだろうか?



……無いだろう、どう考えても……。



少なくとも、この世界の住人でしかなく、華佗のように未知なる何かに遭遇してもいない朱里が、それだけの力を持っているとは思えないし、これから持てるとも思えない。



いや…………仮に、持ったとしても…………。



「……一刀さまの予想、絶対に裏切りますから」

「あぁ」

「どうして、気の無い返事なんですか」

「お互いがお互いを案じると、こういう感じになるんだなって思っていただけだ」

「あー……」

少しだけ、朱里の頬に朱が差した。

「そう、ですね……一刀さまは一刀さまで、わたしが、その……」

「心配だよ。これからたくさん苦しむことになる。俺と同じぐらい、苦悩することになる。その上で待ち受けるのは、絶望しかないかもしれない……そんな極限が、身体を蝕むかもしれない」

「そ……そう、なんですか。なんか、意外……」

「意外?」

「目的ばっかり見て、周りはそんなに気にしてない印象が強かったので……」

それはそうだ。朱里や桃香、関羽。蜀の連中は俺にとって途中経過にいる位置づけであって。最終的な場所にはいなかった。

「仲間に引き込んだ人間には、そこそこ優しいと思うよ」

「……嘘ですよね?」

あっさりバレた。風や地和にはかなり厳しいし。

「良いですけどね……一刀さまが言う仲間っていうのは、色々あるんでしょうし。そういう意味じゃ、わたしは良い位置に付けたのかな」

「間違いないと思う」

「……そっか」

悪い気はしていないようだ。

朱里にとっては俺の安否さえなんとかすれば、俺の周りの人間はどうだっていいんだろう。必要なら手を貸したり助けたりもするだろうが。

「一刀さまは……一度、絶望したんですか?」

「したよ」

「そんな時、どうしたんですか?」

「…………そうだな」

俺は華佗と出会って、ある種の道標を見つけて、気付いて。

それを確実に実行しよう……そう思ったが。

「目標とする場所を、見間違えていたのかもしれない……そう思ったんだ」

「間違えていた?」

「そうだ、それに気付かせてくれた奴がいて……ただ無意識に本能で生きていた俺を、とにかく意識的にした」

「…………??」

「分からないと思う。多分これは、俺とそいつにしか分からないものだよ」

華佗もきっと、俺の知らない奴らに出会ってなければ気付きもしなかったはずだ。

「この世界に存在する意味に、俺は気付いてなかったんだが……まぁ、これ以上は危ないか」

「今の言葉が、一刀さまの最終目標に引っかかってるんですね」

「どう取ってもらっても構わないよ」

俺はそこで、ようやく朱里の手を握り返す。

「んっ?」

「もう、朱里は俺の手を離すことは出来ない。離したいなら、自分の腕を引き千切るしかない」

「そんなことしませんよ。それより、一刀さまこそ、覚悟してくださいね」

何が? と思う俺に対して、

朱里はどうしてか恥ずかしそうに、こう言った。

「わたし……理想が高いので。わたしの理想に、一刀さまは振り回されることになります。これから大変ですからね」





     ◆  ◆  ◆





「これ以上の話は、華佗も含めた三人でしよう」

「そうですね。嫌なものが来て、どっちも眠っちゃったりしたら困りますから」



その会話を最後に、朱里は戻ってきた衛兵に扉を開けさせ、そのまま外に出て行った。



「…………」

意識の違い、というのは確かにある。

蜀にとって必要じゃないと思えたなら、もうなんでもありだ。

だが……弱くなりすぎるのは困る。朱里は俺についてくると断言した。これはもう覆らないだろう。

後は、関羽だ。

彼女は……どうするのだろうか。

仮に俺に付いてくるとなった場合、蜀にとっては強力すぎる二つの武器を同時に失うことになる。

だからって、そんな簡単に負けはしないだろうが……。

……いや、あり得ないな。

関羽が俺と共に歩く道は全く想像出来ないとはずっと思ってはいるが。そこに更に、朱里が抜けるともなれば尚更だ。明確な弱体化が決まりきったのに、それを無視してでも俺の隣を歩く……そんな奴ではないだろう。

「…………でも」

あり得ない、あり得ないとは思いつつも。一つの可能性は残されている。

それは、関羽が包み隠さず桃香に全てを話して、判断を仰いだ場合だ。

そうなると……桃香のことだ。自分を守ることよりも、俺を生かすことを優先させるだろう。

しかし、そうなった場合……それは関羽にとって絶対的な理由であるだろうが、俺にとっては確実性のある信用が置けたとは言い難い。

後……関羽自身も、桃香にこのことを話せば、そういう結果になるって分かりきっているはずだ。

それを分かっているのに、判断を仰ぐようなことをするだろうか……?



