返信ですー
2012/05/11 Fri. 03:15 [edit]
拍手やコメントに返信ですー
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>きのすけさん
こんにちはー。
以前のブログは、色々あって頓挫してしまって……恥ずかしいものですが、もう一度と思って戻ってきました。
応援してくださっている方がまだこうしていてくれるのが、とても励みになっています。
今後もこんな更新速度ですが、気長に見てやってくださいー。
コメント感謝です!
>濡れタオルさん
こんにちはー。
まず先に、誤字報告ありがとうございます……これは酷いですね、大事なシーンなのに。
誤字脱字お化けは恐らく永遠に直らないものですよね……これ。もっと入念にチェックしなくちゃ……。
そして、顔良将軍はあんな感じになってしまいました……。
しかし濡れタオルさんの予想通り、華佗がやってくれました!
でもそれを知らない2人は暴走しちゃいました!
ふふふ……すみません(><)
官渡はもう、思いっきりオリジナルな展開になってます。濡れタオルさんにはもう……こう、なんと言いますか。
平謝りするしかないと言いますか……。
決して袁家が嫌いというわけではないんです。むしろ好きな部類なんです。
でも……後は後書きに書いた通り、閃いたが最後って感じですね……。
あー……それと。
一応、ここでコソッと言えることは、官渡の戦いが終わる前に3人の掛け合いみたいなシーンは入れます。
どの程度ご期待に沿えるかは分かりませんが、私なりに3人の暢気さっていうのを出せればなと。
そんな風に考えてますね……と、言うぐらいにて、はい。
コメント、ありがとうございます!
>きのすけさん
こんにちはー。
以前のブログは、色々あって頓挫してしまって……恥ずかしいものですが、もう一度と思って戻ってきました。
応援してくださっている方がまだこうしていてくれるのが、とても励みになっています。
今後もこんな更新速度ですが、気長に見てやってくださいー。
コメント感謝です!
>濡れタオルさん
こんにちはー。
まず先に、誤字報告ありがとうございます……これは酷いですね、大事なシーンなのに。
誤字脱字お化けは恐らく永遠に直らないものですよね……これ。もっと入念にチェックしなくちゃ……。
そして、顔良将軍はあんな感じになってしまいました……。
しかし濡れタオルさんの予想通り、華佗がやってくれました!
でもそれを知らない2人は暴走しちゃいました!
ふふふ……すみません(><)
官渡はもう、思いっきりオリジナルな展開になってます。濡れタオルさんにはもう……こう、なんと言いますか。
平謝りするしかないと言いますか……。
決して袁家が嫌いというわけではないんです。むしろ好きな部類なんです。
でも……後は後書きに書いた通り、閃いたが最後って感じですね……。
あー……それと。
一応、ここでコソッと言えることは、官渡の戦いが終わる前に3人の掛け合いみたいなシーンは入れます。
どの程度ご期待に沿えるかは分かりませんが、私なりに3人の暢気さっていうのを出せればなと。
そんな風に考えてますね……と、言うぐらいにて、はい。
コメント、ありがとうございます!
category: 雑記
いつもの+後書き
2012/05/11 Fri. 03:05 [edit]
こんにちはー、うどんです。
大分間が空いてしまいました。全部『創刻のアテリアル』が悪いんです……そうなんです。
あの手のSLGはやり始めると止まらなくて。もうすぐ6週目が終わるところです。
なんてGW丸々潰してやっちゃってました。そうしたら、時間が過ぎる過ぎる……結果、5月も10日を過ぎましたね。
沙夜音と鴉鳥がもう可愛くて可愛くて……沙夜音は見た目と性格。鴉鳥はシナリオで株急上昇って感じです。
というか、沙夜音辺りは「お前、またこの手の金髪キャラか」と言われました。
確かに、華琳とかもそうですが……個人的に色は赤が一番好きなんですけどね。あんまり信じてもらえませんが。
ほら、紅桜とかも赤いし…………ね。
あ、後はあれです。宣伝です。
→のリンクにある、「濡れたタオルで叩かれると痛い」という私の知り合いのところで、
ちゃんとした袁家の話をやっているので。
詳しくは後書きに書きますが、なんかこう「こんなの私(俺)が知っている麗羽様じゃない!」とか思ったら、濡れタオルさんのところにお邪魔しましょう。
きっと癒されます。間違いないです。
そんなところで、後書きはこちらです↓
大分間が空いてしまいました。全部『創刻のアテリアル』が悪いんです……そうなんです。
あの手のSLGはやり始めると止まらなくて。もうすぐ6週目が終わるところです。
なんてGW丸々潰してやっちゃってました。そうしたら、時間が過ぎる過ぎる……結果、5月も10日を過ぎましたね。
沙夜音と鴉鳥がもう可愛くて可愛くて……沙夜音は見た目と性格。鴉鳥はシナリオで株急上昇って感じです。
というか、沙夜音辺りは「お前、またこの手の金髪キャラか」と言われました。
確かに、華琳とかもそうですが……個人的に色は赤が一番好きなんですけどね。あんまり信じてもらえませんが。
ほら、紅桜とかも赤いし…………ね。
あ、後はあれです。宣伝です。
→のリンクにある、「濡れたタオルで叩かれると痛い」という私の知り合いのところで、
ちゃんとした袁家の話をやっているので。
詳しくは後書きに書きますが、なんかこう「こんなの私(俺)が知っている麗羽様じゃない!」とか思ったら、濡れタオルさんのところにお邪魔しましょう。
きっと癒されます。間違いないです。
そんなところで、後書きはこちらです↓
-- 続きを読む --
というわけで、41話です。後書きです。
今回はー……んーまー……順を追って行きましょうか。
最初は、華琳と前回のおさらいと今後の不安の話。
こう見ると、華琳は本当に素直というか。外聞とか気にせず、北郷一刀という存在に対して真剣に取り組んでくれています。
だから心配だって言葉にもしてくれるし、触れてその存在を肌で確かめようとしてくれたり。
こういう華琳が書きたかったっていう私の願望も込みですけどね……個人的には、最初に思い描いた通りに書けている感じです。
不安とかは後々予想通りになったとして。
3人の密談について。
いつも通りといえば、本当にその通りなこの3人です。
ついでに、大方の予想通り顔良はこんな感じで生き残ってます。
最後まで迷ったんですけどねー……史実では官渡で死んでますしね、顔良将軍。
でも孫策とかも生き残ってますし、生かしておいたほうが個人的には面白いと思いまして。だから、こういった形にしました。
「ぶっちゃけ、顔良死んだら不都合ってあるの?」って聞かれたら「何もないよ」って答えになっちゃいます。
史実的にも、一刀の喪失感的な意味でも。
それどころか、この後余分なイベントもなくなるから、ストーリーの進みが速くなりもするという……。
ただ一応……原作では生き残りましたから。そこに引っかかりを覚えたからってのもありますね。
関羽とのお話。
フラグ臭びんびんですね、関羽。いや一刀かな。
個人的にですが、関羽は本当に一刀の行動とか魏の行く末とか気にしてないんです。
何度も本人が口にしてますが
「一刀の生存」
が第一であって。それに付随するのが、魏の存続であり。
といっても、そこまで魏にも執着はしていなくて。
実際官渡にぼろ負けして魏が滅んでも、多分関羽は一刀だけを生き残らせるように動くでしょう。
そうなった場合に限っては、関羽は一刀に従わなくなるんでしょうね。桃香の命令は「一刀を助けてあげてほしい」というものなので。
……回りくどい言い方ですね。伝わるかな? でもそんな感じなんです、関羽は。
だから顔良を蘇生しても別に気にしないし。結果として一刀が魏を追われる立場になったら、それはそれで助けてあげるんでしょう。官渡の戦いが終わるまでは。
大体そんなところ。
2日目の激戦。
明朝の軍議で、嫌な予感が拭えない一刀と華琳でしたが。
予感が的中ってことで。袁紹含め、文醜も完全に暴走状態です。カタルシスなノリに走ってます。
ゼロ七を読み込んでいた人は、この展開はある程度予想していたかもしれませんね……「あぁこいつ、そういうの好きなんだな」みたいな。
完全に後先構わずに突撃してきています。
結果として裏を掛かれたことになり、前線部隊は瞬く間に瓦解。秋蘭と霞も押されており、中央の援軍どころか自分のところで手一杯。
だから、それを打破すべく華琳が動く……のが、次の話です。
次の話は華琳視点が多くなると思います。後、また長くなるかも……。
でまぁ、あれですよ。
文醜将軍、見ましたでしょう、皆さん。先に後書きから読んでる人も中にはいるのかもしれませんが。
私のこの作品の袁家……あんな感じになっちゃいました(・ω・;)
でもこれ、まだ序の口な方です。触りです、これ。次回は袁紹も出てきますしね。
あれだけ愛されていた顔良が討たれたら、極端にいくとこうなるだろうなー……って思いました。
思ったのが、袁家の運の尽きでした。
すると、こういう結果に……二次創作は怖いですね、えぇほんとに。
……ま、まぁ、だからなんです。
だから濡れタオルさんのところを進めたんです! 話が上に戻るんですよ!
濡れタオルさんが書いている話は、とても原作の空気をしっかりまとっていて、私のあの想の破綻した恋姫成分とは比べ物にならないくらい一刀と袁家が恋姫をやってます。
だから進めたんです。目の保養になります。間違いないです。私がなっているので。
なので「こんなの袁家じゃない!」って思ったら、そこをグッと堪えて濡れタオルさんのところへ避難してください……。
あ、でも文句とかでもなんか変なところあったら言ってくださると、直します。
コピペで文字ずれがたまにあるので……見はしたんですが、変なところあれば報告ください。今回はやたらと多かったので。
そんな感じです。
久々の長文ですね。長くなりました。
丸投げな感じで終わりますが、これはこれってことで……。
ではまたー。
今回はー……んーまー……順を追って行きましょうか。
最初は、華琳と前回のおさらいと今後の不安の話。
こう見ると、華琳は本当に素直というか。外聞とか気にせず、北郷一刀という存在に対して真剣に取り組んでくれています。
だから心配だって言葉にもしてくれるし、触れてその存在を肌で確かめようとしてくれたり。
こういう華琳が書きたかったっていう私の願望も込みですけどね……個人的には、最初に思い描いた通りに書けている感じです。
不安とかは後々予想通りになったとして。
3人の密談について。
いつも通りといえば、本当にその通りなこの3人です。
ついでに、大方の予想通り顔良はこんな感じで生き残ってます。
最後まで迷ったんですけどねー……史実では官渡で死んでますしね、顔良将軍。
でも孫策とかも生き残ってますし、生かしておいたほうが個人的には面白いと思いまして。だから、こういった形にしました。
「ぶっちゃけ、顔良死んだら不都合ってあるの?」って聞かれたら「何もないよ」って答えになっちゃいます。
史実的にも、一刀の喪失感的な意味でも。
それどころか、この後余分なイベントもなくなるから、ストーリーの進みが速くなりもするという……。
ただ一応……原作では生き残りましたから。そこに引っかかりを覚えたからってのもありますね。
関羽とのお話。
フラグ臭びんびんですね、関羽。いや一刀かな。
個人的にですが、関羽は本当に一刀の行動とか魏の行く末とか気にしてないんです。
何度も本人が口にしてますが
「一刀の生存」
が第一であって。それに付随するのが、魏の存続であり。
といっても、そこまで魏にも執着はしていなくて。
実際官渡にぼろ負けして魏が滅んでも、多分関羽は一刀だけを生き残らせるように動くでしょう。
そうなった場合に限っては、関羽は一刀に従わなくなるんでしょうね。桃香の命令は「一刀を助けてあげてほしい」というものなので。
……回りくどい言い方ですね。伝わるかな? でもそんな感じなんです、関羽は。
だから顔良を蘇生しても別に気にしないし。結果として一刀が魏を追われる立場になったら、それはそれで助けてあげるんでしょう。官渡の戦いが終わるまでは。
大体そんなところ。
2日目の激戦。
明朝の軍議で、嫌な予感が拭えない一刀と華琳でしたが。
予感が的中ってことで。袁紹含め、文醜も完全に暴走状態です。カタルシスなノリに走ってます。
ゼロ七を読み込んでいた人は、この展開はある程度予想していたかもしれませんね……「あぁこいつ、そういうの好きなんだな」みたいな。
完全に後先構わずに突撃してきています。
結果として裏を掛かれたことになり、前線部隊は瞬く間に瓦解。秋蘭と霞も押されており、中央の援軍どころか自分のところで手一杯。
だから、それを打破すべく華琳が動く……のが、次の話です。
次の話は華琳視点が多くなると思います。後、また長くなるかも……。
でまぁ、あれですよ。
文醜将軍、見ましたでしょう、皆さん。先に後書きから読んでる人も中にはいるのかもしれませんが。
私のこの作品の袁家……あんな感じになっちゃいました(・ω・;)
でもこれ、まだ序の口な方です。触りです、これ。次回は袁紹も出てきますしね。
あれだけ愛されていた顔良が討たれたら、極端にいくとこうなるだろうなー……って思いました。
思ったのが、袁家の運の尽きでした。
すると、こういう結果に……二次創作は怖いですね、えぇほんとに。
……ま、まぁ、だからなんです。
だから濡れタオルさんのところを進めたんです! 話が上に戻るんですよ!
濡れタオルさんが書いている話は、とても原作の空気をしっかりまとっていて、私のあの想の破綻した恋姫成分とは比べ物にならないくらい一刀と袁家が恋姫をやってます。
だから進めたんです。目の保養になります。間違いないです。私がなっているので。
なので「こんなの袁家じゃない!」って思ったら、そこをグッと堪えて濡れタオルさんのところへ避難してください……。
あ、でも文句とかでもなんか変なところあったら言ってくださると、直します。
コピペで文字ずれがたまにあるので……見はしたんですが、変なところあれば報告ください。今回はやたらと多かったので。
そんな感じです。
久々の長文ですね。長くなりました。
丸投げな感じで終わりますが、これはこれってことで……。
ではまたー。
category: 後書き的な何か
thread: ひとりごとのようなもの - janre: 日記
あの想いと共に 第41話 その2
2012/05/11 Fri. 02:32 [edit]
あの想いと共に
第41話 その2
※一刀視点と、華琳視点が入っている話です※
第41話 その2
※一刀視点と、華琳視点が入っている話です※
-- 続きを読む --
◆ ◆ ◆
明朝の軍議。
まだ日が上る直前の、朝焼けも出てない時間。
「昨日の、顔良を討った手前。見事だったわよ、関羽」
「やるべきことをやっただけです」
一同が会し、昨日の戦果を再確認しつつ、今日の襲撃に備える。
「桂花」
「顔良を討ったことで、相手の指揮系統は乱れているはずです。ですが、袁紹は頭の回らない直情型の人間。出始めは何をしてくるのか分からないので、まずは相手の出方を見つつ対応していけばよいかと」
桂花の言うことは最もだ。
加えて、関羽がこちらにいるという事実も相手には知れ渡ったはず。一騎当千の将が増えたと分かれば……。
…………出方が、変わる、のか?
どうにもしっくり来ない。
前の世界を意識しすぎてるのかな……。
「なるほど。では、稟は戦局をどう見ているの?」
「桂花殿の仰る通り、相手の指揮能力は落ちているでしょうし、関羽殿が居るという利点も見せ付けられた。現在はとても順調に進んでいます。ですが、昨日は袁術の軍に手痛い一撃を貰いました。将軍を1人討ち取ったとはいえ、相手は未だこちらを多く上回る大軍。今一度森からの奇襲も考えられます」
「やられてからじゃ遅い。先の対処は必要ということね。風はどう?」
「…………」
風は俺の隣にいる。
というか、俺に寄りかかっている。
むしろ……。
「…………zzz」
「ねーるーなっ」
ぽこっと叩く。
「おぉっ」
「おはよう、風」
「時間が無いんだぞ。ほら、早く答えろ」
俺と華琳、2人から催促されて、飴を舐めつつ眠そうに目を擦る。
「あー……えーっとですねー。風は逆上されてなきゃいいなーなんて思ったりしているわけですよ」
「逆上?」
桂花が鸚鵡返しを。
……気になる言葉だな。
「頭に血が上って、ただ無闇に突撃を仕掛けてくるというのなら、これほどいなしやすいものはないと思うけど?」
「ですよねー。忘れてくださいー」
だが、すぐにその言葉を引っ込める。
逆上……顔良将軍を殺されたからか?
確かにそう思っているだろうが、仇討ちぐらいで軍を乱すようなことはしないはずだ。
そうなれば、こちらの思う壺。適当に引き込んで囲み、後はたこ殴りにすればいいだけだし。
そんな単調で分かりやすい結果を招くようなことをするはずは、ないと思うんだが……。
「伝令ッ!!」
1人の兵士が、慌てて割って入ってきた。
「どうした! 軍議中だぞ!」
「え、袁紹軍です! 袁紹軍の大軍が、こちらに向かってきています!!」
春蘭の言葉に、伝令がそう答える。
「こんな時間から? って、本当みたいね」
桂花が向けた視線の先。
昨日のような人為的なものじゃないが、行軍による砂塵が見える。
「華琳さま!」
春蘭が出撃の命を貰うべく、華琳の名前を呼んだ。
「…………」
が、華琳は腕を組み、右手を口元に当てて思考に耽っている。
「華琳さま、如何なされました?」
桂花の声にも反応せず……かと思えば。
「…………一刀」
で、呼ばれる。当然、みんなの視線は俺に。
「裏目に出ている、とは思いたくない。でも、さっきの風の言葉は心臓に悪かった」
「そうね」
華琳が厳しい表情を作る。
「一刀、あなたは関羽、華佗、春蘭を束ねて中央前線へいきなさい。最初から全力で受け止めず、ある程度様子を見て行動をすること」
「は!」
「了解」
春蘭と関羽がすぐに動き出す。
華佗は一度俺の肩に手を置いたので、俺はそれに頷いて返した。
そして、華佗もすぐに走っていく。
「秋蘭には凪達を付けるわ。昨日の失態、二度は許さない。意味は分かるわね?」
「御意! 行くぞ、お前達!」
「「「はい!!」」」
森側を、また秋蘭に任せるのか。
凪達が付いてくれるなら、大丈夫だと思うが……。
「霞には遊撃を担当してもらう。昨日は使えなかった、その機動力。当てにしているわよ」
「おっしゃ! ウチもようやく暴れられるわけやな! 任せとき!」
嬉々として馬の方へ。
「そいじゃ、お兄さんも前線で気張ってくるんですねー」
「そうなるね」
俺は桂花、稟、風の順に軍師の顔を見る。
「なによ?」
「懸念でも?」
「…………いや、なんでもない」
こびりつくような悪寒が拭えない。
この3人の意見……どれも正しく思えるが……。
◆ ◆ ◆
「来たか、一刀」
「悪い、遅れた。敵の動きは?」
俺は前線部隊の最後尾にたどり着く。そこには華佗、春蘭、関羽が俺の到着を待っていた。
俺の服装は血の汚れが抜けきっていない制服に、装備は紅桜1本のみ。命音は顔良将軍に破壊されてしまったから、使い物にならない。
「猪突猛進というやつだな。風の言う通り、見事に逆上しているわけだ」
春蘭にそれを言われるなんてね……。
「顔色がよくないな、一刀」
「……なんていうのかな」
その理由がよく分からないから困ってるんだ。
「何があっても、私がお守りします。信用がないかもしれませんが」
「次は離れないでくれればいいよ。俺も迂闊な指示はしない」
「……御意」
関羽が敵前線へと目を向ける。
「陣形は春蘭が最前。俺、関羽、華佗は中央に居る。敵の勢いが強そうだけど……まぁ、春蘭なら大丈夫だよな」
「当たり前だ! 誰に言っている! 関羽、貴様ばかりに良い思いはさせんからな!」
笑顔で高らかに宣言する。
こういう時、春蘭の純粋さには救われるな……。
「ご随意に。ただし、危なくなれば助けに入りますので」
「不要だ! 北郷、さっさと指示をしろ!」
「はいはい……」
……朝焼けが強くなってきた。
日の出に、あれだけの大軍を一斉に動かした意図……一体何がある?
■ ■ ■
「接敵したようです」
「そのようね」
一刀率いる中央部隊は、相手の攻撃をいなしつつ動いている。一番先には春蘭の影も見えたし……そう押されることはないはず。
つまり、分かりやすく行動されると、春蘭や関羽が待っていると相手は分かっているわけよね。
それでいて、あの作戦を取る理由……。
何故かしら。相手が麗羽だというのに、いらない不安ばかりが頭を駆け巡る。
「伝令!」
そうこう思案している私の元に、伝令がやってきた。
「なに?」
「森から敵軍が現れました! 数が多く、身動きが取れないと!」
「またか……」
見ると確かに、かなりの数を投入してきているようだ。よっぽど頭にきているのね、麗羽。
だけどこちらも、今度は凪達もついているし、士気も高い。やり返せるぐらいには仕上がっているはずだけど。
「それと、夏侯淵さまから、敵軍は袁紹軍だと伝えてほしいと……」
「…………なんですって?」
あれだけの大軍が、全て麗羽の? 袁術ではなくて?
「桂花」
「まさかとは思いますが、これは……」
「伝令!!」
再び、伝令がやってくる。
「言いなさい」
「は! 左翼から大軍が迫ってきていると! 張遼さまがその対処に向かわれました!」
「それは、袁紹の軍ね? 袁術ではなく」
「は……は、はい! 張遼さまから、伝えて欲しいと……」
「…………ちっ」
思わず、舌打ちしてしまう。
「華琳さま、これは……」
桂花の頬に、一滴の汗が流れて顎を伝うのが見えた。この子としても、予想外なのだろう。
「裏目に出たわね」
「本隊を丸ごと投入してくる可能性は考慮していましたが……ですがこれは恐らく、後詰の部隊も惜しまず、一兵残らず前線に押し出してきています」
「そうでしょうね……見ればよく分かるわ」
さっきまで拮抗していたように見えた前線が、目に見えて押されてきている。
兵の質で負けているとは思っていない。むしろ、こちらの方が上と断言してもいい。
しかしそれでも、だとしても、数は向こうの方が圧倒的に多いのだ。
そこに、顔良を討ったことによる逆上効果。士気の高さはこちらを大きく凌いでいるはず。
裏目も裏目だ。それもどん底の。
「一刀と私の不安は、見事に的中したということね……」
されとて、このまま敗北が許されるはずはない。
なすがままに相手の攻勢を受け入れ、敗北したとあっては、私だけじゃなく私に付いて来てくれた全ての将と民が笑いものになる。
「さて、私の愛しい桂花」
私は笑顔で言葉を投げかけた。
「策ならあります」
そしてすぐに、私の欲しい言葉をくれる。そうでなくては、この子がここにいる意味がない。
「聞くわ。失敗は許されない。一度しか機会はないわよ」
私の言葉に、桂花は一度喉を鳴らした後、しかし力強く頷いた。
◆ ◆ ◆
「一刀、これは……!」
「分かってる」
乱戦どころじゃない。
俺達は急激に増えた敵の数に飲み込まれ、一気に不利な戦いを演じることになった。
「見つけたぞ、北郷一刀! 関羽! 顔良さまの仇いいいぃぃぃぃッ!!!」
「鈍いな。それで我が主の首を取れるものか!」
向かってくる敵兵を、関羽は青龍偃月刀を持って薙ぎ倒していく。
「この現状……理解は出来ますが……ですが、どうしますか?」
僅かに出来た間断に、関羽が眉をしかめながら言う。
「最悪の結果になったよ……まさか、形振り構わず、文字通り全軍を投入してくるなんて」
後詰……だけじゃないだろうな。
補給部隊や、本来陣地を守るために残しておくような兵士すら投入してきているんじゃないか、これ。
「おおおおおおおおおおおおぉぉっ!! どうした貴様らぁ!! もっとだ、もっと掛かって来いッ!!」
春蘭が最前列で声を上げて味方を叱咤しながら、敵の大群に斬って掛かる。
一撃で数人、二撃目で数十人、吹き飛ばし、斬り殺し、撫で斬りにして。
「夏侯惇は奮戦しているが」
「ですが、このまま行けば囲まれてしまいます」
「…………くそっ」
関羽の言葉に、俺は唇を噛む。
春蘭は頑張ってくれている。でも、それだけだ。
見る見るこちらの鎧の色は少なくなっていっているし、森からはぐいぐいと押し込まれ、霞の軍は機動力はあるが、腰を落ち着けて戦うには軽すぎる。
「北郷殿」
「分かってるよ。分かってるけど……」
手を……打ちにくい。
下手に動けば、奮闘している春蘭達が食われた時に対処しきれない。
両翼は子供が見ても簡単に分かるくらい押されている。だから、俺達が下がると、早かれ遅かれ霞と秋蘭が挟み込まれる形になって食われる。
でも動かないと、俺達だって圧殺される。春蘭だって今でこそ奮闘と言えるが、恐らく長くは持たない。
「九死に一生を得るには……」
今のままじゃダメだ。
しかし、俺がここでどのような手を打っても、どこかが崩される。
そしてその1つでも崩されたら……俺達の敗北は、決定的なものになる。
「華佗、本隊の動きは?」
「見た感じ、密集陣形になっているようだが」
「密集……?」
この状況で?
