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のんびり適当にがモットーです。多分

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あの想いと共に 第62話 

あの想いと共に


第62話



「顔を合わせるのは初めてか」

「そうですね」

「…………おー」



俺の前に、最初に現れたのは二人だ。



一人は、前の世界でよく知る猛将。要所要所で暴れられて、手酷い痛手を負ったのを覚えている。

だが、もう一人…………この子は。

「では、改めて。初めまして、北郷一刀。わしは…………あぁ、そうだな。お主は、わしのことも知っておるのか?」

「知っている……厳顔」

「……ほほう」

二人のうち、片方……厳顔が、俺に笑みをかたどる。笑みといっても良いものではなく、悪い……少なくとも、今こうして牢屋に繋がれている俺を見て、見下しているような表情だ。

そして、もう一人。

「璃々、挨拶せい」

「はい! 璃々です! はじめまして、おにーさん!」

こちらは厳顔とは違って、あどけない笑みを浮かべて、手を振って元気よく挨拶してきた。

「……あぁ、よろしく、璃々。俺の名前は北郷一刀だよ。好きに呼んでいい」

「かずとおにーさん?」

「そうだね。それが一番しっくり来たのなら、そう呼んでくれ」

「うん!」

月とは違った、純真さがある。幼さから来るものだろうが。

「それで?」

俺は厳顔に視線を向ける。

こんな子供を連れて来て、何がしたいのだろう。厳顔自身の思惑とも思えないし、朱里か龐統辺りの入れ知恵だと思うのだが。

厳顔は顔色を変えずに俺を見下ろしたまま、

「別にどうもこうもないわ。紫苑……黄忠からお主の話を聞いた璃々が、お主に会ってみたいというから連れて来ただけだ」

……それだけ?

「そうなのかい?」

「うん! おかーさんが、かずとおにーさんのことをいっぱい話してたから!」

俺のことを……ねぇ。

「ふふっ……気になるか?」

「気にならない、というのであれば、俺は君らに興味がないということになるんだろうな」

「ふむ、実に回りくどく曖昧な表現をする……黄忠や朱里の言う通りの男だな」

「それでも、あの子達は俺の本性がどういうものか見当をつけて、ここに閉じ込めたみたいだけど?」

「会ったばかりで本性が分かった、なんて言うような輩は、普段からその口から嘘ばかり吐いている愚か者だろうが」

「なんとまぁ、耳が痛いよ」

「よく言うわ。微塵も思っておらぬくせに」

年長者……ということもあるのか。適当な会話には流されず、流さず、自身が場の支配者という現実を下手に動かさないようにしている。

だが、すぐに聞きたいことを聞いてこないのは……一つ一つ、俺の仕草を見て、俺という存在の判断材料を増やしているからだろう。彼女の視線からは、そういった探る感情しか見えない。

…………それなら、だ。

「それで、璃々。君は俺と何をお話したいんだい?」

「え? んー……とね」

時間が掛かるというのなら、掛ければいい。俺だってすぐに動ける状況じゃないし。先に話せそうな子がいるなら、そっちの問題をクリアしておいた方が良いだろう。

璃々は顎に指を当てて、考える仕草を取る。少し待つが、こっちはこっちでうんうん唸るばかりで特にこれといった話題が出てこない。

「話したいではなく、会いたかったのかな?」

なんとなく見当をつけて言うと、パッと顔が華やいで、

「あ……うん! とーかさまと、おかーさん、二人がよくかずとおにーさんのことを話してたから!」

「それで、興味を持ったんだ?」

「うん!」

元気……というか、テンションが高い。求めていたものが手に入った時の子供だし、こんなものだろうけれど。

しかし、これじゃ話が進まないな。

「目的が達成されたのなら、もう帰ったらどうだ?」

「わしはお主に興味が何もないから、戻っても良いが……璃々」

「んー?」

厳顔と璃々が、顔を合わせると。

「この男を見て、どう思う?」

そう、ストレートに聞く。

「んー…………」

言われて、璃々が俺をじーーーっと見てくる。

「……子供に何を期待しているんだか」

「期待?」

「さてね。俺を改心させたいのか、破滅させたいのか。それとも俺の全く知らない思惑があるのか……分からないけどさ。どの道、誰の言葉だろうが、俺の行動理念を覆すことは出来ない」