…………俺は、他人の言葉が理由になっている奴に、自分の秘密を洗いざらい話すなんてことは出来ない。

本当の自分を見せてもらっていない訳じゃないんだけど……でもそんな気持ちが、わだかまりが、どこか自分の中にしこりとして残るからだ。

それがいずれ、どこかで致命的なことにならないという保証もない。そういった保証が無い以上、リスクは徹底的に省くべき。

それに、俺と共に在った場合、蜀と戦うことになるだろう。

すると、桃香の言葉と、あくまでも俺を救い出すという理由の下、俺についてきた関羽は、蜀を相手には出来ない。

だが朱里は、必要とあらば蜀を潰す覚悟があるだろう。桃香だけは生かすだろうが。というか、桃香さえ生きていれば幾らでも再起が可能だと思っているだろうしな。

その“今までを裏切ることが出来る”という覚悟があるかないかは、俺の中でかなりの大きさを占めている。

関羽は俺にも、魏にも、桃香にも筋を通して、全てを生かす考え方だ。

でも……その考え方の奴は、俺には必要がないとも言える。必要ならば殺す覚悟がないと、ダメだ。嬲っても、裏切っても、殺してでも。





文字通り、どんなことをしても。



俺のためだけに生きてくれなければ、俺の隣を歩く権利を持たせてはならないんだ。





























ふわっと














座り込む、音

















「……………………また、怖い顔してるね」












「……そっちが、そう思っているだけだ」






「そうかな? 一刀さん、出会った時から、ずっとそんな顔してたよ。辛いよーって、子供みたいに」









「君に、子供がどうとか言われるとはな」







「似てるってさ、わたしと一刀さん。みんなそう言うんだ。厳顔さんもね、さっき会った時にそう言ってた。それでね、それはおかしいことなんだって」










「……なにが?」











「自分と似すぎている人って、人は嫌悪するものなんだって。相手が自分より優秀だったり、手柄を立てたりすると、嫌だったりするんだって。でもわたしは、そうじゃなくて、一刀さんを助けたいって思ってる。それがおかしいって言うんだよねー……おかしいかなぁ?」









「…………はは」






「?」







「いや……俺と鏡合わせのあの子は、俺を許容しつつも敵対者となった。俺はあの子を許容すら出来なかった。でも――――」

















俺は、下げていた頭を上げて、













「でも、桃香。君は許容するどころか、それを超えて、許して、手を繋ごうなんて言うんだな」










のんびりと











いつもの、普段の彼女らしい姿で座る、その佇まいは









「んむー? 前から言ってなかったっけ?」


「今の俺と君じゃ、立ち位置が違いすぎる」


「違わないと思うよ。一刀さん、最初から自分以外どうでも良さそうな感じだったし」


「お得意の勘か?」


「勘って言うか……そう思っただけで。変だよね、みんなして勘とか鋭いとか言うけどさー。ちゃんと見たら、そんな風に思えるじゃない?」


「…………試してみたくなるよなぁ」


「何が?」










「君に――――仙術という闇を与えた場合、どうなるのかってことを」












ぐちゅっ

















ぐちゅ、ぐちゅちゅ――――――











「…………?? せんじゅつ? 仙人さまが使う術ってこと?」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………な、なんか喋ってよぉ」