考えられることは、俺達に合流して、散開……?
だが合流したところで、一緒に蹴散らされるのが目に見えているが……。
「関羽ううううううううううううううッ!!! どぉこだあああああああああああああああッ!!!!!」
「ッ!?」
「――っ」
「……これは」
俺は背筋が震え。
華佗は今までに無いぐらい表情を引き締め。
本人の関羽は、咆哮がした方角を向く。
迫るは、一頭の白い馬。
猛然と迫り来るそれに乗る文醜将軍は、竜巻のような風を巻き起こしながら関羽に斬りかかる。
「シッ――」
「んぐっ!?」
刹那の一合――馬の首が吹き飛び、文醜将軍は空中で回転しながら地面を擦りつつ着地し、こちらを睨み付けてくる。
「てっ、めぇっ……!!」
「まるで餓鬼だな。付き合いきれん」
そんな彼女に対し、関羽は目を細め、呆れた様子で嘆息する。
「てめぇが斗詩を殺したんだよなぁ!!」
「……文醜」
思わず、俺の口から彼女の名前が零れた。
泣き腫らしたのか、その瞳は真っ赤に充血していた。
顔には悲壮感と憤怒が入り混じり、真紅の瞳には関羽しか映し出していない。
昨日や、以前見た時とは印象が全然違う……鬼という言い分は、あながち間違いじゃないかもしれない。
「その名が顔良を指すのであれば、そうだ。我が主を手に掛けようとしたから、相応の報いを受けてもらった」
「…………あぁ、あぁ、そうかい!!」
大きな剣を振り上げもせずに――ノーモーションで関羽に肉薄する。
関羽はそれを容易くいなし、大きく体勢が崩れたところにカウンターを合わせた。
――――が。
「ナメてんじゃねぇぞぉッ!!!!」
上体が大きく反れたことにより浮かび上がった足の鎧で関羽の刃を受け止め、バク転の要領で地面に剣を突き刺すと、そのままぐるりと回って着地。
同時に足を踏み出し、地面ごと抉り出すように強引な力技でカウンターにカウンターを合わせてきた。
「っ……!?」
手の甲で剣の腹を叩いてしのぎ、しかし衝撃に押されて関羽が後退りする。
その際、関羽の腕からブシュッ――と、血飛沫が飛ぶ。
「関羽!?」
「問題ありません! ですが、北郷殿!!」
関羽が一瞬向けた視線の先。
そこから、敵弓兵からの大量の矢が放たれる。
「味方ごと……!?」
これだけの乱戦で、自分の味方の方が多いってのに!
大量の喪失感の点が、上空から隙間なく飛来してくる。
「俺じゃ無理か……! 華佗!」
「任せろ!」
華佗が地面に拳を突き出し、その衝撃で地面が抉れて盛り上がった土が空中に飛び散る。
その飛び散った土に巻き込まれ、矢は瞬く間に失速し、出来た隙間を俺は掻い潜って事なきを得た。
「どこ見てんだよ!!」
「味方ごとやる、その精神……断じて許容出来るものではない!」
鬼気迫る文醜の大剣を受け止めるが。
「あれが関羽だ! 槍を投げろ! ここで仕留めるぞ!!!」
「なにっ……!」
多くの槍兵がその声に反応して、文醜が居ることも構わず槍を投擲してくる。
必然的に、関羽は文醜の剣を跳ね除けて槍に対する回避行動を取らなければならない。
しかし同時にそれは、文醜に対する隙を晒すことになる。
「おせぇぞ、関羽!!」
「――――だから、どうした?」
だが――そこは関羽だ。
全ての槍に対応した後、更に文醜の攻撃を避けて、それどころか腹を蹴り飛ばし。
「ぐぉっ!!」
その上、自身は飛び上がって上空に打ち上げていた槍を掴むと、それを指示を飛ばした敵隊長に思い切り投げ飛ばし、首を貫通させて地面に突き刺した。
すかさず地面に接地――だが、ダメージなど気にならないのか、文醜は再び関羽との距離を詰め、2人は風を凪ぐような音と共に斬り合いを始まる。
「きっさま……!」
「お前の相手はあたい達だよ!!」
槍と、弓と。文醜の大剣と。
全てに対応するが、数の多さ、加えて――――。
「弓兵! 北郷一刀も逃がすな! あいつらが顔良さまを殺した奴らだッ!!!」
8人目だろうか。
相手を切り伏せた時に、そんな怒号が耳に響く。
「くそっ……!」
「関羽、俺なら大丈夫だ! 今は文醜を!」
華佗の防御で、空を埋め尽くすほどの矢を避けきる。
「ですが、この状況では……!」
「あたい達に集中しろおらぁ!!!」
「ぐっ!」
気が逸れた一瞬で、さっき関羽がやった時と同じように腹を蹴り飛ばされる。
「距離が離れている訳じゃない! まずは文醜を討ち取れ!」
何かあった場合、すぐに対応が利くはずだ。
それよりも、この鬼気……こんなものを生み出している元凶を先になんとかしないと、現状の打破がままならない。
「……このような、体たらくをっ!!」
武器を構えなおし、関羽が文醜との切り合いを再開する。
「みんな斗詩のことが大好きだったんだ! みんなが、斗詩に憧れてたんだ!!」
関羽は投げ飛ばされた槍を掴み上げ、長物2つを器用に扱って満月を描くように無数に飛来する投擲物、迫り来る兵士、肉薄する顔良に対処する。
「だから、斗詩を殺したお前をみんなで討ち取るって決めたんだ!!」
「自分の都合で、部下を鬼にするのか貴様は!」
「嫌ならやめりゃいいだろうが!! みんなお前を殺したいから、今ここにいるんだよッ!!!」
敵の悪意が。
「あれが関羽と北郷! 行くぞ、奴らを討ち取れぇッ!!」
敵の絶望が。
「顔良さまがいなくなった……俺達の希望が失われたんだ……あいつらのせいで!!」
敵の渇望が。
「こんな泥に塗れた戦いをしなきゃいけない……終わりだよ、俺らは! でもその前に、やんなきゃならないことがある!!」
俺と関羽に降りかかってくる。
「何日もいらねぇよ……今日だけで、関羽、北郷!! お前らはあたい達がぶった斬る!!!」
間断なく、息つく暇も無く、敵が噴水のように溢れてくる。
右に視線を動かせば、味方が槍で貫かれ。
左に視線を動かせば、味方が剣で引き裂かれ。
正面に視線を戻せば、味方が俺を守るために盾になり、弓に突き刺され倒れていく。
「一刀、押し込まれるぞ!」
急速に薄まる、自軍の気配。
でも……それでも、俺には退けない理由があった。
「……ダメだ、今退いたら、春蘭がやられる……!」
最前列で尋常じゃない返り血を浴びながら、今も果敢に激戦を繰り広げている姿が見える。
その周りには、これでもかというほどの敵兵の死体が転がり、春蘭の動きを阻害しているほどだ。
それ程までに敵の命を沈め、動きを塞ぎ、猛将の名に恥じない驚異的な戦果を叩き出している。
「手を休めるな! 華琳さまが必ず駆けつけてくれる! 己が力を信じて戦い抜けぃ!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――』
絶望的な戦力差。
それでも春蘭は怒声を上げる。
味方が奮起するも、相手の圧倒的な物量にその雄叫びはすぐに飲み込まれ、霧散した。
「今春蘭が倒れたら、色んな意味でおしまいだ……!」
俺の命も、魏の運命も……!
川の流れのように止まらない敵を滅茶苦茶に切り捨てながら、必死に打開策を考える。
華佗も同様に、俺の傍で無数に湧き出る敵兵を処理し続けていたが――――。
「だが、何かしら動かないと――――がはっ……!!」
「華佗っ!?」
華佗の、右の脇腹。
そこを、背中から正面に突き抜けるようにして、槍の刃が抜き出ていた。
「貴様ぁ!!」
華佗の後ろに居た敵兵を、俺は瞬く間に切り飛ばした。
同時に、華佗が吐血しながら膝を付く。
「華佗、大丈夫か!?」
「この程度、問題ないさ…………だが、いつまでも持たんぞ……!」
華佗が自分で槍を引き抜き、同じタイミングで鍼を刺して傷を治癒する。
怪我は一瞬で治ったが、出血まで補える訳じゃない。
「どっちにしろ、長居は出来ない……!」
俺も、華佗も、春蘭も。
そして、関羽も…………。
「おらおら! おらおらおらおらおらあぁぁぁ!!!」
「隙がない――このままでは……!!」
文醜と、敵兵と、投擲槍と、矢と。
4つの無限とも思える攻撃パターンに対応してはいるものの、反撃の手立てを見せれずにいる。
どうするんだ、華琳……。
このままじゃ、俺達は負けるぞ……!
「――北郷さま!!」
その時、馬に乗った3人の兵士が俺の傍にやってきた。
彼らが身に着けている鎧は一般兵よりも重厚で、雄々しく……何より絶大な信頼と安心があった。
「親衛隊……華琳が動いたのか!?」
2人の兵士が俺と華佗の前に出て、防御と攻撃を買って出る。
「は! 北郷さまは、こちらの作戦に合わせて動くようにと!」
そして残った1人が、俺に言伝を。
「打開出来るんだろうな、これを……」
春蘭も関羽も動けず、華佗は負傷。
部隊はグチャグチャのバラバラ。目も当てられないとはこのことだ。
「北郷さまが指示通りに動ければ、確実だと仰られてました!」
なのに……俺の不安まで読み越してか。さすがだよ、ほんと。
「……くそっ、やってやるさ! 教えろ! 俺は何をすればいい!?」
なら、俺はその期待に答えるだけだ!
「は! 曹操さまは――――」
続く
明朝の軍議。
まだ日が上る直前の、朝焼けも出てない時間。
「昨日の、顔良を討った手前。見事だったわよ、関羽」
「やるべきことをやっただけです」
一同が会し、昨日の戦果を再確認しつつ、今日の襲撃に備える。
「桂花」
「顔良を討ったことで、相手の指揮系統は乱れているはずです。ですが、袁紹は頭の回らない直情型の人間。出始めは何をしてくるのか分からないので、まずは相手の出方を見つつ対応していけばよいかと」
桂花の言うことは最もだ。
加えて、関羽がこちらにいるという事実も相手には知れ渡ったはず。一騎当千の将が増えたと分かれば……。
…………出方が、変わる、のか?
どうにもしっくり来ない。
前の世界を意識しすぎてるのかな……。
「なるほど。では、稟は戦局をどう見ているの?」
「桂花殿の仰る通り、相手の指揮能力は落ちているでしょうし、関羽殿が居るという利点も見せ付けられた。現在はとても順調に進んでいます。ですが、昨日は袁術の軍に手痛い一撃を貰いました。将軍を1人討ち取ったとはいえ、相手は未だこちらを多く上回る大軍。今一度森からの奇襲も考えられます」
「やられてからじゃ遅い。先の対処は必要ということね。風はどう?」
「…………」
風は俺の隣にいる。
というか、俺に寄りかかっている。
むしろ……。
「…………zzz」
「ねーるーなっ」
ぽこっと叩く。
「おぉっ」
「おはよう、風」
「時間が無いんだぞ。ほら、早く答えろ」
俺と華琳、2人から催促されて、飴を舐めつつ眠そうに目を擦る。
「あー……えーっとですねー。風は逆上されてなきゃいいなーなんて思ったりしているわけですよ」
「逆上?」
桂花が鸚鵡返しを。
……気になる言葉だな。
「頭に血が上って、ただ無闇に突撃を仕掛けてくるというのなら、これほどいなしやすいものはないと思うけど?」
「ですよねー。忘れてくださいー」
だが、すぐにその言葉を引っ込める。
逆上……顔良将軍を殺されたからか?
確かにそう思っているだろうが、仇討ちぐらいで軍を乱すようなことはしないはずだ。
そうなれば、こちらの思う壺。適当に引き込んで囲み、後はたこ殴りにすればいいだけだし。
そんな単調で分かりやすい結果を招くようなことをするはずは、ないと思うんだが……。
「伝令ッ!!」
1人の兵士が、慌てて割って入ってきた。
「どうした! 軍議中だぞ!」
「え、袁紹軍です! 袁紹軍の大軍が、こちらに向かってきています!!」
春蘭の言葉に、伝令がそう答える。
「こんな時間から? って、本当みたいね」
桂花が向けた視線の先。
昨日のような人為的なものじゃないが、行軍による砂塵が見える。
「華琳さま!」
春蘭が出撃の命を貰うべく、華琳の名前を呼んだ。
「…………」
が、華琳は腕を組み、右手を口元に当てて思考に耽っている。
「華琳さま、如何なされました?」
桂花の声にも反応せず……かと思えば。
「…………一刀」
で、呼ばれる。当然、みんなの視線は俺に。
「裏目に出ている、とは思いたくない。でも、さっきの風の言葉は心臓に悪かった」
「そうね」
華琳が厳しい表情を作る。
「一刀、あなたは関羽、華佗、春蘭を束ねて中央前線へいきなさい。最初から全力で受け止めず、ある程度様子を見て行動をすること」
「は!」
「了解」
春蘭と関羽がすぐに動き出す。
華佗は一度俺の肩に手を置いたので、俺はそれに頷いて返した。
そして、華佗もすぐに走っていく。
「秋蘭には凪達を付けるわ。昨日の失態、二度は許さない。意味は分かるわね?」
「御意! 行くぞ、お前達!」
「「「はい!!」」」
森側を、また秋蘭に任せるのか。
凪達が付いてくれるなら、大丈夫だと思うが……。
「霞には遊撃を担当してもらう。昨日は使えなかった、その機動力。当てにしているわよ」
「おっしゃ! ウチもようやく暴れられるわけやな! 任せとき!」
嬉々として馬の方へ。
「そいじゃ、お兄さんも前線で気張ってくるんですねー」
「そうなるね」
俺は桂花、稟、風の順に軍師の顔を見る。
「なによ?」
「懸念でも?」
「…………いや、なんでもない」
こびりつくような悪寒が拭えない。
この3人の意見……どれも正しく思えるが……。
◆ ◆ ◆
「来たか、一刀」
「悪い、遅れた。敵の動きは?」
俺は前線部隊の最後尾にたどり着く。そこには華佗、春蘭、関羽が俺の到着を待っていた。
俺の服装は血の汚れが抜けきっていない制服に、装備は紅桜1本のみ。命音は顔良将軍に破壊されてしまったから、使い物にならない。
「猪突猛進というやつだな。風の言う通り、見事に逆上しているわけだ」
春蘭にそれを言われるなんてね……。
「顔色がよくないな、一刀」
「……なんていうのかな」
その理由がよく分からないから困ってるんだ。
「何があっても、私がお守りします。信用がないかもしれませんが」
「次は離れないでくれればいいよ。俺も迂闊な指示はしない」
「……御意」
関羽が敵前線へと目を向ける。
「陣形は春蘭が最前。俺、関羽、華佗は中央に居る。敵の勢いが強そうだけど……まぁ、春蘭なら大丈夫だよな」
「当たり前だ! 誰に言っている! 関羽、貴様ばかりに良い思いはさせんからな!」
笑顔で高らかに宣言する。
こういう時、春蘭の純粋さには救われるな……。
「ご随意に。ただし、危なくなれば助けに入りますので」
「不要だ! 北郷、さっさと指示をしろ!」
「はいはい……」
……朝焼けが強くなってきた。
日の出に、あれだけの大軍を一斉に動かした意図……一体何がある?
■ ■ ■
「接敵したようです」
「そのようね」
一刀率いる中央部隊は、相手の攻撃をいなしつつ動いている。一番先には春蘭の影も見えたし……そう押されることはないはず。
つまり、分かりやすく行動されると、春蘭や関羽が待っていると相手は分かっているわけよね。
それでいて、あの作戦を取る理由……。
何故かしら。相手が麗羽だというのに、いらない不安ばかりが頭を駆け巡る。
「伝令!」
そうこう思案している私の元に、伝令がやってきた。
「なに?」
「森から敵軍が現れました! 数が多く、身動きが取れないと!」
「またか……」
見ると確かに、かなりの数を投入してきているようだ。よっぽど頭にきているのね、麗羽。
だけどこちらも、今度は凪達もついているし、士気も高い。やり返せるぐらいには仕上がっているはずだけど。
「それと、夏侯淵さまから、敵軍は袁紹軍だと伝えてほしいと……」
「…………なんですって?」
あれだけの大軍が、全て麗羽の? 袁術ではなくて?
「桂花」
「まさかとは思いますが、これは……」
「伝令!!」
再び、伝令がやってくる。
「言いなさい」
「は! 左翼から大軍が迫ってきていると! 張遼さまがその対処に向かわれました!」
「それは、袁紹の軍ね? 袁術ではなく」
「は……は、はい! 張遼さまから、伝えて欲しいと……」
「…………ちっ」
思わず、舌打ちしてしまう。
「華琳さま、これは……」
桂花の頬に、一滴の汗が流れて顎を伝うのが見えた。この子としても、予想外なのだろう。
「裏目に出たわね」
「本隊を丸ごと投入してくる可能性は考慮していましたが……ですがこれは恐らく、後詰の部隊も惜しまず、一兵残らず前線に押し出してきています」
「そうでしょうね……見ればよく分かるわ」
さっきまで拮抗していたように見えた前線が、目に見えて押されてきている。
兵の質で負けているとは思っていない。むしろ、こちらの方が上と断言してもいい。
しかしそれでも、だとしても、数は向こうの方が圧倒的に多いのだ。
そこに、顔良を討ったことによる逆上効果。士気の高さはこちらを大きく凌いでいるはず。
裏目も裏目だ。それもどん底の。
「一刀と私の不安は、見事に的中したということね……」
されとて、このまま敗北が許されるはずはない。
なすがままに相手の攻勢を受け入れ、敗北したとあっては、私だけじゃなく私に付いて来てくれた全ての将と民が笑いものになる。
「さて、私の愛しい桂花」
私は笑顔で言葉を投げかけた。
「策ならあります」
そしてすぐに、私の欲しい言葉をくれる。そうでなくては、この子がここにいる意味がない。
「聞くわ。失敗は許されない。一度しか機会はないわよ」
私の言葉に、桂花は一度喉を鳴らした後、しかし力強く頷いた。
◆ ◆ ◆
「一刀、これは……!」
「分かってる」
乱戦どころじゃない。
俺達は急激に増えた敵の数に飲み込まれ、一気に不利な戦いを演じることになった。
「見つけたぞ、北郷一刀! 関羽! 顔良さまの仇いいいぃぃぃぃッ!!!」
「鈍いな。それで我が主の首を取れるものか!」
向かってくる敵兵を、関羽は青龍偃月刀を持って薙ぎ倒していく。
「この現状……理解は出来ますが……ですが、どうしますか?」
僅かに出来た間断に、関羽が眉をしかめながら言う。
「最悪の結果になったよ……まさか、形振り構わず、文字通り全軍を投入してくるなんて」
後詰……だけじゃないだろうな。
補給部隊や、本来陣地を守るために残しておくような兵士すら投入してきているんじゃないか、これ。
「おおおおおおおおおおおおぉぉっ!! どうした貴様らぁ!! もっとだ、もっと掛かって来いッ!!」
春蘭が最前列で声を上げて味方を叱咤しながら、敵の大群に斬って掛かる。
一撃で数人、二撃目で数十人、吹き飛ばし、斬り殺し、撫で斬りにして。
「夏侯惇は奮戦しているが」
「ですが、このまま行けば囲まれてしまいます」
「…………くそっ」
関羽の言葉に、俺は唇を噛む。
春蘭は頑張ってくれている。でも、それだけだ。
見る見るこちらの鎧の色は少なくなっていっているし、森からはぐいぐいと押し込まれ、霞の軍は機動力はあるが、腰を落ち着けて戦うには軽すぎる。
「北郷殿」
「分かってるよ。分かってるけど……」
手を……打ちにくい。
下手に動けば、奮闘している春蘭達が食われた時に対処しきれない。
両翼は子供が見ても簡単に分かるくらい押されている。だから、俺達が下がると、早かれ遅かれ霞と秋蘭が挟み込まれる形になって食われる。
でも動かないと、俺達だって圧殺される。春蘭だって今でこそ奮闘と言えるが、恐らく長くは持たない。
「九死に一生を得るには……」
今のままじゃダメだ。
しかし、俺がここでどのような手を打っても、どこかが崩される。
そしてその1つでも崩されたら……俺達の敗北は、決定的なものになる。
「華佗、本隊の動きは?」
「見た感じ、密集陣形になっているようだが」
「密集……?」
この状況で?
考えられることは、俺達に合流して、散開……?
だが合流したところで、一緒に蹴散らされるのが目に見えているが……。
「関羽ううううううううううううううッ!!! どぉこだあああああああああああああああッ!!!!!」
「ッ!?」
「――っ」
「……これは」
俺は背筋が震え。
華佗は今までに無いぐらい表情を引き締め。
本人の関羽は、咆哮がした方角を向く。
迫るは、一頭の白い馬。
猛然と迫り来るそれに乗る文醜将軍は、竜巻のような風を巻き起こしながら関羽に斬りかかる。
「シッ――」
「んぐっ!?」
刹那の一合――馬の首が吹き飛び、文醜将軍は空中で回転しながら地面を擦りつつ着地し、こちらを睨み付けてくる。
「てっ、めぇっ……!!」
「まるで餓鬼だな。付き合いきれん」
そんな彼女に対し、関羽は目を細め、呆れた様子で嘆息する。
「てめぇが斗詩を殺したんだよなぁ!!」
「……文醜」
思わず、俺の口から彼女の名前が零れた。
泣き腫らしたのか、その瞳は真っ赤に充血していた。
顔には悲壮感と憤怒が入り混じり、真紅の瞳には関羽しか映し出していない。
昨日や、以前見た時とは印象が全然違う……鬼という言い分は、あながち間違いじゃないかもしれない。
「その名が顔良を指すのであれば、そうだ。我が主を手に掛けようとしたから、相応の報いを受けてもらった」
「…………あぁ、あぁ、そうかい!!」
大きな剣を振り上げもせずに――ノーモーションで関羽に肉薄する。
関羽はそれを容易くいなし、大きく体勢が崩れたところにカウンターを合わせた。
――――が。
「ナメてんじゃねぇぞぉッ!!!!」
上体が大きく反れたことにより浮かび上がった足の鎧で関羽の刃を受け止め、バク転の要領で地面に剣を突き刺すと、そのままぐるりと回って着地。
同時に足を踏み出し、地面ごと抉り出すように強引な力技でカウンターにカウンターを合わせてきた。
「っ……!?」
手の甲で剣の腹を叩いてしのぎ、しかし衝撃に押されて関羽が後退りする。
その際、関羽の腕からブシュッ――と、血飛沫が飛ぶ。
「関羽!?」
「問題ありません! ですが、北郷殿!!」
関羽が一瞬向けた視線の先。
そこから、敵弓兵からの大量の矢が放たれる。
「味方ごと……!?」
これだけの乱戦で、自分の味方の方が多いってのに!