誰の意思だろうが、俺という概念を屈服させることは出来ない。



出来るとしたら…………もう、俺が俺である必要性が無いという絶望を、完全なる証拠を持って俺に突きつけることだけ。

「……なるほど、黒いな」

「?」

厳顔が、俺の瞳を覗き込む。決して逸らさず、叩き付けるような眼光を見せて。

「今垣間見せたその瞳と言葉の闇は、まさに我らが主が払いたいもの。拭い去りたいもの」

「お前だって、十分回りくどい」

「ははっ、かもしれん。だが……桃香さまが仰っていた物の意味が、ようやく見えた気がするわ」

そこで――厳顔が腰下ろし、胡坐をかいて俺と視線の高さを合わせた。

「天下を取ることよりも、お主一人の闇を払う方が、きっと難しい――――そのようなことを、桃香さま仰った」

「…………天下を取るより」

「そうだ。何をたわけたことを抜かしよる……そうも思ったのだがな」

真っ直ぐな二つの視線が……俺の目を見て、問いかけてくる。

「自身が憎いのか?」

「…………憎い? ……憎い、か……」

深く、その感情を考えたことは無かったが。いや、考えないようにしていたんだろう。

考えれば底を突かない憎悪の闇が、多分俺にはある。


いつまでこんなことをしなきゃならないのか、


騙さなければならないのか、


これが終わったってまた繰り返しになるんじゃないのか。


考えれば考える程、俺の思考はループする。世界だってループし、俺を永劫かも分からない流れに巻き込んで惑わし、拐かして。

一度回った自分の思考が、最初に戻ってきたら、不思議と憎悪は増える。理不尽と、至らなさと、一方的な簒奪に俺の中の悪は無尽蔵に膨れ上がる。

その闇が抑えきれなくなったら……俺は様々なことに躊躇いがなくなるんだろう。

世界を呼んだ時の、あの時の自分のように。

「うっ……」

自然と、口端が上がった俺を見て。

不意に、璃々が、怖がったような声を出し、そんな顔をする。

俺が“怖くなっている自分”を思ってしまったからだろうか。

「こちらに来い、璃々」

「う……うん」

座った厳顔に抱きしめられながら、それでもまだ俺を見る。

……これが答えだな。張飛も似たようなものだし。

「なんで、俺が自分を憎んでいるなんて思ったんだ?」

「わしの言葉は、全て桃香さまの受け売りよ。天下よりもお主一人の方が難しいというのなら……そこにある感情の波も図り知れまい」

「で、現に今、お前は俺を図れていないのか」

「ふん……そうなのだろうな。わしにはお主の想いは分からぬ」

ぎゅっと、璃々を強く抱きしめて。

「桃香さまの命を助け、曹操に尽くし、璃々に優しい言葉を投げかけられるような男が……何を望む?」

「まさか、答えてくれるなんて思っていないだろ?」

「…………そうだろうな。そういう男であるということも、聞いている」

「嘘吐きだってことは、周知の事実か」

「……なぁ、璃々よ。この男は、嘘吐きに見えるか?」

「え……? うーん……」

厳顔に抱かれて落ち着いたのか、再びじっくりを俺を観察してきて。

「そんなかんじ、しないよ」

「そうか。だそうだが」

「だからなんだよ」

「鈴々もそうだが……子供の慣性は侮れん。大人が考え付かないようなことも、本能で察しよる」