ぐちゅ












ぐ――――ちゅ――――










――――ぐ――――――――――

















――――――――――――――――












「…………そうか。何も起きないんだな」


「何が?」


「何も。理解が増えたってだけだよ」


「?? よく分からないけどさ。でも一刀さん」


「ん?」


「愛紗ちゃんのことなんだけど」


「…………何か、話してきたのか?」


「何も話してないよ。ただ、悩んでるみたいだから……一刀さんのことで。それで、一刀さんはどうしたいのかなって」


「どうも。俺にとって関羽は必要がないよ」


「そうなの?」


「そうさ」


「……でもさ、一刀さん。前に言ってたよね。良いことだけしてもダメだったから、悪いこともしてるんだって」


「言ったな」


「でも多分…………それじゃ、ダメだと思うよ」


「ダメじゃないさ。きっと、成功する」
















「一刀さんは死んじゃう」
















「…………」







「…………」








「…………何を根拠に言ってる」







「一刀さん、生きていられるんだよね?」



「勿論だ」



「根拠は?」



「…………何の話をしているんだ?」



「わたしが聞きたいよ。何の話? これ」




「…………お前」




「わたし、ただ聞き返しているだけだよ。後、一刀さんが死んじゃうだろうって変な感覚があるのもそうなんだけど」



「……いつから、そんな感覚が?」






「初めて会った時……ではないけど。でもいつだったかな。気付いたら「あ、この人死ぬつもりなんだ」って思うようになったの」




「…………」




「でね。そう言えば、一刀さんから「俺は生き残りたい!」みたいなことって一度しか聞いたことないなぁって」




「死ぬつもりは――――」




「ほら、それ」




「……?」





「死ぬつもりがないっていうのは、聞いたよ。でもそれって、生きるつもりもないってことじゃないの?」






「今日はいやに、辛辣だな」






「うん。今日は全部聞いてくれる場所に、一刀さんがいるもん。だから、答えて欲しいな」







「生きるさ。じゃなきゃ、俺がやっている意味が無い」







「っ…………」





「…………」








「……………………」









「…………なんだよ。驚いた顔をして」










「…………やっぱり……」











「…………?」















「一刀さんは…………生きるつもりが、ないんだ………………」








「……桃香…………」









「わたしが一刀さんから感じた、唯一の言葉。それは、わたしが矢に撃たれそうになった時、わたしを真名で呼んでくれたあの時だよ」






「矢……?」





「真名でわたしの名前を……“桃香”って叫んでくれたあの声。あれは…………あれだけは、あれこそが、わたしにとって絶対に裏切れない声なの」








「あの時は――――」






「あの時は、わたしのことを考えてくれていたけど…………同じぐらい、一刀さん、自分のことを考えていたんだよね」









「だから、何を根拠にそう言ってるんだ」








「そう聞こえたんだもん」








「それが理由になると思っているのか」









「理由に出来ないって根拠を聞かせてよ。言い返せないくせに」







「理由にならないことを根拠にしているのはそっちだろ。言い返すもなにもない」








「むー……嘘ばっかりついてるくせして……」











「桃香の真実を見抜く能力は立派かもな。だけど、その感性は君だけのものであって、誰も君の気持ちを共有出来ない。そういう意味じゃ、君が一番の一人ぼっちだな…………あぁ、そうか」









「……な、なに?」








「以前にも、似たようなことがあったって思ったのさ…………だから、桃香。君は仲間が欲しいなんて思うんだね」








「えっ…………」







「少しでも自分に優しくしてほしいから、分かってほしいから、構って欲しいから、自分から優しくして笑顔を振りまいて」







「えっ…………ち、違うよっ! わたし、そんなこと考えてないよ!」







「一人ぼっちになりたくないから優しくして、相手の嘘が分かってしまうから、嘘をつかない。それだけを聞くと、まるで女神のようだけど……」







「め、女神って、そういうんじゃ……!」











「やっぱり残念だよ、桃香。誰かが誰かを理解出来ないように、君の言う真実は、誰にもそれが真実と分からない。そして、真実と分かってしまった時には、もう遅いんだろう」






「それは…………そうかもしれない。そういうことばっかりだったから。わたしにはそう感じられても、誰もそれを理解してくれなくて…………でも、だから、わたしは一刀さんを助けたいの。わたしに生きたいって感情を、一番強くぶつけて、わたしを救ってくれた一刀さんと一緒に生きたいって、生きていきたいって思うの!!」








「嬉しいとは思うが……俺はお前の敵でしかない」










「わたしはそう思ってないもん!」









「これからもそう言えるのかな?」









「えっ?」











「俺は君の大事なものを貰っていく。君の意思に関わらず、俺が雁字搦めにして……無理矢理ね」
















「…………愛紗ちゃんのことじゃ、ないんだね」











「さぁね」








「…………」








「…………」











「…………そっか。よく分かった」












「もう話は終わりか?」












「救える方法は、確かにわたしの中にはないよ。でも……一刀さんは、自分を生かさない方法を持って、何かしようとしている…………そういうことでしょ?」












「だとしたら?」










「わたしはそれを止めないよ。止めたら……きっと、一刀さんだけじゃなくて、誰だってそうだよね。それぐらいの覚悟を持って行なう決意を止めたら、捻じ曲げるように押し潰しちゃったら、その人は今までのその人じゃなくなっちゃう」













「じゃあ、もう邪魔はしないのか。助かるよ」













「元々邪魔なんてしてないもん。でも…………少し、分かったかな」










「何が?」












「わたしは――――二人とも、助けてみせるから」

















「えっ」














「一刀さんの方法を使えば、多分片方は助かるんだよね。でも、一刀さんは死んじゃう……使わなかったら、一刀さんは死なないんだよね。でも、それじゃ一刀さんの心が死んじゃう……」




















「……桃香、何を言っているんだ?」















「一刀さんっていう男の人を、わたしの中で構成っていうか……構築っていうか……ちゃんとするに至って、決定的な何かが足りないって、いつも思うんだ。今話してて、やっぱりそうだなって思うんだけど」