大量の喪失感の点が、上空から隙間なく飛来してくる。
「俺じゃ無理か……! 華佗!」
「任せろ!」
華佗が地面に拳を突き出し、その衝撃で地面が抉れて盛り上がった土が空中に飛び散る。
その飛び散った土に巻き込まれ、矢は瞬く間に失速し、出来た隙間を俺は掻い潜って事なきを得た。
「どこ見てんだよ!!」
「味方ごとやる、その精神……断じて許容出来るものではない!」
鬼気迫る文醜の大剣を受け止めるが。
「あれが関羽だ! 槍を投げろ! ここで仕留めるぞ!!!」
「なにっ……!」
多くの槍兵がその声に反応して、文醜が居ることも構わず槍を投擲してくる。
必然的に、関羽は文醜の剣を跳ね除けて槍に対する回避行動を取らなければならない。
しかし同時にそれは、文醜に対する隙を晒すことになる。
「おせぇぞ、関羽!!」
「――――だから、どうした?」
だが――そこは関羽だ。
全ての槍に対応した後、更に文醜の攻撃を避けて、それどころか腹を蹴り飛ばし。
「ぐぉっ!!」
その上、自身は飛び上がって上空に打ち上げていた槍を掴むと、それを指示を飛ばした敵隊長に思い切り投げ飛ばし、首を貫通させて地面に突き刺した。
すかさず地面に接地――だが、ダメージなど気にならないのか、文醜は再び関羽との距離を詰め、2人は風を凪ぐような音と共に斬り合いを始まる。
「きっさま……!」
「お前の相手はあたい達だよ!!」
槍と、弓と。文醜の大剣と。
全てに対応するが、数の多さ、加えて――――。
「弓兵! 北郷一刀も逃がすな! あいつらが顔良さまを殺した奴らだッ!!!」
8人目だろうか。
相手を切り伏せた時に、そんな怒号が耳に響く。
「くそっ……!」
「関羽、俺なら大丈夫だ! 今は文醜を!」
華佗の防御で、空を埋め尽くすほどの矢を避けきる。
「ですが、この状況では……!」
「あたい達に集中しろおらぁ!!!」
「ぐっ!」
気が逸れた一瞬で、さっき関羽がやった時と同じように腹を蹴り飛ばされる。
「距離が離れている訳じゃない! まずは文醜を討ち取れ!」
何かあった場合、すぐに対応が利くはずだ。
それよりも、この鬼気……こんなものを生み出している元凶を先になんとかしないと、現状の打破がままならない。
「……このような、体たらくをっ!!」
武器を構えなおし、関羽が文醜との切り合いを再開する。
「みんな斗詩のことが大好きだったんだ! みんなが、斗詩に憧れてたんだ!!」
関羽は投げ飛ばされた槍を掴み上げ、長物2つを器用に扱って満月を描くように無数に飛来する投擲物、迫り来る兵士、肉薄する顔良に対処する。
「だから、斗詩を殺したお前をみんなで討ち取るって決めたんだ!!」
「自分の都合で、部下を鬼にするのか貴様は!」
「嫌ならやめりゃいいだろうが!! みんなお前を殺したいから、今ここにいるんだよッ!!!」
敵の悪意が。
「あれが関羽と北郷! 行くぞ、奴らを討ち取れぇッ!!」
敵の絶望が。
「顔良さまがいなくなった……俺達の希望が失われたんだ……あいつらのせいで!!」
敵の渇望が。
「こんな泥に塗れた戦いをしなきゃいけない……終わりだよ、俺らは! でもその前に、やんなきゃならないことがある!!」
俺と関羽に降りかかってくる。
「何日もいらねぇよ……今日だけで、関羽、北郷!! お前らはあたい達がぶった斬る!!!」
間断なく、息つく暇も無く、敵が噴水のように溢れてくる。
右に視線を動かせば、味方が槍で貫かれ。
左に視線を動かせば、味方が剣で引き裂かれ。
正面に視線を戻せば、味方が俺を守るために盾になり、弓に突き刺され倒れていく。
「一刀、押し込まれるぞ!」
急速に薄まる、自軍の気配。
でも……それでも、俺には退けない理由があった。
「……ダメだ、今退いたら、春蘭がやられる……!」
最前列で尋常じゃない返り血を浴びながら、今も果敢に激戦を繰り広げている姿が見える。
その周りには、これでもかというほどの敵兵の死体が転がり、春蘭の動きを阻害しているほどだ。
それ程までに敵の命を沈め、動きを塞ぎ、猛将の名に恥じない驚異的な戦果を叩き出している。
「手を休めるな! 華琳さまが必ず駆けつけてくれる! 己が力を信じて戦い抜けぃ!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――』
絶望的な戦力差。
それでも春蘭は怒声を上げる。
味方が奮起するも、相手の圧倒的な物量にその雄叫びはすぐに飲み込まれ、霧散した。
「今春蘭が倒れたら、色んな意味でおしまいだ……!」
俺の命も、魏の運命も……!
川の流れのように止まらない敵を滅茶苦茶に切り捨てながら、必死に打開策を考える。
華佗も同様に、俺の傍で無数に湧き出る敵兵を処理し続けていたが――――。
「だが、何かしら動かないと――――がはっ……!!」
「華佗っ!?」
華佗の、右の脇腹。
そこを、背中から正面に突き抜けるようにして、槍の刃が抜き出ていた。
「貴様ぁ!!」
華佗の後ろに居た敵兵を、俺は瞬く間に切り飛ばした。
同時に、華佗が吐血しながら膝を付く。
「華佗、大丈夫か!?」
「この程度、問題ないさ…………だが、いつまでも持たんぞ……!」
華佗が自分で槍を引き抜き、同じタイミングで鍼を刺して傷を治癒する。
怪我は一瞬で治ったが、出血まで補える訳じゃない。
「どっちにしろ、長居は出来ない……!」
俺も、華佗も、春蘭も。
そして、関羽も…………。
「おらおら! おらおらおらおらおらあぁぁぁ!!!」
「隙がない――このままでは……!!」
文醜と、敵兵と、投擲槍と、矢と。
4つの無限とも思える攻撃パターンに対応してはいるものの、反撃の手立てを見せれずにいる。
どうするんだ、華琳……。
このままじゃ、俺達は負けるぞ……!
「――北郷さま!!」
その時、馬に乗った3人の兵士が俺の傍にやってきた。
彼らが身に着けている鎧は一般兵よりも重厚で、雄々しく……何より絶大な信頼と安心があった。
「親衛隊……華琳が動いたのか!?」
2人の兵士が俺と華佗の前に出て、防御と攻撃を買って出る。
「は! 北郷さまは、こちらの作戦に合わせて動くようにと!」
そして残った1人が、俺に言伝を。
「打開出来るんだろうな、これを……」
春蘭も関羽も動けず、華佗は負傷。
部隊はグチャグチャのバラバラ。目も当てられないとはこのことだ。
「北郷さまが指示通りに動ければ、確実だと仰られてました!」
なのに……俺の不安まで読み越してか。さすがだよ、ほんと。
「……くそっ、やってやるさ! 教えろ! 俺は何をすればいい!?」
なら、俺はその期待に答えるだけだ!
「は! 曹操さまは――――」
続く
category: あの想(分割版)
あの想いと共に 第41話 その1
2012/05/11 Fri. 02:30 [edit]
あの想いと共に
第41話 その1
※一刀視点と、華琳視点が入っている話です※
第41話 その1
※一刀視点と、華琳視点が入っている話です※
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懸念……と、いうか。
俺は気にかかることがあった。
それは……袁紹、文醜、顔良の3人のことだ。
俺が大きな喪失感を感じたのは、秋蘭のあの一件から。
それ以前は……あったのかもしれないが、記憶には残っていない。
少しずつの積み重ねが、俺を消滅させるに至ったのか。
それとも要所要所、必要なところを邪魔したからなのか。
どちらが正解なのかは分からないけれど。
ただ……あの時。
顔良将軍が関羽に討たれた、あの時。
俺は確かに、喪失感を覚えた。
それは同時に、顔良将軍の生存は、俺の生存にも繋がっていた――ということにもなる。
ただし、全く同じタイミングで、魏の誰かが危険な目にあっていた可能性も否定出来ないが……。
「一刀、いる?」
華琳の声が聞こえる。
「……いるよ」
俺は一度思考を中断して、そう返事をした。
「じゃあ、入るわよ」
俺の天幕の中に、華琳が入ってくる。
そして、寝転がっている俺の横にきて、音を立てずにそっと女の子座りをした。
「怪我の調子はどう?」
「見ての通りだよ」
今日の昼の一戦。
顔良将軍に手痛い一発を貰ったが、俺は華佗の医術でなんとか事なきを得た。
ただそれでも大量に出血はしたし、服も血でべとべと。
怪我は殆どが一瞬で治ったが、大事には大事をってことで、今は身体に包帯を巻いてその上に薄着を一枚着ているぐらいだ。
「本当に? 顔良の一撃をまともに食らったって聞いたわよ?」
「そうだけど……というか、そうなんだ? 見ていたなら助けに入ってくれても良かったのに……」
「情けないことを言わないでちょうだい。あなたは関羽や華佗を従えているのだから、部下からは顔良ぐらい相手に出来て当然だと思われているわ」
「マジで……それはきついな」
部下は部下、上司は上司だと割り切ってほしい。
「それで、どうなの?」
「見ての通りだって……華佗にすぐに治してもらったから、怪我も殆どないよ。明日からすぐに戦線に復帰出来る」
同じことを聞かれたので、同じことを。信用がないってよりは、再確認を込めてだろうか。
「……すぐに?」
だが、華琳が怪訝な表情を作る。
「うん。どうかした?」
「他の兵士も華佗に見せているけど、すぐに快復したことなんて一度もないわよ?」
「あぁ、そうなんだ」
やっぱ手を抜いているんだな。治療するのもそれなりに疲れるみたいだし。
「そうなんだって、あなたね……」
華琳が露骨に嘆息した。気持ちは分かるが。
「いざ俺に何かあったら、治療する余力を残しておきたいんだと思う。力の配分をしているだけだと思うけど」
「…………はぁ」
また嘆息。
「そういう条件だったとはいえ、こうも露骨にやられると気分が悪いわ」
「伝えておくよ。善処はさせる」
「徹底させるとは言ってくれないのね」
「華佗は俺の部下であり相棒だから。無理強いは出来ないよ」
「あっそ……」
なんでそこでふて腐れるのか。
「それで、話はそれだけじゃないだろ?」
「そうね。本題がもう1つ」
なんだろうか。
「顔良を討ち取ったこと、見事だったわ。相手の策に引っかかったのは褒められたものではないけれど、これで帳消しね」
「……………………」
止めていた思考が、僅かに空転した。
「一刀?」
「……なんとなく、傷が痛んだ気がしたんだよ」
「運ばれてきたあなたの状態を見れば、察しがつくわ」
怪我はほぼ完治していたにしろ、状態はぼろぼろだったもんな。
「実際、あなたが顔良に討たれたと聞いた時は、耳を疑ったのよ」
「心配してくれた?」
「馬鹿な物言いはやめなさい……当たり前でしょ」
華琳の手が、俺の頭に触れ、流れるように額に、顎へ、胸へと滑って。
「…………」
「……華琳?」
慈しむように俺の胸をなでながら、黙ってしまった華琳。
しばらくそんな時間が続いたかと思えば、ふと口を開くと。
「最前線に行き、自身が重傷になってでも関羽を使って、顔良を討った。役目は十分に果たしたわ」
「……そうだね」
「個人的に、一刀には武よりも知の方を期待したいの。華佗だってそうよ」
「言いたいことは分かるよ」
「だから……私の一存で、あなた達を本隊に下げることも出来るわ。春蘭も関羽に負けじと、もっと前に出たいと言っているしね。どうしたい?」
「そうだなぁ……」
どうしようか。
目的……という意味では、果たせた訳なんだけど。
「……いや、もう少し前にいるよ。関羽も納得しなさそうだし」
「らしくない物言いね」
「関羽のことを気にしすぎてるって意見なら、ご尤もだよ。ただ……気になることもあるから」
「気になるって、何がよ?」
それは勿論、顔良将軍がいなくなったことによる、袁紹側の動きなんだが……これはそのまま言っても大丈夫か。
「顔良将軍を討ったからさ……この後、袁紹がどういう動きをしてくるのか分からないのが、不安なんだ」
「……同じことを考えていたのね」
「華琳も?」
「そうよ。顔良は良い意味でも悪い意味でも、麗羽のところで機能していたから。それが抜けた今、相手の行動が読みにくくなったわ」
「……悪いことしちゃったのかな」
「あなたがそんな調子じゃ、討たれた顔良は浮かばれないわよ。相手の指揮能力は間違いなく下がったのだから、胸を張りなさい」
指揮官が1人いなくなったんだしな……そりゃそうだろうけど。
「でも、なんでだろうね」
「?」
華琳が可愛らしく首を傾げる。
「こう……言いようのない、不安があるんだけど」
「あら、本当に似た者同士ね、私達は」
「華琳もそう思う?」
嬉しそうな笑みを浮かべてくれたので、俺も同じように返す。
「えぇ。そういう意味では、同じような不安要素であるあなたには後ろに居て欲しいのだけれど」
「同じような不安だから、俺と関羽と華佗が当たるよ。何か事故があった場合、対処しやすい」
「……はぁ、本当に厄介ね。関羽と華佗が自由に動かせれば、もっとやりやすくなるのに」
「そこは俺の人徳を褒めてもらいたいな」
「何が人徳よ。全く……無理する前に、私には報告しなさいよ」
「勿論、相談するよ」
胸に置かれたままだった華琳の手を握って言う。
「ならいいわ。その言葉、信じるわよ」
「華琳こそ、無理はしないでくれよ。総大将が倒れたら元も子もない」
「どの口が言うのかしらね、ほんと……」
俺の手を両手で包み込んで……一撫でした後、立ち上がる。
「戻るわ。明朝に軍議があるから、参加しなさい」
「了解」
一度満面の笑みを見せた後、華琳は天幕から出て行った。
…………。
………………そして、体感時間で5分程経ったのを確認してから、俺は上着を一枚羽織って立ち上がる。
華琳か、もしくは文句を言いながら桂花辺りが来るとは思っていた。
華琳本人が来てくれたのは、かなり嬉しかったが……今はその喜びを抑えて、やらなければならないことがある。
◆ ◆ ◆
「来たか、一刀」
「あぁ」
俺は華佗の天幕にやってきた。
医療品などが多く詰まれた袋が幾つもあるが、どれも華佗が華琳に我侭を言って用意させたものだ。華琳に申請したのは俺だけど。
だから、この天幕は華佗専用になっている。
そんな華佗の天幕に…………。
「あの子は?」
「奥だよ」
一列に並んでいる袋。
その奥に、隠されたように横たわっている、1人の女性。
「…………バレてないよな?」
「一応な。布に巻いて、自軍の死体だと言って連れてきたから」
寝転がっているのは……顔良将軍だ。
鎧は外して持ってきたので、今は衣服一枚。右肩から斜めに横断するように入った亀裂と、腹部に刺された剣の跡が痛々しい。
「息は……」
俺は、顔良将軍の口元に手を当てる。
すると………………。
「…………すー………………すー…………」
僅かだが、呼吸が返ってくる。
「……ふぅ」
俺は顔良将軍からは離れて、華佗の対面に座った。
「水だ」
「ありがと」
出された水の入ったお椀を持って、一口で飲みきる。
「っ……ふぅ」
冷たい水が喉を通る。かなり乾いていたのか、喉を通る感触に快感を覚えた。
「緊張しすぎじゃないか?」
俺が天幕の中を見回す仕草を取った。
華佗が首を横に振る。どうやら、周りには誰もいないようだ。
「……するよ。相手の将軍の死体を、隠して持ってきたともなれば」
でも小声で言う。
「間一髪だった……ということかな?」
「そうなるのかな」
あの後……俺達が取った行動は、こうだ。
◆ ◆ ◆
「か……はっ……」
俺の視線の先を見て――華佗が、俺の言わんとしていることに気付いた。
「ちっ、悪い方に的中か!」
華佗がまず、顔良の元に走る。
「華佗っ!? お前、何を考えているッ!?」
「話は後だ!!」
鍼を3本取り出すと、華佗は何かを念じて――その鍼を全て、顔良将軍に突き刺した。
途端に眩い光を上げたかと思うと、すぐにその光は収まる。
同時に――――。
「くっ…………はぁっ、あ……あっ…………」
喪失感が少しずつ、引いていく。
「待たせた、一刀!」
「華佗、お前……まさか」
「治すぞ!」
関羽の言葉は無視して、俺の身体に鍼を2本刺す。
すると、俺の身体が発光して…………次の瞬間には、痛みなんて完全に消えてなくなっていた。
「ぐっ……つぅっ」
擦り傷やら切り傷など細かい傷は残っていたが……立ち上がって、状態の確認をしてみる。
「ほ、北郷殿……大丈夫なのですか?」
関羽が心配そうに俺の顔を見上げてくるが…………。
「……あぁ、大丈夫」
腕を回したり、肝心の腰を回したり、背中を反ってみたり。
「何も問題ない。ありがとう、華佗」
「礼は必要ない。それより……」
華佗の視線が、関羽に移る。
「それは論外だ。とにかく、この砂塵が晴れる前に、ある程度工作しないと……」
「分かった、それは俺に任せておけ。一刀は……」
「こっちはこっちで何とかする」
「あぁ」
華佗は新たに鍼を一本取り出して……それを地面に投げつける。
「くっ!」
「まぶし……」
思わず、目を覆うほどの閃光。
――数秒の後、目を開けると。
「……行ったか」
「本陣の方に戻ったようですが」
見ると、顔良将軍の武器と鎧、関羽が刺した剣が置いてあるだけで、中身が無くなっていた。華佗が持っていったんだ。
「…………」
関羽がじーーっとこちらを見ている。
「…………言いたいことがありそうだね」
それも、かなり怪しんでいる。
「曹操の命令とは思えませんが」
「俺の独断だ。出来れば誰にも言わないで欲しいけど」
「それは構いませんが……」
関羽が俺の前に立ったかと思うと、自分のマントを掴んで外し、それを野球のピッチャーのように振りかぶって、地面に叩きつけるように振るう。
すると、マントに穴が……というより、矢が7、8本絡まっていた。
「狙われていたのか」
「戦場ですよ、何を言っているんですか」
喪失感を覚えなかったし……関羽が助けてくれることが見込まれていたからかね。
「…………ん?」
…………それはそれで、何かおかしい気がするんだが。
「話は後で聞かせてもらいます。今は、あなたの守護を全力で」
「頼むよ。出来れば、俺からはもう離れないでくれ。死ぬほど痛かった」
「……えぇ、本当に。自分の未熟さを呪うばかりです」
◆ ◆ ◆
それから1時間もしないうちに、敵軍は引き上げていった。
その間、関羽は俺の傍から決して離れることなく、あくまでもこちらを狙う相手だけを迅速に処理し続けた。
結果、初日の戦は勝利を収めて戻ってきたんだが……。
「これからどうするか」
華佗が少しやつれ気味に言う。
かくいう俺だって、迷っている。
あのままじゃ、俺がどうなっていたのか分からない。だから、この戦いが始まる前に華佗にそう指示したのは確かだ。
事前の打ち合わせのパターン……その内の1つになったのは、喜ぶべきか憂慮するべきか。
「彼女の存在は、バラしちゃいけない……かといって、いつまでもこのままってのはまずい」
「それはそうだが……程昱に知恵を借りるか?」
「…………」
それはそれでどうだろうか?
風に力を借りる……有りと言えば、有りだが……。
「少し論点を変えるか。前の世界だとどうだったんだ?」
眉間に皺を寄せて黙りこくる俺に気を使ってか、そんなことを。
「……彼女達については、よく分からないんだ」
最終決戦の時、桃香のところに居たって話は聞いてないし……。
魏にいるはずもないから、在野で何かしていたんだと思うが……。
「だとしたら、本当に手詰まりか」
「最初から切り札を使わされた感じだよ。関羽にも説明しないといけないし……」
風にはある程度ごまかしが聞くが、関羽には現場を抑えられてるしな……。
「それこそ、どう説明する? 明朝には軍議があるんだろ?」
「そうだね。それまでにはなんとか……しなきゃならないよなぁ」
頭が痛い。
打ち合わせ通りとはいえ、最悪の部類に入るパターンに入ったのは言うまでもないのだ。
「まずは関羽、その後に――」
「しっ――」
華佗が口元に人差し指を1本立てる。
「……どうした?」
「誰かが近づいてくる」
小声でのやり取り。
すると――――ざっ、ざっ――――と、足音が近づいてくる。
華佗の能力の高さには本当に助けられているが……誰だ? こんな時間に。
「ちわー、飴玉配布しにきやしたー」
「…………」
「…………」
間の抜けた、声。
張り詰めた空気が、一瞬で萎んでいく。
「入れ、風」
「あいあーい」
ごそごそと入ってきたのは風だ。
「おぉ? 敵に討たれたお兄さんがいる。これは一体どういうことなんでしょうかー」
「地獄から戻ってきたよ。で、何しに来た?」
てとてとと歩いてくると、俺の隣にちょこんと座る。
「いやー、仲間外れにされている空気を感じまして」
「何故分かった」
「そこで一切合財隠さず言うお兄さんは最高ですよー、ほんとーにもー」
「だろ? じゃあ、次にどうするべきかは分かるよな?」
「あいあい。じゃあですねー」
風が右手を上げて、華佗の後ろを指差した。
「それの説明貰ってからでもいーですか?」
で、少しだけ口角を上げる。
「…………」
俺が華佗を見ると、首を横に振る。
見られてないなら、何故知っている……?