「だから、俺が嘘吐きじゃないって?」

「嘘は吐かんのだろう。ただ、真実を隠すだけで」

「嘘吐きの次は、隠し事か」

「そういう輩は今まで腐るほど見てきた。だがお主は……その隠し事を、嘘として塗り固めておる」

「何を根拠に?」

「周りには嘘や虚言を吐き連ねながらも、璃々はお主を嘘吐きではないと言った」

「…………子供の言葉だ」

「お主の態度よりは、璃々の言葉の方が万倍も信じられるわ」

平行線の話題が続く。

と思うが、厳顔は別にこれでいいのだろう。俺と会話をすることが目的だったみたいだし。その先にある答えを引き出そうとは思っていないようだ。

「ねぇねぇ、かずとおにーさん」

「ん?」

厳顔の膝の上に座る璃々が、

「かずとおにーさんは、とーかさまのこと、すき?」

「…………はぁ?」

思わず、素っ頓狂な声が出たというか。

「くっ……はっはっは! 聞きたいそうだぞ、北郷一刀よ」

「桃香のことを好きか嫌いかって……?」

そりゃ、そこだけで判別するなら好きなんだろう。俺は桃香に悪意も敵意も持っていない。



――――危機感ならあるが。



「どっちでもないかな。桃香は俺の友達だ」

でも、明言は避ける。

相手は子供だ。好きといったら、男女間の好きに勝手に直結させて、面倒ごとを起こしかねない。

「そーなんだ?」

「情けない男よ」

「なんとでも言えよ。璃々は、桃香のこと好きかい?」

「うん、だいすきっ!」

満面の笑顔で、迷い無く断言して。

「でもね……」

だが、すぐにその顔が曇る。

「とーかさま、かずとおにーさんのことをはなしてると……すごくたのしそうだけど、たまになきそうになるの」

「…………」

泣きそう…………桃香が?

「いっつもたのしそうなんだけど、かずとおにーさんのことをはなしてるときだけ……」

じっ……と、俺を見てくる。

…………そうか。



あの子は俺がいないところでも、俺のことを考えて。



俺を助けたいって――――本当に、本気で思っている子なんだな。



…………朱里が俺を手元に置きたがる訳だ。



「……知らなかったのかい、璃々。俺は桃香を泣かせる悪者なんだ」

「えっ……そうなの?」

きょとん、とした顔に、俺は言葉を投げる。

「そうだよ。でも、桃香は優しいからね。俺のような悪者でも助けなきゃって思ってしまう。だから璃々、君から言っておいてくれ」

「なぁに?」

俺は、悪い笑みを浮かべる。

すると、厳顔の眉が動いて。

「北郷一刀、お主、何を……」

「難しいことじゃないさ。立場の話だ。俺にとっての桃香と、桃香にとっての俺は、殺し合いをする立場なんだ。そうじゃなければならないんだ。武器を持って、首を串刺しにしたり、目玉をくりぬいたりする仲なんだよ」

「く、び?」

「お主ッ!!」

厳顔が耳を塞ぐが、もう遅い。

俺はゆっくり口を動かして、例え耳が塞がれていても分かるように、大きく目を開いてこちらを見る璃々に、言葉を紡ぐ。




「だ か ら 璃 々」





「き み は お れ た ち の よ う に な っ て は だ め だ よ」





     ◆  ◆  ◆



 