「俺を、構成……?」















「欠片が……欠けたまま、足りない感じ。どこにあるのかな? それって」















「……………………」















「……そっか。魏にはないんだね。当然、わたしの周りにもない。新しく出来た、呉…………にも、ないのかな?」

















「……………………桃香」













「……ないんだ? 全然別のところにあるんだろうね。全く見えてなくて…………もしくは、みんな見ていて、見すぎていて気付かないもの」















「自分が何を言っているのか、分かってるんだろうな」















「なんにも分かってないと思うよ。分かってないと思うけど、思ったこと、感じたこと……聞いたこと。それを、今全部口に出しているの……ごめんね、分かりにくくて。どれか一つでも、一刀さんにとって助けになれればって思うんだけど」













「俺の……助け?」














「一刀さんの言う通りだよ。わたしが感じたこと……想ったことって、周りのみんなは全然分かってくれない。分かっても、建前とか理由がある場合だけ。そういう目に見える安心した何かがないと、誰もわたしの言葉を信じてくれない」















「当然だろうさ。俺だってそうだ」













「一刀さんは違うよね」













「…………何が?」














「何がだろう? でも……そう、だね。きっとあの時、わたしがみんなを助けたいからもっと前に出たいって言ったあの時、一刀さんだけ、わたしの言葉に同意してくれた」













「そのおかげで、俺は肩を負傷したよ」











「そうだね。すごく痛かったと思う。わたしだって、とっても怖くて、なんであんなこと言っちゃったんだろう、一刀さんが死んじゃったらどうしようって、不安で、寂しくて、頭がおかしくなりそうだった」







「君の言葉は間違いだった」














「…………ごめんね。一刀さんはすごく痛い思いをしたけど……わたしは、そう思ってないんだ」











「なに……?」















「初めてわたしのそのままの意見を受け入れてくれたのが、その時嬉しかったっていうのと…………あの時のことがなければ、わたしは一刀さんのこと、好きになってないよ」
















「…………」














「あの矢のことが無かったら、わたしは一刀さんのこと、ただの嘘吐きだってばっかり考えていたと思う。その癖、自分にだって執着がなくて……こんな人に付き纏われて、最悪だなって、そこまで思っていたと思う」












「思えばいい。実際、俺は最低で最悪な男だ」


















「自分が生きるために、自分を犠牲にしてわたしを助けてくれた人が…………そんなに、最悪な人かな?」












「前に言わなかったっけか? ただ身体が動いただけだよ」














「騙せないって、分かってて言ってるんでしょ? そんなこと言われたって、わたしはもう一刀さんのこと見くびらないし、嫌いにもならないよ」













「…………」












「その矛盾が…………きっと、一刀さんを助ける手掛かりになる。一刀さんにだって、生きたいって想いがあるもの。わたしはそれを……絶対に忘れないし、絶対に消させないから」









「桃香――――」








「二人とも、助けるから。誰も知らないよね? これ」















「…………っ」


















「なら、良かった。誰にも言わない方がいいと思うよ。知っちゃったら……朱里ちゃんみたく、なるんでしょ?」










「……何を言っているのか、さっぱりだ」















「いいよ。一刀さんはそれで。本当は何を言っているのか、わたしは分かるから。わたしだけは、一刀さんが本当に口にしたいこと、少しだけかもしれないけど、聞こえているから」










「…………桃香。それ以上はダメだ」









「どうしてダメなのかも、わたしには分からないけど……一刀さんが聞かれたくない人達には、一刀さんの言葉の意味が分からないままなんだよね?」














「お前…………どこまで…………」














「だから、わたしは感じたことしか分からないの。朱里ちゃんみたいに頭は良くないし、愛紗ちゃんみたく武人の勘とかがあるわけじゃない。ただ見たまま、一刀さんっていう人を、身体で感じていることを、精一杯わたしなりに言葉にしているだけ」











「…………」












「だから、諦めないで。死んででも成そうとか、考えないで。わたしは諦めないから。他の誰もが諦めても、挫折しても、絶望したって、わたしは最後の最後まで一刀さんを生かす方法を考えるから」