「何を指差しているのか、聞いていいか?」
「死体に興奮でもするんですか?」
確定、だ。
こいつは顔良将軍を拾ってきたのを知っている。
「生きてるよ。華佗の力を使った」
「ほほー。なるほどなるほど」
「だが、どうして程昱は知っている? 誰かに見られた覚えたはないが」
「と言われましても。風は華佗さんが味方の死体を運んできたって、兵士から話を聞いただけですよ」
「…………それだけ?」
「それだけです。後は華佗さんがしばらく閉じこもっていたのと、お兄さんがぼこぼこにされたことと、関羽さんがいつもとは違う感じで渋い顔してたのと」
「状況判断でか」
「状況判断でです」
……侮っていたわけじゃないが、まだどこかで風の能力の高さを舐めてたな、俺は。
「先に言うと、そうしないと俺が死んでいた。だから、そうしたんだ」
なら、もう包み隠さず言って新たな釘を刺し込んでおくしかない。
「ふーん。そですか」
「相変わらず興味なさそうだな」
「あー、興味ならバリバリありますよー。だけど、肝心の興味持てそうな部分を教えてくれてないじゃないですかー」
ぺちぺちと地面を叩きながら抗議される。
「それもそうだった」
「じゃあ、教えてくださいよ」
「うーん……」
まだ教えるつもりは……正直なところ、ない。
無いんだが、ここで理由を教えないってのは後々不利になりそうな予感がするんだよな……。
「…………じゃあ、1つだけな」
「おぉっ」
「何で驚くのさ……意外か?」
「意外です。自分で言っててアレですが」
「とことん素直だな、程昱は」
素直だけど、分かりにくい物言いは勘弁して欲しいところなんだがな。
「で、なんですか?」
少し身を乗り出して、僅かに目を輝かせて。
そんな風に、俺は少しだけ視線を動かして上を見た後、こう言った。
「俺が生き残る条件として……生きたままじゃなきゃといけない人間ってのが、存在する」
「…………生き残ったまま、ですか?」
なにそれ? って感じに首をひょこっと動かして。
「例えば、華琳や……風もそうだよ。他にも何人も居るが……」
「……それが、そこのそれに引っかかっていたってことですかー」
「そうなる」
「じゃあ仮に、そのままの状態になっていたらどうなっていたんですか?」
「俺も同じになってたよ。そういう結果になるってことは定義付けられている」
「どうして?」
「どうしても」
「むむー……またそれですか」
過程を説明せず、結果だけを押し付けてるからな。
といっても、この過程は俺も知らないんだが。
「一刀の状態は持ち直したが、目下の問題は現状だろ。程昱、せっかく来たんだし何か策はないのか?」
「呼ぶつもりなかった人に頼るとか、どういう了見ですか」
「一応、これでも気を使ったんだよ」
勿論嘘だけど。
俺の言葉に、風が一瞬だけ鋭い視線をこちらに向けた。バレてるっぽいなこれ。
「はぁ~あ……先に状況整理したいですねー。関羽さんは?」
やる気なさそうに話を続ける。
「蘇生したところを見られた」
「あららー。じゃあもう崖っぷちじゃないですかー」
「適当な嘘で丸め込むつもりだ。それが成功した場合と、失敗した場合。両方に保険が欲しいな」
「うーむ。そですねー」
手の中で飴をくるくる回しながら、少し考え込んで。
「説得が失敗した場合っていう状況は、関羽さんがそれのことを隠さない、全部華琳さまに話す! とか言い出して聞かない場合ですよね」
「そうだね」
「じゃあ、それはまずあり得ないので置いとくとして」
「どうして断言できるんだ? 俺が言うのもなんだが、あいつはかなり真面目な奴に見えるぞ」
華佗が新しく水を椀に汲んで、俺と風の前に出す。
「だってその場合、魏にとっては旨味があるかもしれませんが、劉備さんの意思としては反することになっちゃいますし」
「よく分からんが」
華佗が頭の上に?マークを浮かべているのが分かる。
「あー……あれですよ。関羽さんにとっては、お兄さんの安全が第一ではあるんですが、同時に機嫌も損ねちゃーダメなんですよ。こいつ碌なことしなかったんだぜー、なんて劉備さんに告げ口されたら、それこそ劉備さんも関羽さんも色々と困っちゃいます」
「あぁ、そう言われれば分かるな。義理を果たすのが一番か」
「そですそです。そんな感じです。加えて、関羽さんは見た感じ劉備さん大好きっ子なので、よっぽど自分の信義に反しない限りは大体のことを許容してくれるはずです」
「顔良の件で、また一刀に新しく負い目が出来たしな」
「頭が下がるよ、ほんと……」
風の人間観察能力にもな。
「だからまぁ……成功したら別にそれはそれでいいですし。もし「やだ!」って言い出したら、じゃあ劉備さんにないこと話まくるねって言えば終わりますし」
「それ込みで、抵抗された場合は?」
「ここは魏ですからねー。おまけに戦中ですし。1人で敵陣に突っ込んで貰えばいいんじゃないですか。援護とか必要ないですよ」
「……分かりやすいな」
さすがにそこまで愚かなことはしないか。
「それにですけど……関羽さんはなんだかんだで、お兄さんのことを信用してるっぽいですしねー」
「そうなのか? 一刀」
「…………んー」
なんともコメントに困る。
「この反応が答えってやつですよー。種馬の本領がぽこぽこと発揮されてますねー」
それを見て笑われた。こういう展開になると、どう答えていいのやら。
「俺を……じゃなく、劉備が俺に一定の信頼を置いているみたいだ。だから、それと繋がって自分も信用できる……ってところかな」
そう言っていたし、それを鵜呑みにするしかない。
「良い傾向じゃないか。仕込みは上手くいっている」
華佗が笑顔で頷いて。
「結果が全てだからね」
俺はそれに同意して。
「それを聞いて、風はどういう反応をすればいいんですか」
風が眉をしかめて。
三者三様の歪な付き合いは続く。
◆ ◆ ◆
「関羽」
大よその打ち合わせを終えた俺は、2人と別れると関羽を探して陣地内を歩き回っていた。
10分ぐらい探し続けて、同じ部隊の兵士と共に武器の手入れをしている関羽を見つける。
「隊長! お怪我は大丈夫ですか?」
「ん、見ての通り。たいしたことないよ」
「おぉ、そうなのですか。見た目が酷かったので、てっきり……」
「吹っ飛ばされ方が間抜けだったってだけで、致命傷にはなってないさ」
「それは良かったです。次こそは、隊長に怪我などさせず、我々が守り通します!」
「心配してくれてありがと。あまり気負わずにな」
兵士の面々から話しかけられたので、それぞれ適当に返しておく。
で……だ。
「関羽」
「……分かっています」
青龍偃月刀の手入れをしていた手を止めて、しかし武器を持ったままこちらに寄ってくる。
「先程の?」
「うん。ちょっと関羽を借りるよ」
笑顔で「どうぞどうぞ」と言う兵士達に挨拶をして、俺は関羽を連れ添って陣地内でも人気のないところまで行く。
「そうやって月明かりに反射する武器を見ると、人気もないし物騒だな」
「では、持ってこなかった方がよろしかったですか?」
「……いや、どっちでもいいんだけどね」
気の利かない雑談はこれぐらいにしておいてだ。
「何から話そうか?」
と言うと。
「何から聞けばよろしいのですか?」
少し目を見開いて、そう返してくる。
「逆に困るな、そんな風に言われると」
「好きなように仰ってくれれば、それで良いのですが……」
「…………んん?」
なーんか、予想と違うっていうか。
…………風の言った通りか? これ。
「気にならないのか? 俺の行動が」
「別段、特には」
強調して言われた。
「…………そうなの?」
関羽が近場にあった大き目の石に座って、再び砥石で武器の刃を研ぎ始めた。
月明かりを眩く反射している辺りで、もう十分に手入れが行き届いているように思えるんだが。
「不必要なこと、その上で曹操に迷惑を掛けるようなこと。この二点に関してはするはずがないと思っていますので」
「……大した信頼だ」
「元々、魏やあなたがどのようなことをなさろうとも、然程興味はありませんし……後、以前にも言いました。桃香さまが信頼している以上、私はあなたに従うだけです」
期限付きだが、絶対的な心服だな。
それこそ、華佗と似たようなもので……。
「よっと」
俺は地面に胡坐をかいて座り、関羽の武器の調整している様を見る。
「汚れます。こちらへ――」
「あぁ、いいよ。大丈夫。そうやって座っている関羽が見たいんだ」
1つ1つの様が、本当に綺麗なんだ、この子は。
意識せずに、しかし淀みなく集中しているのが分かる。俺との会話もそうだし、自分の武器を調整する仕草もそうだし。
「また訳の分からないことを……あれだけ痛い目を見たのに変わりませんね」
表情を変えず、苦言を呈する関羽。
浮かした腰を戻して――シャッ――シャッ――と刃を研いでは、月明かりに照らして状態を確認する。
「…………」
「…………」
無言の時が続く。
話すこともなくなったしな……ここまで物分りがいいとは思ってなかったんだが。
……それだけ桃香が絶対的だってことか。
「……1つだけ、よろしいですか?」
「ん? 答えられることなら」
「それでは……」
タイミングを計ったかのように夜風が吹いて、関羽の流麗な黒髪が揺れる。
「北郷殿は、桃香さまのことをどう想っておられますか?」
「…………返事に困るな」
思わず、夜風で乱れた髪をかき上げた。
「なんで、そんなことを聞く?」
「どうして、こんなことを聞かれたと思います?」
「質問ばっかだな……俺が悪いって?」
「そこまでは言っていませんよ」
言ってるじゃん……。
「別に、すぐに答えて欲しいわけではありませんし、どうしても答えが聞きたいわけでもありません」
「……じゃあ、どうして聞いたんだよ」
「気になったからですよ……良ければ、この戦に勝って、私がここを去る時までにはお答えください」
「答えられないって、言うかもよ?」
「ならばそれも1つの答えでしょう? どのような形でも、返事が頂ければ幸いです」
それきり、関羽は自分から口を開くことはなかった。
俺から何か話しかければ返事はするが、それだけだ。
桃香……桃香、か。
もう少し出会うのが早ければ……何かが変わっていたのかもしれないな。
何もかも、今更だが。
その2へ
俺は気にかかることがあった。
それは……袁紹、文醜、顔良の3人のことだ。
俺が大きな喪失感を感じたのは、秋蘭のあの一件から。
それ以前は……あったのかもしれないが、記憶には残っていない。
少しずつの積み重ねが、俺を消滅させるに至ったのか。
それとも要所要所、必要なところを邪魔したからなのか。
どちらが正解なのかは分からないけれど。
ただ……あの時。
顔良将軍が関羽に討たれた、あの時。
俺は確かに、喪失感を覚えた。
それは同時に、顔良将軍の生存は、俺の生存にも繋がっていた――ということにもなる。
ただし、全く同じタイミングで、魏の誰かが危険な目にあっていた可能性も否定出来ないが……。
「一刀、いる?」
華琳の声が聞こえる。
「……いるよ」
俺は一度思考を中断して、そう返事をした。
「じゃあ、入るわよ」
俺の天幕の中に、華琳が入ってくる。
そして、寝転がっている俺の横にきて、音を立てずにそっと女の子座りをした。
「怪我の調子はどう?」
「見ての通りだよ」
今日の昼の一戦。
顔良将軍に手痛い一発を貰ったが、俺は華佗の医術でなんとか事なきを得た。
ただそれでも大量に出血はしたし、服も血でべとべと。
怪我は殆どが一瞬で治ったが、大事には大事をってことで、今は身体に包帯を巻いてその上に薄着を一枚着ているぐらいだ。
「本当に? 顔良の一撃をまともに食らったって聞いたわよ?」
「そうだけど……というか、そうなんだ? 見ていたなら助けに入ってくれても良かったのに……」
「情けないことを言わないでちょうだい。あなたは関羽や華佗を従えているのだから、部下からは顔良ぐらい相手に出来て当然だと思われているわ」
「マジで……それはきついな」
部下は部下、上司は上司だと割り切ってほしい。
「それで、どうなの?」
「見ての通りだって……華佗にすぐに治してもらったから、怪我も殆どないよ。明日からすぐに戦線に復帰出来る」
同じことを聞かれたので、同じことを。信用がないってよりは、再確認を込めてだろうか。
「……すぐに?」
だが、華琳が怪訝な表情を作る。
「うん。どうかした?」
「他の兵士も華佗に見せているけど、すぐに快復したことなんて一度もないわよ?」
「あぁ、そうなんだ」
やっぱ手を抜いているんだな。治療するのもそれなりに疲れるみたいだし。
「そうなんだって、あなたね……」
華琳が露骨に嘆息した。気持ちは分かるが。
「いざ俺に何かあったら、治療する余力を残しておきたいんだと思う。力の配分をしているだけだと思うけど」
「…………はぁ」
また嘆息。
「そういう条件だったとはいえ、こうも露骨にやられると気分が悪いわ」
「伝えておくよ。善処はさせる」
「徹底させるとは言ってくれないのね」
「華佗は俺の部下であり相棒だから。無理強いは出来ないよ」
「あっそ……」
なんでそこでふて腐れるのか。
「それで、話はそれだけじゃないだろ?」
「そうね。本題がもう1つ」
なんだろうか。
「顔良を討ち取ったこと、見事だったわ。相手の策に引っかかったのは褒められたものではないけれど、これで帳消しね」
「……………………」
止めていた思考が、僅かに空転した。
「一刀?」
「……なんとなく、傷が痛んだ気がしたんだよ」
「運ばれてきたあなたの状態を見れば、察しがつくわ」
怪我はほぼ完治していたにしろ、状態はぼろぼろだったもんな。
「実際、あなたが顔良に討たれたと聞いた時は、耳を疑ったのよ」
「心配してくれた?」
「馬鹿な物言いはやめなさい……当たり前でしょ」
華琳の手が、俺の頭に触れ、流れるように額に、顎へ、胸へと滑って。
「…………」
「……華琳?」
慈しむように俺の胸をなでながら、黙ってしまった華琳。
しばらくそんな時間が続いたかと思えば、ふと口を開くと。
「最前線に行き、自身が重傷になってでも関羽を使って、顔良を討った。役目は十分に果たしたわ」
「……そうだね」
「個人的に、一刀には武よりも知の方を期待したいの。華佗だってそうよ」
「言いたいことは分かるよ」
「だから……私の一存で、あなた達を本隊に下げることも出来るわ。春蘭も関羽に負けじと、もっと前に出たいと言っているしね。どうしたい?」
「そうだなぁ……」
どうしようか。
目的……という意味では、果たせた訳なんだけど。
「……いや、もう少し前にいるよ。関羽も納得しなさそうだし」
「らしくない物言いね」
「関羽のことを気にしすぎてるって意見なら、ご尤もだよ。ただ……気になることもあるから」
「気になるって、何がよ?」
それは勿論、顔良将軍がいなくなったことによる、袁紹側の動きなんだが……これはそのまま言っても大丈夫か。
「顔良将軍を討ったからさ……この後、袁紹がどういう動きをしてくるのか分からないのが、不安なんだ」
「……同じことを考えていたのね」
「華琳も?」
「そうよ。顔良は良い意味でも悪い意味でも、麗羽のところで機能していたから。それが抜けた今、相手の行動が読みにくくなったわ」
「……悪いことしちゃったのかな」
「あなたがそんな調子じゃ、討たれた顔良は浮かばれないわよ。相手の指揮能力は間違いなく下がったのだから、胸を張りなさい」
指揮官が1人いなくなったんだしな……そりゃそうだろうけど。
「でも、なんでだろうね」
「?」
華琳が可愛らしく首を傾げる。
「こう……言いようのない、不安があるんだけど」
「あら、本当に似た者同士ね、私達は」
「華琳もそう思う?」
嬉しそうな笑みを浮かべてくれたので、俺も同じように返す。
「えぇ。そういう意味では、同じような不安要素であるあなたには後ろに居て欲しいのだけれど」
「同じような不安だから、俺と関羽と華佗が当たるよ。何か事故があった場合、対処しやすい」
「……はぁ、本当に厄介ね。関羽と華佗が自由に動かせれば、もっとやりやすくなるのに」
「そこは俺の人徳を褒めてもらいたいな」
「何が人徳よ。全く……無理する前に、私には報告しなさいよ」
「勿論、相談するよ」
胸に置かれたままだった華琳の手を握って言う。
「ならいいわ。その言葉、信じるわよ」
「華琳こそ、無理はしないでくれよ。総大将が倒れたら元も子もない」
「どの口が言うのかしらね、ほんと……」
俺の手を両手で包み込んで……一撫でした後、立ち上がる。
「戻るわ。明朝に軍議があるから、参加しなさい」
「了解」
一度満面の笑みを見せた後、華琳は天幕から出て行った。
…………。
………………そして、体感時間で5分程経ったのを確認してから、俺は上着を一枚羽織って立ち上がる。
華琳か、もしくは文句を言いながら桂花辺りが来るとは思っていた。
華琳本人が来てくれたのは、かなり嬉しかったが……今はその喜びを抑えて、やらなければならないことがある。
◆ ◆ ◆
「来たか、一刀」
「あぁ」
俺は華佗の天幕にやってきた。
医療品などが多く詰まれた袋が幾つもあるが、どれも華佗が華琳に我侭を言って用意させたものだ。華琳に申請したのは俺だけど。
だから、この天幕は華佗専用になっている。
そんな華佗の天幕に…………。
「あの子は?」
「奥だよ」
一列に並んでいる袋。
その奥に、隠されたように横たわっている、1人の女性。
「…………バレてないよな?」
「一応な。布に巻いて、自軍の死体だと言って連れてきたから」
寝転がっているのは……顔良将軍だ。
鎧は外して持ってきたので、今は衣服一枚。右肩から斜めに横断するように入った亀裂と、腹部に刺された剣の跡が痛々しい。
「息は……」
俺は、顔良将軍の口元に手を当てる。
すると………………。
「…………すー………………すー…………」
僅かだが、呼吸が返ってくる。
「……ふぅ」
俺は顔良将軍からは離れて、華佗の対面に座った。
「水だ」
「ありがと」
出された水の入ったお椀を持って、一口で飲みきる。
「っ……ふぅ」
冷たい水が喉を通る。かなり乾いていたのか、喉を通る感触に快感を覚えた。
「緊張しすぎじゃないか?」
俺が天幕の中を見回す仕草を取った。
華佗が首を横に振る。どうやら、周りには誰もいないようだ。
「……するよ。相手の将軍の死体を、隠して持ってきたともなれば」
でも小声で言う。
「間一髪だった……ということかな?」
「そうなるのかな」
あの後……俺達が取った行動は、こうだ。
◆ ◆ ◆
「か……はっ……」
俺の視線の先を見て――華佗が、俺の言わんとしていることに気付いた。
「ちっ、悪い方に的中か!」
華佗がまず、顔良の元に走る。
「華佗っ!? お前、何を考えているッ!?」
「話は後だ!!」
鍼を3本取り出すと、華佗は何かを念じて――その鍼を全て、顔良将軍に突き刺した。
途端に眩い光を上げたかと思うと、すぐにその光は収まる。
同時に――――。
「くっ…………はぁっ、あ……あっ…………」
喪失感が少しずつ、引いていく。
「待たせた、一刀!」
「華佗、お前……まさか」
「治すぞ!」
関羽の言葉は無視して、俺の身体に鍼を2本刺す。
すると、俺の身体が発光して…………次の瞬間には、痛みなんて完全に消えてなくなっていた。
「ぐっ……つぅっ」
擦り傷やら切り傷など細かい傷は残っていたが……立ち上がって、状態の確認をしてみる。
「ほ、北郷殿……大丈夫なのですか?」
関羽が心配そうに俺の顔を見上げてくるが…………。
「……あぁ、大丈夫」
腕を回したり、肝心の腰を回したり、背中を反ってみたり。
「何も問題ない。ありがとう、華佗」
「礼は必要ない。それより……」
華佗の視線が、関羽に移る。
「それは論外だ。とにかく、この砂塵が晴れる前に、ある程度工作しないと……」
「分かった、それは俺に任せておけ。一刀は……」
「こっちはこっちで何とかする」
「あぁ」
華佗は新たに鍼を一本取り出して……それを地面に投げつける。
「くっ!」
「まぶし……」
思わず、目を覆うほどの閃光。
――数秒の後、目を開けると。
「……行ったか」
「本陣の方に戻ったようですが」
見ると、顔良将軍の武器と鎧、関羽が刺した剣が置いてあるだけで、中身が無くなっていた。華佗が持っていったんだ。
「…………」
関羽がじーーっとこちらを見ている。
「…………言いたいことがありそうだね」
それも、かなり怪しんでいる。
「曹操の命令とは思えませんが」
「俺の独断だ。出来れば誰にも言わないで欲しいけど」
「それは構いませんが……」
関羽が俺の前に立ったかと思うと、自分のマントを掴んで外し、それを野球のピッチャーのように振りかぶって、地面に叩きつけるように振るう。
すると、マントに穴が……というより、矢が7、8本絡まっていた。
「狙われていたのか」
「戦場ですよ、何を言っているんですか」
喪失感を覚えなかったし……関羽が助けてくれることが見込まれていたからかね。
「…………ん?」
…………それはそれで、何かおかしい気がするんだが。
「話は後で聞かせてもらいます。今は、あなたの守護を全力で」
「頼むよ。出来れば、俺からはもう離れないでくれ。死ぬほど痛かった」
「……えぇ、本当に。自分の未熟さを呪うばかりです」
◆ ◆ ◆
それから1時間もしないうちに、敵軍は引き上げていった。
その間、関羽は俺の傍から決して離れることなく、あくまでもこちらを狙う相手だけを迅速に処理し続けた。
結果、初日の戦は勝利を収めて戻ってきたんだが……。
「これからどうするか」
華佗が少しやつれ気味に言う。
かくいう俺だって、迷っている。
あのままじゃ、俺がどうなっていたのか分からない。だから、この戦いが始まる前に華佗にそう指示したのは確かだ。
事前の打ち合わせのパターン……その内の1つになったのは、喜ぶべきか憂慮するべきか。
「彼女の存在は、バラしちゃいけない……かといって、いつまでもこのままってのはまずい」
「それはそうだが……程昱に知恵を借りるか?」
「…………」
それはそれでどうだろうか?
風に力を借りる……有りと言えば、有りだが……。
「少し論点を変えるか。前の世界だとどうだったんだ?」
眉間に皺を寄せて黙りこくる俺に気を使ってか、そんなことを。
「……彼女達については、よく分からないんだ」
最終決戦の時、桃香のところに居たって話は聞いてないし……。
魏にいるはずもないから、在野で何かしていたんだと思うが……。
「だとしたら、本当に手詰まりか」
「最初から切り札を使わされた感じだよ。関羽にも説明しないといけないし……」
風にはある程度ごまかしが聞くが、関羽には現場を抑えられてるしな……。
「それこそ、どう説明する? 明朝には軍議があるんだろ?」
「そうだね。それまでにはなんとか……しなきゃならないよなぁ」
頭が痛い。
打ち合わせ通りとはいえ、最悪の部類に入るパターンに入ったのは言うまでもないのだ。
「まずは関羽、その後に――」
「しっ――」
華佗が口元に人差し指を1本立てる。
「……どうした?」
「誰かが近づいてくる」
小声でのやり取り。
すると――――ざっ、ざっ――――と、足音が近づいてくる。
華佗の能力の高さには本当に助けられているが……誰だ? こんな時間に。
「ちわー、飴玉配布しにきやしたー」
「…………」
「…………」
間の抜けた、声。
張り詰めた空気が、一瞬で萎んでいく。
「入れ、風」
「あいあーい」
ごそごそと入ってきたのは風だ。
「おぉ? 敵に討たれたお兄さんがいる。これは一体どういうことなんでしょうかー」
「地獄から戻ってきたよ。で、何しに来た?」
てとてとと歩いてくると、俺の隣にちょこんと座る。
「いやー、仲間外れにされている空気を感じまして」
「何故分かった」
「そこで一切合財隠さず言うお兄さんは最高ですよー、ほんとーにもー」
「だろ? じゃあ、次にどうするべきかは分かるよな?」
「あいあい。じゃあですねー」
風が右手を上げて、華佗の後ろを指差した。
「それの説明貰ってからでもいーですか?」
で、少しだけ口角を上げる。
「…………」
俺が華佗を見ると、首を横に振る。
見られてないなら、何故知っている……?