「…………よき話が聞けた、ということにしておこうか。璃々も、少しは男を知れただろうしな」

「なんの勉強なんだか」

「まともに相対した初めての男が、お主というのは……これは紫苑に怒られるな」

ぼんやりしている璃々を抱き上げて。

「紫苑にここに連れてくることは話しておらなんだからな。今頃大慌てで探しておるだろうよ」

「それは怒りそうだ」

子煩悩には見えないが、それでも常識の範囲で良い母親をやれていそうだし。

「……だがな、北郷一刀よ」

「ん?」

再び、俺を見下ろす形になったが。

「人に嘘をつく前に、もう少し自分に優しくする努力をしてみてはどうだ?」

そう、言って。



厳顔は、そのままこの牢屋から出て行った。



「…………ふむ」

遠まわしな表現は最後まで、か。

嘘を…………騙すぐらい人を想う前に、自分に嘘をつけるようになってみろ――――そんなことを言いたいんだろうけど。



……もう、俺の言葉が“本当”になることはないんだよ…………。






それから。




しばらくの、時間が経ったように思える。






ここに入れられたのは、深夜……明け方も近かった。

そう考えるなら、朝日が出たと同じぐらいに、厳顔と璃々はここを訪ねてきたということになるのかな。

「…………そういや」

声に出して、確認してみる。

「起きてから……何も食べてないな。飲んでもいない」

間違いないはずだ。

華佗に起こされて……襲われて。

逃げて、関羽達に囲まれて……朱里を助けて。

それからまた捕まって……今に至るわけだが。

「…………」

腹を、撫でてみる。

空腹は全く感じない。喉の渇きもない。

「…………んー?」

十二時間近く経っているはずだ。なのにこれはさすがに異常な気がする。気がするというか、確実に異常だ。

でも…………あんな薬を使った後なんだし、多少の身体機能の不全は当然なのかもしれない。というか、それしか思いつかない。



…………いよいよ、こっち方面でもやばくなってきたのかな。



だとするなら……今後のことを考えるなら、あの薬を使うのはどのような状況でもやめなければならないのだけど。

「……?」

ぎぃ……と。扉が開かれる音がした。


さて、次の来訪者は…………おやおや。



「君達か」



「……むぅ」



「おはようございます、北郷殿。鈴々も、挨拶ぐらいはしろ」



現れたのは、桃香の両翼。関羽と張飛だ。どちらも武器は持っていない。

関羽は表情に変わりは無く、今まで通りという体で立っていて。

張飛もこれまた変わりは無く、いやむしろ眉間に寄る皺は多くなったかもしれない。

「元気そうだね、張飛」

「…………ふんっ」

「やれやれ」

本当に嫌われている。

厳顔の話をそのまま受け入れるとすれば、鈴々は俺の中の暗部を本能で察しているということになるが。

「鈴々と、少し興味深いお話をなされたそうですね」

「何かしたっけ?」

本当に覚えが無い。そもそも、俺と張飛が話した回数なんてタカが知れてるんだが。

「戦場で、ですよ。鈴々が負けた時の話です」

「鈴々は負けてないのだ! あれはたまたまなのだ!!」

「あぁ、確かに弱かったなぁ、お前」

「んぐっ!? ぬぐぐぐぐぐぐぐっ……!」

怒りに身を震わせて握り拳を作り、思わず鉄柵を殴ろうとしたが、関羽に止められる。

「やめろ、鈴々。負けは負けで認めなければ強くなれんぞ」

「でもっ、愛紗!」

「……私とて負けたのだ。悔しいが、北郷殿の本気に、我らの実力はまだまだ及ばないということになる」

「…………ふむ」

これ、わざとぼかしてるのか? それとも、張飛がいるから妖術だってことを話していない?

それに……劣化加速のことを、朱里から聞いていないのだろうか。

俺の記憶が正しければ……恐らく、朱里は劣化加速のことを知っている。俺が気を失う際、そんなことを話していたはずだし。

なら…………朱里と意思疎通が取れていると思っていたが、意外にもそうではないのだろうか。

お互いの情報は交換するが……情報の吟味はお互い個々で行なっているとか。だとすれば、関羽が劣化加速のことを知らないというのも頷ける話だけど。

「でもあれば、こいつの力じゃないのだ!」

「どのような力でも、戦場で振るわれればそれは味方か敵にしかならん。北郷殿自身に力はなくとも、その中にある枷を外すことが出来るのが、あの薬なのでしょう? そして、枷を外した北郷殿は、紛れもなく我々の敵だ」