「それは…………」







「……一刀さん?」









「それは、呪いだ、桃香。俺という幻想に付き纏われて……君はありもしないものを見てしまっている」












「そうだね……そうかもしれないね。でも……後にも先にも、一刀さんだけだよ。わたしに呪いを掛けるぐらい、生きたいって言葉を、わたしの名前で表現してくれたのは」









「俺は俺のやり方しか知らない。だから桃香、君の考えには賛同できないし、付いてもいけない。俺は自身の命を持って、目的を完遂させる」











「いいもん。わたしは絶対に一刀さんを助けるから。何言ったってダメだからね。絶対に諦めないし、必要ならなんだってするもん」
















「ふん……相変わらず、口だけは立派だ」














「一刀さんの覚悟っていうのは全然立派じゃないけどねっ。一刀さんの分からず屋!」













「どっちがだよ。人の話を聞かないし理解出来ないのはお前だろ」











「一刀さんだってそうじゃない! わたしの言ってること分かってるくせに、分かってないフリして!」







「何がだ……お前の言葉なんて一つも分からないよ。理屈も根拠もない話をどうやって信じろって言うんだ」




「ほらやっぱり! 分かってるって感じするもん! 面倒くさがって、分かってないって言った方がいいやって顔だもん!」




「だもんだもん、うるさいな……いい歳して、子供か、お前は」



「わ、わたっ、わたしの年齢なんて一刀さん知らないでしょ! 変なこと言わないでよ!」

「じゃあ幾つだよ、お前」

「言いませんー! べーっだ! 絶対助けるんだから! 後、これあげる!」

「……? 腕輪? なんだよ、これ」

「その青い宝石、心が安らぐんだって。この前、露店で売ってたの」

「……詐欺だろ。なんだその訳分からん説明」

「今までそういうこと、無かったんだけどね。なんかその腕輪だけ、あった方がいいかなって思ったんだ…………さて、と」

「今度こそ、行くのか」

「うん。いっぱい話せたし、一刀さんが何考えているのかも大体分かって良かった。あ、でも女性に年齢を聞くのは男の人としてどうかと思うな」

「だから幾つだよ、お前」

「だから言いません! もう! …………あ、一刀さん」

「ん?」



「愛紗ちゃんのことだけど……良かったら、連れてってあげてね」



「…………なんだと?」



「わたしのところにいても、愛紗ちゃんの気は晴れないよ。ずっと迷って、迷い続けて……後悔しちゃうと思うから」



「だから、連れて行けって言うのか? 他ならぬお前が?」



「わたしのことを考えてくれるのはすごく嬉しいよ。嬉しいけど……このままじゃ、わたしのせいで、愛紗ちゃんはずっと迷っちゃう。でも、一刀さんのせいで後悔もしちゃう。だから……」



「俺に付いていく方が、確実だってことか」



「……上手くいくかな?」



「俺からは無理強いをするつもりはないよ。関羽の判断に全てを任せるつもりだ」



「…………そうだね。やっぱり、わたし達が変に口を出すことでも、ないんだよね」





     ◆  ◆  ◆






風のように現れて、子供のように話して。


それで、言いたいことだけ言って、ある程度はこっちの話を聞いて、桃香はいなくなった。

「…………」

あいつ……何が分かっているって言うんだろう。

いやそもそもだ。

分かっているっていうより……不思議なことを口にしていたよな。

「二人……か」

片方は当然、俺だ。



でも、もう片方は…………。



「…………はぁ」

溜息しか出ない。

それに……関羽を連れて行けって言っていたが。

俺から言えってことか……? 関羽に? 付いて来いって?

言えば来るって言いたいんだろうか、あいつは。

…………んー。

付いて来させるだけなら、確かに簡単だ。桃香の言うとおり、俺と来なきゃ関羽の気が晴れないだろう。もう誰も関羽を責めてはいないんだし、後は関羽の心持ち一つと言える……あぁでも、華佗は少しご立腹だったか。

だとしたってなぁ……。

……国の強化よりも、俺一人の命が大事って……いや、そういうことじゃないか。

国の理念が、桃香の理念を存続させるには、俺の生存が不可欠……って言いたいんだよな、あいつら。

……確かに俺が見逃したり助けたりしていなければ、蜀という国がこの世界に成り立ったかどうか怪しいレベルだ。そこを考えるなら、あいつらの言い分も分かる。

分かるけど…………いや、やはり関羽の心がどうなっているのか。

それを知るのが肝要だと言えるんだろうな。

関羽が今何を考えて、どんな結論を出したのか……それを知ったら。



蜀を、離れようか。



よし、だとするならばだ。





「そろそろ、ここから出ないとな……」



「出たいですか?」

「えっ?」

素で、驚いた。誰か居たのか?