「何を指差しているのか、聞いていいか?」
「死体に興奮でもするんですか?」
確定、だ。
こいつは顔良将軍を拾ってきたのを知っている。
「生きてるよ。華佗の力を使った」
「ほほー。なるほどなるほど」
「だが、どうして程昱は知っている? 誰かに見られた覚えたはないが」
「と言われましても。風は華佗さんが味方の死体を運んできたって、兵士から話を聞いただけですよ」
「…………それだけ?」
「それだけです。後は華佗さんがしばらく閉じこもっていたのと、お兄さんがぼこぼこにされたことと、関羽さんがいつもとは違う感じで渋い顔してたのと」
「状況判断でか」
「状況判断でです」
……侮っていたわけじゃないが、まだどこかで風の能力の高さを舐めてたな、俺は。
「先に言うと、そうしないと俺が死んでいた。だから、そうしたんだ」
なら、もう包み隠さず言って新たな釘を刺し込んでおくしかない。
「ふーん。そですか」
「相変わらず興味なさそうだな」
「あー、興味ならバリバリありますよー。だけど、肝心の興味持てそうな部分を教えてくれてないじゃないですかー」
ぺちぺちと地面を叩きながら抗議される。
「それもそうだった」
「じゃあ、教えてくださいよ」
「うーん……」
まだ教えるつもりは……正直なところ、ない。
無いんだが、ここで理由を教えないってのは後々不利になりそうな予感がするんだよな……。
「…………じゃあ、1つだけな」
「おぉっ」
「何で驚くのさ……意外か?」
「意外です。自分で言っててアレですが」
「とことん素直だな、程昱は」
素直だけど、分かりにくい物言いは勘弁して欲しいところなんだがな。
「で、なんですか?」
少し身を乗り出して、僅かに目を輝かせて。
そんな風に、俺は少しだけ視線を動かして上を見た後、こう言った。
「俺が生き残る条件として……生きたままじゃなきゃといけない人間ってのが、存在する」
「…………生き残ったまま、ですか?」
なにそれ? って感じに首をひょこっと動かして。
「例えば、華琳や……風もそうだよ。他にも何人も居るが……」
「……それが、そこのそれに引っかかっていたってことですかー」
「そうなる」
「じゃあ仮に、そのままの状態になっていたらどうなっていたんですか?」
「俺も同じになってたよ。そういう結果になるってことは定義付けられている」
「どうして?」
「どうしても」
「むむー……またそれですか」
過程を説明せず、結果だけを押し付けてるからな。
といっても、この過程は俺も知らないんだが。
「一刀の状態は持ち直したが、目下の問題は現状だろ。程昱、せっかく来たんだし何か策はないのか?」
「呼ぶつもりなかった人に頼るとか、どういう了見ですか」
「一応、これでも気を使ったんだよ」
勿論嘘だけど。
俺の言葉に、風が一瞬だけ鋭い視線をこちらに向けた。バレてるっぽいなこれ。
「はぁ~あ……先に状況整理したいですねー。関羽さんは?」
やる気なさそうに話を続ける。
「蘇生したところを見られた」
「あららー。じゃあもう崖っぷちじゃないですかー」
「適当な嘘で丸め込むつもりだ。それが成功した場合と、失敗した場合。両方に保険が欲しいな」
「うーむ。そですねー」
手の中で飴をくるくる回しながら、少し考え込んで。
「説得が失敗した場合っていう状況は、関羽さんがそれのことを隠さない、全部華琳さまに話す! とか言い出して聞かない場合ですよね」
「そうだね」
「じゃあ、それはまずあり得ないので置いとくとして」
「どうして断言できるんだ? 俺が言うのもなんだが、あいつはかなり真面目な奴に見えるぞ」
華佗が新しく水を椀に汲んで、俺と風の前に出す。
「だってその場合、魏にとっては旨味があるかもしれませんが、劉備さんの意思としては反することになっちゃいますし」
「よく分からんが」
華佗が頭の上に?マークを浮かべているのが分かる。
「あー……あれですよ。関羽さんにとっては、お兄さんの安全が第一ではあるんですが、同時に機嫌も損ねちゃーダメなんですよ。こいつ碌なことしなかったんだぜー、なんて劉備さんに告げ口されたら、それこそ劉備さんも関羽さんも色々と困っちゃいます」
「あぁ、そう言われれば分かるな。義理を果たすのが一番か」
「そですそです。そんな感じです。加えて、関羽さんは見た感じ劉備さん大好きっ子なので、よっぽど自分の信義に反しない限りは大体のことを許容してくれるはずです」
「顔良の件で、また一刀に新しく負い目が出来たしな」
「頭が下がるよ、ほんと……」
風の人間観察能力にもな。
「だからまぁ……成功したら別にそれはそれでいいですし。もし「やだ!」って言い出したら、じゃあ劉備さんにないこと話まくるねって言えば終わりますし」
「それ込みで、抵抗された場合は?」
「ここは魏ですからねー。おまけに戦中ですし。1人で敵陣に突っ込んで貰えばいいんじゃないですか。援護とか必要ないですよ」
「……分かりやすいな」
さすがにそこまで愚かなことはしないか。
「それにですけど……関羽さんはなんだかんだで、お兄さんのことを信用してるっぽいですしねー」
「そうなのか? 一刀」
「…………んー」
なんともコメントに困る。
「この反応が答えってやつですよー。種馬の本領がぽこぽこと発揮されてますねー」
それを見て笑われた。こういう展開になると、どう答えていいのやら。
「俺を……じゃなく、劉備が俺に一定の信頼を置いているみたいだ。だから、それと繋がって自分も信用できる……ってところかな」
そう言っていたし、それを鵜呑みにするしかない。
「良い傾向じゃないか。仕込みは上手くいっている」
華佗が笑顔で頷いて。
「結果が全てだからね」
俺はそれに同意して。
「それを聞いて、風はどういう反応をすればいいんですか」
風が眉をしかめて。
三者三様の歪な付き合いは続く。
◆ ◆ ◆
「関羽」
大よその打ち合わせを終えた俺は、2人と別れると関羽を探して陣地内を歩き回っていた。
10分ぐらい探し続けて、同じ部隊の兵士と共に武器の手入れをしている関羽を見つける。
「隊長! お怪我は大丈夫ですか?」
「ん、見ての通り。たいしたことないよ」
「おぉ、そうなのですか。見た目が酷かったので、てっきり……」
「吹っ飛ばされ方が間抜けだったってだけで、致命傷にはなってないさ」
「それは良かったです。次こそは、隊長に怪我などさせず、我々が守り通します!」
「心配してくれてありがと。あまり気負わずにな」
兵士の面々から話しかけられたので、それぞれ適当に返しておく。
で……だ。
「関羽」
「……分かっています」
青龍偃月刀の手入れをしていた手を止めて、しかし武器を持ったままこちらに寄ってくる。
「先程の?」
「うん。ちょっと関羽を借りるよ」
笑顔で「どうぞどうぞ」と言う兵士達に挨拶をして、俺は関羽を連れ添って陣地内でも人気のないところまで行く。
「そうやって月明かりに反射する武器を見ると、人気もないし物騒だな」
「では、持ってこなかった方がよろしかったですか?」
「……いや、どっちでもいいんだけどね」
気の利かない雑談はこれぐらいにしておいてだ。
「何から話そうか?」
と言うと。
「何から聞けばよろしいのですか?」
少し目を見開いて、そう返してくる。
「逆に困るな、そんな風に言われると」
「好きなように仰ってくれれば、それで良いのですが……」
「…………んん?」
なーんか、予想と違うっていうか。
…………風の言った通りか? これ。
「気にならないのか? 俺の行動が」
「別段、特には」
強調して言われた。
「…………そうなの?」
関羽が近場にあった大き目の石に座って、再び砥石で武器の刃を研ぎ始めた。
月明かりを眩く反射している辺りで、もう十分に手入れが行き届いているように思えるんだが。
「不必要なこと、その上で曹操に迷惑を掛けるようなこと。この二点に関してはするはずがないと思っていますので」
「……大した信頼だ」
「元々、魏やあなたがどのようなことをなさろうとも、然程興味はありませんし……後、以前にも言いました。桃香さまが信頼している以上、私はあなたに従うだけです」
期限付きだが、絶対的な心服だな。
それこそ、華佗と似たようなもので……。
「よっと」
俺は地面に胡坐をかいて座り、関羽の武器の調整している様を見る。
「汚れます。こちらへ――」
「あぁ、いいよ。大丈夫。そうやって座っている関羽が見たいんだ」
1つ1つの様が、本当に綺麗なんだ、この子は。
意識せずに、しかし淀みなく集中しているのが分かる。俺との会話もそうだし、自分の武器を調整する仕草もそうだし。
「また訳の分からないことを……あれだけ痛い目を見たのに変わりませんね」
表情を変えず、苦言を呈する関羽。
浮かした腰を戻して――シャッ――シャッ――と刃を研いでは、月明かりに照らして状態を確認する。
「…………」
「…………」
無言の時が続く。
話すこともなくなったしな……ここまで物分りがいいとは思ってなかったんだが。
……それだけ桃香が絶対的だってことか。
「……1つだけ、よろしいですか?」
「ん? 答えられることなら」
「それでは……」
タイミングを計ったかのように夜風が吹いて、関羽の流麗な黒髪が揺れる。
「北郷殿は、桃香さまのことをどう想っておられますか?」
「…………返事に困るな」
思わず、夜風で乱れた髪をかき上げた。
「なんで、そんなことを聞く?」
「どうして、こんなことを聞かれたと思います?」
「質問ばっかだな……俺が悪いって?」
「そこまでは言っていませんよ」
言ってるじゃん……。
「別に、すぐに答えて欲しいわけではありませんし、どうしても答えが聞きたいわけでもありません」
「……じゃあ、どうして聞いたんだよ」
「気になったからですよ……良ければ、この戦に勝って、私がここを去る時までにはお答えください」
「答えられないって、言うかもよ?」
「ならばそれも1つの答えでしょう? どのような形でも、返事が頂ければ幸いです」
それきり、関羽は自分から口を開くことはなかった。
俺から何か話しかければ返事はするが、それだけだ。
桃香……桃香、か。
もう少し出会うのが早ければ……何かが変わっていたのかもしれないな。
何もかも、今更だが。
その2へ
category: あの想(分割版)
あの想いと共に 第41話(複合編)
2012/05/11 Fri. 02:29 [edit]
あの想いと共に
第41話(複合編)
※一刀視点と、華琳視点が入っている話です※
第41話(複合編)
※一刀視点と、華琳視点が入っている話です※
-- 続きを読む --
懸念……と、いうか。
俺は気にかかることがあった。
それは……袁紹、文醜、顔良の3人のことだ。
俺が大きな喪失感を感じたのは、秋蘭のあの一件から。
それ以前は……あったのかもしれないが、記憶には残っていない。
少しずつの積み重ねが、俺を消滅させるに至ったのか。
それとも要所要所、必要なところを邪魔したからなのか。
どちらが正解なのかは分からないけれど。
ただ……あの時。
顔良将軍が関羽に討たれた、あの時。
俺は確かに、喪失感を覚えた。
それは同時に、顔良将軍の生存は、俺の生存にも繋がっていた――ということにもなる。
ただし、全く同じタイミングで、魏の誰かが危険な目にあっていた可能性も否定出来ないが……。
「一刀、いる?」
華琳の声が聞こえる。
「……いるよ」
俺は一度思考を中断して、そう返事をした。
「じゃあ、入るわよ」
俺の天幕の中に、華琳が入ってくる。
そして、寝転がっている俺の横にきて、音を立てずにそっと女の子座りをした。
「怪我の調子はどう?」
「見ての通りだよ」
今日の昼の一戦。
顔良将軍に手痛い一発を貰ったが、俺は華佗の医術でなんとか事なきを得た。
ただそれでも大量に出血はしたし、服も血でべとべと。
怪我は殆どが一瞬で治ったが、大事には大事をってことで、今は身体に包帯を巻いてその上に薄着を一枚着ているぐらいだ。
「本当に? 顔良の一撃をまともに食らったって聞いたわよ?」
「そうだけど……というか、そうなんだ? 見ていたなら助けに入ってくれても良かったのに……」
「情けないことを言わないでちょうだい。あなたは関羽や華佗を従えているのだから、部下からは顔良ぐらい相手に出来て当然だと思われているわ」
「マジで……それはきついな」
部下は部下、上司は上司だと割り切ってほしい。
「それで、どうなの?」
「見ての通りだって……華佗にすぐに治してもらったから、怪我も殆どないよ。明日からすぐに戦線に復帰出来る」
同じことを聞かれたので、同じことを。信用がないってよりは、再確認を込めてだろうか。
「……すぐに?」
だが、華琳が怪訝な表情を作る。
「うん。どうかした?」
「他の兵士も華佗に見せているけど、すぐに快復したことなんて一度もないわよ?」
「あぁ、そうなんだ」
やっぱ手を抜いているんだな。治療するのもそれなりに疲れるみたいだし。
「そうなんだって、あなたね……」
華琳が露骨に嘆息した。気持ちは分かるが。
「いざ俺に何かあったら、治療する余力を残しておきたいんだと思う。力の配分をしているだけだと思うけど」
「…………はぁ」
また嘆息。
「そういう条件だったとはいえ、こうも露骨にやられると気分が悪いわ」
「伝えておくよ。善処はさせる」
「徹底させるとは言ってくれないのね」
「華佗は俺の部下であり相棒だから。無理強いは出来ないよ」
「あっそ……」
なんでそこでふて腐れるのか。
「それで、話はそれだけじゃないだろ?」
「そうね。本題がもう1つ」
なんだろうか。
「顔良を討ち取ったこと、見事だったわ。相手の策に引っかかったのは褒められたものではないけれど、これで帳消しね」
「……………………」
止めていた思考が、僅かに空転した。
「一刀?」
「……なんとなく、傷が痛んだ気がしたんだよ」
「運ばれてきたあなたの状態を見れば、察しがつくわ」
怪我はほぼ完治していたにしろ、状態はぼろぼろだったもんな。
「実際、あなたが顔良に討たれたと聞いた時は、耳を疑ったのよ」
「心配してくれた?」
「馬鹿な物言いはやめなさい……当たり前でしょ」
華琳の手が、俺の頭に触れ、流れるように額に、顎へ、胸へと滑って。
「…………」
「……華琳?」
慈しむように俺の胸をなでながら、黙ってしまった華琳。
しばらくそんな時間が続いたかと思えば、ふと口を開くと。
「最前線に行き、自身が重傷になってでも関羽を使って、顔良を討った。役目は十分に果たしたわ」
「……そうだね」
「個人的に、一刀には武よりも知の方を期待したいの。華佗だってそうよ」
「言いたいことは分かるよ」
「だから……私の一存で、あなた達を本隊に下げることも出来るわ。春蘭も関羽に負けじと、もっと前に出たいと言っているしね。どうしたい?」
「そうだなぁ……」
どうしようか。
目的……という意味では、果たせた訳なんだけど。
「……いや、もう少し前にいるよ。関羽も納得しなさそうだし」
「らしくない物言いね」
「関羽のことを気にしすぎてるって意見なら、ご尤もだよ。ただ……気になることもあるから」
「気になるって、何がよ?」
それは勿論、顔良将軍がいなくなったことによる、袁紹側の動きなんだが……これはそのまま言っても大丈夫か。
「顔良将軍を討ったからさ……この後、袁紹がどういう動きをしてくるのか分からないのが、不安なんだ」
「……同じことを考えていたのね」
「華琳も?」
「そうよ。顔良は良い意味でも悪い意味でも、麗羽のところで機能していたから。それが抜けた今、相手の行動が読みにくくなったわ」
「……悪いことしちゃったのかな」
「あなたがそんな調子じゃ、討たれた顔良は浮かばれないわよ。相手の指揮能力は間違いなく下がったのだから、胸を張りなさい」
指揮官が1人いなくなったんだしな……そりゃそうだろうけど。
「でも、なんでだろうね」
「?」
華琳が可愛らしく首を傾げる。
「こう……言いようのない、不安があるんだけど」
「あら、本当に似た者同士ね、私達は」
「華琳もそう思う?」
嬉しそうな笑みを浮かべてくれたので、俺も同じように返す。
「えぇ。そういう意味では、同じような不安要素であるあなたには後ろに居て欲しいのだけれど」
「同じような不安だから、俺と関羽と華佗が当たるよ。何か事故があった場合、対処しやすい」
「……はぁ、本当に厄介ね。関羽と華佗が自由に動かせれば、もっとやりやすくなるのに」
「そこは俺の人徳を褒めてもらいたいな」
「何が人徳よ。全く……無理する前に、私には報告しなさいよ」
「勿論、相談するよ」
胸に置かれたままだった華琳の手を握って言う。
「ならいいわ。その言葉、信じるわよ」
「華琳こそ、無理はしないでくれよ。総大将が倒れたら元も子もない」
「どの口が言うのかしらね、ほんと……」
俺の手を両手で包み込んで……一撫でした後、立ち上がる。
「戻るわ。明朝に軍議があるから、参加しなさい」
「了解」
一度満面の笑みを見せた後、華琳は天幕から出て行った。
…………。
………………そして、体感時間で5分程経ったのを確認してから、俺は上着を一枚羽織って立ち上がる。
華琳か、もしくは文句を言いながら桂花辺りが来るとは思っていた。
華琳本人が来てくれたのは、かなり嬉しかったが……今はその喜びを抑えて、やらなければならないことがある。
◆ ◆ ◆
「来たか、一刀」
「あぁ」
俺は華佗の天幕にやってきた。
医療品などが多く詰まれた袋が幾つもあるが、どれも華佗が華琳に我侭を言って用意させたものだ。華琳に申請したのは俺だけど。
だから、この天幕は華佗専用になっている。
そんな華佗の天幕に…………。
「あの子は?」
「奥だよ」
一列に並んでいる袋。
その奥に、隠されたように横たわっている、1人の女性。
「…………バレてないよな?」
「一応な。布に巻いて、自軍の死体だと言って連れてきたから」
寝転がっているのは……顔良将軍だ。
鎧は外して持ってきたので、今は衣服一枚。右肩から斜めに横断するように入った亀裂と、腹部に刺された剣の跡が痛々しい。
「息は……」
俺は、顔良将軍の口元に手を当てる。
すると………………。
「…………すー………………すー…………」
僅かだが、呼吸が返ってくる。
「……ふぅ」
俺は顔良将軍からは離れて、華佗の対面に座った。
「水だ」
「ありがと」
出された水の入ったお椀を持って、一口で飲みきる。
「っ……ふぅ」
冷たい水が喉を通る。かなり乾いていたのか、喉を通る感触に快感を覚えた。
「緊張しすぎじゃないか?」
俺が天幕の中を見回す仕草を取った。
華佗が首を横に振る。どうやら、周りには誰もいないようだ。
「……するよ。相手の将軍の死体を、隠して持ってきたともなれば」
でも小声で言う。
「間一髪だった……ということかな?」
「そうなるのかな」
あの後……俺達が取った行動は、こうだ。
◆ ◆ ◆
「か……はっ……」
俺の視線の先を見て――華佗が、俺の言わんとしていることに気付いた。
「ちっ、悪い方に的中か!」
華佗がまず、顔良の元に走る。
「華佗っ!? お前、何を考えているッ!?」
「話は後だ!!」
鍼を3本取り出すと、華佗は何かを念じて――その鍼を全て、顔良将軍に突き刺した。
途端に眩い光を上げたかと思うと、すぐにその光は収まる。
同時に――――。
「くっ…………はぁっ、あ……あっ…………」
喪失感が少しずつ、引いていく。
「待たせた、一刀!」
「華佗、お前……まさか」
「治すぞ!」
関羽の言葉は無視して、俺の身体に鍼を2本刺す。
すると、俺の身体が発光して…………次の瞬間には、痛みなんて完全に消えてなくなっていた。
「ぐっ……つぅっ」
擦り傷やら切り傷など細かい傷は残っていたが……立ち上がって、状態の確認をしてみる。
「ほ、北郷殿……大丈夫なのですか?」
関羽が心配そうに俺の顔を見上げてくるが…………。
「……あぁ、大丈夫」
腕を回したり、肝心の腰を回したり、背中を反ってみたり。
「何も問題ない。ありがとう、華佗」
「礼は必要ない。それより……」
華佗の視線が、関羽に移る。
「それは論外だ。とにかく、この砂塵が晴れる前に、ある程度工作しないと……」
「分かった、それは俺に任せておけ。一刀は……」
「こっちはこっちで何とかする」
「あぁ」
華佗は新たに鍼を一本取り出して……それを地面に投げつける。
「くっ!」
「まぶし……」
思わず、目を覆うほどの閃光。
――数秒の後、目を開けると。
「……行ったか」
「本陣の方に戻ったようですが」
見ると、顔良将軍の武器と鎧、関羽が刺した剣が置いてあるだけで、中身が無くなっていた。華佗が持っていったんだ。
「…………」
関羽がじーーっとこちらを見ている。
「…………言いたいことがありそうだね」
それも、かなり怪しんでいる。
「曹操の命令とは思えませんが」
「俺の独断だ。出来れば誰にも言わないで欲しいけど」
「それは構いませんが……」
関羽が俺の前に立ったかと思うと、自分のマントを掴んで外し、それを野球のピッチャーのように振りかぶって、地面に叩きつけるように振るう。
すると、マントに穴が……というより、矢が7、8本絡まっていた。
「狙われていたのか」
「戦場ですよ、何を言っているんですか」
喪失感を覚えなかったし……関羽が助けてくれることが見込まれていたからかね。
「…………ん?」
…………それはそれで、何かおかしい気がするんだが。
「話は後で聞かせてもらいます。今は、あなたの守護を全力で」
「頼むよ。出来れば、俺からはもう離れないでくれ。死ぬほど痛かった」
「……えぇ、本当に。自分の未熟さを呪うばかりです」
◆ ◆ ◆
それから1時間もしないうちに、敵軍は引き上げていった。
その間、関羽は俺の傍から決して離れることなく、あくまでもこちらを狙う相手だけを迅速に処理し続けた。
結果、初日の戦は勝利を収めて戻ってきたんだが……。
「これからどうするか」
華佗が少しやつれ気味に言う。
かくいう俺だって、迷っている。
あのままじゃ、俺がどうなっていたのか分からない。だから、この戦いが始まる前に華佗にそう指示したのは確かだ。
事前の打ち合わせのパターン……その内の1つになったのは、喜ぶべきか憂慮するべきか。
「彼女の存在は、バラしちゃいけない……かといって、いつまでもこのままってのはまずい」
「それはそうだが……程昱に知恵を借りるか?」
「…………」
それはそれでどうだろうか?
風に力を借りる……有りと言えば、有りだが……。
「少し論点を変えるか。前の世界だとどうだったんだ?」
眉間に皺を寄せて黙りこくる俺に気を使ってか、そんなことを。
「……彼女達については、よく分からないんだ」
最終決戦の時、桃香のところに居たって話は聞いてないし……。
魏にいるはずもないから、在野で何かしていたんだと思うが……。
「だとしたら、本当に手詰まりか」
「最初から切り札を使わされた感じだよ。関羽にも説明しないといけないし……」
風にはある程度ごまかしが聞くが、関羽には現場を抑えられてるしな……。
「それこそ、どう説明する? 明朝には軍議があるんだろ?」
「そうだね。それまでにはなんとか……しなきゃならないよなぁ」
頭が痛い。
打ち合わせ通りとはいえ、最悪の部類に入るパターンに入ったのは言うまでもないのだ。
「まずは関羽、その後に――」
「しっ――」
華佗が口元に人差し指を1本立てる。
「……どうした?」
「誰かが近づいてくる」
小声でのやり取り。
すると――――ざっ、ざっ――――と、足音が近づいてくる。
華佗の能力の高さには本当に助けられているが……誰だ? こんな時間に。
「ちわー、飴玉配布しにきやしたー」
「…………」
「…………」
間の抜けた、声。
張り詰めた空気が、一瞬で萎んでいく。
「入れ、風」
「あいあーい」
ごそごそと入ってきたのは風だ。
「おぉ? 敵に討たれたお兄さんがいる。これは一体どういうことなんでしょうかー」
「地獄から戻ってきたよ。で、何しに来た?」
てとてとと歩いてくると、俺の隣にちょこんと座る。
「いやー、仲間外れにされている空気を感じまして」
「何故分かった」
「そこで一切合財隠さず言うお兄さんは最高ですよー、ほんとーにもー」
「だろ? じゃあ、次にどうするべきかは分かるよな?」
「あいあい。じゃあですねー」
風が右手を上げて、華佗の後ろを指差した。
「それの説明貰ってからでもいーですか?」
で、少しだけ口角を上げる。
「…………」
俺が華佗を見ると、首を横に振る。
見られてないなら、何故知っている……?