「そうだね」

張飛がいるから、追及はしにくいな。機会があればいいが。

「で、何しにきたんだい、君ら」

一々本題に入るのが遅い。

関羽はこほん、と咳払いして。口を開いたとき、



「お前、もう一度鈴々としょーぶしろ!!」



ビッ! と指差して、そう宣言する。石造りの牢屋の部屋の中に、その声は大きく反響した。

「……鈴々、お前な」

「だって、あれは偶々なのだ! 今戦ったら絶対に負けないのだ!」

嘆息しつつ、だそうですが? という意味をこめた視線を俺に向ける。

俺は呆れて様子を作って、両手をあげて、

「弱いものいじめをしろって言われてもなぁ。時間の無駄過ぎるだろ」

「ぬぐっ!? 鈴々は弱くないのだ!」

「いや、弱かっただろ。どんな形にせよ、無様に負けたじゃないか」

「だ、だからあれは偶々なのだ!! もう一回! もう一回勝負しろなのだ!!」

「……んー」

別に勝負しても問題はない。薬飲む必要はないし。状況さえ整えられれば、華佗の力も借りられるだろうから。

ただなぁ。

「それが張飛の頼みなら、聞いてあげてもいいけどさ。代わりに、俺の頼みも一つ聞いてくれよ。それが聞けるっていうのなら、再戦してやるさ」

「おぉ? 仕方ない、やってるのだ。何をすればいーの?」

一瞬驚き、しかし不満タラタラに言う。

で、俺は最もありえない条件を出してみようと思った。



「じゃあ、俺のことを好きになってみてくれ」



「は?」



「ふぇ?」



関羽がぽかーんとし、当人の張飛も何を言われたのか分からないって顔をしている。

「だから、俺を好きになってくれ。張飛が俺を好きになってくれたんだなって分かったら、再戦しよう」

「ほ、ほほほほ北郷殿!?」

「な、なに言ってるのだ! 鈴々はお前が大嫌いなのだ!!」

「そっか。じゃあ再戦は無理だね。お疲れ様、帰っていいよ」

笑顔で手を振ってやる。

「ふ、ふにゅ、ふにゅにゅにゅにゅッ……!!」

言葉にならない声を上げて、俺を睨みつけて。

「ふにゅ……! 分かったのだ! やってやるのだ!」

「えっ、鈴々? お前、何を……!」

言うや否や、足音を立てて走っていく。

「朱里に“嫌いな奴を好きになるのはどうすればいいのか”聞いてくる!!」

そう言って、部屋から出て行った。

「…………」

「…………」

嵐のようなとは、こういうことを言うのかな。

「…………あなたという人は」

目を瞑って腕を掴み、嘆息する関羽。

「呆れてくれていいよ。あぁ言えば、再戦はないだろ」

「鈴々を気遣ってくれたのですか?」

「俺と戦っても、良い方向には転ばないだろうからな。それは張飛だけじゃなく、関羽。君もだよ」

目を開いて。でも、その視線は逸らされていて。

「…………脱線しました。私はただ、確認をしにきただけです」

「確認?」

何を話したっけか……。

「あなたは鈴々に言ったそうですね。「自分は嘘をついていない。ただ、願望をそのまま口にしているだけ」だと」

「…………あぁ」




“本当さ。俺は俺が欲しいように、桃香に対して願望を口にしているに過ぎないよ”



“……んー??? よく分かんないけど、お前がおねーちゃんを泣かせたりする! 鈴々は分かるのだ!!”



“それはそうかもしれないな……だけど、張飛。俺の言葉が全部嘘に聞こえる……みたいな言い方だったけど”





“俺は……本心しか喋ってないよ、張飛。でもそれが……嘘に聞こえるというのなら”





……確かに。

そんなことは、言ったな。

感情が高ぶっていて、大分余計なことを口走っていたらしい。

「しかし、鈴々にはそれが嘘に聞こえてしまう。あなたはただ、本当の想いを口にしているだけなのに」

「…………それで?」

最後まで聞こうか。

「鈴々はあなたの言葉を全て嘘だと思い、桃香さまもそれに気付いている」

「そうらしいね」

「あなたは嘘で私達を救い、嘘で自分を追い込み、嘘で場を操って行く。あなたの口から出る言葉が全て真逆の性質なのだとすれば、私と交わした約束も、確かに嘘だったのでしょう。約束したと言いつつも、あなたの中でそれは嘘だったのだから」

言って、関羽は座る。八の字座りで、妙に女の子っぽい。

「しかしそれだと、どうにもおかしいことが出てくるのです。何か分かりますか?」

「……全部聞くよ。聞かないと、喋れない」

「…………あなたは」

しっかりと、その瞳の中に俺の顔を含んで。




「あなたはどうして、官渡で私を求めたのですか?」




「…………官渡?」

官渡の何が、気にかかる?

「そこだけがどうにも腑に落ちない。あなたには華佗がいた。そして……やってはいけないこともあった」

顔良のことか。

「……だから?」

「国内の負の感情を、私で抑え込もうとした。そういった打算もあったのでしょう。私の力を欲したのは確か。曹操が私を欲しがったのも間違いない。桃香さまとの仲を見せて……それはどちらとも取れますが、それでも今となっては他国に対する優位性を持つことを示すことだって出来た」

「十分すぎる理由じゃないか」





「今の話のどこに、私を必要とする必然性がある?」





冷たく、


尖った声が、壁石を反響して伝わる。


「あなたは常にそうだ。冗談や嘘をいっていても、必ずどこかで“これがどうしても必要だから、その必要性を求めて”行動する。それが最終的に自分の目的に少しでも掠っていれば、あなたはそれに触れなければならないのでは?」