「私ですよ、一刀殿。緩みすぎではありませんか?」

「星か……居たんだ?」

何事もなく横から視界に入ってきたのは星だ。

「少し前から。正確には、桃香さまがこの部屋から出て行って少ししてから、ですが」

「見てたの?」

「部屋から出て行くところしか見ていませんがね。偉くご立腹の様子でした。それを見ていた朱里が、そろそろ一刀殿が出たがるだろうと言っていましたので」

「朱里と一緒に居たんだ」

そして、何から何まで読めている。

「そっか。出させてくれるのかな?」

「私個人としても、一刀殿とは話したいと思っていましたから。あぁ、勘違いしないでくだされ。他の連中にように懐疑心や痴話喧嘩などではありませんよ」

「痴話喧嘩は一切無かったと思うけど……」

「そう思ってらっしゃるのは一刀殿だけですよ。それで、ですね」

鍵を鍵穴に差し込みながら、

「一刀殿。未だ、国を作る気はありませんか?」

「国……?」

前にも言ってたな。

「ないよ。王の器はないって自覚はある」

「……そう、ですか。それは残念です」

…………なんか。

「本当に残念そうに言うんだな?」

「おかしいですか?」

「失望したとか、言っていただろ」

「それはそうですが」

カチャン――――と、鍵を開ける。

「桃香さまが、とてもお怒りの様子でしたので」

「桃香を怒らせたから?」

「勿論、他にも理由はありますよ。失望もありました。落胆もありました。ですが…………」

扉を開けて、入ってきて。

片膝を付いて、俺と視線の高さを合わせる。

「国を作る、というのは建前です。私は貴方ならば、誰よりも尊い世界を確立できる……そんな予感があるのです」

「放蕩息子が?」

「それに関しては、私の見る目が本当にありませんでした。連合で良く見て、良く考え、感じて……これは失態だったな、と」

「いいけどさ……でも、それがどうして国になるんだ?」

「個人で民は導けないでしょう」

「尊い世界のために、国が必要か……分からないでもないけどね」

尊い世界ってのは……桃香の思い描くような世界と、似ているんだろうが……。

「悪いが、君らの言う尊い世界ってのは、俺には程遠いよ。全く想像も出来ない」



「ですが、見たことはあるのでは?」



「…………何故?」

「天から来たのでしょう?」

「……争いが無かったわけじゃない」

「あなたはとにかく欲深い。強欲で、貪欲で、狡猾で……はしっこい男、という評価が一様に当てはまる」

「星の言葉はいつもストレートだな」

「すとれーと?」

「真っ直ぐだなってこと」

そっ……と、星の手が俺の頬に添えられる。

「真っ直ぐなのはあなたの方です。連合で会った時は、ただの予感で終わっていましたが……今なら私も断言できる」

「……俺が、尊い統率者になれるって?」

「誰よりも優秀で、誰よりも確実な王になれるでしょう。一刀殿なら、三国を平定して、桃香さまも、曹操も、孫策も。全て従えられるかもしれない」

「空想が過ぎるよ」

俺は星の手を跳ね除ける。

仮に俺が王としてどれだけ優秀でも、俺にはやらなきゃならないことがある。国を持ち、民を導くなんて時間も無いし、やる気もない。

「やれやれ……それだけの才と、これからの時間を無駄に消耗する道を選びますか」

「無駄かどうかは、俺が決める。それに……俺も星に聞きたいことある」

「ん? なんですかな?」

「俺と関羽のことだ」

と、前置きしつつ。

戦が起こったのは仕方が無い。俺と関羽が死んだと伝わっていたんだ。桃香だって思うところがあっただろう。

だが……それだけじゃ、少し腑に落ちない部分がある。

「桃香がこの前の戦を起こした理由は、なんとなく分かった。ただ……」

「……なるほど。一刀殿と愛紗。二人の生死がどう我らに伝わったのかをお知りになりたいのですね」

一度髪を軽くいじって「ふむ」と、視線を逸らして考える時間を設けた後、

「使者を送り、その者が帰ってきて……最初に我ら家臣も含めた中、桃香さまに告げられたのは、一刀殿と愛紗。二人が官渡で奮戦の後、戦死したとのものでした」

「行方知れずだったんだがな……」

「戦が終わって、それなりに経ってからこちらも使者を出したので。街中で情報収集もして、その情報は本物だということになりまして」

「……うん」

星が足を重ねるようにして座る。

「私もそうでしたが、桃香さまは誰よりも茫然自失としておりました。静寂が場を支配して……ふと、どれくらい経ってからでしょうね。桃香さまは、ぽつりと一言申したんです」

「……なんて?」

「なんてことはないですよ。ただ「他の将は生きているの?」というものでした」

……なるほどな。

だから、あの時の言葉に繋がったのか。

「俺と関羽は死んだが、他の名立たる将は……確かに、生存したはずだ」

「えぇ。それがどうしようもなく、桃香さまを揺さぶったのでしょうね。あの方は「曹操さんは、一刀さんと愛紗ちゃんを守れない人なんだ……」と言って」

「攻める決意をした訳か」

「そうなるようです。我らとしても、桃香さまの命を救った一刀殿、そして朋友である愛紗を殺された憎しみ。色々なものが混じり合って、戦いに赴くことに迷いはありませんでした」

「ならどうして、戦が起こったんだ」

ここが問題の箇所だ。

俺と関羽が戻って来た時、まだ戦は起こっていなかった。俺と関羽の死が原因だとしたら、その原因が取り除かれた以上は……。

「桃香さまは、愛紗が戻ってきたことで迷いを見せました。それは本当です。愛紗から一刀殿も無事に生きて戻ったという報告もありましたし」

「だが、実際は違う……」

「それに関しては……朱里が強引に話を進めた、というのがありました」

「朱里が?」

……身体の事情か?