「何を指差しているのか、聞いていいか?」
「死体に興奮でもするんですか?」
確定、だ。
こいつは顔良将軍を拾ってきたのを知っている。
「生きてるよ。華佗の力を使った」
「ほほー。なるほどなるほど」
「だが、どうして程昱は知っている? 誰かに見られた覚えたはないが」
「と言われましても。風は華佗さんが味方の死体を運んできたって、兵士から話を聞いただけですよ」
「…………それだけ?」
「それだけです。後は華佗さんがしばらく閉じこもっていたのと、お兄さんがぼこぼこにされたことと、関羽さんがいつもとは違う感じで渋い顔してたのと」
「状況判断でか」
「状況判断でです」
……侮っていたわけじゃないが、まだどこかで風の能力の高さを舐めてたな、俺は。
「先に言うと、そうしないと俺が死んでいた。だから、そうしたんだ」
なら、もう包み隠さず言って新たな釘を刺し込んでおくしかない。
「ふーん。そですか」
「相変わらず興味なさそうだな」
「あー、興味ならバリバリありますよー。だけど、肝心の興味持てそうな部分を教えてくれてないじゃないですかー」
ぺちぺちと地面を叩きながら抗議される。
「それもそうだった」
「じゃあ、教えてくださいよ」
「うーん……」
まだ教えるつもりは……正直なところ、ない。
無いんだが、ここで理由を教えないってのは後々不利になりそうな予感がするんだよな……。
「…………じゃあ、1つだけな」
「おぉっ」
「何で驚くのさ……意外か?」
「意外です。自分で言っててアレですが」
「とことん素直だな、程昱は」
素直だけど、分かりにくい物言いは勘弁して欲しいところなんだがな。
「で、なんですか?」
少し身を乗り出して、僅かに目を輝かせて。
そんな風に、俺は少しだけ視線を動かして上を見た後、こう言った。
「俺が生き残る条件として……生きたままじゃなきゃといけない人間ってのが、存在する」
「…………生き残ったまま、ですか?」
なにそれ? って感じに首をひょこっと動かして。
「例えば、華琳や……風もそうだよ。他にも何人も居るが……」
「……それが、そこのそれに引っかかっていたってことですかー」
「そうなる」
「じゃあ仮に、そのままの状態になっていたらどうなっていたんですか?」
「俺も同じになってたよ。そういう結果になるってことは定義付けられている」
「どうして?」
「どうしても」
「むむー……またそれですか」
過程を説明せず、結果だけを押し付けてるからな。
といっても、この過程は俺も知らないんだが。
「一刀の状態は持ち直したが、目下の問題は現状だろ。程昱、せっかく来たんだし何か策はないのか?」
「呼ぶつもりなかった人に頼るとか、どういう了見ですか」
「一応、これでも気を使ったんだよ」
勿論嘘だけど。
俺の言葉に、風が一瞬だけ鋭い視線をこちらに向けた。バレてるっぽいなこれ。
「はぁ~あ……先に状況整理したいですねー。関羽さんは?」
やる気なさそうに話を続ける。
「蘇生したところを見られた」
「あららー。じゃあもう崖っぷちじゃないですかー」
「適当な嘘で丸め込むつもりだ。それが成功した場合と、失敗した場合。両方に保険が欲しいな」
「うーむ。そですねー」
手の中で飴をくるくる回しながら、少し考え込んで。
「説得が失敗した場合っていう状況は、関羽さんがそれのことを隠さない、全部華琳さまに話す! とか言い出して聞かない場合ですよね」
「そうだね」
「じゃあ、それはまずあり得ないので置いとくとして」
「どうして断言できるんだ? 俺が言うのもなんだが、あいつはかなり真面目な奴に見えるぞ」
華佗が新しく水を椀に汲んで、俺と風の前に出す。
「だってその場合、魏にとっては旨味があるかもしれませんが、劉備さんの意思としては反することになっちゃいますし」
「よく分からんが」
華佗が頭の上に?マークを浮かべているのが分かる。
「あー……あれですよ。関羽さんにとっては、お兄さんの安全が第一ではあるんですが、同時に機嫌も損ねちゃーダメなんですよ。こいつ碌なことしなかったんだぜー、なんて劉備さんに告げ口されたら、それこそ劉備さんも関羽さんも色々と困っちゃいます」
「あぁ、そう言われれば分かるな。義理を果たすのが一番か」
「そですそです。そんな感じです。加えて、関羽さんは見た感じ劉備さん大好きっ子なので、よっぽど自分の信義に反しない限りは大体のことを許容してくれるはずです」
「顔良の件で、また一刀に新しく負い目が出来たしな」
「頭が下がるよ、ほんと……」
風の人間観察能力にもな。
「だからまぁ……成功したら別にそれはそれでいいですし。もし「やだ!」って言い出したら、じゃあ劉備さんにないこと話まくるねって言えば終わりますし」
「それ込みで、抵抗された場合は?」
「ここは魏ですからねー。おまけに戦中ですし。1人で敵陣に突っ込んで貰えばいいんじゃないですか。援護とか必要ないですよ」
「……分かりやすいな」
さすがにそこまで愚かなことはしないか。
「それにですけど……関羽さんはなんだかんだで、お兄さんのことを信用してるっぽいですしねー」
「そうなのか? 一刀」
「…………んー」
なんともコメントに困る。
「この反応が答えってやつですよー。種馬の本領がぽこぽこと発揮されてますねー」
それを見て笑われた。こういう展開になると、どう答えていいのやら。
「俺を……じゃなく、劉備が俺に一定の信頼を置いているみたいだ。だから、それと繋がって自分も信用できる……ってところかな」
そう言っていたし、それを鵜呑みにするしかない。
「良い傾向じゃないか。仕込みは上手くいっている」
華佗が笑顔で頷いて。
「結果が全てだからね」
俺はそれに同意して。
「それを聞いて、風はどういう反応をすればいいんですか」
風が眉をしかめて。
三者三様の歪な付き合いは続く。
◆ ◆ ◆
「関羽」
大よその打ち合わせを終えた俺は、2人と別れると関羽を探して陣地内を歩き回っていた。
10分ぐらい探し続けて、同じ部隊の兵士と共に武器の手入れをしている関羽を見つける。
「隊長! お怪我は大丈夫ですか?」
「ん、見ての通り。たいしたことないよ」
「おぉ、そうなのですか。見た目が酷かったので、てっきり……」
「吹っ飛ばされ方が間抜けだったってだけで、致命傷にはなってないさ」
「それは良かったです。次こそは、隊長に怪我などさせず、我々が守り通します!」
「心配してくれてありがと。あまり気負わずにな」
兵士の面々から話しかけられたので、それぞれ適当に返しておく。
で……だ。
「関羽」
「……分かっています」
青龍偃月刀の手入れをしていた手を止めて、しかし武器を持ったままこちらに寄ってくる。
「先程の?」
「うん。ちょっと関羽を借りるよ」
笑顔で「どうぞどうぞ」と言う兵士達に挨拶をして、俺は関羽を連れ添って陣地内でも人気のないところまで行く。
「そうやって月明かりに反射する武器を見ると、人気もないし物騒だな」
「では、持ってこなかった方がよろしかったですか?」
「……いや、どっちでもいいんだけどね」
気の利かない雑談はこれぐらいにしておいてだ。
「何から話そうか?」
と言うと。
「何から聞けばよろしいのですか?」
少し目を見開いて、そう返してくる。
「逆に困るな、そんな風に言われると」
「好きなように仰ってくれれば、それで良いのですが……」
「…………んん?」
なーんか、予想と違うっていうか。
…………風の言った通りか? これ。
「気にならないのか? 俺の行動が」
「別段、特には」
強調して言われた。
「…………そうなの?」
関羽が近場にあった大き目の石に座って、再び砥石で武器の刃を研ぎ始めた。
月明かりを眩く反射している辺りで、もう十分に手入れが行き届いているように思えるんだが。
「不必要なこと、その上で曹操に迷惑を掛けるようなこと。この二点に関してはするはずがないと思っていますので」
「……大した信頼だ」
「元々、魏やあなたがどのようなことをなさろうとも、然程興味はありませんし……後、以前にも言いました。桃香さまが信頼している以上、私はあなたに従うだけです」
期限付きだが、絶対的な心服だな。
それこそ、華佗と似たようなもので……。
「よっと」
俺は地面に胡坐をかいて座り、関羽の武器の調整している様を見る。
「汚れます。こちらへ――」
「あぁ、いいよ。大丈夫。そうやって座っている関羽が見たいんだ」
1つ1つの様が、本当に綺麗なんだ、この子は。
意識せずに、しかし淀みなく集中しているのが分かる。俺との会話もそうだし、自分の武器を調整する仕草もそうだし。
「また訳の分からないことを……あれだけ痛い目を見たのに変わりませんね」
表情を変えず、苦言を呈する関羽。
浮かした腰を戻して――シャッ――シャッ――と刃を研いでは、月明かりに照らして状態を確認する。
「…………」
「…………」
無言の時が続く。
話すこともなくなったしな……ここまで物分りがいいとは思ってなかったんだが。
……それだけ桃香が絶対的だってことか。
「……1つだけ、よろしいですか?」
「ん? 答えられることなら」
「それでは……」
タイミングを計ったかのように夜風が吹いて、関羽の流麗な黒髪が揺れる。
「北郷殿は、桃香さまのことをどう想っておられますか?」
「…………返事に困るな」
思わず、夜風で乱れた髪をかき上げた。
「なんで、そんなことを聞く?」
「どうして、こんなことを聞かれたと思います?」
「質問ばっかだな……俺が悪いって?」
「そこまでは言っていませんよ」
言ってるじゃん……。
「別に、すぐに答えて欲しいわけではありませんし、どうしても答えが聞きたいわけでもありません」
「……じゃあ、どうして聞いたんだよ」
「気になったからですよ……良ければ、この戦に勝って、私がここを去る時までにはお答えください」
「答えられないって、言うかもよ?」
「ならばそれも1つの答えでしょう? どのような形でも、返事が頂ければ幸いです」
それきり、関羽は自分から口を開くことはなかった。
俺から何か話しかければ返事はするが、それだけだ。
桃香……桃香、か。
もう少し出会うのが早ければ……何かが変わっていたのかもしれないな。
何もかも、今更だが。
◆ ◆ ◆
明朝の軍議。
まだ日が上る直前の、朝焼けも出てない時間。
「昨日の、顔良を討った手前。見事だったわよ、関羽」
「やるべきことをやっただけです」
一同が会し、昨日の戦果を再確認しつつ、今日の襲撃に備える。
「桂花」
「顔良を討ったことで、相手の指揮系統は乱れているはずです。ですが、袁紹は頭の回らない直情型の人間。出始めは何をしてくるのか分からないので、まずは相手の出方を見つつ対応していけばよいかと」
桂花の言うことは最もだ。
加えて、関羽がこちらにいるという事実も相手には知れ渡ったはず。一騎当千の将が増えたと分かれば……。
…………出方が、変わる、のか?
どうにもしっくり来ない。
前の世界を意識しすぎてるのかな……。
「なるほど。では、稟は戦局をどう見ているの?」
「桂花殿の仰る通り、相手の指揮能力は落ちているでしょうし、関羽殿が居るという利点も見せ付けられた。現在はとても順調に進んでいます。ですが、昨日は袁術の軍に手痛い一撃を貰いました。将軍を1人討ち取ったとはいえ、相手は未だこちらを多く上回る大軍。今一度森からの奇襲も考えられます」
「やられてからじゃ遅い。先の対処は必要ということね。風はどう?」
「…………」
風は俺の隣にいる。
というか、俺に寄りかかっている。
むしろ……。
「…………zzz」
「ねーるーなっ」
ぽこっと叩く。
「おぉっ」
「おはよう、風」
「時間が無いんだぞ。ほら、早く答えろ」
俺と華琳、2人から催促されて、飴を舐めつつ眠そうに目を擦る。
「あー……えーっとですねー。風は逆上されてなきゃいいなーなんて思ったりしているわけですよ」
「逆上?」
桂花が鸚鵡返しを。
……気になる言葉だな。
「頭に血が上って、ただ無闇に突撃を仕掛けてくるというのなら、これほどいなしやすいものはないと思うけど?」
「ですよねー。忘れてくださいー」
だが、すぐにその言葉を引っ込める。
逆上……顔良将軍を殺されたからか?
確かにそう思っているだろうが、仇討ちぐらいで軍を乱すようなことはしないはずだ。
そうなれば、こちらの思う壺。適当に引き込んで囲み、後はたこ殴りにすればいいだけだし。
そんな単調で分かりやすい結果を招くようなことをするはずは、ないと思うんだが……。
「伝令ッ!!」
1人の兵士が、慌てて割って入ってきた。
「どうした! 軍議中だぞ!」
「え、袁紹軍です! 袁紹軍の大軍が、こちらに向かってきています!!」
春蘭の言葉に、伝令がそう答える。
「こんな時間から? って、本当みたいね」
桂花が向けた視線の先。
昨日のような人為的なものじゃないが、行軍による砂塵が見える。
「華琳さま!」
春蘭が出撃の命を貰うべく、華琳の名前を呼んだ。
「…………」
が、華琳は腕を組み、右手を口元に当てて思考に耽っている。
「華琳さま、如何なされました?」
桂花の声にも反応せず……かと思えば。
「…………一刀」
で、呼ばれる。当然、みんなの視線は俺に。
「裏目に出ている、とは思いたくない。でも、さっきの風の言葉は心臓に悪かった」
「そうね」
華琳が厳しい表情を作る。
「一刀、あなたは関羽、華佗、春蘭を束ねて中央前線へいきなさい。最初から全力で受け止めず、ある程度様子を見て行動をすること」
「は!」
「了解」
春蘭と関羽がすぐに動き出す。
華佗は一度俺の肩に手を置いたので、俺はそれに頷いて返した。
そして、華佗もすぐに走っていく。
「秋蘭には凪達を付けるわ。昨日の失態、二度は許さない。意味は分かるわね?」
「御意! 行くぞ、お前達!」
「「「はい!!」」」
森側を、また秋蘭に任せるのか。
凪達が付いてくれるなら、大丈夫だと思うが……。
「霞には遊撃を担当してもらう。昨日は使えなかった、その機動力。当てにしているわよ」
「おっしゃ! ウチもようやく暴れられるわけやな! 任せとき!」
嬉々として馬の方へ。
「そいじゃ、お兄さんも前線で気張ってくるんですねー」
「そうなるね」
俺は桂花、稟、風の順に軍師の顔を見る。
「なによ?」
「懸念でも?」
「…………いや、なんでもない」
こびりつくような悪寒が拭えない。
この3人の意見……どれも正しく思えるが……。
◆ ◆ ◆
「来たか、一刀」
「悪い、遅れた。敵の動きは?」
俺は前線部隊の最後尾にたどり着く。そこには華佗、春蘭、関羽が俺の到着を待っていた。
俺の服装は血の汚れが抜けきっていない制服に、装備は紅桜1本のみ。命音は顔良将軍に破壊されてしまったから、使い物にならない。
「猪突猛進というやつだな。風の言う通り、見事に逆上しているわけだ」
春蘭にそれを言われるなんてね……。
「顔色がよくないな、一刀」
「……なんていうのかな」
その理由がよく分からないから困ってるんだ。
「何があっても、私がお守りします。信用がないかもしれませんが」
「次は離れないでくれればいいよ。俺も迂闊な指示はしない」
「……御意」
関羽が敵前線へと目を向ける。
「陣形は春蘭が最前。俺、関羽、華佗は中央に居る。敵の勢いが強そうだけど……まぁ、春蘭なら大丈夫だよな」
「当たり前だ! 誰に言っている! 関羽、貴様ばかりに良い思いはさせんからな!」
笑顔で高らかに宣言する。
こういう時、春蘭の純粋さには救われるな……。
「ご随意に。ただし、危なくなれば助けに入りますので」
「不要だ! 北郷、さっさと指示をしろ!」
「はいはい……」
……朝焼けが強くなってきた。
日の出に、あれだけの大軍を一斉に動かした意図……一体何がある?
■ ■ ■
「接敵したようです」
「そのようね」
一刀率いる中央部隊は、相手の攻撃をいなしつつ動いている。一番先には春蘭の影も見えたし……そう押されることはないはず。
つまり、分かりやすく行動されると、春蘭や関羽が待っていると相手は分かっているわけよね。
それでいて、あの作戦を取る理由……。
何故かしら。相手が麗羽だというのに、いらない不安ばかりが頭を駆け巡る。
「伝令!」
そうこう思案している私の元に、伝令がやってきた。
「なに?」
「森から敵軍が現れました! 数が多く、身動きが取れないと!」
「またか……」
見ると確かに、かなりの数を投入してきているようだ。よっぽど頭にきているのね、麗羽。
だけどこちらも、今度は凪達もついているし、士気も高い。やり返せるぐらいには仕上がっているはずだけど。
「それと、夏侯淵さまから、敵軍は袁紹軍だと伝えてほしいと……」
「…………なんですって?」
あれだけの大軍が、全て麗羽の? 袁術ではなくて?
「桂花」
「まさかとは思いますが、これは……」
「伝令!!」
再び、伝令がやってくる。
「言いなさい」
「は! 左翼から大軍が迫ってきていると! 張遼さまがその対処に向かわれました!」
「それは、袁紹の軍ね? 袁術ではなく」
「は……は、はい! 張遼さまから、伝えて欲しいと……」
「…………ちっ」
思わず、舌打ちしてしまう。
「華琳さま、これは……」
桂花の頬に、一滴の汗が流れて顎を伝うのが見えた。この子としても、予想外なのだろう。
「裏目に出たわね」
「本隊を丸ごと投入してくる可能性は考慮していましたが……ですがこれは恐らく、後詰の部隊も惜しまず、一兵残らず前線に押し出してきています」
「そうでしょうね……見ればよく分かるわ」
さっきまで拮抗していたように見えた前線が、目に見えて押されてきている。
兵の質で負けているとは思っていない。むしろ、こちらの方が上と断言してもいい。
しかしそれでも、だとしても、数は向こうの方が圧倒的に多いのだ。
そこに、顔良を討ったことによる逆上効果。士気の高さはこちらを大きく凌いでいるはず。
裏目も裏目だ。それもどん底の。
「一刀と私の不安は、見事に的中したということね……」
されとて、このまま敗北が許されるはずはない。
なすがままに相手の攻勢を受け入れ、敗北したとあっては、私だけじゃなく私に付いて来てくれた全ての将と民が笑いものになる。
「さて、私の愛しい桂花」
私は笑顔で言葉を投げかけた。
「策ならあります」
そしてすぐに、私の欲しい言葉をくれる。そうでなくては、この子がここにいる意味がない。
「聞くわ。失敗は許されない。一度しか機会はないわよ」
私の言葉に、桂花は一度喉を鳴らした後、しかし力強く頷いた。
◆ ◆ ◆
「一刀、これは……!」
「分かってる」
乱戦どころじゃない。
俺達は急激に増えた敵の数に飲み込まれ、一気に不利な戦いを演じることになった。
「見つけたぞ、北郷一刀! 関羽! 顔良さまの仇いいいぃぃぃぃッ!!!」
「鈍いな。それで我が主の首を取れるものか!」
向かってくる敵兵を、関羽は青龍偃月刀を持って薙ぎ倒していく。
「この現状……理解は出来ますが……ですが、どうしますか?」
僅かに出来た間断に、関羽が眉をしかめながら言う。
「最悪の結果になったよ……まさか、形振り構わず、文字通り全軍を投入してくるなんて」
後詰……だけじゃないだろうな。
補給部隊や、本来陣地を守るために残しておくような兵士すら投入してきているんじゃないか、これ。
「おおおおおおおおおおおおぉぉっ!! どうした貴様らぁ!! もっとだ、もっと掛かって来いッ!!」
春蘭が最前列で声を上げて味方を叱咤しながら、敵の大群に斬って掛かる。
一撃で数人、二撃目で数十人、吹き飛ばし、斬り殺し、撫で斬りにして。
「夏侯惇は奮戦しているが」
「ですが、このまま行けば囲まれてしまいます」
「…………くそっ」
関羽の言葉に、俺は唇を噛む。
春蘭は頑張ってくれている。でも、それだけだ。
見る見るこちらの鎧の色は少なくなっていっているし、森からはぐいぐいと押し込まれ、霞の軍は機動力はあるが、腰を落ち着けて戦うには軽すぎる。
「北郷殿」
「分かってるよ。分かってるけど……」
手を……打ちにくい。
下手に動けば、奮闘している春蘭達が食われた時に対処しきれない。
両翼は子供が見ても簡単に分かるくらい押されている。だから、俺達が下がると、早かれ遅かれ霞と秋蘭が挟み込まれる形になって食われる。
でも動かないと、俺達だって圧殺される。春蘭だって今でこそ奮闘と言えるが、恐らく長くは持たない。
「九死に一生を得るには……」
今のままじゃダメだ。
しかし、俺がここでどのような手を打っても、どこかが崩される。
そしてその1つでも崩されたら……俺達の敗北は、決定的なものになる。
「華佗、本隊の動きは?」
「見た感じ、密集陣形になっているようだが」
「密集……?」
この状況で?
考えられることは、俺達に合流して、散開……?
だが合流したところで、一緒に蹴散らされるのが目に見えているが……。
「関羽ううううううううううううううッ!!! どぉこだあああああああああああああああッ!!!!!」
「ッ!?」
「――っ」
「……これは」
俺は背筋が震え。
華佗は今までに無いぐらい表情を引き締め。
本人の関羽は、咆哮がした方角を向く。
迫るは、一頭の白い馬。
猛然と迫り来るそれに乗る文醜将軍は、竜巻のような風を巻き起こしながら関羽に斬りかかる。
「シッ――」
「んぐっ!?」
刹那の一合――馬の首が吹き飛び、文醜将軍は空中で回転しながら地面を擦りつつ着地し、こちらを睨み付けてくる。
「てっ、めぇっ……!!」
「まるで餓鬼だな。付き合いきれん」
そんな彼女に対し、関羽は目を細め、呆れた様子で嘆息する。
「てめぇが斗詩を殺したんだよなぁ!!」
「……文醜」
思わず、俺の口から彼女の名前が零れた。
泣き腫らしたのか、その瞳は真っ赤に充血していた。
顔には悲壮感と憤怒が入り混じり、真紅の瞳には関羽しか映し出していない。
昨日や、以前見た時とは印象が全然違う……鬼という言い分は、あながち間違いじゃないかもしれない。
「その名が顔良を指すのであれば、そうだ。我が主を手に掛けようとしたから、相応の報いを受けてもらった」
「…………あぁ、あぁ、そうかい!!」
大きな剣を振り上げもせずに――ノーモーションで関羽に肉薄する。
関羽はそれを容易くいなし、大きく体勢が崩れたところにカウンターを合わせた。
――――が。
「ナメてんじゃねぇぞぉッ!!!!」
上体が大きく反れたことにより浮かび上がった足の鎧で関羽の刃を受け止め、バク転の要領で地面に剣を突き刺すと、そのままぐるりと回って着地。
同時に足を踏み出し、地面ごと抉り出すように強引な力技でカウンターにカウンターを合わせてきた。
「っ……!?」
手の甲で剣の腹を叩いてしのぎ、しかし衝撃に押されて関羽が後退りする。
その際、関羽の腕からブシュッ――と、血飛沫が飛ぶ。
「関羽!?」
「問題ありません! ですが、北郷殿!!」
関羽が一瞬向けた視線の先。
そこから、敵弓兵からの大量の矢が放たれる。
「味方ごと……!?」
これだけの乱戦で、自分の味方の方が多いってのに!
大量の喪失感の点が、上空から隙間なく飛来してくる。
「俺じゃ無理か……! 華佗!」
「任せろ!」
華佗が地面に拳を突き出し、その衝撃で地面が抉れて盛り上がった土が空中に飛び散る。
その飛び散った土に巻き込まれ、矢は瞬く間に失速し、出来た隙間を俺は掻い潜って事なきを得た。
「どこ見てんだよ!!」
「味方ごとやる、その精神……断じて許容出来るものではない!」
鬼気迫る文醜の大剣を受け止めるが。
「あれが関羽だ! 槍を投げろ! ここで仕留めるぞ!!!」
「なにっ……!」
多くの槍兵がその声に反応して、文醜が居ることも構わず槍を投擲してくる。
必然的に、関羽は文醜の剣を跳ね除けて槍に対する回避行動を取らなければならない。
しかし同時にそれは、文醜に対する隙を晒すことになる。
「おせぇぞ、関羽!!」
「――――だから、どうした?」
だが――そこは関羽だ。
全ての槍に対応した後、更に文醜の攻撃を避けて、それどころか腹を蹴り飛ばし。
「ぐぉっ!!」
その上、自身は飛び上がって上空に打ち上げていた槍を掴むと、それを指示を飛ばした敵隊長に思い切り投げ飛ばし、首を貫通させて地面に突き刺した。
すかさず地面に接地――だが、ダメージなど気にならないのか、文醜は再び関羽との距離を詰め、2人は風を凪ぐような音と共に斬り合いを始まる。
「きっさま……!」
「お前の相手はあたい達だよ!!」
槍と、弓と。文醜の大剣と。
全てに対応するが、数の多さ、加えて――――。
「弓兵! 北郷一刀も逃がすな! あいつらが顔良さまを殺した奴らだッ!!!」
8人目だろうか。
相手を切り伏せた時に、そんな怒号が耳に響く。
「くそっ……!」
「関羽、俺なら大丈夫だ! 今は文醜を!」
華佗の防御で、空を埋め尽くすほどの矢を避けきる。
「ですが、この状況では……!」
「あたい達に集中しろおらぁ!!!」
「ぐっ!」
気が逸れた一瞬で、さっき関羽がやった時と同じように腹を蹴り飛ばされる。
「距離が離れている訳じゃない! まずは文醜を討ち取れ!」
何かあった場合、すぐに対応が利くはずだ。
それよりも、この鬼気……こんなものを生み出している元凶を先になんとかしないと、現状の打破がままならない。
「……このような、体たらくをっ!!」
武器を構えなおし、関羽が文醜との切り合いを再開する。
「みんな斗詩のことが大好きだったんだ! みんなが、斗詩に憧れてたんだ!!」
関羽は投げ飛ばされた槍を掴み上げ、長物2つを器用に扱って満月を描くように無数に飛来する投擲物、迫り来る兵士、肉薄する顔良に対処する。
「だから、斗詩を殺したお前をみんなで討ち取るって決めたんだ!!」
「自分の都合で、部下を鬼にするのか貴様は!」
「嫌ならやめりゃいいだろうが!! みんなお前を殺したいから、今ここにいるんだよッ!!!」
敵の悪意が。
「あれが関羽と北郷! 行くぞ、奴らを討ち取れぇッ!!」
敵の絶望が。
「顔良さまがいなくなった……俺達の希望が失われたんだ……あいつらのせいで!!」
敵の渇望が。
「こんな泥に塗れた戦いをしなきゃいけない……終わりだよ、俺らは! でもその前に、やんなきゃならないことがある!!」
俺と関羽に降りかかってくる。
「何日もいらねぇよ……今日だけで、関羽、北郷!! お前らはあたい達がぶった斬る!!!」
間断なく、息つく暇も無く、敵が噴水のように溢れてくる。
右に視線を動かせば、味方が槍で貫かれ。
左に視線を動かせば、味方が剣で引き裂かれ。
正面に視線を戻せば、味方が俺を守るために盾になり、弓に突き刺され倒れていく。
「一刀、押し込まれるぞ!」
急速に薄まる、自軍の気配。
でも……それでも、俺には退けない理由があった。
「……ダメだ、今退いたら、春蘭がやられる……!」
最前列で尋常じゃない返り血を浴びながら、今も果敢に激戦を繰り広げている姿が見える。
その周りには、これでもかというほどの敵兵の死体が転がり、春蘭の動きを阻害しているほどだ。
それ程までに敵の命を沈め、動きを塞ぎ、猛将の名に恥じない驚異的な戦果を叩き出している。
「手を休めるな! 華琳さまが必ず駆けつけてくれる! 己が力を信じて戦い抜けぃ!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――』
絶望的な戦力差。
それでも春蘭は怒声を上げる。
味方が奮起するも、相手の圧倒的な物量にその雄叫びはすぐに飲み込まれ、霧散した。
「今春蘭が倒れたら、色んな意味でおしまいだ……!」
俺の命も、魏の運命も……!