「だとして、なんだ?」

「官渡決戦の前にあなたに使われましたが……確かにあなたを取り巻く状況は酷いものでした。酷いものでしたが……決して、あなたと華佗。二人が組んで覆せないぐらい酷いものではなかった。というより、あなた方二人に覆せない状況があるとは到底思えない」

「前々から言っているが……偉く高い評価だ」

「高くもなります。それだけの実力と……何より経験が、あなた方にはある。どこか分かっていて、達観して、理解して行動している。絶対的な自信と、その自信からくる“裏付け”が常人と比べて尋常ではない程に、あなた方は深く、鋭く、重過ぎる」

「仮にそれが全て事実で真実だとしてだ。そこまで分かっているのに、何が分からないんだ?」

「分かりませんよ。私は分からないし、桃香さまも知らない。朱里はどうなのでしょうね? でも私達は、あなたの最終目標に掠って……いや、恐らく大きく踏み込んでいる。だから殺せないし、殺さないし、殺させない」

「…………」

「そして……こうした話題になれば、あなたは必ず一度長考する。私達を殺せない理由を、私達を救う意味を、私達があなたを助けたい一心で言葉にしたら、必ずだ」

張飛とか、璃々とか。月は別物だが。

「……私に分かることが、桃香に分からないはずがない、とか言っていたが」

この子はこの子で、十分に俺を見ている。見通している。一番俺に近い場所で、一番苦しい時を共に過ごしたからかもしれない。

「先に言っておきますが。桃香さまは、私や朱里からあまり、あなたのことを聞きたがりません」

「えっ?」

つまり、俺のことを話していないってことか?

「何故驚かれるのです? 桃香さまはあなたが嘘を吐いていると分かっている。だから、私や朱里に嘘を言うあなたを知るのも、嘘を吐かれている私達を知るのも嫌なのでしょう」

さっき、黄忠とはよく話していると言っていたが。厳顔だって、口振りからすると桃香から俺の話を聞いていたはず。

あれは……二人がまだ、俺をよく知らないからか? 俺と知り合っていないから、俺の話が出来た?

「…………不思議に思えたのです。勿論、最初はそんな違和感などなかった」

「……何が?」

あまり、良くないことを言われそうだな。関羽は俺に対して、躊躇や際限ってものがないから。

「魏のため、曹操のため……あなたはそういう顔をして、私を手に入れたかもしれない。先程も言った、場の不況を取り除くためだったのかもしれない」

「分かりやすいね」

そう言うと。

関羽が今日初めて笑い、頷く。寒気がする笑みだ。



「そこですよ。あまりにも、分かりやすすぎる」



鉄柵を掴み、少し顔を寄せて、

「あなたの嘘に気付きにくい理由。そして、あなたの嘘を看過してしまう理由……それは、そこですよ。分かりやすい功績を、分かりやすくちらつかせる」

…………。

「そうやって仕事をしている、功績を出している、実績を残してる。そんな顔をして、裏ではそれらの功績が実は常に別の意味を持っている……あなたにとっては別の意味であることを、あなたは知っている」

「すごい憶測だな」

「憶測ではありませんよ。もしこれが憶測なら……曹操はあなたを天の遣いとして祀り上げたりはしない」

「ふぅん……」

「全て、そこに集約するはずです。そしてあなたは、自分が天の遣いであるということを隠しもせず、むしろ相手に印象付けるように何度も口にする」

鉄柵から手を離し、さっきと同じように座って。

「話をまた戻します。官渡のことでしたね」

「そういや、そんな話だったね」

「先に結論から言うと、私を引き込んだ理由が、周りに分かりやすく伝わっているということです」

「で、それが俺らしくない」

「えぇ。北郷殿は常に“誰にも分からない理由で動いていなければならない”はずです。なのに、私を引き込んだという行動は余りにも理に適い過ぎている」

なるほどな……読めてきた。

「いつもどこかに謎を置いてきた俺なのに、関羽を連れてくるという行動だけは謎が無かった。しかし、謎が無かったのが逆に謎になってしまった」

「そうです」

「……ふむ」

……正直、驚いた。驚愕とも言える。

ここまで俺のことを見て、俺を理解しようとして、蔑ろにし続けた俺を想ってくれているってのは……。

「関羽。お前こそ、何故だ?」

「……なにがです?」

少し眉を寄せられるが。

「どうしてそこまで、俺に構う。俺が何をしていようが、どこを目的地にしていようが関係ないだろう。桃香が俺を気にしているというのも分かるが、それは本来諌めなければならないものだ。それに俺はお前を必要としたが、大事にしたことは一度も無かった」