「不調を押して今回の進軍に同行して……曹操が生きていれば、同じことが起こり続ける。そう言って、桃香さまを諭したのです」

「最終的に、朱里が戦を起こしたのか」

「要因は一刀殿ですがね。一刀殿が向こうに居れば、今度こそ死ぬかもしれない、などとも言っていました」

大丈夫なのか、そんなこといって。

そういう俺の感情が、顔に出ていたのか。

「一刀殿は、良くも悪くも我々の癌……ならばいっそのこと、ということなのでしょう」

「意味が通じないけど」

「我々は分かっていますので」

魏呉蜀、全部の感覚が俺には分からないよ。

「話せることはこれくらいです。さて、では行きましょうか。朱里が一刀殿を外に出して良いと言った以上、桃香さまも分かっておいででしょうから。問題はありませんよ」

…………うん?

「朱里が言ってたんだ?」

「そうです。また随分と和解が早いことで」

「手を出した、みたいな言い方はよしてくれ」

でも、そうか。

朱里が自分から、蜀を離れる……とは言わないはずだ。

言えば確実に問題が起きるし、時間も掛かる。桃香はもしかしたら許してくれるかもしれないが、他の家臣が蜀の内情に精通している朱里を俺と共に国外に行かせるなんて許さないだろう。

だから、桃香もこれは知らないはず。

…………逃げるなら、さっさとした方が良いだろうな。

「まぁ、出してくれるっていうのなら」

なんでこうも疑いなく、敵軍の将を連れ出すのか不思議でならないが、余計なことは口にしない方がいいだろう。

言いながら立ち上がる俺に釣られて、星が俺の隣に並ぶ。

そのまま牢屋を出て、外に出て。詰め所に兵はいなく、廊下も無人。徹底している。

「誰もいませんね」

「そういう時間なのか?」

「いえ……ですが、今は色々と立て込んでいる時期なので。予定外が頻繁にあるのですよ」

「そうなんだ? まぁ、俺の傍には星がいれば問題ないだろ」

「おやおや。そうやって女を煽てて」

「そういうつもりはないんだけどな……」

ニタニタ笑うんじゃない、全く。

「しかし、国か……」

城を出る。

門番はさすがに居て、俺を見て驚いたが、星が一緒だったためかすぐに落ち着いた様子に戻った。

「急に心変わりでも?」

「しないよ。だけど……時代と、タイミングと、考え方が違えば……俺は君にそそのかされて、国を作っていたかもしれない」

「天の言葉は分からないですが、なんとなく言いたいことは分かります」

あぁ、タイミングって分からないよな。

俺らは大通りに出た。今は丁度正午付近らしく、人がとても多い。

上手く状況を利用して、星とはぐれることが出来ればいいが……そう簡単ではないだろうな。

「俺は……桃香以上の国を作れるのかな?」

「知っているあなたなら、間違いなく」

「…………ほんと、その自信がどこから来るのか教えて欲しいよ」

確かに、俺は三国が統一された姿を見た。

その平和を……戦いがなくなった世界を知っているという意味では、星の言うとおりだ。

「魏に居れば、平和が訪れるのですか?」

「じゃないの?」

「……やれやれ。どこまでも煙に巻くのが好きな御方だ」

「星の物言いは直接的過ぎるんだよ。俺以外にはそんなんじゃないんだろ?」

「歯に衣を着せたら、それに合わせて逃げられるではありませんか」

「ははは、なんのことやら」

ほんと、バレバレだな、俺。

問題は……最たる場所を、桃香が理屈なく感じ取っていることだが……。




ピーーーーーーーーーッ!!