川の流れのように止まらない敵を滅茶苦茶に切り捨てながら、必死に打開策を考える。
華佗も同様に、俺の傍で無数に湧き出る敵兵を処理し続けていたが――――。
「だが、何かしら動かないと――――がはっ……!!」
「華佗っ!?」
華佗の、右の脇腹。
そこを、背中から正面に突き抜けるようにして、槍の刃が抜き出ていた。
「貴様ぁ!!」
華佗の後ろに居た敵兵を、俺は瞬く間に切り飛ばした。
同時に、華佗が吐血しながら膝を付く。
「華佗、大丈夫か!?」
「この程度、問題ないさ…………だが、いつまでも持たんぞ……!」
華佗が自分で槍を引き抜き、同じタイミングで鍼を刺して傷を治癒する。
怪我は一瞬で治ったが、出血まで補える訳じゃない。
「どっちにしろ、長居は出来ない……!」
俺も、華佗も、春蘭も。
そして、関羽も…………。
「おらおら! おらおらおらおらおらあぁぁぁ!!!」
「隙がない――このままでは……!!」
文醜と、敵兵と、投擲槍と、矢と。
4つの無限とも思える攻撃パターンに対応してはいるものの、反撃の手立てを見せれずにいる。
どうするんだ、華琳……。
このままじゃ、俺達は負けるぞ……!
「――北郷さま!!」
その時、馬に乗った3人の兵士が俺の傍にやってきた。
彼らが身に着けている鎧は一般兵よりも重厚で、雄々しく……何より絶大な信頼と安心があった。
「親衛隊……華琳が動いたのか!?」
2人の兵士が俺と華佗の前に出て、防御と攻撃を買って出る。
「は! 北郷さまは、こちらの作戦に合わせて動くようにと!」
そして残った1人が、俺に言伝を。
「打開出来るんだろうな、これを……」
春蘭も関羽も動けず、華佗は負傷。
部隊はグチャグチャのバラバラ。目も当てられないとはこのことだ。
「北郷さまが指示通りに動ければ、確実だと仰られてました!」
なのに……俺の不安まで読み越してか。さすがだよ、ほんと。
「……くそっ、やってやるさ! 教えろ! 俺は何をすればいい!?」
なら、俺はその期待に答えるだけだ!
「は! 曹操さまは――――」
続く
俺は気にかかることがあった。
それは……袁紹、文醜、顔良の3人のことだ。
俺が大きな喪失感を感じたのは、秋蘭のあの一件から。
それ以前は……あったのかもしれないが、記憶には残っていない。
少しずつの積み重ねが、俺を消滅させるに至ったのか。
それとも要所要所、必要なところを邪魔したからなのか。
どちらが正解なのかは分からないけれど。
ただ……あの時。
顔良将軍が関羽に討たれた、あの時。
俺は確かに、喪失感を覚えた。
それは同時に、顔良将軍の生存は、俺の生存にも繋がっていた――ということにもなる。
ただし、全く同じタイミングで、魏の誰かが危険な目にあっていた可能性も否定出来ないが……。
「一刀、いる?」
華琳の声が聞こえる。
「……いるよ」
俺は一度思考を中断して、そう返事をした。
「じゃあ、入るわよ」
俺の天幕の中に、華琳が入ってくる。
そして、寝転がっている俺の横にきて、音を立てずにそっと女の子座りをした。
「怪我の調子はどう?」
「見ての通りだよ」
今日の昼の一戦。
顔良将軍に手痛い一発を貰ったが、俺は華佗の医術でなんとか事なきを得た。
ただそれでも大量に出血はしたし、服も血でべとべと。
怪我は殆どが一瞬で治ったが、大事には大事をってことで、今は身体に包帯を巻いてその上に薄着を一枚着ているぐらいだ。
「本当に? 顔良の一撃をまともに食らったって聞いたわよ?」
「そうだけど……というか、そうなんだ? 見ていたなら助けに入ってくれても良かったのに……」
「情けないことを言わないでちょうだい。あなたは関羽や華佗を従えているのだから、部下からは顔良ぐらい相手に出来て当然だと思われているわ」
「マジで……それはきついな」
部下は部下、上司は上司だと割り切ってほしい。
「それで、どうなの?」
「見ての通りだって……華佗にすぐに治してもらったから、怪我も殆どないよ。明日からすぐに戦線に復帰出来る」
同じことを聞かれたので、同じことを。信用がないってよりは、再確認を込めてだろうか。
「……すぐに?」
だが、華琳が怪訝な表情を作る。
「うん。どうかした?」
「他の兵士も華佗に見せているけど、すぐに快復したことなんて一度もないわよ?」
「あぁ、そうなんだ」
やっぱ手を抜いているんだな。治療するのもそれなりに疲れるみたいだし。
「そうなんだって、あなたね……」
華琳が露骨に嘆息した。気持ちは分かるが。
「いざ俺に何かあったら、治療する余力を残しておきたいんだと思う。力の配分をしているだけだと思うけど」
「…………はぁ」
また嘆息。
「そういう条件だったとはいえ、こうも露骨にやられると気分が悪いわ」
「伝えておくよ。善処はさせる」
「徹底させるとは言ってくれないのね」
「華佗は俺の部下であり相棒だから。無理強いは出来ないよ」
「あっそ……」
なんでそこでふて腐れるのか。
「それで、話はそれだけじゃないだろ?」
「そうね。本題がもう1つ」
なんだろうか。
「顔良を討ち取ったこと、見事だったわ。相手の策に引っかかったのは褒められたものではないけれど、これで帳消しね」
「……………………」
止めていた思考が、僅かに空転した。
「一刀?」
「……なんとなく、傷が痛んだ気がしたんだよ」
「運ばれてきたあなたの状態を見れば、察しがつくわ」
怪我はほぼ完治していたにしろ、状態はぼろぼろだったもんな。
「実際、あなたが顔良に討たれたと聞いた時は、耳を疑ったのよ」
「心配してくれた?」
「馬鹿な物言いはやめなさい……当たり前でしょ」
華琳の手が、俺の頭に触れ、流れるように額に、顎へ、胸へと滑って。
「…………」
「……華琳?」
慈しむように俺の胸をなでながら、黙ってしまった華琳。
しばらくそんな時間が続いたかと思えば、ふと口を開くと。
「最前線に行き、自身が重傷になってでも関羽を使って、顔良を討った。役目は十分に果たしたわ」
「……そうだね」
「個人的に、一刀には武よりも知の方を期待したいの。華佗だってそうよ」
「言いたいことは分かるよ」
「だから……私の一存で、あなた達を本隊に下げることも出来るわ。春蘭も関羽に負けじと、もっと前に出たいと言っているしね。どうしたい?」
「そうだなぁ……」
どうしようか。
目的……という意味では、果たせた訳なんだけど。
「……いや、もう少し前にいるよ。関羽も納得しなさそうだし」
「らしくない物言いね」
「関羽のことを気にしすぎてるって意見なら、ご尤もだよ。ただ……気になることもあるから」
「気になるって、何がよ?」
それは勿論、顔良将軍がいなくなったことによる、袁紹側の動きなんだが……これはそのまま言っても大丈夫か。
「顔良将軍を討ったからさ……この後、袁紹がどういう動きをしてくるのか分からないのが、不安なんだ」
「……同じことを考えていたのね」
「華琳も?」
「そうよ。顔良は良い意味でも悪い意味でも、麗羽のところで機能していたから。それが抜けた今、相手の行動が読みにくくなったわ」
「……悪いことしちゃったのかな」
「あなたがそんな調子じゃ、討たれた顔良は浮かばれないわよ。相手の指揮能力は間違いなく下がったのだから、胸を張りなさい」
指揮官が1人いなくなったんだしな……そりゃそうだろうけど。
「でも、なんでだろうね」
「?」
華琳が可愛らしく首を傾げる。
「こう……言いようのない、不安があるんだけど」
「あら、本当に似た者同士ね、私達は」
「華琳もそう思う?」
嬉しそうな笑みを浮かべてくれたので、俺も同じように返す。
「えぇ。そういう意味では、同じような不安要素であるあなたには後ろに居て欲しいのだけれど」
「同じような不安だから、俺と関羽と華佗が当たるよ。何か事故があった場合、対処しやすい」
「……はぁ、本当に厄介ね。関羽と華佗が自由に動かせれば、もっとやりやすくなるのに」
「そこは俺の人徳を褒めてもらいたいな」
「何が人徳よ。全く……無理する前に、私には報告しなさいよ」
「勿論、相談するよ」
胸に置かれたままだった華琳の手を握って言う。
「ならいいわ。その言葉、信じるわよ」
「華琳こそ、無理はしないでくれよ。総大将が倒れたら元も子もない」
「どの口が言うのかしらね、ほんと……」
俺の手を両手で包み込んで……一撫でした後、立ち上がる。
「戻るわ。明朝に軍議があるから、参加しなさい」
「了解」
一度満面の笑みを見せた後、華琳は天幕から出て行った。
…………。
………………そして、体感時間で5分程経ったのを確認してから、俺は上着を一枚羽織って立ち上がる。
華琳か、もしくは文句を言いながら桂花辺りが来るとは思っていた。
華琳本人が来てくれたのは、かなり嬉しかったが……今はその喜びを抑えて、やらなければならないことがある。
◆ ◆ ◆
「来たか、一刀」
「あぁ」
俺は華佗の天幕にやってきた。
医療品などが多く詰まれた袋が幾つもあるが、どれも華佗が華琳に我侭を言って用意させたものだ。華琳に申請したのは俺だけど。
だから、この天幕は華佗専用になっている。
そんな華佗の天幕に…………。
「あの子は?」
「奥だよ」
一列に並んでいる袋。
その奥に、隠されたように横たわっている、1人の女性。
「…………バレてないよな?」
「一応な。布に巻いて、自軍の死体だと言って連れてきたから」
寝転がっているのは……顔良将軍だ。
鎧は外して持ってきたので、今は衣服一枚。右肩から斜めに横断するように入った亀裂と、腹部に刺された剣の跡が痛々しい。
「息は……」
俺は、顔良将軍の口元に手を当てる。
すると………………。
「…………すー………………すー…………」
僅かだが、呼吸が返ってくる。
「……ふぅ」
俺は顔良将軍からは離れて、華佗の対面に座った。
「水だ」
「ありがと」
出された水の入ったお椀を持って、一口で飲みきる。
「っ……ふぅ」
冷たい水が喉を通る。かなり乾いていたのか、喉を通る感触に快感を覚えた。
「緊張しすぎじゃないか?」
俺が天幕の中を見回す仕草を取った。
華佗が首を横に振る。どうやら、周りには誰もいないようだ。
「……するよ。相手の将軍の死体を、隠して持ってきたともなれば」
でも小声で言う。
「間一髪だった……ということかな?」
「そうなるのかな」
あの後……俺達が取った行動は、こうだ。
◆ ◆ ◆
「か……はっ……」
俺の視線の先を見て――華佗が、俺の言わんとしていることに気付いた。
「ちっ、悪い方に的中か!」
華佗がまず、顔良の元に走る。
「華佗っ!? お前、何を考えているッ!?」
「話は後だ!!」
鍼を3本取り出すと、華佗は何かを念じて――その鍼を全て、顔良将軍に突き刺した。
途端に眩い光を上げたかと思うと、すぐにその光は収まる。
同時に――――。
「くっ…………はぁっ、あ……あっ…………」
喪失感が少しずつ、引いていく。
「待たせた、一刀!」
「華佗、お前……まさか」
「治すぞ!」
関羽の言葉は無視して、俺の身体に鍼を2本刺す。
すると、俺の身体が発光して…………次の瞬間には、痛みなんて完全に消えてなくなっていた。
「ぐっ……つぅっ」
擦り傷やら切り傷など細かい傷は残っていたが……立ち上がって、状態の確認をしてみる。
「ほ、北郷殿……大丈夫なのですか?」
関羽が心配そうに俺の顔を見上げてくるが…………。
「……あぁ、大丈夫」
腕を回したり、肝心の腰を回したり、背中を反ってみたり。
「何も問題ない。ありがとう、華佗」
「礼は必要ない。それより……」
華佗の視線が、関羽に移る。
「それは論外だ。とにかく、この砂塵が晴れる前に、ある程度工作しないと……」
「分かった、それは俺に任せておけ。一刀は……」
「こっちはこっちで何とかする」
「あぁ」
華佗は新たに鍼を一本取り出して……それを地面に投げつける。
「くっ!」
「まぶし……」
思わず、目を覆うほどの閃光。
――数秒の後、目を開けると。
「……行ったか」
「本陣の方に戻ったようですが」
見ると、顔良将軍の武器と鎧、関羽が刺した剣が置いてあるだけで、中身が無くなっていた。華佗が持っていったんだ。
「…………」
関羽がじーーっとこちらを見ている。
「…………言いたいことがありそうだね」
それも、かなり怪しんでいる。
「曹操の命令とは思えませんが」
「俺の独断だ。出来れば誰にも言わないで欲しいけど」
「それは構いませんが……」
関羽が俺の前に立ったかと思うと、自分のマントを掴んで外し、それを野球のピッチャーのように振りかぶって、地面に叩きつけるように振るう。
すると、マントに穴が……というより、矢が7、8本絡まっていた。
「狙われていたのか」
「戦場ですよ、何を言っているんですか」
喪失感を覚えなかったし……関羽が助けてくれることが見込まれていたからかね。
「…………ん?」
…………それはそれで、何かおかしい気がするんだが。
「話は後で聞かせてもらいます。今は、あなたの守護を全力で」
「頼むよ。出来れば、俺からはもう離れないでくれ。死ぬほど痛かった」
「……えぇ、本当に。自分の未熟さを呪うばかりです」
◆ ◆ ◆
それから1時間もしないうちに、敵軍は引き上げていった。
その間、関羽は俺の傍から決して離れることなく、あくまでもこちらを狙う相手だけを迅速に処理し続けた。
結果、初日の戦は勝利を収めて戻ってきたんだが……。
「これからどうするか」
華佗が少しやつれ気味に言う。
かくいう俺だって、迷っている。
あのままじゃ、俺がどうなっていたのか分からない。だから、この戦いが始まる前に華佗にそう指示したのは確かだ。
事前の打ち合わせのパターン……その内の1つになったのは、喜ぶべきか憂慮するべきか。
「彼女の存在は、バラしちゃいけない……かといって、いつまでもこのままってのはまずい」
「それはそうだが……程昱に知恵を借りるか?」
「…………」
それはそれでどうだろうか?
風に力を借りる……有りと言えば、有りだが……。
「少し論点を変えるか。前の世界だとどうだったんだ?」
眉間に皺を寄せて黙りこくる俺に気を使ってか、そんなことを。
「……彼女達については、よく分からないんだ」
最終決戦の時、桃香のところに居たって話は聞いてないし……。
魏にいるはずもないから、在野で何かしていたんだと思うが……。
「だとしたら、本当に手詰まりか」
「最初から切り札を使わされた感じだよ。関羽にも説明しないといけないし……」
風にはある程度ごまかしが聞くが、関羽には現場を抑えられてるしな……。
「それこそ、どう説明する? 明朝には軍議があるんだろ?」
「そうだね。それまでにはなんとか……しなきゃならないよなぁ」
頭が痛い。
打ち合わせ通りとはいえ、最悪の部類に入るパターンに入ったのは言うまでもないのだ。
「まずは関羽、その後に――」
「しっ――」
華佗が口元に人差し指を1本立てる。
「……どうした?」
「誰かが近づいてくる」
小声でのやり取り。
すると――――ざっ、ざっ――――と、足音が近づいてくる。
華佗の能力の高さには本当に助けられているが……誰だ? こんな時間に。
「ちわー、飴玉配布しにきやしたー」
「…………」
「…………」
間の抜けた、声。
張り詰めた空気が、一瞬で萎んでいく。
「入れ、風」
「あいあーい」
ごそごそと入ってきたのは風だ。
「おぉ? 敵に討たれたお兄さんがいる。これは一体どういうことなんでしょうかー」
「地獄から戻ってきたよ。で、何しに来た?」
てとてとと歩いてくると、俺の隣にちょこんと座る。
「いやー、仲間外れにされている空気を感じまして」
「何故分かった」
「そこで一切合財隠さず言うお兄さんは最高ですよー、ほんとーにもー」
「だろ? じゃあ、次にどうするべきかは分かるよな?」
「あいあい。じゃあですねー」
風が右手を上げて、華佗の後ろを指差した。
「それの説明貰ってからでもいーですか?」
で、少しだけ口角を上げる。
「…………」
俺が華佗を見ると、首を横に振る。
見られてないなら、何故知っている……?
「何を指差しているのか、聞いていいか?」
「死体に興奮でもするんですか?」
確定、だ。
こいつは顔良将軍を拾ってきたのを知っている。
「生きてるよ。華佗の力を使った」
「ほほー。なるほどなるほど」
「だが、どうして程昱は知っている? 誰かに見られた覚えたはないが」
「と言われましても。風は華佗さんが味方の死体を運んできたって、兵士から話を聞いただけですよ」
「…………それだけ?」
「それだけです。後は華佗さんがしばらく閉じこもっていたのと、お兄さんがぼこぼこにされたことと、関羽さんがいつもとは違う感じで渋い顔してたのと」
「状況判断でか」
「状況判断でです」
……侮っていたわけじゃないが、まだどこかで風の能力の高さを舐めてたな、俺は。
「先に言うと、そうしないと俺が死んでいた。だから、そうしたんだ」
なら、もう包み隠さず言って新たな釘を刺し込んでおくしかない。
「ふーん。そですか」
「相変わらず興味なさそうだな」
「あー、興味ならバリバリありますよー。だけど、肝心の興味持てそうな部分を教えてくれてないじゃないですかー」
ぺちぺちと地面を叩きながら抗議される。
「それもそうだった」
「じゃあ、教えてくださいよ」
「うーん……」
まだ教えるつもりは……正直なところ、ない。
無いんだが、ここで理由を教えないってのは後々不利になりそうな予感がするんだよな……。
「…………じゃあ、1つだけな」
「おぉっ」
「何で驚くのさ……意外か?」
「意外です。自分で言っててアレですが」
「とことん素直だな、程昱は」
素直だけど、分かりにくい物言いは勘弁して欲しいところなんだがな。
「で、なんですか?」
少し身を乗り出して、僅かに目を輝かせて。
そんな風に、俺は少しだけ視線を動かして上を見た後、こう言った。
「俺が生き残る条件として……生きたままじゃなきゃといけない人間ってのが、存在する」
「…………生き残ったまま、ですか?」
なにそれ? って感じに首をひょこっと動かして。
「例えば、華琳や……風もそうだよ。他にも何人も居るが……」
「……それが、そこのそれに引っかかっていたってことですかー」
「そうなる」
「じゃあ仮に、そのままの状態になっていたらどうなっていたんですか?」
「俺も同じになってたよ。そういう結果になるってことは定義付けられている」
「どうして?」
「どうしても」
「むむー……またそれですか」
過程を説明せず、結果だけを押し付けてるからな。
といっても、この過程は俺も知らないんだが。
「一刀の状態は持ち直したが、目下の問題は現状だろ。程昱、せっかく来たんだし何か策はないのか?」
「呼ぶつもりなかった人に頼るとか、どういう了見ですか」
「一応、これでも気を使ったんだよ」
勿論嘘だけど。
俺の言葉に、風が一瞬だけ鋭い視線をこちらに向けた。バレてるっぽいなこれ。
「はぁ~あ……先に状況整理したいですねー。関羽さんは?」
やる気なさそうに話を続ける。
「蘇生したところを見られた」
「あららー。じゃあもう崖っぷちじゃないですかー」
「適当な嘘で丸め込むつもりだ。それが成功した場合と、失敗した場合。両方に保険が欲しいな」
「うーむ。そですねー」
手の中で飴をくるくる回しながら、少し考え込んで。
「説得が失敗した場合っていう状況は、関羽さんがそれのことを隠さない、全部華琳さまに話す! とか言い出して聞かない場合ですよね」
「そうだね」
「じゃあ、それはまずあり得ないので置いとくとして」
「どうして断言できるんだ? 俺が言うのもなんだが、あいつはかなり真面目な奴に見えるぞ」
華佗が新しく水を椀に汲んで、俺と風の前に出す。
「だってその場合、魏にとっては旨味があるかもしれませんが、劉備さんの意思としては反することになっちゃいますし」
「よく分からんが」
華佗が頭の上に?マークを浮かべているのが分かる。
「あー……あれですよ。関羽さんにとっては、お兄さんの安全が第一ではあるんですが、同時に機嫌も損ねちゃーダメなんですよ。こいつ碌なことしなかったんだぜー、なんて劉備さんに告げ口されたら、それこそ劉備さんも関羽さんも色々と困っちゃいます」
「あぁ、そう言われれば分かるな。義理を果たすのが一番か」
「そですそです。そんな感じです。加えて、関羽さんは見た感じ劉備さん大好きっ子なので、よっぽど自分の信義に反しない限りは大体のことを許容してくれるはずです」
「顔良の件で、また一刀に新しく負い目が出来たしな」
「頭が下がるよ、ほんと……」
風の人間観察能力にもな。
「だからまぁ……成功したら別にそれはそれでいいですし。もし「やだ!」って言い出したら、じゃあ劉備さんにないこと話まくるねって言えば終わりますし」
「それ込みで、抵抗された場合は?」
「ここは魏ですからねー。おまけに戦中ですし。1人で敵陣に突っ込んで貰えばいいんじゃないですか。援護とか必要ないですよ」
「……分かりやすいな」
さすがにそこまで愚かなことはしないか。
「それにですけど……関羽さんはなんだかんだで、お兄さんのことを信用してるっぽいですしねー」
「そうなのか? 一刀」
「…………んー」
なんともコメントに困る。
「この反応が答えってやつですよー。種馬の本領がぽこぽこと発揮されてますねー」
それを見て笑われた。こういう展開になると、どう答えていいのやら。
「俺を……じゃなく、劉備が俺に一定の信頼を置いているみたいだ。だから、それと繋がって自分も信用できる……ってところかな」
そう言っていたし、それを鵜呑みにするしかない。
「良い傾向じゃないか。仕込みは上手くいっている」
華佗が笑顔で頷いて。
「結果が全てだからね」
俺はそれに同意して。
「それを聞いて、風はどういう反応をすればいいんですか」
風が眉をしかめて。
三者三様の歪な付き合いは続く。
◆ ◆ ◆
「関羽」
大よその打ち合わせを終えた俺は、2人と別れると関羽を探して陣地内を歩き回っていた。
10分ぐらい探し続けて、同じ部隊の兵士と共に武器の手入れをしている関羽を見つける。
「隊長! お怪我は大丈夫ですか?」
「ん、見ての通り。たいしたことないよ」
「おぉ、そうなのですか。見た目が酷かったので、てっきり……」
「吹っ飛ばされ方が間抜けだったってだけで、致命傷にはなってないさ」
「それは良かったです。次こそは、隊長に怪我などさせず、我々が守り通します!」
「心配してくれてありがと。あまり気負わずにな」
兵士の面々から話しかけられたので、それぞれ適当に返しておく。
で……だ。
「関羽」
「……分かっています」
青龍偃月刀の手入れをしていた手を止めて、しかし武器を持ったままこちらに寄ってくる。
「先程の?」
「うん。ちょっと関羽を借りるよ」
笑顔で「どうぞどうぞ」と言う兵士達に挨拶をして、俺は関羽を連れ添って陣地内でも人気のないところまで行く。
「そうやって月明かりに反射する武器を見ると、人気もないし物騒だな」
「では、持ってこなかった方がよろしかったですか?」
「……いや、どっちでもいいんだけどね」
気の利かない雑談はこれぐらいにしておいてだ。
「何から話そうか?」
と言うと。
「何から聞けばよろしいのですか?」
少し目を見開いて、そう返してくる。
「逆に困るな、そんな風に言われると」
「好きなように仰ってくれれば、それで良いのですが……」
「…………んん?」
なーんか、予想と違うっていうか。
…………風の言った通りか? これ。
「気にならないのか? 俺の行動が」
「別段、特には」
強調して言われた。
「…………そうなの?」
関羽が近場にあった大き目の石に座って、再び砥石で武器の刃を研ぎ始めた。
月明かりを眩く反射している辺りで、もう十分に手入れが行き届いているように思えるんだが。
「不必要なこと、その上で曹操に迷惑を掛けるようなこと。この二点に関してはするはずがないと思っていますので」
「……大した信頼だ」
「元々、魏やあなたがどのようなことをなさろうとも、然程興味はありませんし……後、以前にも言いました。桃香さまが信頼している以上、私はあなたに従うだけです」
期限付きだが、絶対的な心服だな。
それこそ、華佗と似たようなもので……。
「よっと」
俺は地面に胡坐をかいて座り、関羽の武器の調整している様を見る。
「汚れます。こちらへ――」
「あぁ、いいよ。大丈夫。そうやって座っている関羽が見たいんだ」
1つ1つの様が、本当に綺麗なんだ、この子は。
意識せずに、しかし淀みなく集中しているのが分かる。俺との会話もそうだし、自分の武器を調整する仕草もそうだし。
「また訳の分からないことを……あれだけ痛い目を見たのに変わりませんね」
表情を変えず、苦言を呈する関羽。
浮かした腰を戻して――シャッ――シャッ――と刃を研いでは、月明かりに照らして状態を確認する。
「…………」
「…………」
無言の時が続く。
話すこともなくなったしな……ここまで物分りがいいとは思ってなかったんだが。
……それだけ桃香が絶対的だってことか。
「……1つだけ、よろしいですか?」
「ん? 答えられることなら」
「それでは……」
タイミングを計ったかのように夜風が吹いて、関羽の流麗な黒髪が揺れる。
「北郷殿は、桃香さまのことをどう想っておられますか?」
「…………返事に困るな」
思わず、夜風で乱れた髪をかき上げた。
「なんで、そんなことを聞く?」
「どうして、こんなことを聞かれたと思います?」
「質問ばっかだな……俺が悪いって?」
「そこまでは言っていませんよ」
言ってるじゃん……。
「別に、すぐに答えて欲しいわけではありませんし、どうしても答えが聞きたいわけでもありません」
「……じゃあ、どうして聞いたんだよ」
「気になったからですよ……良ければ、この戦に勝って、私がここを去る時までにはお答えください」
「答えられないって、言うかもよ?」
「ならばそれも1つの答えでしょう? どのような形でも、返事が頂ければ幸いです」
それきり、関羽は自分から口を開くことはなかった。
俺から何か話しかければ返事はするが、それだけだ。
桃香……桃香、か。
もう少し出会うのが早ければ……何かが変わっていたのかもしれないな。
何もかも、今更だが。
◆ ◆ ◆
明朝の軍議。
まだ日が上る直前の、朝焼けも出てない時間。
「昨日の、顔良を討った手前。見事だったわよ、関羽」
「やるべきことをやっただけです」
一同が会し、昨日の戦果を再確認しつつ、今日の襲撃に備える。
「桂花」
「顔良を討ったことで、相手の指揮系統は乱れているはずです。ですが、袁紹は頭の回らない直情型の人間。出始めは何をしてくるのか分からないので、まずは相手の出方を見つつ対応していけばよいかと」
桂花の言うことは最もだ。
加えて、関羽がこちらにいるという事実も相手には知れ渡ったはず。一騎当千の将が増えたと分かれば……。
…………出方が、変わる、のか?