「私を引き込んだ本当の理由を教えてくだされば、こちらも話します」

「…………」

「…………」

「今そうやって考えていること、桃香や朱里には?」

「何も。これは私の心の中だけに閉まっています。官渡での戦い、その中で魏については話しましたが、官渡決戦時やそれ以前にあった北郷殿との付き合いについては、何も話しておりません。と言っても、北郷殿の回答次第では、桃香さまにご報告致しますが」

「…………何故、話していない」

桃香が聞いていないから、では理由にならないはずだ。

関羽は誰よりも義を尊ぶ実直な将。そこを曲げるような行為を――――、



「私の中で、まだあなたとの約束は生きています」



心臓が――――僅かに、跳ねる――



「…………お前」



「認められない、と言ったはずです。だから私は、自分を認めさせるために、ここに来た」





「…………華佗や、顔良のことは?」


「何も」



「俺が、孫策達のところに流れていたことは?」



「戦場から別所に流れた事実は。でも、孫策とのことや助けた行為は口にしていません」



「信じろって?」



「あなたに信じられるためには、あなたに一度でも嘘を言ってはならないでしょう。それに…………」



「…………?」



「今までしてきたあなたの行為は、私達には然程重要ではない。重要なのは……今あなたがここにいて、私達の言葉に答えてくれることです」




そう言って、目を瞑った。俺が回答を述べるまで、意地でも居座るつもりなんだろう。

「…………」

…………ここまで、筋が通った奴ってのは初めてだ。

こんな時代だ。どこかで自分の主が聞けば、どうしても答えなくてはならなくなる。

関羽はこう言ってはいるが、遠回しにでも桃香に俺のことを聞かれただろう。桃香の性格上、何も聞かないはずがない。

それでも関羽は、何も話していないと。あの期間の俺のことを、桃香は知らないとこの子は断言した。それにはきっと、嘘が無い。



それはつまり……俺とのあの約束があったからだ。



無かったら、もう後腐れない関係だ。関羽は全部俺のことを包み隠さず話していたに違いない。

でも関羽は、俺との関係の終わり方に納得が出来なかった。

そのせいで桃香にも、顔向け出来ないと思った。

今はお互い国に戻ることになったとしても、ちゃんとした形で俺のことを助けたら、その時こそ笑顔で桃香に全てを報告するつもりだったんだろう。

だって“その時”ってのは、もう全てが解決している時だ。俺は隠し事なんかする必要がなくて、未来とか、ループとか。



そんなことを笑い話で吹き飛ばせるような…………そんな、世界――――



「…………くくっ」

「……?」

関羽が、左目をあける。そして、笑う俺を見た。





あり得なかった。




想像出来なかった。





もうこんなところまで来てしまって、戻っても、進んでも、立ち止まっても、全てを口にしたとしても俺にとっての解決なんてしないだろうに。




それなのに――――――





「それでも私は、自身の義のために、私が私であるために、あなたを助けたい」




「っ――――」



目を向けると、既に関羽は目を閉じた後で。



















俺が俺であるために、世界に嘘を吐くというのなら


















関羽は関羽であるために、世界に筋を通す


















全く真逆だ。


真逆で、真逆すぎて



でも…………それは、俺がどれだけ求めても、絶対に手に入らない力




嘘と、虚偽と、誤魔化ししかなくて



俺が蟻地獄に落として捻じ曲げてしまった彼女達は、もう俺のために世界に筋は通せない




もう、何もかも騙すしかない




欺き通すしかない






しかし、今目の前に居るこの子は




誰に言われるでもなく




俺に騙されるでもなく





陥れられたわけでもなく






純粋な意思だけで、俺のところに来ようとしている








こちら側に来る資格を、無自覚に得ている





もし、世界を極限まで捻じ曲げることが出来る俺と




世界をそのままに最大限まで生かすことが出来る関羽が、共に在るという状況が現実になったら







それは――――きっと――――――






「……………………関羽」





俺の呼び声に、関羽が目を開ける。




「俺は…………――――」






続く


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