甲高い、笛の音。

「これは?」

「警笛……か」

星が呟く。

「まだあんまり、良くないんだ?」

「先程言った通り、予定外が多くありまして」

予定外か……。

ただ、この警笛とやらは、本当に自然に発生した音なのだろうか。

もしかしたら……と思う俺が音をした方向を見たと同時に、

「これは、趙雲将軍!!」

「何事だ」

人ごみを掻き分けて、一人の兵士が駆け寄ってきた。

すると、俺を見てぎょっとするが、

「心配はない。桃香さまの命を受けているだけだ。それで?」

星が一歩前に出て、俺の前に手を出して制すると。

「それが……」

近付き、耳元で。

「暴動です。どうやら、敵兵士の一部がまだ残っていたようで……」

「……関羽はどうした? 今は、あいつが警邏をやっている時間だろう」

「それが、見当たらないのです。指揮を執る将軍が居らず、統率が無いまま戦って居る現状で……」

「愛紗が……? 何をやっている……まさか」

星が俺を見るが、小声で話しているのだ。聞こえないフリをする。

……でも、よく聞こえるな、俺。耳が良くなったんだろうか。

「将軍!」

「…………ちっ」

舌打ちが聞こえる。俺はあくまでも知らないという体を装って。

「何か問題があって、星の力が必要なんだろ? 行ってきなよ」

「……ですが」

「門番はいるだろ? 俺ならここら辺をぶらついているさ。でも、すぐ戻ってきてくれよ。知らない奴に何を言われるか分かったもんじゃない」

「…………本当ですね?」

「早くしろ。民が困っているんじゃないのか?」

俺の叱咤する言葉に、星が唇を一度噛む。

「……っ! 案内しろ!」

「は!」

一度だけ振り返って、星が兵士と一緒に走り去っていく。

「…………」

一人になった。

周りの目があるが、自由だ。

「…………はは」




都合が、良すぎる。




どう考えても、誰かの手引きだ。そう考えるのが自然だ。

衛兵がまるでいなく、そういった状況からの連れ出し。

最低限省けない門番を欺くため、星ならば他の連中よりは疑惑が立ち難いと判断。

桃香が出た直後に朱里から聞いたという星の言葉。

状況だけを考えたら、朱里が俺を脱出させるために手段を講じている……としか思えない。

なら……乗っかるのが良いだろう。関羽が問題として残ってはいるが。

「…………」

それに、華佗だ。

俺は歩き出しながら、華佗の姿を探す。

行方を眩ませているのは確かだろうが、それでも町のどこかにはいるはずだ。

朱里と話して、桃香と話して。

この二つの会話の間に、時間はそれなりにあった。だとしたら、朱里は華佗への対応も行なっているはず。

どこが、分かりやすい場所だろうか。

俺と華佗が知っていて、人が少ない場所…………。



…………まさか、な。





     ◆  ◆  ◆











来なければ良かった。











そう、思った。













「…………何が、あった?」

そこには予想外すぎる人物が居た。

「……関羽」

俺は、寝台に項垂れるように腰掛ける関羽に、話しかける。



ここは、俺が寝ていた部屋だ。三度、ここに戻ってきたのだ。



ここぐらいしか思いつかなかった。二度はあっても、三度はないだろう……そういう期待も込めて。



だが……。



「何が、あった?」



部屋の惨状を見る。

壁には巨大な獣が鉤爪で付けたかのような無数の痕。

地面には大量の血溜まりと、同様の爪痕。

腰掛ける関羽は、髪を結わっていた紐が解け、全身血を流しながらの傷だらけ。



「…………」



俺は固唾を飲み込んで、関羽に近付き、そっと片膝をついて。

「関羽……」

なるべく刺激しないように、頬に手を当てて顔を上げさせ、こちらを向かせた。

髪が半分顔に覆いかぶさり、片目しか見えないが。

「…………北郷殿」

目の色は……強い。怪我はしているが、重傷ってほどでもないのか。

「どうしたんだ? この場所で、何があったんだ?」

部屋を見回しながら言う。

ここは……ある意味で危険すぎる場所だ。前例が、あるから。

「北郷殿…………あなたは……」

「ん?」

じっ…………と、俺を見て。

血だらけの手で、俺の手を掴むと、



「私も……あなたと共に、行きます」



「関羽……?」



それは、思ってもみない言葉で。

「これが……こんなことが現実に起こるというのなら……北郷殿が、関係しているのなら……その足を止めなければ、ダメだ」

「さっきから何を言っているんだ。俺に分かるように説明してくれ」



ギリギリ



ギリギリギリギリ――――と、俺の手を掴む力が強くなる。



「先が少し、見えた気がします」

表情もなく、ただ俺にそう言って。

「私を、連れて行ってください。北郷殿」

「それは…………だが、俺は魏に戻る。蜀とも戦うことになるんだぞ」

「構いません」

即断、即決の言葉。

「桃香さまを守るためには、まず北郷殿を守り抜く必要がある……」

「…………どうして、そう感じた?」

「…………華佗を探しましょう。すぐに、ここを離れた方がいい……」

立ち上がるが、すぐにバランスを崩して俺に寄りかかる。

「無茶するな!」

「っ……でも……」

「全く……!」

あまり良い感じがしないのは当然だ。

何か、身を包んで隠せるものと……後は、華佗の居場所だ。

すぐに移動しなければ。この惨状の中に居るのを見られるわけにはいかない。



くそっ……何が起こったんだ……?





続く


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