どうにもしっくり来ない。
前の世界を意識しすぎてるのかな……。
「なるほど。では、稟は戦局をどう見ているの?」
「桂花殿の仰る通り、相手の指揮能力は落ちているでしょうし、関羽殿が居るという利点も見せ付けられた。現在はとても順調に進んでいます。ですが、昨日は袁術の軍に手痛い一撃を貰いました。将軍を1人討ち取ったとはいえ、相手は未だこちらを多く上回る大軍。今一度森からの奇襲も考えられます」
「やられてからじゃ遅い。先の対処は必要ということね。風はどう?」
「…………」
風は俺の隣にいる。
というか、俺に寄りかかっている。
むしろ……。
「…………zzz」
「ねーるーなっ」
ぽこっと叩く。
「おぉっ」
「おはよう、風」
「時間が無いんだぞ。ほら、早く答えろ」
俺と華琳、2人から催促されて、飴を舐めつつ眠そうに目を擦る。
「あー……えーっとですねー。風は逆上されてなきゃいいなーなんて思ったりしているわけですよ」
「逆上?」
桂花が鸚鵡返しを。
……気になる言葉だな。
「頭に血が上って、ただ無闇に突撃を仕掛けてくるというのなら、これほどいなしやすいものはないと思うけど?」
「ですよねー。忘れてくださいー」
だが、すぐにその言葉を引っ込める。
逆上……顔良将軍を殺されたからか?
確かにそう思っているだろうが、仇討ちぐらいで軍を乱すようなことはしないはずだ。
そうなれば、こちらの思う壺。適当に引き込んで囲み、後はたこ殴りにすればいいだけだし。
そんな単調で分かりやすい結果を招くようなことをするはずは、ないと思うんだが……。
「伝令ッ!!」
1人の兵士が、慌てて割って入ってきた。
「どうした! 軍議中だぞ!」
「え、袁紹軍です! 袁紹軍の大軍が、こちらに向かってきています!!」
春蘭の言葉に、伝令がそう答える。
「こんな時間から? って、本当みたいね」
桂花が向けた視線の先。
昨日のような人為的なものじゃないが、行軍による砂塵が見える。
「華琳さま!」
春蘭が出撃の命を貰うべく、華琳の名前を呼んだ。
「…………」
が、華琳は腕を組み、右手を口元に当てて思考に耽っている。
「華琳さま、如何なされました?」
桂花の声にも反応せず……かと思えば。
「…………一刀」
で、呼ばれる。当然、みんなの視線は俺に。
「裏目に出ている、とは思いたくない。でも、さっきの風の言葉は心臓に悪かった」
「そうね」
華琳が厳しい表情を作る。
「一刀、あなたは関羽、華佗、春蘭を束ねて中央前線へいきなさい。最初から全力で受け止めず、ある程度様子を見て行動をすること」
「は!」
「了解」
春蘭と関羽がすぐに動き出す。
華佗は一度俺の肩に手を置いたので、俺はそれに頷いて返した。
そして、華佗もすぐに走っていく。
「秋蘭には凪達を付けるわ。昨日の失態、二度は許さない。意味は分かるわね?」
「御意! 行くぞ、お前達!」
「「「はい!!」」」
森側を、また秋蘭に任せるのか。
凪達が付いてくれるなら、大丈夫だと思うが……。
「霞には遊撃を担当してもらう。昨日は使えなかった、その機動力。当てにしているわよ」
「おっしゃ! ウチもようやく暴れられるわけやな! 任せとき!」
嬉々として馬の方へ。
「そいじゃ、お兄さんも前線で気張ってくるんですねー」
「そうなるね」
俺は桂花、稟、風の順に軍師の顔を見る。
「なによ?」
「懸念でも?」
「…………いや、なんでもない」
こびりつくような悪寒が拭えない。
この3人の意見……どれも正しく思えるが……。
◆ ◆ ◆
「来たか、一刀」
「悪い、遅れた。敵の動きは?」
俺は前線部隊の最後尾にたどり着く。そこには華佗、春蘭、関羽が俺の到着を待っていた。
俺の服装は血の汚れが抜けきっていない制服に、装備は紅桜1本のみ。命音は顔良将軍に破壊されてしまったから、使い物にならない。
「猪突猛進というやつだな。風の言う通り、見事に逆上しているわけだ」
春蘭にそれを言われるなんてね……。
「顔色がよくないな、一刀」
「……なんていうのかな」
その理由がよく分からないから困ってるんだ。
「何があっても、私がお守りします。信用がないかもしれませんが」
「次は離れないでくれればいいよ。俺も迂闊な指示はしない」
「……御意」
関羽が敵前線へと目を向ける。
「陣形は春蘭が最前。俺、関羽、華佗は中央に居る。敵の勢いが強そうだけど……まぁ、春蘭なら大丈夫だよな」
「当たり前だ! 誰に言っている! 関羽、貴様ばかりに良い思いはさせんからな!」
笑顔で高らかに宣言する。
こういう時、春蘭の純粋さには救われるな……。
「ご随意に。ただし、危なくなれば助けに入りますので」
「不要だ! 北郷、さっさと指示をしろ!」
「はいはい……」
……朝焼けが強くなってきた。
日の出に、あれだけの大軍を一斉に動かした意図……一体何がある?
■ ■ ■
「接敵したようです」
「そのようね」
一刀率いる中央部隊は、相手の攻撃をいなしつつ動いている。一番先には春蘭の影も見えたし……そう押されることはないはず。
つまり、分かりやすく行動されると、春蘭や関羽が待っていると相手は分かっているわけよね。
それでいて、あの作戦を取る理由……。
何故かしら。相手が麗羽だというのに、いらない不安ばかりが頭を駆け巡る。
「伝令!」
そうこう思案している私の元に、伝令がやってきた。
「なに?」
「森から敵軍が現れました! 数が多く、身動きが取れないと!」
「またか……」
見ると確かに、かなりの数を投入してきているようだ。よっぽど頭にきているのね、麗羽。
だけどこちらも、今度は凪達もついているし、士気も高い。やり返せるぐらいには仕上がっているはずだけど。
「それと、夏侯淵さまから、敵軍は袁紹軍だと伝えてほしいと……」
「…………なんですって?」
あれだけの大軍が、全て麗羽の? 袁術ではなくて?
「桂花」
「まさかとは思いますが、これは……」
「伝令!!」
再び、伝令がやってくる。
「言いなさい」
「は! 左翼から大軍が迫ってきていると! 張遼さまがその対処に向かわれました!」
「それは、袁紹の軍ね? 袁術ではなく」
「は……は、はい! 張遼さまから、伝えて欲しいと……」
「…………ちっ」
思わず、舌打ちしてしまう。
「華琳さま、これは……」
桂花の頬に、一滴の汗が流れて顎を伝うのが見えた。この子としても、予想外なのだろう。
「裏目に出たわね」
「本隊を丸ごと投入してくる可能性は考慮していましたが……ですがこれは恐らく、後詰の部隊も惜しまず、一兵残らず前線に押し出してきています」
「そうでしょうね……見ればよく分かるわ」
さっきまで拮抗していたように見えた前線が、目に見えて押されてきている。
兵の質で負けているとは思っていない。むしろ、こちらの方が上と断言してもいい。
しかしそれでも、だとしても、数は向こうの方が圧倒的に多いのだ。
そこに、顔良を討ったことによる逆上効果。士気の高さはこちらを大きく凌いでいるはず。
裏目も裏目だ。それもどん底の。
「一刀と私の不安は、見事に的中したということね……」
されとて、このまま敗北が許されるはずはない。
なすがままに相手の攻勢を受け入れ、敗北したとあっては、私だけじゃなく私に付いて来てくれた全ての将と民が笑いものになる。
「さて、私の愛しい桂花」
私は笑顔で言葉を投げかけた。
「策ならあります」
そしてすぐに、私の欲しい言葉をくれる。そうでなくては、この子がここにいる意味がない。
「聞くわ。失敗は許されない。一度しか機会はないわよ」
私の言葉に、桂花は一度喉を鳴らした後、しかし力強く頷いた。
◆ ◆ ◆
「一刀、これは……!」
「分かってる」
乱戦どころじゃない。
俺達は急激に増えた敵の数に飲み込まれ、一気に不利な戦いを演じることになった。
「見つけたぞ、北郷一刀! 関羽! 顔良さまの仇いいいぃぃぃぃッ!!!」
「鈍いな。それで我が主の首を取れるものか!」
向かってくる敵兵を、関羽は青龍偃月刀を持って薙ぎ倒していく。
「この現状……理解は出来ますが……ですが、どうしますか?」
僅かに出来た間断に、関羽が眉をしかめながら言う。
「最悪の結果になったよ……まさか、形振り構わず、文字通り全軍を投入してくるなんて」
後詰……だけじゃないだろうな。
補給部隊や、本来陣地を守るために残しておくような兵士すら投入してきているんじゃないか、これ。
「おおおおおおおおおおおおぉぉっ!! どうした貴様らぁ!! もっとだ、もっと掛かって来いッ!!」
春蘭が最前列で声を上げて味方を叱咤しながら、敵の大群に斬って掛かる。
一撃で数人、二撃目で数十人、吹き飛ばし、斬り殺し、撫で斬りにして。
「夏侯惇は奮戦しているが」
「ですが、このまま行けば囲まれてしまいます」
「…………くそっ」
関羽の言葉に、俺は唇を噛む。
春蘭は頑張ってくれている。でも、それだけだ。
見る見るこちらの鎧の色は少なくなっていっているし、森からはぐいぐいと押し込まれ、霞の軍は機動力はあるが、腰を落ち着けて戦うには軽すぎる。
「北郷殿」
「分かってるよ。分かってるけど……」
手を……打ちにくい。
下手に動けば、奮闘している春蘭達が食われた時に対処しきれない。
両翼は子供が見ても簡単に分かるくらい押されている。だから、俺達が下がると、早かれ遅かれ霞と秋蘭が挟み込まれる形になって食われる。
でも動かないと、俺達だって圧殺される。春蘭だって今でこそ奮闘と言えるが、恐らく長くは持たない。
「九死に一生を得るには……」
今のままじゃダメだ。
しかし、俺がここでどのような手を打っても、どこかが崩される。
そしてその1つでも崩されたら……俺達の敗北は、決定的なものになる。
「華佗、本隊の動きは?」
「見た感じ、密集陣形になっているようだが」
「密集……?」
この状況で?
考えられることは、俺達に合流して、散開……?
だが合流したところで、一緒に蹴散らされるのが目に見えているが……。
「関羽ううううううううううううううッ!!! どぉこだあああああああああああああああッ!!!!!」
「ッ!?」
「――っ」
「……これは」
俺は背筋が震え。
華佗は今までに無いぐらい表情を引き締め。
本人の関羽は、咆哮がした方角を向く。
迫るは、一頭の白い馬。
猛然と迫り来るそれに乗る文醜将軍は、竜巻のような風を巻き起こしながら関羽に斬りかかる。
「シッ――」
「んぐっ!?」
刹那の一合――馬の首が吹き飛び、文醜将軍は空中で回転しながら地面を擦りつつ着地し、こちらを睨み付けてくる。
「てっ、めぇっ……!!」
「まるで餓鬼だな。付き合いきれん」
そんな彼女に対し、関羽は目を細め、呆れた様子で嘆息する。
「てめぇが斗詩を殺したんだよなぁ!!」
「……文醜」
思わず、俺の口から彼女の名前が零れた。
泣き腫らしたのか、その瞳は真っ赤に充血していた。
顔には悲壮感と憤怒が入り混じり、真紅の瞳には関羽しか映し出していない。
昨日や、以前見た時とは印象が全然違う……鬼という言い分は、あながち間違いじゃないかもしれない。
「その名が顔良を指すのであれば、そうだ。我が主を手に掛けようとしたから、相応の報いを受けてもらった」
「…………あぁ、あぁ、そうかい!!」
大きな剣を振り上げもせずに――ノーモーションで関羽に肉薄する。
関羽はそれを容易くいなし、大きく体勢が崩れたところにカウンターを合わせた。
――――が。
「ナメてんじゃねぇぞぉッ!!!!」
上体が大きく反れたことにより浮かび上がった足の鎧で関羽の刃を受け止め、バク転の要領で地面に剣を突き刺すと、そのままぐるりと回って着地。
同時に足を踏み出し、地面ごと抉り出すように強引な力技でカウンターにカウンターを合わせてきた。
「っ……!?」
手の甲で剣の腹を叩いてしのぎ、しかし衝撃に押されて関羽が後退りする。
その際、関羽の腕からブシュッ――と、血飛沫が飛ぶ。
「関羽!?」
「問題ありません! ですが、北郷殿!!」
関羽が一瞬向けた視線の先。
そこから、敵弓兵からの大量の矢が放たれる。
「味方ごと……!?」
これだけの乱戦で、自分の味方の方が多いってのに!
大量の喪失感の点が、上空から隙間なく飛来してくる。
「俺じゃ無理か……! 華佗!」
「任せろ!」
華佗が地面に拳を突き出し、その衝撃で地面が抉れて盛り上がった土が空中に飛び散る。
その飛び散った土に巻き込まれ、矢は瞬く間に失速し、出来た隙間を俺は掻い潜って事なきを得た。
「どこ見てんだよ!!」
「味方ごとやる、その精神……断じて許容出来るものではない!」
鬼気迫る文醜の大剣を受け止めるが。
「あれが関羽だ! 槍を投げろ! ここで仕留めるぞ!!!」
「なにっ……!」
多くの槍兵がその声に反応して、文醜が居ることも構わず槍を投擲してくる。
必然的に、関羽は文醜の剣を跳ね除けて槍に対する回避行動を取らなければならない。
しかし同時にそれは、文醜に対する隙を晒すことになる。
「おせぇぞ、関羽!!」
「――――だから、どうした?」
だが――そこは関羽だ。
全ての槍に対応した後、更に文醜の攻撃を避けて、それどころか腹を蹴り飛ばし。
「ぐぉっ!!」
その上、自身は飛び上がって上空に打ち上げていた槍を掴むと、それを指示を飛ばした敵隊長に思い切り投げ飛ばし、首を貫通させて地面に突き刺した。
すかさず地面に接地――だが、ダメージなど気にならないのか、文醜は再び関羽との距離を詰め、2人は風を凪ぐような音と共に斬り合いを始まる。
「きっさま……!」
「お前の相手はあたい達だよ!!」
槍と、弓と。文醜の大剣と。
全てに対応するが、数の多さ、加えて――――。
「弓兵! 北郷一刀も逃がすな! あいつらが顔良さまを殺した奴らだッ!!!」
8人目だろうか。
相手を切り伏せた時に、そんな怒号が耳に響く。
「くそっ……!」
「関羽、俺なら大丈夫だ! 今は文醜を!」
華佗の防御で、空を埋め尽くすほどの矢を避けきる。
「ですが、この状況では……!」
「あたい達に集中しろおらぁ!!!」
「ぐっ!」
気が逸れた一瞬で、さっき関羽がやった時と同じように腹を蹴り飛ばされる。
「距離が離れている訳じゃない! まずは文醜を討ち取れ!」
何かあった場合、すぐに対応が利くはずだ。
それよりも、この鬼気……こんなものを生み出している元凶を先になんとかしないと、現状の打破がままならない。
「……このような、体たらくをっ!!」
武器を構えなおし、関羽が文醜との切り合いを再開する。
「みんな斗詩のことが大好きだったんだ! みんなが、斗詩に憧れてたんだ!!」
関羽は投げ飛ばされた槍を掴み上げ、長物2つを器用に扱って満月を描くように無数に飛来する投擲物、迫り来る兵士、肉薄する顔良に対処する。
「だから、斗詩を殺したお前をみんなで討ち取るって決めたんだ!!」
「自分の都合で、部下を鬼にするのか貴様は!」
「嫌ならやめりゃいいだろうが!! みんなお前を殺したいから、今ここにいるんだよッ!!!」
敵の悪意が。
「あれが関羽と北郷! 行くぞ、奴らを討ち取れぇッ!!」
敵の絶望が。
「顔良さまがいなくなった……俺達の希望が失われたんだ……あいつらのせいで!!」
敵の渇望が。
「こんな泥に塗れた戦いをしなきゃいけない……終わりだよ、俺らは! でもその前に、やんなきゃならないことがある!!」
俺と関羽に降りかかってくる。
「何日もいらねぇよ……今日だけで、関羽、北郷!! お前らはあたい達がぶった斬る!!!」
間断なく、息つく暇も無く、敵が噴水のように溢れてくる。
右に視線を動かせば、味方が槍で貫かれ。
左に視線を動かせば、味方が剣で引き裂かれ。
正面に視線を戻せば、味方が俺を守るために盾になり、弓に突き刺され倒れていく。
「一刀、押し込まれるぞ!」
急速に薄まる、自軍の気配。
でも……それでも、俺には退けない理由があった。
「……ダメだ、今退いたら、春蘭がやられる……!」
最前列で尋常じゃない返り血を浴びながら、今も果敢に激戦を繰り広げている姿が見える。
その周りには、これでもかというほどの敵兵の死体が転がり、春蘭の動きを阻害しているほどだ。
それ程までに敵の命を沈め、動きを塞ぎ、猛将の名に恥じない驚異的な戦果を叩き出している。
「手を休めるな! 華琳さまが必ず駆けつけてくれる! 己が力を信じて戦い抜けぃ!!!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――』
絶望的な戦力差。
それでも春蘭は怒声を上げる。
味方が奮起するも、相手の圧倒的な物量にその雄叫びはすぐに飲み込まれ、霧散した。
「今春蘭が倒れたら、色んな意味でおしまいだ……!」
俺の命も、魏の運命も……!
川の流れのように止まらない敵を滅茶苦茶に切り捨てながら、必死に打開策を考える。
華佗も同様に、俺の傍で無数に湧き出る敵兵を処理し続けていたが――――。
「だが、何かしら動かないと――――がはっ……!!」
「華佗っ!?」
華佗の、右の脇腹。
そこを、背中から正面に突き抜けるようにして、槍の刃が抜き出ていた。
「貴様ぁ!!」
華佗の後ろに居た敵兵を、俺は瞬く間に切り飛ばした。
同時に、華佗が吐血しながら膝を付く。
「華佗、大丈夫か!?」
「この程度、問題ないさ…………だが、いつまでも持たんぞ……!」
華佗が自分で槍を引き抜き、同じタイミングで鍼を刺して傷を治癒する。
怪我は一瞬で治ったが、出血まで補える訳じゃない。
「どっちにしろ、長居は出来ない……!」
俺も、華佗も、春蘭も。
そして、関羽も…………。
「おらおら! おらおらおらおらおらあぁぁぁ!!!」
「隙がない――このままでは……!!」
文醜と、敵兵と、投擲槍と、矢と。
4つの無限とも思える攻撃パターンに対応してはいるものの、反撃の手立てを見せれずにいる。
どうするんだ、華琳……。
このままじゃ、俺達は負けるぞ……!
「――北郷さま!!」
その時、馬に乗った3人の兵士が俺の傍にやってきた。
彼らが身に着けている鎧は一般兵よりも重厚で、雄々しく……何より絶大な信頼と安心があった。
「親衛隊……華琳が動いたのか!?」
2人の兵士が俺と華佗の前に出て、防御と攻撃を買って出る。
「は! 北郷さまは、こちらの作戦に合わせて動くようにと!」
そして残った1人が、俺に言伝を。
「打開出来るんだろうな、これを……」
春蘭も関羽も動けず、華佗は負傷。
部隊はグチャグチャのバラバラ。目も当てられないとはこのことだ。
「北郷さまが指示通りに動ければ、確実だと仰られてました!」
なのに……俺の不安まで読み越してか。さすがだよ、ほんと。
「……くそっ、やってやるさ! 教えろ! 俺は何をすればいい!?」
なら、俺はその期待に答えるだけだ!
「は! 曹操さまは――――」
続く
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